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マインドフルネスに至れなかった娘(くすぐったすぎて)
しおりを挟む沙良は、自分がまだ未熟であることを知っていた。
けれど、誰よりも真剣に修行へ取り組んでいた。
今夜は、足先へのマインドフルネス――
菜々が華を咲かせたあの境地を、自分も超えてみせたい。
心の奥で、そんな小さな闘志が灯っていた。
師範代の前に横たわり、滑らかな絹の修行着に身を包みながら、沙良は静かに目を閉じた。
足を軽く開いた姿勢で、両手は頭上へ、柔らかい絹帯で固定されている。
足先のすべて――指の腹、甲、裏、指の間にいたるまで、無防備なほどに晒されていた。
「深く、ただ“今”に在ること」
師範代のその囁きが、沙良の鼓膜に届いたと同時に――
右足の親指の付け根に、ふわりと何かが触れた。
「ひゃっ……」
反射的に、声が漏れる。
だめ、だめ。集中しなきゃ……
心を落ち着けて、呼吸に意識を――
だが。
今度は、足の指と指のあいだへ、するりと一本の指が忍び込む。
わずかに湿ったその熱に、沙良の身体は震えた。
「ふっ……くっ、だめっ……あはっ、ひゃはっ、やぁっ……!」
破裂するような笑い声。
そして次の瞬間には、左足の甲へと優しい螺旋を描くようにくすぐりが走る。
「うそ……そこは……くすぐった……いぃっ……!」
頭が真っ白になる。
手も足も動かせない。
絹の修行着の内側で、体温が急激に上がっていくのが分かる。
汗が首筋をつたい、頬は赤く染まり、唇からは笑いと呻きの混じった音がこぼれ続けた。
「ふふ……集中が乱れているようですね」
師範代の静かな声が、耳元に響く。
でも、止めてはくれない。
くすぐりは優しく、正確で、ひたすらに翻弄することに特化している。
足の裏。
土踏まずの柔らかさが狙われたとき――
「やぁぁっ、そこ、だめぇっ! くふっ、ふふふふっ、やめてぇっ、お願いっ、もうむり……!」
沙良の声が、涙まじりに崩れる。
本当は静かに耐えたかった。
菜々のように、美しく、優雅に、蓮華のように咲きたかった。
でも――
涙が、ぽろりと頬をつたう。
「……悔しい……っ、うぅ……なんで、私……こんなに……」
師範代は、そっとくすぐりの手を止めた。
沙良の顔を拭うように、絹のハンカチがそっと当てられる。
「笑ってしまったけれど、あなたは“今”にいたのです」
「でも……」
「その心が揺れたことを、恥じる必要はありません。
くすぐられ、心が乱れ、涙を流した――そのすべてが、美しい修行の一部なのです」
沙良は、ぼんやりとした視界の中で、師範代のやさしい瞳を見つめた。
そこには、責める色はひとつもなかった。
むしろ、慈愛に満ちた輝きが宿っていた。
「今日は、“揺れ”を知った日。
明日、あなたが静かに咲くために、必要な夜だったのです」
沙良の胸に、あたたかいものが溶けて広がった。
失敗だと思っていたこの夜が、実は彼女にとって、もっとも大切な一歩であったことを、心のどこかで理解していた。
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