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執事も嫉妬する
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扉の向こう、嗚咽にも似た笑い声が聞こえていた。
それは綾乃様の声――笑いながら、喘ぎ、切なさすら滲む笑いだった。
執事の指先が、無意識に震えていた。
(私は、彼女のために在るべき者……主の幸福を、誰よりも優先する忠実な影……)
そう、幾度も己に言い聞かせてきた。
だが――その夜、扉一枚を隔てた先で交わされる“くすぐりという愛”の交歓は、
彼の中で眠っていた“男”を目覚めさせたのだった。
翌朝。
綾乃様は、まるで恋に酔った乙女のように、頬を紅潮させて食堂へ現れた。
衣擦れの音さえ艶めかしく感じられるほど、柔らかくほどけたその雰囲気に、
執事はわずかに眼差しを伏せた。
「……昨晩は、よくお眠りになれましたか?」
問いかけた声には、確かに微かな棘があった。
「ええ……セシリアさんが、とても優しくて……あんなくすぐり、初めてでした」
その言葉に、銀のトレーの上のカップがわずかに震えた。
「――それは、何よりでございます」
微笑むその横顔は、相変わらず穏やかだった。
だが、内に潜む焔はもう隠せなかった。
そして、その夜。
綾乃が部屋で眠りにつこうとしたとき、
執事は無言で彼女の前に跪いた。
「……あ、あの……?」
「どうか、私にも……今宵はくすぐりという愛を差し上げる許しを」
彼の声音は静かだったが、どこか狂おしいほどの決意に満ちていた。
そのまま、ベッドに綾乃をいざない、ゆっくりと彼女の足元へと回り込む。
「あなたの身体は、セシリア様に満たされ……今、私は“執事”として、試されているのでしょう」
そう呟くと、彼はそっと綾乃の足の甲に口づけた。
そして――
「まずは、忠誠のくすぐりから始めましょう。足指の間……こうして一本ずつ、愛でるのです」
「ひゃうぅっ!? やっ……! ……なんで、そんな……!」
「あなたの足は、歩むためのもの。
でも私にとっては、仕える価値のある、神聖な部位なのです。
だから、こうして……爪先から甲へ、敬いながらくすぐります」
彼の指は、鋭くも繊細。
セシリアの官能的なくすぐりとは違い、彼の愛は、隅々まで知り尽くした献身の技巧だった。
「次は……脇腹。私だけが知る、あなたの“逃げ場”をなくす、くすぐりです」
「だめぇぇぇぇっっ!! あぁっっ……そこっ、そこはぁっ……っっ!」
「笑ってください、綾乃様。笑いは、私にとって命令よりも尊い――その証です」
そして、最後に。
「……脇の下。
ここだけは……他の誰にも、触れさせたくなかった」
そう囁くと、彼はそっと綾乃の両腕を持ち上げ、額を彼女の脇に押し当てた。
「私だけの場所に……どうか、なってください……」
くすぐりは、やがて愛撫に変わり、愛撫は願いとなって――
「んふぁぁっ……だ、だめ……それ以上、されたら……私、壊れちゃうっ……!」
「ならば、壊してしまいたい。誰のものにもならないあなたを……私だけのものに」
執事のくすぐりは、今や支配と愛欲のはざまを揺れていた。
それは、セシリアにも真似できぬ、男の欲望と忠誠が交錯する――独占のくすぐりだった。
その夜、綾乃は――
愛され、笑いながらも、涙を浮かべていた。
ふたりの愛の狭間で揺れながら、
自分という存在が、誰かの“くすぐり”によってしか立てないことを、知り始めていた。
それは綾乃様の声――笑いながら、喘ぎ、切なさすら滲む笑いだった。
執事の指先が、無意識に震えていた。
(私は、彼女のために在るべき者……主の幸福を、誰よりも優先する忠実な影……)
そう、幾度も己に言い聞かせてきた。
だが――その夜、扉一枚を隔てた先で交わされる“くすぐりという愛”の交歓は、
彼の中で眠っていた“男”を目覚めさせたのだった。
翌朝。
綾乃様は、まるで恋に酔った乙女のように、頬を紅潮させて食堂へ現れた。
衣擦れの音さえ艶めかしく感じられるほど、柔らかくほどけたその雰囲気に、
執事はわずかに眼差しを伏せた。
「……昨晩は、よくお眠りになれましたか?」
問いかけた声には、確かに微かな棘があった。
「ええ……セシリアさんが、とても優しくて……あんなくすぐり、初めてでした」
その言葉に、銀のトレーの上のカップがわずかに震えた。
「――それは、何よりでございます」
微笑むその横顔は、相変わらず穏やかだった。
だが、内に潜む焔はもう隠せなかった。
そして、その夜。
綾乃が部屋で眠りにつこうとしたとき、
執事は無言で彼女の前に跪いた。
「……あ、あの……?」
「どうか、私にも……今宵はくすぐりという愛を差し上げる許しを」
彼の声音は静かだったが、どこか狂おしいほどの決意に満ちていた。
そのまま、ベッドに綾乃をいざない、ゆっくりと彼女の足元へと回り込む。
「あなたの身体は、セシリア様に満たされ……今、私は“執事”として、試されているのでしょう」
そう呟くと、彼はそっと綾乃の足の甲に口づけた。
そして――
「まずは、忠誠のくすぐりから始めましょう。足指の間……こうして一本ずつ、愛でるのです」
「ひゃうぅっ!? やっ……! ……なんで、そんな……!」
「あなたの足は、歩むためのもの。
でも私にとっては、仕える価値のある、神聖な部位なのです。
だから、こうして……爪先から甲へ、敬いながらくすぐります」
彼の指は、鋭くも繊細。
セシリアの官能的なくすぐりとは違い、彼の愛は、隅々まで知り尽くした献身の技巧だった。
「次は……脇腹。私だけが知る、あなたの“逃げ場”をなくす、くすぐりです」
「だめぇぇぇぇっっ!! あぁっっ……そこっ、そこはぁっ……っっ!」
「笑ってください、綾乃様。笑いは、私にとって命令よりも尊い――その証です」
そして、最後に。
「……脇の下。
ここだけは……他の誰にも、触れさせたくなかった」
そう囁くと、彼はそっと綾乃の両腕を持ち上げ、額を彼女の脇に押し当てた。
「私だけの場所に……どうか、なってください……」
くすぐりは、やがて愛撫に変わり、愛撫は願いとなって――
「んふぁぁっ……だ、だめ……それ以上、されたら……私、壊れちゃうっ……!」
「ならば、壊してしまいたい。誰のものにもならないあなたを……私だけのものに」
執事のくすぐりは、今や支配と愛欲のはざまを揺れていた。
それは、セシリアにも真似できぬ、男の欲望と忠誠が交錯する――独占のくすぐりだった。
その夜、綾乃は――
愛され、笑いながらも、涙を浮かべていた。
ふたりの愛の狭間で揺れながら、
自分という存在が、誰かの“くすぐり”によってしか立てないことを、知り始めていた。
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