不死の魔法使いは鍵をにぎる

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伝説のゲルハルト

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日が暮れ始める時間帯だったため、街へ入ってすぐに宿屋を探す。




道中で図書館を見掛けた。
敷地自体はそこまで大きくないが、3階建てなのでそれなりの蔵書数を見込めそうだ。

図書館を眺めていたら、宿屋を見つけたとユーゲンに呼ばれる。




この街の宿屋はなかなか繁盛していたようで、何組か後に来ていたものは満室だと断られていた。
王都から遠すぎず近すぎない距離のこの街は、魔王討伐を目指すものにも魔物退治で力をつけたいものにもちょうど良い立地なのだろう。







街の入口で魔物にやられていたあの冒険者も同じ宿だった。
外傷は魔法で治癒したようだが、骨折したのだろう固定した左腕を吊っている。


カウンターに座って食事していた私たちに気付いて、声をかけてきた。



「よう、さっきはありがとな。俺と年近そうなのに強いんだな」



そう言いながら、連れと一緒にユーゲンの隣の席へと移動する。
既に運ばれていた自分たちの料理や飲み物と一緒に移ってきたので軽く眉をしかめた。

長くなりそうだ。



「ボクだけの力じゃないよ。ゲルハルトが魔法で援助してくれるもの。ボクは魔法が使えないから」

「へえ」



ユーゲンの言葉に視線がこちらに移る。



「距離のある相手にあそこまでの精度の強化魔法を使えるなんて相当の腕だな。魔王討伐も夢じゃないだろう。世界を救おうとは思わないのか?」



私に問いかけているようだが、無言で食事を進める。
とりなすようにユーゲンが口を開いた。



「目的があって旅をしてるんだ。もちろん世界も大事だけどね。目的達成したら勇者もいいかもしれない」

「おい」




勝手なことを言うなと睨むと肩をすくめるユーゲン。



「ボク個人の話。ゲルハルトは別でもかまわないよ」









お前一人では無理があると思うがな。


いくら剣術に長けていても、魔力操作ができないのでは魔王には敵わない。
誰かと組むにしても、私ほどの魔法使いと会うことはそうないだろう。

途中で殺されるのが落ちだ。








「…ゲルハルトと言うのか?」

「そう。ボクの旅のお供。凄腕の魔法使いだよ」

「へえ。何代か前の勇者と同じ名前じゃないか。魔法技術が高いことも一緒だな」

「私ゲルハルトに憧れてるのよ!」




ずっと黙って食事をしていた冒険者の連れが食いついてきた。
ユーゲンの母親といっても差し支えなさそうな年齢の女だ。






「唯一誰とも組まずに単独で魔王を倒した勇者!あのころより技術が発達した今でも敵う人はいないんじゃないかといわれる高度な魔法技術!強い魔力を制御するために彫られた魔法陣が戦闘中に輝く姿は神にも見えたとか!突如姿を消して消息不明になってしまった謎も多い勇者よね!同じ名前なのはご両親がゲルハルトに憧れていたのかしら?」

「私に親などいない」



ぴしゃりと言葉が飛び出した。
途中までは聞き流せたものの、無意識に声は冷め切る。









師匠だけだ。
師匠さえ居れば生きていけたのに。

ああ。
時の流れが憎らしい。









「そう。ごめんなさいね」



私の言葉をどうとらえたのか、気の毒そうに口をつぐんだ。



「悪いな。ハンナはごらんの通り喋りすぎる性質でさ。親しくない相手とは黙っているよう気をつけているんだが」

「珍しいね。勇者の話がそんなに残っているなんて。どの地域の話?」

「ここより北の、デルアンファって田舎の地域さ。俺もハンナもそこの出身なんだ」




それはまさに、この旅で目指している地域だった。

自慢したがりの師匠が言いふらしたために、話がよく残っているのだろう。
少し脚色され現実離れした内容にはなっているが。







「詳しく聞かせて欲しいな。いつぐらいの人なんだ?」

「さあ、どれくらいかな。800年くらい前か?」



冒険者の男は横目に連れの女をみやった。





「私はそうだと思ってるわ。でも600年前とも1000年より前だと言っている人もいるのよね。魔法陣を人体に彫るなんて時代的にありえない、もっと近代だろうとか。魔法の種類が古典的だから古い人物だろうとか」

「ハンナ」




延々と続きそうな女の言葉。
冒険者によって制止がかかり、即座に自分の手で口を塞いだ。




「止めないでいいよ。ぜひ聞かせてほしいな」




ユーゲンがそう言い、女の顔は輝く。
ちらりと冒険者の顔を伺い、仕方がないと頷いたのを確かめてから再び口を開いた。







「私ゲルハルトの話が小さいころから好きで好きで。真似して魔法陣を彫ろうとして親にこっぴどくしかられたこともあるわ。まあ子供が出鱈目な魔法陣を彫ろうとしてたわけだから止めて当然なんだけどね。そもそも魔力が低くて私には彫ることができなかったわ。ゲルハルトは自身で陣を彫ったのか、誰かに彫ってもらったのか、そこもよく論争になるわね」

「何か史料が残っているのか?その勇者ゲルハルトについて」

「本人のものとされる日記とか私物は見つかってないわ。街の人が聞いた話を残した当時の日記くらいね。どこまで信用できるものかわからないけど。私けっこう歴史的に正しいかどうか調べたの。その残っている日記はわりと盛られた内容が多いみたいだから、鵜呑みにはできない情報源だわ」







自分の食事を終えてしまった。

延々と続きそうな気配のユーゲンと女にため息をつくと、同じようにうんざりした顔の冒険者と目が合った。
こちらに話しかけてきそうだったので、その前にさっさと立ち上がる。



「ユーゲン、私は部屋に戻るぞ」

「うん。わかった。先に寝てていいよ」

「当然」




話がはずむユーゲンと女、そして渋い顔をした男をおいて部屋へと戻った。








師匠の話が残っている時点でいやな予感はしていたが、思った以上に私の話も残っているようだな。
まあ、時とともに変容しているようだし、私自身の話だと思う者はいないであろう。


勢いよく寝具に腰掛けて息を吐く。






人間どもめ。
さんざん化け物扱いしたくせに、いい気なもんだな。
まるで英雄扱いだ。


かつての故郷。
かつての住処。





…憎き地を思う。









怒りに泣いたことも、寂しさに歯噛みしたこともあった。


けれど師匠と出会えた。
師匠が居てくれた。

欠点ではなく長所だと。
自分は異端ではないと。

私は師匠に育んでもらったのだ。


私欲も混じっていた気はするが、陣を入れてもらった。
魔力操作の精度が格段に上がった。
師匠と肩を並べるほどになって。








ああ、あそこで調子にのらなければよかったのだ。








戻ったときにはちやほやしていたくせに。

徐々に徐々に、危険物でも見るかのような視線に変質していき。
師匠が亡くなってからは最悪だった。

いつ暴れるやもしれない獣のように、迷惑気な視線。
気味悪がられることも増えて。

場所を変えたところで同じことだった。
いつだって、どこだって、私は化け物で悪魔で怪物で、人ではない何かにされる。







その、始まりの街。








「胸糞悪い」


舌打ちとともに悪態づく。
これだから人間なんてものは信用ならないし救いようがないしどうしようもない駄目な生き物なんだ。
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