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130 結婚式準備
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公爵家の離れでは、近いうちに行われるルジーとメイベルの結婚式のために庭師たちが祝い膳のための作物を確認している。
「ウィーを粉にする。サトーカブはローザリオ様にサトーにしてもらうだろ?」
「だからこの二つは早めに収穫しないと」
「なんなら当日でもいいのはレッドメル!グリーンボールは前の日に仕込むって聞いてるから忘れないようにしないと」
刈取りの計画を確認しながら紙に記していくのはモリエールだ。
「これ、全部ボンディたちが作るのか?」
アイルムの疑問はみんなの疑問でもある。
サイルズ男爵家で結婚式を行うのだが、当然男爵家にも料理人がいるのでは?と思ったが、料理は公爵夫人からの祝いの贈り物なのだそう。
「じゃあ安心してうちの厨房に運んでいいんだな」
「ボンディがめちゃ張り切ってるらしい」
「ルジーのこと可愛がってるもんな」
「そうなのか?」
「そうそう。こどもの頃から公爵家の庭で一緒に遊んでやってたって」
ふとミルケラが気づく。
「でも今は使用人のこども見かけないよな」
「連れてくる頃合いのこどもがいる家が少ないんだよ、それに離れには入れないからいるとしたら屋敷じゃないか?」
タンジェントの説明に納得した顔を浮かべる庭師たちだった。
翌日からモリエールの計画通りに、たくさんあるウィーと、祝宴一回分くらいのサトーが作れそうな五個のサトーカブをまず収穫した。
ウィーは乾燥させて、ローザリオが作ってきた改良薬研で粉にしていく。
誰がやっているかというと、庭師の下働きのユルである。他に仕事がないわけではないが、厨房は日々の料理に加え、祝い膳の準備が始まっていて余裕がない。ほどほどの力仕事ができて・・・自然と視線がユルに集まった。
公爵家のイベントではないが、公爵家の一家、使用人たちが精魂込めているその一端を担えるなら喜んで!と、ウィーをゴリゴリ潰し続けている。
「ユル、飽きないかい?」
ミルケラが気遣って声をかけてきた。
「というかね、それ俺もやってみたいんだけど少し代わってくれない?」
自分が作った道具がボンディに却下され、ローザリオに取って代わられたのが悔しかったミルケラは、改良薬研を使ってみたいとあれ以来ずっと思っていた。だが普段は厨房にあるのでなかなかチャンスもなく、今回のゴリゴリ係を決める際、手を挙げる前にユルに決まってしまったのだ。
「ああどうぞ」
薬研車を渡し、立ち上がって椅子を譲ってくれた。
ミルケラは初めて握った薬研車の感触にニィと笑い、身体強化をかけると座って凄まじいスピードでゴリゴリ始めたのだが。
「あのミルケラさん!」
「ん?」
「もっとゆっくりやらないと熱くなってしまって変質します」
「え、そうなんだ!」
薬研車に触れると、確かに熱い。
「知らなかったよ、ごめん」
そう言って今度はゆっくりゴリゴリし始めた。
ユルは安心したようにそばの椅子に座り直す。殻を潰されたウィーを笊で振るのをユルが担当と、手分けしたところどんどん捗った。
「予想より相当早く終わりました!助かりました」
ユルが礼を言う。
「いや、やりたかったのは俺だから」
出来上がったばかりのウィーの粉に満足気なミルケラは、
「薬研を返しに行ってくる」
できたばかりの粉も一緒に厨房に向かっていった。
歩きながら薬研の構造を隅々まで確認したことは言うまでもない。
「確かに使いやすいな。でも作れる量が少ないから大きくするとか改良できないかな?」
同じ形でなくても同じ機能が果たせれば。
新しいことを考え始めるとわくわくしている自分に気づく。
「いずれ商品化するときのために、じっくり取り組むか!」
ミルケラから予定より早く届けられたウィーの粉は、厨房の下働きによってさらに目の細かい笊で振るわれ、キメが整えられていった。
結婚式のためにいくつかの新しいレシピを考案したボンディは、今夜の公爵家の夕餉に試食品を出すことになっている。
公爵一家の夕餉一回分の材料をまとめると大きな籠に放り込んで、地下通路を抜け、屋敷に入った。
まずは総料理長シズルに挨拶をする。
総料理長シズルの下に、屋敷の料理長デラースと離れの料理長ボンディがいるのだが、何でも自分で決められるボンディとは違い、デラースは本館の料理長でありながらそれは名ばかり、実質副料理長の立ち位置になる。
デラースを見る度、最初ボンディに振られた話を断って本当に良かったと胸を撫で下ろしていた。
さて。
情報室に、過去のドレイファスが見た夢のメモが保管されていると知ったボンディは、空いた時間に情報室の資料に目を通して、似たような造作のものを作ることにした。
ウィーを溶いた粉を大きく厚く丸く焼き、間によくかき混ぜて立ち上がるほどに固くした甘めのクレーメをのばし、カットしたペリルを挟む。
クレーメは挟むだけでなく、まわりにもたっぷり塗りたくって均等に薄くのばし、その上にペリルを飾り付けた。
(あのドレイファス様の微妙な絵に、限りなく近い出来ではないか?)
ボンディがまじまじとそれを見つめ、悦に入ったような微笑みを浮かべていると、ルジーがふらりとやってくる。
「ん!んん?それはっ!」
ボンディに走り寄ると、大皿に載せられたクレーメ塗りに目をやった。
「これ、これ!あれじゃないか?」
「落ち着け、これそれあれじゃ通じないぞ」
「あれだ、ほら!ドレイファス様の」
ボンディは、へえと感心する。
かなり前のことでもドレイファスから訊いたものだとすぐにわかったということだ。
「そうか、では見た目は合格かな?おまえたちの結婚式のデザートにするつもりなんだが」
「えええっ!ぼ、ぼん・・・デぃ」
ルジーの目から何かが滲み出た。
「っあっありがとうぅ」
ガバッとボンディに抱きついて礼を言う。
「うそだろう?まさかおまえ、泣いてるのか?びっくりしすぎてこっちの腰が抜けるぞ」
鼻を少し赤らめたルジーが恥ずかしそうに顔を上げて
「泣いてない、汗だ」
「ふふっ。みんなには内緒にしておいてやる」
ドヤ顔でボンディが胸を反らした。
今は暗部の仕事も務められる一人前の男だが、そこにいたのはボンディの後ろをくっついて歩いていた小さなルジー。
「でっかくなっても、中身はまんまだな」
「かもな」
「でも嫁さんもらうんだもんなぁ、俺独身なのに」
「そのうちいい子が見つかるよ」
「ああ、良さそうな令嬢がいたら紹介しろ」
ボンディの勧めでそのままルジーは試食をしていくことになったが、もちもちふわりと焼いたウィーと、挟まれるように塗られたクレーメの甘味とペリルの酸味が合わさり、甘味が苦手な人でもおいしく食べられそうな出来だった。
その見た目は所謂ショートケーキである。
ふくらし粉がないのでスポンジケーキの柔らかさとはほど遠く、パンケーキの間にクリームを塗って果物を挟み、それっぽくしてあるだけなのだが、それでもボンディたちにとっては人生初の見目も麗しい超高級デザートなのだ。
「初めてドレイファス様から話を訊いたときは、何言ってるのか全然わからなかったが。こういうものを視ていたんだなあ。そりゃあの食いしん坊が食べたがるわけだよ」
ルジーは口についたクレーメを舐めとった。
「ん。本当にうまーい・・・なあ?王家やドリアン様じゃなくて俺たちの結婚式がお披露目なんて大丈夫なのか」
「大丈夫さ。公爵一家には今日の夕餉で試食してもらうしな」
ルジーがメイベルにも食べさせてやりたいというので、ボンディは二人分切って深皿にそっといれると蓋をのせて渡してやる。
「気をつけて持って帰れよ」
メイベルの驚く顔が見たかった気はするが、それはルジーに譲ることにして、総料理長たちにも試食を勧めると、皆が見た目、味、食感のすべてを褒めてくれ、試食用に作ったものはあっと言う間に食べ尽くされた。
試食のあとは、大手を振って公爵一家の夕餉のコースに混ぜてもらう。既に用意済のデザートをのせたワゴンに、新たに作られたウィーの三枚重ねクレーメがけペリル添えを置いた。
「ああ、ドレイファス様の反応が楽しみだ!」
通常、公爵一家の食事は専属の給仕が配膳を行うので、料理人がその場に居合わせることは呼ばれない限りはない。
どうしてもドレイファスが気になったボンディは一家専用の食堂前にこっそり佇み、様子を覗った。
かなり怪しかったので咎められてもおかしくなかったのだが、食堂に出入りする給仕たちはボンディの新作デザートを目にしていたので、しかたないかと大目に見てくれている。
いよいよウィーの三枚重ねクレーメがけペリル添えが食堂に運び込まれると、貴族としてのマナーを忘れてしまったらしいドレイファスとグレイザールの歓声が響いて、ボンディは壁にもたれるとくすくすと声をもらす。
「ボンディ、お疲れ様!ドレイファス様が特に大変にお歓びだったよ」
食堂から出てきた給仕に労われて、じわっと何かが自分を満たして行く気がする。
厨房に戻ると、総料理長のシズルが一緒に食堂に挨拶に行こうと声をかけてきた。
「失礼いたします」
シズルが先に食堂に入り、あとに続いたボンディは、目を輝かせたドレイファスが自分に手を振っていることに気づいた。ちょっとだけ笑んで、僅かに頭を下げて見せる。
「本日の新作はこちらのボンディの作にございます」
「うむ、素晴らしかった。これは以前にドレイファスが言っていたものなのだよな?」
ドリアンが訊ねると、ボンディの代わりなドレイファスがうんうんと高速で頷く。
「はい、情報室で以前の記録を見まして考えてみました」
「真っ白い大きなものにペリルが刺さってるだったか。初めて聞いたときは私はまったく理解出来なかった。作り上げてくれたこと、礼を言う」
「本当に、見た目もとっても美しくて驚かされたわ」
夫人にも気に入られたようだ。
「ルジーたちの結婚式に出そうと考えております」
まあすてきと、とても小さな公爵夫人の声がちらっと聞こえてきた。
「そうか。レシピや材料などは?他の貴族たちに出しても大丈夫か?」
「レシピはオリジナルとして秘匿します。材料も大量生産はできない貴重品として切り抜けるつもりです。実際クレーメもウィーの粉も一日頑張っても売れるほど作れませんから嘘にはなりません」
そうしてルジーとメイベルの結婚式の準備は着々と整えられていった。
「ウィーを粉にする。サトーカブはローザリオ様にサトーにしてもらうだろ?」
「だからこの二つは早めに収穫しないと」
「なんなら当日でもいいのはレッドメル!グリーンボールは前の日に仕込むって聞いてるから忘れないようにしないと」
刈取りの計画を確認しながら紙に記していくのはモリエールだ。
「これ、全部ボンディたちが作るのか?」
アイルムの疑問はみんなの疑問でもある。
サイルズ男爵家で結婚式を行うのだが、当然男爵家にも料理人がいるのでは?と思ったが、料理は公爵夫人からの祝いの贈り物なのだそう。
「じゃあ安心してうちの厨房に運んでいいんだな」
「ボンディがめちゃ張り切ってるらしい」
「ルジーのこと可愛がってるもんな」
「そうなのか?」
「そうそう。こどもの頃から公爵家の庭で一緒に遊んでやってたって」
ふとミルケラが気づく。
「でも今は使用人のこども見かけないよな」
「連れてくる頃合いのこどもがいる家が少ないんだよ、それに離れには入れないからいるとしたら屋敷じゃないか?」
タンジェントの説明に納得した顔を浮かべる庭師たちだった。
翌日からモリエールの計画通りに、たくさんあるウィーと、祝宴一回分くらいのサトーが作れそうな五個のサトーカブをまず収穫した。
ウィーは乾燥させて、ローザリオが作ってきた改良薬研で粉にしていく。
誰がやっているかというと、庭師の下働きのユルである。他に仕事がないわけではないが、厨房は日々の料理に加え、祝い膳の準備が始まっていて余裕がない。ほどほどの力仕事ができて・・・自然と視線がユルに集まった。
公爵家のイベントではないが、公爵家の一家、使用人たちが精魂込めているその一端を担えるなら喜んで!と、ウィーをゴリゴリ潰し続けている。
「ユル、飽きないかい?」
ミルケラが気遣って声をかけてきた。
「というかね、それ俺もやってみたいんだけど少し代わってくれない?」
自分が作った道具がボンディに却下され、ローザリオに取って代わられたのが悔しかったミルケラは、改良薬研を使ってみたいとあれ以来ずっと思っていた。だが普段は厨房にあるのでなかなかチャンスもなく、今回のゴリゴリ係を決める際、手を挙げる前にユルに決まってしまったのだ。
「ああどうぞ」
薬研車を渡し、立ち上がって椅子を譲ってくれた。
ミルケラは初めて握った薬研車の感触にニィと笑い、身体強化をかけると座って凄まじいスピードでゴリゴリ始めたのだが。
「あのミルケラさん!」
「ん?」
「もっとゆっくりやらないと熱くなってしまって変質します」
「え、そうなんだ!」
薬研車に触れると、確かに熱い。
「知らなかったよ、ごめん」
そう言って今度はゆっくりゴリゴリし始めた。
ユルは安心したようにそばの椅子に座り直す。殻を潰されたウィーを笊で振るのをユルが担当と、手分けしたところどんどん捗った。
「予想より相当早く終わりました!助かりました」
ユルが礼を言う。
「いや、やりたかったのは俺だから」
出来上がったばかりのウィーの粉に満足気なミルケラは、
「薬研を返しに行ってくる」
できたばかりの粉も一緒に厨房に向かっていった。
歩きながら薬研の構造を隅々まで確認したことは言うまでもない。
「確かに使いやすいな。でも作れる量が少ないから大きくするとか改良できないかな?」
同じ形でなくても同じ機能が果たせれば。
新しいことを考え始めるとわくわくしている自分に気づく。
「いずれ商品化するときのために、じっくり取り組むか!」
ミルケラから予定より早く届けられたウィーの粉は、厨房の下働きによってさらに目の細かい笊で振るわれ、キメが整えられていった。
結婚式のためにいくつかの新しいレシピを考案したボンディは、今夜の公爵家の夕餉に試食品を出すことになっている。
公爵一家の夕餉一回分の材料をまとめると大きな籠に放り込んで、地下通路を抜け、屋敷に入った。
まずは総料理長シズルに挨拶をする。
総料理長シズルの下に、屋敷の料理長デラースと離れの料理長ボンディがいるのだが、何でも自分で決められるボンディとは違い、デラースは本館の料理長でありながらそれは名ばかり、実質副料理長の立ち位置になる。
デラースを見る度、最初ボンディに振られた話を断って本当に良かったと胸を撫で下ろしていた。
さて。
情報室に、過去のドレイファスが見た夢のメモが保管されていると知ったボンディは、空いた時間に情報室の資料に目を通して、似たような造作のものを作ることにした。
ウィーを溶いた粉を大きく厚く丸く焼き、間によくかき混ぜて立ち上がるほどに固くした甘めのクレーメをのばし、カットしたペリルを挟む。
クレーメは挟むだけでなく、まわりにもたっぷり塗りたくって均等に薄くのばし、その上にペリルを飾り付けた。
(あのドレイファス様の微妙な絵に、限りなく近い出来ではないか?)
ボンディがまじまじとそれを見つめ、悦に入ったような微笑みを浮かべていると、ルジーがふらりとやってくる。
「ん!んん?それはっ!」
ボンディに走り寄ると、大皿に載せられたクレーメ塗りに目をやった。
「これ、これ!あれじゃないか?」
「落ち着け、これそれあれじゃ通じないぞ」
「あれだ、ほら!ドレイファス様の」
ボンディは、へえと感心する。
かなり前のことでもドレイファスから訊いたものだとすぐにわかったということだ。
「そうか、では見た目は合格かな?おまえたちの結婚式のデザートにするつもりなんだが」
「えええっ!ぼ、ぼん・・・デぃ」
ルジーの目から何かが滲み出た。
「っあっありがとうぅ」
ガバッとボンディに抱きついて礼を言う。
「うそだろう?まさかおまえ、泣いてるのか?びっくりしすぎてこっちの腰が抜けるぞ」
鼻を少し赤らめたルジーが恥ずかしそうに顔を上げて
「泣いてない、汗だ」
「ふふっ。みんなには内緒にしておいてやる」
ドヤ顔でボンディが胸を反らした。
今は暗部の仕事も務められる一人前の男だが、そこにいたのはボンディの後ろをくっついて歩いていた小さなルジー。
「でっかくなっても、中身はまんまだな」
「かもな」
「でも嫁さんもらうんだもんなぁ、俺独身なのに」
「そのうちいい子が見つかるよ」
「ああ、良さそうな令嬢がいたら紹介しろ」
ボンディの勧めでそのままルジーは試食をしていくことになったが、もちもちふわりと焼いたウィーと、挟まれるように塗られたクレーメの甘味とペリルの酸味が合わさり、甘味が苦手な人でもおいしく食べられそうな出来だった。
その見た目は所謂ショートケーキである。
ふくらし粉がないのでスポンジケーキの柔らかさとはほど遠く、パンケーキの間にクリームを塗って果物を挟み、それっぽくしてあるだけなのだが、それでもボンディたちにとっては人生初の見目も麗しい超高級デザートなのだ。
「初めてドレイファス様から話を訊いたときは、何言ってるのか全然わからなかったが。こういうものを視ていたんだなあ。そりゃあの食いしん坊が食べたがるわけだよ」
ルジーは口についたクレーメを舐めとった。
「ん。本当にうまーい・・・なあ?王家やドリアン様じゃなくて俺たちの結婚式がお披露目なんて大丈夫なのか」
「大丈夫さ。公爵一家には今日の夕餉で試食してもらうしな」
ルジーがメイベルにも食べさせてやりたいというので、ボンディは二人分切って深皿にそっといれると蓋をのせて渡してやる。
「気をつけて持って帰れよ」
メイベルの驚く顔が見たかった気はするが、それはルジーに譲ることにして、総料理長たちにも試食を勧めると、皆が見た目、味、食感のすべてを褒めてくれ、試食用に作ったものはあっと言う間に食べ尽くされた。
試食のあとは、大手を振って公爵一家の夕餉のコースに混ぜてもらう。既に用意済のデザートをのせたワゴンに、新たに作られたウィーの三枚重ねクレーメがけペリル添えを置いた。
「ああ、ドレイファス様の反応が楽しみだ!」
通常、公爵一家の食事は専属の給仕が配膳を行うので、料理人がその場に居合わせることは呼ばれない限りはない。
どうしてもドレイファスが気になったボンディは一家専用の食堂前にこっそり佇み、様子を覗った。
かなり怪しかったので咎められてもおかしくなかったのだが、食堂に出入りする給仕たちはボンディの新作デザートを目にしていたので、しかたないかと大目に見てくれている。
いよいよウィーの三枚重ねクレーメがけペリル添えが食堂に運び込まれると、貴族としてのマナーを忘れてしまったらしいドレイファスとグレイザールの歓声が響いて、ボンディは壁にもたれるとくすくすと声をもらす。
「ボンディ、お疲れ様!ドレイファス様が特に大変にお歓びだったよ」
食堂から出てきた給仕に労われて、じわっと何かが自分を満たして行く気がする。
厨房に戻ると、総料理長のシズルが一緒に食堂に挨拶に行こうと声をかけてきた。
「失礼いたします」
シズルが先に食堂に入り、あとに続いたボンディは、目を輝かせたドレイファスが自分に手を振っていることに気づいた。ちょっとだけ笑んで、僅かに頭を下げて見せる。
「本日の新作はこちらのボンディの作にございます」
「うむ、素晴らしかった。これは以前にドレイファスが言っていたものなのだよな?」
ドリアンが訊ねると、ボンディの代わりなドレイファスがうんうんと高速で頷く。
「はい、情報室で以前の記録を見まして考えてみました」
「真っ白い大きなものにペリルが刺さってるだったか。初めて聞いたときは私はまったく理解出来なかった。作り上げてくれたこと、礼を言う」
「本当に、見た目もとっても美しくて驚かされたわ」
夫人にも気に入られたようだ。
「ルジーたちの結婚式に出そうと考えております」
まあすてきと、とても小さな公爵夫人の声がちらっと聞こえてきた。
「そうか。レシピや材料などは?他の貴族たちに出しても大丈夫か?」
「レシピはオリジナルとして秘匿します。材料も大量生産はできない貴重品として切り抜けるつもりです。実際クレーメもウィーの粉も一日頑張っても売れるほど作れませんから嘘にはなりません」
そうしてルジーとメイベルの結婚式の準備は着々と整えられていった。
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