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呪われたエザリア
グルドラと追跡者 2
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グルドラと追跡者。2話、一気に更新します。
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グルドラは小屋の扉をしっかり鍵を閉め、その上からさらに魔法をかけている。
離れた枝にとまる蝶が、グルドラの唱える呪文を聞いていた。
「どうやら帰る?ようだな」
「追うだろう?」
「ああ、もちろんだ。ここをちんまり見張るより大事だろ」
隠してあった馬に乗ると、ふたりは蝶を目の代わりにして、だいぶ離れた所からグルドラの後を追い続ける。
グルドラが乗り合い馬車に乗り込むと、蝶は御者の帽子にとまり、行く道を魔導師に教えてくれるようになった。
暫くすると蝶が標識を見せてくれ、魔導師は新たな馬車の行先を確認する。
「行き先はサリバー男爵領のようだぞ」
「ということは商会か男爵家のどちらかだな。私は先駆けて団に知らせを出して来よう」
言うが早いか、騎士は馬に鞭を入れて走り出す。
その背を見送ると、魔導師は蝶を操りながらグルドラを追いかけ続けた。
「団長!ディールスから連絡が来ています」
「リルケで異変があったか!」
各拠点を繋ぐ早駆けで、大至急で届けられた暗号文書を手に取ったイグルスは、魔導師団に向かった。
「チューグはいるか?」
緊張感を漂わせた魔導師団長が、廊下の奥から手招きをしている。
イグルスは走りこそしないが、それと変わらぬほどの速さであっという間にチューグの元に辿り着いてみせた。
「中へ」
目が合い、頷くと、不思議と言いたいことは伝わったように思えた。いきなり本題に入っても、今のふたりなら差し支えはない。
「とうとう現れたぞ。リルケの小屋は赤髪の魔女にとって重要拠点ではなく、簡易な警戒だけだったようだ。こちらの正体は知られず、そちらのガワがうまく追跡しているらしい」
「それはよかった」
実際の小屋を見たら重きを置かれていないことは一目瞭然だが。
ふたりの団長は現場に足を向けていないため、それとは知らず万一の備えをしていたのが活きた。
「今サリバーに向かっているようだ」
「よし、では交代要員の準備をして、もし捕縛できそうなら」
「失敗は許されないぞ。よほど勝算が高くなければ、監視して隙をつくほうがいいかもしれん」
「ああ。あっ!ムユークから贈られた魔導具を持たせるのを忘れるなよ」
ムユーク王家の怨念がこもったグルドラ攻略魔道具の数々である。
赤髪の魔女を発見次第、非常招集がかかると周知されていた魔導師たちは、あっという間に準備を整え集まった。
「これで魔女に何か術をかけられそうになっても大丈夫なはずだ」
魔導師団長自ら、飛び出していく魔導師たちの装備を確認し、イグルスと頷きあう。
「一発で捕縛できるか賭けないか」
「うむ。では今回は見逃しに賭けよう。ついでにどちらが縄をかけるか賭けないか?」
「それは勿論、うちの魔導師に決まっている!」
「いや、騎士団が手柄を頂いてみせる!」
ニヤリと笑うふたりの姿が、まわりを怯えさせる迫力に満ちているとは、これっぽっちも気づいていなかった。
団長の期待を背に、今まさにグルドラを追っている魔導師ソーヴァは、移動中に胸元に飛び込んで来た蝶を新たに捕まえていた。
その蝶にも魔力を纏わせたが、ソーヴァの胸ポケットに留まらせている。
だいぶ先を行く乗り合い馬車が停まったのがソーヴァに見えたから。
「慎重にな。見つかったらおまえの命もなくなるぞ」
蝶がグルドラが馬車を下りる姿を見せたので、ソーヴァは胸元の蝶に一言かけてから、二匹目の追跡者として空に放った。
馬車を見送るとグルドラはスカーフを被り、荷物を持って木陰に入ったようだが。
数秒後、服は同じなのに髪の色が違う女が木陰から姿を見せたのである。
「え!こんな僅かな時間で髪色を変えたというのか」
勿論、その女がムユークの天才魔導師、赤髪の魔女ことグルドラ・ルストだろうとは聞いているが、実際天才魔導師と呼ばれる者と自分たちにどれほど力量差があるものかは想像がつかなかった。
幸い魔力に恵まれて魔導師になったソーヴァだが、呪術に長けているとは言い難い。
超複雑な魔法陣や、超長文の詠唱を苦もなくこなせなくては、呪術を安定して発動させるのは難しいのだ。
そばで見てみたい欲求にかられたが。
追跡に気付かれれば命の危険に繋がると逸る気持ちを抑え、味方が合流するまでしっかり監視を続けたのだった。
グルドラと追跡者。2話、一気に更新します。
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グルドラは小屋の扉をしっかり鍵を閉め、その上からさらに魔法をかけている。
離れた枝にとまる蝶が、グルドラの唱える呪文を聞いていた。
「どうやら帰る?ようだな」
「追うだろう?」
「ああ、もちろんだ。ここをちんまり見張るより大事だろ」
隠してあった馬に乗ると、ふたりは蝶を目の代わりにして、だいぶ離れた所からグルドラの後を追い続ける。
グルドラが乗り合い馬車に乗り込むと、蝶は御者の帽子にとまり、行く道を魔導師に教えてくれるようになった。
暫くすると蝶が標識を見せてくれ、魔導師は新たな馬車の行先を確認する。
「行き先はサリバー男爵領のようだぞ」
「ということは商会か男爵家のどちらかだな。私は先駆けて団に知らせを出して来よう」
言うが早いか、騎士は馬に鞭を入れて走り出す。
その背を見送ると、魔導師は蝶を操りながらグルドラを追いかけ続けた。
「団長!ディールスから連絡が来ています」
「リルケで異変があったか!」
各拠点を繋ぐ早駆けで、大至急で届けられた暗号文書を手に取ったイグルスは、魔導師団に向かった。
「チューグはいるか?」
緊張感を漂わせた魔導師団長が、廊下の奥から手招きをしている。
イグルスは走りこそしないが、それと変わらぬほどの速さであっという間にチューグの元に辿り着いてみせた。
「中へ」
目が合い、頷くと、不思議と言いたいことは伝わったように思えた。いきなり本題に入っても、今のふたりなら差し支えはない。
「とうとう現れたぞ。リルケの小屋は赤髪の魔女にとって重要拠点ではなく、簡易な警戒だけだったようだ。こちらの正体は知られず、そちらのガワがうまく追跡しているらしい」
「それはよかった」
実際の小屋を見たら重きを置かれていないことは一目瞭然だが。
ふたりの団長は現場に足を向けていないため、それとは知らず万一の備えをしていたのが活きた。
「今サリバーに向かっているようだ」
「よし、では交代要員の準備をして、もし捕縛できそうなら」
「失敗は許されないぞ。よほど勝算が高くなければ、監視して隙をつくほうがいいかもしれん」
「ああ。あっ!ムユークから贈られた魔導具を持たせるのを忘れるなよ」
ムユーク王家の怨念がこもったグルドラ攻略魔道具の数々である。
赤髪の魔女を発見次第、非常招集がかかると周知されていた魔導師たちは、あっという間に準備を整え集まった。
「これで魔女に何か術をかけられそうになっても大丈夫なはずだ」
魔導師団長自ら、飛び出していく魔導師たちの装備を確認し、イグルスと頷きあう。
「一発で捕縛できるか賭けないか」
「うむ。では今回は見逃しに賭けよう。ついでにどちらが縄をかけるか賭けないか?」
「それは勿論、うちの魔導師に決まっている!」
「いや、騎士団が手柄を頂いてみせる!」
ニヤリと笑うふたりの姿が、まわりを怯えさせる迫力に満ちているとは、これっぽっちも気づいていなかった。
団長の期待を背に、今まさにグルドラを追っている魔導師ソーヴァは、移動中に胸元に飛び込んで来た蝶を新たに捕まえていた。
その蝶にも魔力を纏わせたが、ソーヴァの胸ポケットに留まらせている。
だいぶ先を行く乗り合い馬車が停まったのがソーヴァに見えたから。
「慎重にな。見つかったらおまえの命もなくなるぞ」
蝶がグルドラが馬車を下りる姿を見せたので、ソーヴァは胸元の蝶に一言かけてから、二匹目の追跡者として空に放った。
馬車を見送るとグルドラはスカーフを被り、荷物を持って木陰に入ったようだが。
数秒後、服は同じなのに髪の色が違う女が木陰から姿を見せたのである。
「え!こんな僅かな時間で髪色を変えたというのか」
勿論、その女がムユークの天才魔導師、赤髪の魔女ことグルドラ・ルストだろうとは聞いているが、実際天才魔導師と呼ばれる者と自分たちにどれほど力量差があるものかは想像がつかなかった。
幸い魔力に恵まれて魔導師になったソーヴァだが、呪術に長けているとは言い難い。
超複雑な魔法陣や、超長文の詠唱を苦もなくこなせなくては、呪術を安定して発動させるのは難しいのだ。
そばで見てみたい欲求にかられたが。
追跡に気付かれれば命の危険に繋がると逸る気持ちを抑え、味方が合流するまでしっかり監視を続けたのだった。
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