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第2章
第45話 二枚舌
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イスハ王国から帰ったトローザーは、すぐ母キャロラにメラルダとの婚約を進めてほしいと頼み込み、他国との縁組なので本当に固まるまでは内密に話を進めることになった。
「もうトローザーのために若い令嬢を集めての茶会は、しなくても良くなったわね」
「いや、ここにミイヤを自然に呼ぶために続けてもらわねば」
「早くナイジェルスを片付けて、あの娘の顔を見ずに済むようにしてもらいたいわ」
「母上はそこまでミイヤがお嫌いでしたか」
トローザーが意外そうに訊ねるとキャロラが顔を顰めた。
「私があの娘を気に入るわけがないでしょう。トローザーに愛されていると思っているのよ、身の程知らずで厚かましいったら。ナイジェルスを選んだユートリーは腹ただしいけど、容姿も頭の良さもマナーも、そう何もかもユートリーのほうがはるかに上。ミイヤなど足元にも及ばないわ」
ぎったぎたに切り刻んで切って捨てた母を、トローザーは笑うに笑えない。
「す、すごい言われようで。しかし、侯爵家ではミイヤもユートリーと同じ教育を施していると聞きます。そこまでの差はないのでは?年齢が追いつけば今のユートリー嬢くらいになると思いますが」
その頃ミイヤは断罪されてここにはいないだろうと考えながら、そう口にしたが。
母キャロラはそのトローザーを小馬鹿にしたように手を振って。
「歳の近い貴方にはわからないかも知れないけど、ユートリーがあのくらいの頃は、もう今と対して変わらないほどに完成していたわよ」
気に入らないと言いながらもキャロラがユートリーを認めている、トローザーはそれが意外で、母がどうミイヤを見ているのか聞いてみたくなった。
「ミイヤ?あれは心根が悪いわ。何を勘違いしているのか知らないけど、自分を過大に評価してすべてを見下しているから、マナーでも勉強でも本質を理解しようなどと考えもしない。上っ面だけで適当に誤魔化せると考えているの。あの娘のカーテシーをよく見てみるといいわ。
相手に対する敬意なんてこれっぽっちもないのがわかるから。
まあでも、あのくらい愚かで忌々しい者なら、使い捨ててもほんの少しの良心も痛まない気がするから、駒にはちょうどいい。あの顔を見るのもあと少しの辛抱よね?トローザー」
そこまで母がミイヤを嫌っていたと今の今まで知らなかったトローザーは、毒物を手に入れたことで躊躇いなくミイヤを犠牲にする計画を進めることを決めた。
「トローザー殿下」
「ミイヤ、久しぶりだ。会えなくてさみしかったよ。これ土産だ」
イスハ王都の宝石店にメラルダを誘ったトローザーは、自分の瞳色の大きなエメラルドのペンダントと髪色のオブシディアンがはめ込まれた美しいブローチをプレゼントした。光の加減で金のシラーが見られる素晴らしいもので、メラルダは気に入ってすぐに身に着けていたほど。
もう一つ、女官たちへの土産にすると言ってその店先で投げ売りされていた安物のブローチをまとめて買ったのだが。
「女官たちにも心配りを忘れないなんて、おやさしい方ですのね」
メラルダに褒められて気を良くしたトローザーは、婚約の前約束だと小さなダイヤモンドの指輪も買い与えた。
さて。
女官たちの土産だと買ったいくつかのブローチは、パッと見た目、赤珊瑚を薔薇の形に彫り込んだように見える。
しかし実は赤珊瑚の削りカスを、接着剤を混ぜて練り上げた再利用品で、接着剤のせいか妙なツヤがあった。
ちょっと目の利く者ならすぐにわかりそうなものだが、それでもスカーフを留めたりするくらいなら十分すぎる出来だ。
「まあ!とっても素敵なブローチ」
「気に入ったか?これはものすごく高価な物なんだ。まだ若いミイヤがこんな物を身に着けていたら、私との関係がバレてしまうかもしれないから、私たちのことを公にできるまでは決してこれを付けて出歩いてはいけないよ」
トローザーの言葉に、うれしそうに頬を染めたミイヤが頷いていた。
「もうトローザーのために若い令嬢を集めての茶会は、しなくても良くなったわね」
「いや、ここにミイヤを自然に呼ぶために続けてもらわねば」
「早くナイジェルスを片付けて、あの娘の顔を見ずに済むようにしてもらいたいわ」
「母上はそこまでミイヤがお嫌いでしたか」
トローザーが意外そうに訊ねるとキャロラが顔を顰めた。
「私があの娘を気に入るわけがないでしょう。トローザーに愛されていると思っているのよ、身の程知らずで厚かましいったら。ナイジェルスを選んだユートリーは腹ただしいけど、容姿も頭の良さもマナーも、そう何もかもユートリーのほうがはるかに上。ミイヤなど足元にも及ばないわ」
ぎったぎたに切り刻んで切って捨てた母を、トローザーは笑うに笑えない。
「す、すごい言われようで。しかし、侯爵家ではミイヤもユートリーと同じ教育を施していると聞きます。そこまでの差はないのでは?年齢が追いつけば今のユートリー嬢くらいになると思いますが」
その頃ミイヤは断罪されてここにはいないだろうと考えながら、そう口にしたが。
母キャロラはそのトローザーを小馬鹿にしたように手を振って。
「歳の近い貴方にはわからないかも知れないけど、ユートリーがあのくらいの頃は、もう今と対して変わらないほどに完成していたわよ」
気に入らないと言いながらもキャロラがユートリーを認めている、トローザーはそれが意外で、母がどうミイヤを見ているのか聞いてみたくなった。
「ミイヤ?あれは心根が悪いわ。何を勘違いしているのか知らないけど、自分を過大に評価してすべてを見下しているから、マナーでも勉強でも本質を理解しようなどと考えもしない。上っ面だけで適当に誤魔化せると考えているの。あの娘のカーテシーをよく見てみるといいわ。
相手に対する敬意なんてこれっぽっちもないのがわかるから。
まあでも、あのくらい愚かで忌々しい者なら、使い捨ててもほんの少しの良心も痛まない気がするから、駒にはちょうどいい。あの顔を見るのもあと少しの辛抱よね?トローザー」
そこまで母がミイヤを嫌っていたと今の今まで知らなかったトローザーは、毒物を手に入れたことで躊躇いなくミイヤを犠牲にする計画を進めることを決めた。
「トローザー殿下」
「ミイヤ、久しぶりだ。会えなくてさみしかったよ。これ土産だ」
イスハ王都の宝石店にメラルダを誘ったトローザーは、自分の瞳色の大きなエメラルドのペンダントと髪色のオブシディアンがはめ込まれた美しいブローチをプレゼントした。光の加減で金のシラーが見られる素晴らしいもので、メラルダは気に入ってすぐに身に着けていたほど。
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さて。
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ちょっと目の利く者ならすぐにわかりそうなものだが、それでもスカーフを留めたりするくらいなら十分すぎる出来だ。
「まあ!とっても素敵なブローチ」
「気に入ったか?これはものすごく高価な物なんだ。まだ若いミイヤがこんな物を身に着けていたら、私との関係がバレてしまうかもしれないから、私たちのことを公にできるまでは決してこれを付けて出歩いてはいけないよ」
トローザーの言葉に、うれしそうに頬を染めたミイヤが頷いていた。
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