【完結】時戻り令嬢は復讐する

やまぐちこはる

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第4章

第78話 ミイヤ

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「お父さまお母さまーっ!」

 城の最奥にある地下牢の冷たい鉄格子にしがみつき、がたがた揺らしながら叫ぶ声は掠れている。自らの手で害し、踏み台にしようとした義家族に、今更助けてもらおうなど何処まで厚かましいのか。

「自分がやったことが理解できていないのか?」

 聞き覚えのある声が石の壁に響いた。

「ナ、ナイジェルス殿下!違うんです私は騙されて」
「ほお、騙されたと?しかしこの手紙を読む限り、おまえからトローザーに申し出たこともあるようだがな」


 ─自分が何とかすると言ってはいたが、くれぐれも慎重に─


 トローザーがミイヤに宛てた手紙の一部を読んで聞かせる。


「この通りなら、おまえがトローザーにトリーのことをなんとかしてみせると言ったように感じられるのだが、違うのか?」
「そ、それは・・・」
「おまえがメイドに扮したトローザーの影に、自ら何度も毒を渡したこともわかっている」

 ミイヤは頭の中を回転させるのだが、上手い言い訳が浮かばない。

「ふん、所詮お前はその程度の小者に過ぎん。トリーを狙い、王族に嫁ごうなどと思い上がりも甚だしいと言うものだ」
「でもっトローザー殿下が私とこんや・・」
「どうやらおまえは自分に都合の悪いことは忘れてしまうようだな。何もなければトローザーは隣国の公女と婚約する予定だったと聞いたはずだ。ハナからおまえなど相手にされていなかったというのになあ」

 ナイジェルスはいつになく意地の悪い言葉をぶつけ続けた。

「トローザーは先王妹の孫に当たる、それは美しい公女に一目でぞっこんになって、持ち合わせていた殆どの金貨を彼女へのプレゼントに使ってしまったらしくてな、その宝石店で安売りされていた珊瑚の削りカスを固めたアクセサリーを、女官たちの土産にたくさん買い込んで配ったそうだ」

 ミイヤの部屋を家探ししたとき、タラが見つけた珊瑚のアクセサリーは証拠品として城に持ち込まれたのだが、ゴールダインが同じものを何人かの女官がつけているを知っていたので、すぐにトローザーの土産だと判明した。
 ミイヤの拠り所の一つだろうと、ナイジェルスは態とそれを明かしたのだ。

「うそ!嘘だわ!すごく高いものだって」
「あれはこちらの貨幣でも一つ100シュルガもしない安物だそうだぞ」

 それを聞いたミイヤは、魂が抜けたように膝をついてペタリと座り込んだ。



 ミイヤが処刑されるのは動かせない事実である。
 最高刑が決まっていても、ナイジェルスはまだ足りないと感じ、一矢報いてやるために地下牢に足を運んでいた。

「そういえば、トローザーはおまえが嫌いだったらしいぞ。キャロラもな」
「え・・・そんなはずない、いつもやさし」

 ぷっ、はははっと声を立ててナイジェルスは笑い飛ばす。

「おまえのカーテシーひとつとってもトリーの足元にも及ばないと、キャロラは言っていたそうだぞ。あの女はトリーを嫌っていたが、その実力は認めていたんだ」

 こうしてナイジェルスは、処刑を待つだけのミイヤの心をポキポキと折り続けていった。

 そのせいだろうか。
 絞首台に連れて行かれたミイヤは、ホッとした顔だったそうだ。
何かから解放されたような。

 ナイジェルスは自分がやったことを生涯ユートリーに知られることがないように、彼らがユートリーが出会う機会など決してないにも関わらず、地下牢の衛兵たちを密かに入れ替えた。
少し遠く、しかし地下牢番よりずっと俸給のよいところに配置換えし、その口を噤ませた。



 ミイヤの処刑の日。
 ソイスト侯爵家の面々は誰一人処刑場に姿を見せることなく、その日は家族四人で森の奥の別邸に籠もった。
 静かに池の水面を眺めながら日向ぼっこを楽しみ、温くなった茶を四人で啜る。
乗り越えたこと、失ったこと。
想えば胸は痛むが、丸く輪になるよう座った家族は手を握りあい、高い空を見上げて消えていく雲をいつまでも見つめていた。
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