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第20話
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きょとんとしたアレンソアは、食堂を見回した。
テーブルからティーセットが落ちて割れており、あちこちに茶が溢れている。
真っ青な顔の母は震えながらアレンソアを見つめていた。
「え?何です?どういうことって何がですか?」
本当に何のことだかわからないアレンソアは、そう訊ね返す。
「何故私たちに毒を飲ませようとした」
「ど、毒?何のことです?毒なんて知りませんよ」
慌てて首と手を振り全身で否定するが、両親と弟、そしてエリーシャの凍りつくような視線にゾクリとする。
「え?本当に何のことだか、毒なんて知らな・・・」
アレンソアは溢れた茶を見た。
「え!まさか、茶が」
「しらばっくれるな!おまえは朝帰りのあと、私たちにこの茶を飲ませるように言ったそうではないか」
起きたことが理解できず、ぺたりと座り込んだアレンソアはぶつぶつ呟いている。
「この茶を飲んだ料理人のボリズは今意識不明で治療中だ」
処置が早かったので助かる可能性があると聞いているが、あくまで助かるかもという話。まだ目を覚ましたわけでもないので、ベレルはあえて重い事実のみ伝える。
「え、え?意識不明?」
「アレンソア、おまえがエリーシャを裏切り、毎夜メイカ准男爵家に通ってイニエラと不貞をくり返していたことはわかっている」
その言葉に驚愕の声を上げたのは、エリーシャではなくレイカだった。
「な、なんですって?あなた、それは本当のことなの?」
ベレルの言葉には、あれほど注意を与えたにも関わらず、友人だからとメイカ家との付き合いを止めなかったレイカへの怒りも含まれている。
「そ、そんな嘘でしょ?どうして?イニエラちゃんは仲のいい幼馴染でしょ?それだけよね?」
イニエラと聞こえ、アレンソアはハッとした。
「あれ、イニエラだ!あの茶を飲ませろとイニエラが私に渡した!私じゃないっ!私じゃないんだーっ」
絶叫とはこういうのを言うのだなと、エリーシャはどこか遠い出来事のように考えていた。
あと少し、料理人見習いが来るのが遅かったら、ベレルとレイカ、エリーシャもトルソーも死んでしまったかもしれないというのに。
いや、怖すぎて、現実逃避しているのかもしれない。
─イニエラ?イニエラって誰かしら─
ぼんやりと考えていると暖かな何かに包み込まれる。いつの間にかトルソーがエリーシャの肩を抱いていた。
「大丈夫、みんな無事だから安心して。もう安全だから」
穏やかにトルソーが声をかけてくれる。
やさしいその声でエリーシャは、自分がカチカチと歯を鳴らすほど震えていたことに、漸く気がついたのだった。
テーブルからティーセットが落ちて割れており、あちこちに茶が溢れている。
真っ青な顔の母は震えながらアレンソアを見つめていた。
「え?何です?どういうことって何がですか?」
本当に何のことだかわからないアレンソアは、そう訊ね返す。
「何故私たちに毒を飲ませようとした」
「ど、毒?何のことです?毒なんて知りませんよ」
慌てて首と手を振り全身で否定するが、両親と弟、そしてエリーシャの凍りつくような視線にゾクリとする。
「え?本当に何のことだか、毒なんて知らな・・・」
アレンソアは溢れた茶を見た。
「え!まさか、茶が」
「しらばっくれるな!おまえは朝帰りのあと、私たちにこの茶を飲ませるように言ったそうではないか」
起きたことが理解できず、ぺたりと座り込んだアレンソアはぶつぶつ呟いている。
「この茶を飲んだ料理人のボリズは今意識不明で治療中だ」
処置が早かったので助かる可能性があると聞いているが、あくまで助かるかもという話。まだ目を覚ましたわけでもないので、ベレルはあえて重い事実のみ伝える。
「え、え?意識不明?」
「アレンソア、おまえがエリーシャを裏切り、毎夜メイカ准男爵家に通ってイニエラと不貞をくり返していたことはわかっている」
その言葉に驚愕の声を上げたのは、エリーシャではなくレイカだった。
「な、なんですって?あなた、それは本当のことなの?」
ベレルの言葉には、あれほど注意を与えたにも関わらず、友人だからとメイカ家との付き合いを止めなかったレイカへの怒りも含まれている。
「そ、そんな嘘でしょ?どうして?イニエラちゃんは仲のいい幼馴染でしょ?それだけよね?」
イニエラと聞こえ、アレンソアはハッとした。
「あれ、イニエラだ!あの茶を飲ませろとイニエラが私に渡した!私じゃないっ!私じゃないんだーっ」
絶叫とはこういうのを言うのだなと、エリーシャはどこか遠い出来事のように考えていた。
あと少し、料理人見習いが来るのが遅かったら、ベレルとレイカ、エリーシャもトルソーも死んでしまったかもしれないというのに。
いや、怖すぎて、現実逃避しているのかもしれない。
─イニエラ?イニエラって誰かしら─
ぼんやりと考えていると暖かな何かに包み込まれる。いつの間にかトルソーがエリーシャの肩を抱いていた。
「大丈夫、みんな無事だから安心して。もう安全だから」
穏やかにトルソーが声をかけてくれる。
やさしいその声でエリーシャは、自分がカチカチと歯を鳴らすほど震えていたことに、漸く気がついたのだった。
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