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第31話 喜ばせたい!
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たっぷり孤児たちと遊び、いつもなら帰っていた時間。テューダーが促してもエルロールは帰ろうとしない。
「エル、そろそろ帰らないと」
「もう少しだけ。これからメリンダ嬢がこどもたちに文字を教えるそうだから少し見学したい」
こどもたちを食堂の大きなテーブルに着かせると、メリンダは文字を書いた紙を壁に鋲で貼っていった。
─黒板があれば簡単なのに─
大きな黒板の値段がそれほど高いわけではないが、教会や孤児院にとって必要不可欠な物ではない。むしろ優先順位はかなり低い物。
─私が手配しよう─
文房具や絵本はたくさん買ってきたが、こどもたちには教科書がない。メリンダが貼り付けた紙がテキスト代わりだった。
─よし、教科書を人数分揃えてやろう─
メリンダはわかりやすく文字を教えていると、贔屓目ではなくエルロールは思ったのだが、週に一度か二度、一文字二文字を教えてもなかなか先に進めないようだ。
─週に二度でも教師を手配したら、奉仕活動の貴族と予定を合わせればもっと効率よく学べるのではないか?─
そしてもう一つ気になったことがある、勉強する環境だ。
食堂と便宜上呼んでいるが、皆が集まる部屋なので常に出入りがあり、その度にこどもたちの気が散らされている。
─孤児院の建物にはそんな場所はないが、一軒先の空いた土地はどうだろう。土地の持ち主を確認させて買い取ろうか─
エルロールの頭の中で、どんどんとやるべきことが詰め込まれていく。
─孤児だけではなく、近隣の平民の子も通えるようにしたらどうか?貴族学院のように一日何時間ではなく、毎日短い時間通わせるのなら、一つの教室しかなくてもたくさんの生徒を教えられるのではないだろうか?─
自分の考えは悪いものではないとにんまり笑うエルロールを、テューダーは気持ち悪そうに眺めていた。
「メリンダ嬢、とてもわかりやすかった!貴女は教師としても忍耐強く素晴らしい方ですね」
手放しの賛辞にメリンダは恥ずかしそうに頬を染め、またエルロールも顔を赤くしてもじもじとする。
─本当にそろそろ帰りたいのに、いい加減にしてくれよ!─
テューダーの無言の圧力を背に受けながら、エルロールはメリンダに確認した。
「あの、メリンダ嬢。もし、こどもたちに他の者も週に二度くらい勉強を教えると言ったら、ご不快に思われますか?」
「いえ!むしろとてもありがたいと思いますわ。もしかしてエル様が?」
「そうしたいのはやまやまなのだが私も仕事があるので、思い浮かんだ者に手助けを頼もうかと考えています」
それでもすごくありがたいと、メリンダは晴れやかに笑ってエルロールに何度も感謝を述べる。
「いや、そんなたいしたことは」
驚かせることはこれからなのだ。
小さな教室を建てたら、どれほど喜んでくれるだろう!
─あ、こどもたちだぞ!これはこどもたちを喜ばせてやるのだ!─
自分の頭の中であっても、メリンダを喜ばせることしか考えていないようなのはいけないのではないかと、妙に生真面目なエルロールは左右に首を振って自分を誤魔化した。
「エル、そろそろ帰らないと」
「もう少しだけ。これからメリンダ嬢がこどもたちに文字を教えるそうだから少し見学したい」
こどもたちを食堂の大きなテーブルに着かせると、メリンダは文字を書いた紙を壁に鋲で貼っていった。
─黒板があれば簡単なのに─
大きな黒板の値段がそれほど高いわけではないが、教会や孤児院にとって必要不可欠な物ではない。むしろ優先順位はかなり低い物。
─私が手配しよう─
文房具や絵本はたくさん買ってきたが、こどもたちには教科書がない。メリンダが貼り付けた紙がテキスト代わりだった。
─よし、教科書を人数分揃えてやろう─
メリンダはわかりやすく文字を教えていると、贔屓目ではなくエルロールは思ったのだが、週に一度か二度、一文字二文字を教えてもなかなか先に進めないようだ。
─週に二度でも教師を手配したら、奉仕活動の貴族と予定を合わせればもっと効率よく学べるのではないか?─
そしてもう一つ気になったことがある、勉強する環境だ。
食堂と便宜上呼んでいるが、皆が集まる部屋なので常に出入りがあり、その度にこどもたちの気が散らされている。
─孤児院の建物にはそんな場所はないが、一軒先の空いた土地はどうだろう。土地の持ち主を確認させて買い取ろうか─
エルロールの頭の中で、どんどんとやるべきことが詰め込まれていく。
─孤児だけではなく、近隣の平民の子も通えるようにしたらどうか?貴族学院のように一日何時間ではなく、毎日短い時間通わせるのなら、一つの教室しかなくてもたくさんの生徒を教えられるのではないだろうか?─
自分の考えは悪いものではないとにんまり笑うエルロールを、テューダーは気持ち悪そうに眺めていた。
「メリンダ嬢、とてもわかりやすかった!貴女は教師としても忍耐強く素晴らしい方ですね」
手放しの賛辞にメリンダは恥ずかしそうに頬を染め、またエルロールも顔を赤くしてもじもじとする。
─本当にそろそろ帰りたいのに、いい加減にしてくれよ!─
テューダーの無言の圧力を背に受けながら、エルロールはメリンダに確認した。
「あの、メリンダ嬢。もし、こどもたちに他の者も週に二度くらい勉強を教えると言ったら、ご不快に思われますか?」
「いえ!むしろとてもありがたいと思いますわ。もしかしてエル様が?」
「そうしたいのはやまやまなのだが私も仕事があるので、思い浮かんだ者に手助けを頼もうかと考えています」
それでもすごくありがたいと、メリンダは晴れやかに笑ってエルロールに何度も感謝を述べる。
「いや、そんなたいしたことは」
驚かせることはこれからなのだ。
小さな教室を建てたら、どれほど喜んでくれるだろう!
─あ、こどもたちだぞ!これはこどもたちを喜ばせてやるのだ!─
自分の頭の中であっても、メリンダを喜ばせることしか考えていないようなのはいけないのではないかと、妙に生真面目なエルロールは左右に首を振って自分を誤魔化した。
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