【完結】御令嬢、あなたが私の本命です！

第３２話 エルロールの願い

　馬車の中でエルロールは満足気な顔をしていた。

「なんですそのドヤ顔は」
「別にそんなつもりはないぞ。今日はメリンダ嬢ととても有意義な会話をすることができたのがうれしいだけだ」
「まさかデートに誘えた？」
「違う。そうだったらうれしいが、もっと現実に向き合うための大切な会話だ」
「色気がないなあ。でも遠目に見ても距離は少し縮まっているようだった」
「ほ、ほんとか？そうだよな、私もそんな気がしているんだ」

　ふふっと声を漏らしながらエルロールの口元がにやにやっと動いて、すぐ真顔に戻る。

「それでだ。テューにやってもらいたいことがある」

　王子モードに切り替わったエルロールのことを、テューダーはからかったりはしない。

「畏まりました」

　乳兄弟から、主と側近侍従に一瞬だけ・・線を引いてみせた。

「教会の一軒先に空き地があったのを覚えているか？」
「ああ、中途半端な広さだよな、あれ。平民の家には広く、貴族の家には狭い微妙な土地だと思った」
「うむ、あれの持ち主を探してくれ。私が買いたい」
「え！何故？今の今微妙と」
「ああ。テューが言う物には使いづらいと思うが、こどものための読み書き教室ならどうだ？」
「読み書き教室？」
「孤児院のこどもは後ろ盾がないために、仕事に就く際に足枷となって良い仕事が見つからないと言っていただろう？ただ良く訊いてみると、教会が奨学金を出して学校に行かせた者や養子に行った者はその限りではないそうだ。だからまず、最低読み書きを学べる場と奨学金を私も準備しようと思うのだ。それとな、養子を迎え入れやすいように何か仕組みを考えたい」
「はあ」
「はあではない。孤児院ひとつの問題ではないからな。これから孤児院には教室を併設か孤児院の近隣に必ず読み書き教室を作るようにしたい」

　話しながら考えた細かなことをさらさらとメモに書き起こしてテューダーに渡すと。

「城に戻ったら母上に面会を求めてくれ」
「はい？」
「母上はチャリティーをやっておられるだろう？あの力をお借りしたい」
「それで資金を？」
「ああ、いずれは国民のために予算を取ってしっかりやってやりたいが、それを待っていたらこどもたちが成長して孤児院を出されてしまうだろう？間に合わんのでは話にならん」

　初恋で色ボケしたようになっていたエルロールが、久しぶりにしゃっきりと動き出したのを見て、テューダーも力が湧いていた。

「よし、早速やりましょう！」
「あ、あの孤児院の分は私の個人資産からもある程度出すつもりだ」
「そんなことなさらずとも」
「いいんだ、あのこどもたちのために何かしてやりたいんだよ」

　メリンダのためだけではない。
　仲良くなったこどもたちは皆親を失ったのだ、これ以上辛いことがないようにと心より願っていた。