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39 執念
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王宮の謁見の間で、国王はまだメルトニウスに問い続けている。
「・・・リイサ嬢も奴を気に入っていると?」
ソルベート・ノートリアを気に入る者が果たしているのだろうかと、その場にいた誰もが思ったが、国王ははっきりとそれを口にした。
「それは信じ難い。一度真実の気持ちを確認したいのでサレンドラ卿、リイサ嬢を城に連れてきてもらえないだろうか」
国王は臣下に対してできる限り丁寧に訊ねたが、メルトニウスの答えはまたも
「はっ?」
メッキス大臣が割り込んで、王の言葉をもう一度くり返す。
「陛下は妹君が本当にソルベートと不本意な婚約をさせられるのではないと確認したいから、一度城に連れてきてはもらえないかと仰られている」
「・・・では妹に聞いて、城に来られそうでしたら」
「うむ、頼む。あ、陛下、サレンドラ卿が妹君を連れて来ることができずとも、お咎めになりませんように。先日ソルベートも申しておりましたが、まだ体調は万全ではないそうですから」
メッキス大臣が一応国王の言質を取っておく。
「う、うむ。ではサレンドラ卿、頼んだぞ」
「・・・・」
─もうっメルトニウスのやつ、いい加減にしろ!─
怒れる天才騎士を目の前にへたれぶりを晒している国王にも、不敬な態度を改めることもなく国王に「ハッ」としか言わないメルトニウスにもうんざりなメッキス大臣は、早々に解散を促してメルトニウスを謁見の間から引きずり出した。
「メルトニウス!あれでも国王なんだからもう少しなんとかしろ!今日は我らだけだったから良いが、他の者もいたら不敬だと騒ぎになりかねんぞ」
「私も空気は読んでいる。リイサを殺されかけたというのにあの程度の謝罪で許せなどという厚かましい外道にはこれで十分だ」
メッキス大臣は、大袈裟に肩をすくめてため息を吐いて見せる。
「ガキじゃないんだから!」
「ああ、ガキじゃないんだから謝るべきところはしっかり頭を下げねば駄目だ。なあメッキス卿もそう思わぬか?」
「うっ、まあそうなのだが、陛下も王妃様もガルシア様も、皆リイサ嬢に頭を下げられたと聞いているぞ。それではダメなのか?」
「気持ちが籠もっていない謝罪は、謝罪とは言わないだろう。メッキス卿はそんな謝罪でもされたら嬉しいと思うか?」
じとりと、メッキスがメルトニウスを睨む。
「うれしくはない、むしろむかつく」
「そうだろう?我らサレンドラ一族は皆そう思っている。王家だろうとサレンドラ公爵家が怯むことはない」
とりつく島もないほど怒っている。
もうリイサの怪我から数ヶ月経つというのに、いつまでこの怒りが続くのだろうかとその執念深さにメッキスはゾッとして。
─サレンドラ家の者を怒らせるようなことは未来永劫子々孫々まで 絶対にするなと家訓にしよう─
そう心に決めた。
「しかし、リイサ嬢に訊いてはみてくれるよな?」
「訊くだけ無駄だ。残念ながらリイサ自身がソルベート・ノートリアを好ましいと思ったと答えるのは間違いないからな」
「それでも訊いてみてくれ、一度でいい。そのうえでリイサ嬢がソルベートが良いというなら、陛下も諦めると思うから」
メッキスはふと思った。怒り続けるメルトニウスは大切な家族を害されたのだから、怖過ぎるとは思うが納得はできる。しかし王のリイサ嬢を王族に迎えたいという想いも大概だと。
国王自らが、わざわざ一貴族の結婚の意思を確認するなど異例中の異例だ。
どちらも執念深いが、国王の執着の方が気持ち悪いなと寒気を催していた。
「・・・リイサ嬢も奴を気に入っていると?」
ソルベート・ノートリアを気に入る者が果たしているのだろうかと、その場にいた誰もが思ったが、国王ははっきりとそれを口にした。
「それは信じ難い。一度真実の気持ちを確認したいのでサレンドラ卿、リイサ嬢を城に連れてきてもらえないだろうか」
国王は臣下に対してできる限り丁寧に訊ねたが、メルトニウスの答えはまたも
「はっ?」
メッキス大臣が割り込んで、王の言葉をもう一度くり返す。
「陛下は妹君が本当にソルベートと不本意な婚約をさせられるのではないと確認したいから、一度城に連れてきてはもらえないかと仰られている」
「・・・では妹に聞いて、城に来られそうでしたら」
「うむ、頼む。あ、陛下、サレンドラ卿が妹君を連れて来ることができずとも、お咎めになりませんように。先日ソルベートも申しておりましたが、まだ体調は万全ではないそうですから」
メッキス大臣が一応国王の言質を取っておく。
「う、うむ。ではサレンドラ卿、頼んだぞ」
「・・・・」
─もうっメルトニウスのやつ、いい加減にしろ!─
怒れる天才騎士を目の前にへたれぶりを晒している国王にも、不敬な態度を改めることもなく国王に「ハッ」としか言わないメルトニウスにもうんざりなメッキス大臣は、早々に解散を促してメルトニウスを謁見の間から引きずり出した。
「メルトニウス!あれでも国王なんだからもう少しなんとかしろ!今日は我らだけだったから良いが、他の者もいたら不敬だと騒ぎになりかねんぞ」
「私も空気は読んでいる。リイサを殺されかけたというのにあの程度の謝罪で許せなどという厚かましい外道にはこれで十分だ」
メッキス大臣は、大袈裟に肩をすくめてため息を吐いて見せる。
「ガキじゃないんだから!」
「ああ、ガキじゃないんだから謝るべきところはしっかり頭を下げねば駄目だ。なあメッキス卿もそう思わぬか?」
「うっ、まあそうなのだが、陛下も王妃様もガルシア様も、皆リイサ嬢に頭を下げられたと聞いているぞ。それではダメなのか?」
「気持ちが籠もっていない謝罪は、謝罪とは言わないだろう。メッキス卿はそんな謝罪でもされたら嬉しいと思うか?」
じとりと、メッキスがメルトニウスを睨む。
「うれしくはない、むしろむかつく」
「そうだろう?我らサレンドラ一族は皆そう思っている。王家だろうとサレンドラ公爵家が怯むことはない」
とりつく島もないほど怒っている。
もうリイサの怪我から数ヶ月経つというのに、いつまでこの怒りが続くのだろうかとその執念深さにメッキスはゾッとして。
─サレンドラ家の者を怒らせるようなことは未来永劫子々孫々まで 絶対にするなと家訓にしよう─
そう心に決めた。
「しかし、リイサ嬢に訊いてはみてくれるよな?」
「訊くだけ無駄だ。残念ながらリイサ自身がソルベート・ノートリアを好ましいと思ったと答えるのは間違いないからな」
「それでも訊いてみてくれ、一度でいい。そのうえでリイサ嬢がソルベートが良いというなら、陛下も諦めると思うから」
メッキスはふと思った。怒り続けるメルトニウスは大切な家族を害されたのだから、怖過ぎるとは思うが納得はできる。しかし王のリイサ嬢を王族に迎えたいという想いも大概だと。
国王自らが、わざわざ一貴族の結婚の意思を確認するなど異例中の異例だ。
どちらも執念深いが、国王の執着の方が気持ち悪いなと寒気を催していた。
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