【完結】ドケチ少女が断罪後の悪役令嬢に転生したら、嫌われ令息に溺愛されました。

やまぐちこはる

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47 兄の思いつき

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 ソルベートが広間にいないことに気づいた者もいたが、その穴を埋める勢いで、ホートンとメルトニウスが挨拶をこなしていた。

 メルトニウスは騎士団を辞めて、初めてのパーティーである。
 今度こそ本気で伴侶を探そうと決めたが、フロアに出るとわらわらと令嬢たちが取り巻いて、不躾に腕に触れたり口々に様々な質問をするせいで早くもげんなりしていた。
 もっと小規模なパーティーのほうがよかったのか、それともむしろ目立たぬ大きなパーティーがよかったのかと後悔しても遅い。

「そういえばホートン男爵、妹は?」
「ノートリア卿を休ませるために客間へお連れになりましたよ」
「ノートリア卿・・・あ、それだ!ありがとう」

「それだ?ってなんだ?」

 メルトニウスが何か閃いたような悪い笑みを浮かべて、待ち受ける令嬢たちの群れに戻っていく背を見ていると、ホートンの耳によく通るメルトニウスの声が聞こえてきた。

「妹と婚約者のソルベート・ノートリア卿はどこにいったかな、どなたか見かけませんでしたか?」
「いえ、存じませんわ」

 令嬢たちは口々に知らないと言い、小首を傾げて広間を見回している。

「ああ、心配だ!あの傲慢で人を見下すソルベート・ノートリア卿が妹の婿になるなんて父上も一体何を考えているのやら!妹はこれからも私が守ってやらねばと思うのですが、私がそばにいてやれないときは妹の力になってくださる方に妻となってほしいなあ。あの・・ソルベート・ノートリア卿から体を張ってでも妹を守ってくださるような」

 意外なことにメルトニウスはソルベートがリイサを大切にしているところしか見たことがないから、今はまったく心配していない。
 妹バカのメルトニウスは、あの・・ソルベートであっても相手がリイサなら特別に大切にしたくなるのは当然だと思っているが、ホートンの言葉を聞いて、サレンドラ家以外の者はソルベートの名を出されたら怯むかもしれないと気がついたのだ。
 効果はすぐに現れた。

「え?ソルベート・ノートリア卿からリイサ嬢をお守りする?」
「ええ、それだけが私の妻に望むことかもしれませんね。あんな酷い目に遭った妹を私と同じように大切にしてくださる方。相手がノートリア卿ではなかなか大変とは思うのですが」
「え、メルトニウス様、リイサ嬢はサレンドラ公爵閣下がお守りになるのではごさいませんか?」
「いや、だってあんな目に遭ったリイサをあの・・ノートリア卿に嫁にやるような冷血漢が守ると思いますか?それに私たちより年上の父がいつまで生きているかもわかりませんから当てにはできますまい!だから私が妻とともに守ってやらねばならないのです!」

 拳を握り、上を向いて令嬢たちに宣言!

 ─すまん、父上─

 心でぺろりと舌を出しながら、父を悪役に仕立てたことに一応謝罪を思い浮かべつつ。
 ふとまわりを見ると、あれほど群がっていた令嬢たちは潮が引いたように見事に誰もいなくなっていた。

「メルトニウス聞こえていたぞ!あれはなんだ!」
「あ!父上」

 へらりと笑って、メルトニウスは小さく手を合わせる。

「まあ、踏み絵にはちょうど良さそうだがな」

 くすりと笑い、寛大な父は手を振ってまた客の中に戻っていく。
 ライザックもメルトニウスも、今こんな悪口のようなことを言ったとしても、いずれふたりの仲睦まじい姿を目にすればあの・・ソルベートさえもリイサに夢中と言われる日が来るとわかっているのだ。
 だからこそ安心して、父に反意を感じているようなことが口にできた。

「さて、他に良さげなご令嬢はいないかな」
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