【完結】ドケチ少女が断罪後の悪役令嬢に転生したら、嫌われ令息に溺愛されました。

やまぐちこはる

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50 そんなことあるわけがない

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 ひとりで休みたいというソルベート、本当は今こそそばについていてやりたかったリイサだが、布団に潜り込むソルベート自身がそれを望んでいないのだからしかたない。

「ええ、もちろんですわ。ベルを置いていきますから、なにかの時はすぐに鳴らしてくださいね」

 心配にうしろ髪を引かれながら、客間の扉をそぉっと閉めた。



 ─はぁ・・・、情けないのはあんな嘘をつくおのれだ、ソルベートよ!─


 つい疲労だなんて言った自分が恥ずかしく、頭から布団を被って激しくドキドキしている鼓動を感じていると、また医師のあの「恋煩い」という言葉が思い出されて。

 しかし今度はさっきほどの強い拒絶はなく、いやまさか自分にそんなことが起きるわけがないのに!と、疑い半分ではあるが受け入れ始めていた。



 ソルベートの結婚相手への第一条件はとにかく優秀な頭脳の持ち主だった。
 どれほど美しくても知的レベルが違いすぎては共にいるのはストレスにしかならないと、過去に親に押し付けられてきた何人もの元婚約者から学んできたので、そこに妥協はない。

 次の条件は普通ならそこそこ見られる容姿か、釣り合う程度には金持ちで爵位が高いことのどちらかだろう。
 あえてどちらかというなら、自分の後ろ盾として役立つ家名や爵位を迷わずに選ぶだろう。
 容姿をどうでもよいとまでは言わないが、優先順位としては高くなかった。

 婚姻は貴族家嫡男に生まれた我が身の義務だと、いやいやながらもさすがにそんなことを考え始めたとき、素晴らしい帳簿システムを持って現れたのがリイサ・サレンドラ公爵令嬢だった。
 他の令嬢たちとは比べものにならない聡明さに思慮深さ、そして家柄の素晴らしさという2つの条件を満たした稀有な女性。
しかも婚約者がいないときた! 
だからすぐ婚約したのだ。

 ただの政略結婚だ!

 この自分が恋煩いなどとあり得るはずがない!

 ソルベートはそう思い込んでいたが、他人ひとがみればわかってしまうのが秘する想いなのである。


 復調してリイサと広間に姿を見せたソルベート。
 まだ心のうちは揺れに揺れ、リイサの手を取ると意識してしまって指先が震えそうになる。
これでもだいぶマシになったのだ。
あまりに動揺するソルベートを気の毒に思ったラズリー医師が、軽めの精神安定剤を飲ませてやった。それがなければこの夜を無事に過ごすことはできなかったかもしれない。


 広間にいた客たちは、ふたりが並んで現れたのを見て目を瞠った。
あの傲慢で「貴族きってのイヤなやつ」の代名詞、年嵩の貴族だろうが高位貴族の令嬢だろうが相手構わず、バカのトロいのみっともないのと貶しまくってきたソルベートが、とろりとやさしい目でリイサを見て頬を赤らめ、手を握っているのだから。

 それを見た者は、まさか見間違いだろうと目を擦り、もう一度見つめてポカンと口を開ける。

 誰かの声がした。

「大変だ!天変地異が起きるに違いない」
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