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77話
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ナミリアは屋敷に戻ると、また作品の制作に没頭した。
工房のほうは暫くミヒアが管理し、ナミリアは制作に集中できることになったのだ。
刺しかけの刺繍を指先でなぞる。
何色ものグラデーションで立体的に仕上げているが、動きが足りないような気がして商会に糸を見に行った。
買ってきた何色かのうち、閃くものがあった糸を生地に合わせてみると、やはり差し色が入ることで、ぐっと良くなったように見えた。
「これがいいかしら」
その色はローズリーの瞳と同じ色。
気づいてしまうと、ナミリアの表情は陰を帯びた。
「これはやめておこうかな・・・」
手にした糸はそっとかごに戻す。
さっきまでのやる気に満ちたナミリアはいない。
もうローズリーとは会っていない。
両親から婚約は不成立と告げられ、さよならも言えずに会うことはできなくなって、数日泣き続けた。
ディルーストを失い、泣き暮らして胸に空いてしまった穴を時間をかけて埋めてくれたローズリー。
彼がかけてくれた言葉すべて嘘偽りだったとは、ナミリアには思えない。
始まりを間違えただけ、そう思いたかった。
しかし、その最初のボタンの掛け違いは致命的なもので、二度とふたりの時間を取り戻すことはできなくなってしまった。
ナミリアの指先が小さく震えた。
「だめだわ、こんな気持ちでは良いものは作れない・・・」
作業部屋から寝室に戻ると、こちらを見たトレがしっぽをぱたりぱたりと振る。
「にゃあん」
音も立てずにソファから飛び降り、ナミリアの足元に駆け寄ると身を擦り付けてきた。
「トレ、いいこね」
猫を抱き上げ、小さな顔に頬を寄せると、硬い髭がナミリアの頬をちくちくと刺激する。
やわらかな体のあたたかさを確かめるように、ぎゅっと力を込めた。
猫を抱いたままベッドに腰掛けると、そのまま倒れ込む。
「にゃっ」
ぽすんと布団に突っ込んだトレは、抗議するようにナミリアに鳴き、その人間のような文句に思わず笑う。
「ふっ、トレったらねえ、本当に文句言ってるみたいよ」
猫をころりと転がし、そのぷっくりした腹を撫でてやると、今度はゴロゴロと気持ちよさげに瞼を閉じて身を任せてくる。
「トレ、ありがとうね」
なんとなく気持ちの切り替えができた気がして。
でももう少しこうしていようと、猫をやさしく引き寄せて、瞳を閉じた。
工房のほうは暫くミヒアが管理し、ナミリアは制作に集中できることになったのだ。
刺しかけの刺繍を指先でなぞる。
何色ものグラデーションで立体的に仕上げているが、動きが足りないような気がして商会に糸を見に行った。
買ってきた何色かのうち、閃くものがあった糸を生地に合わせてみると、やはり差し色が入ることで、ぐっと良くなったように見えた。
「これがいいかしら」
その色はローズリーの瞳と同じ色。
気づいてしまうと、ナミリアの表情は陰を帯びた。
「これはやめておこうかな・・・」
手にした糸はそっとかごに戻す。
さっきまでのやる気に満ちたナミリアはいない。
もうローズリーとは会っていない。
両親から婚約は不成立と告げられ、さよならも言えずに会うことはできなくなって、数日泣き続けた。
ディルーストを失い、泣き暮らして胸に空いてしまった穴を時間をかけて埋めてくれたローズリー。
彼がかけてくれた言葉すべて嘘偽りだったとは、ナミリアには思えない。
始まりを間違えただけ、そう思いたかった。
しかし、その最初のボタンの掛け違いは致命的なもので、二度とふたりの時間を取り戻すことはできなくなってしまった。
ナミリアの指先が小さく震えた。
「だめだわ、こんな気持ちでは良いものは作れない・・・」
作業部屋から寝室に戻ると、こちらを見たトレがしっぽをぱたりぱたりと振る。
「にゃあん」
音も立てずにソファから飛び降り、ナミリアの足元に駆け寄ると身を擦り付けてきた。
「トレ、いいこね」
猫を抱き上げ、小さな顔に頬を寄せると、硬い髭がナミリアの頬をちくちくと刺激する。
やわらかな体のあたたかさを確かめるように、ぎゅっと力を込めた。
猫を抱いたままベッドに腰掛けると、そのまま倒れ込む。
「にゃっ」
ぽすんと布団に突っ込んだトレは、抗議するようにナミリアに鳴き、その人間のような文句に思わず笑う。
「ふっ、トレったらねえ、本当に文句言ってるみたいよ」
猫をころりと転がし、そのぷっくりした腹を撫でてやると、今度はゴロゴロと気持ちよさげに瞼を閉じて身を任せてくる。
「トレ、ありがとうね」
なんとなく気持ちの切り替えができた気がして。
でももう少しこうしていようと、猫をやさしく引き寄せて、瞳を閉じた。
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