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恋と仕事と

第3話

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ノアランは浮かれていた。
ひょんなことからカーラとの共同事業を手にしたのだ。
今までもいろいろ助け合う約束は交わしていたが、それより踏み込んで、共に手を取り合える仲になったというのはノアランにとってとても大きな進展だった。

ふと、顔がニヤついていないかガラスに映る自分を見やると、どうにも締まりのない顔をしていて苦笑する。

「帰還が遅れると父上たちに連絡しなくてはな。あと事業計画を立てねば」

カーラに頼りになる男だと認めてもらえるチャンスなのだ。自分で店を開業するのは勿論初めて経験だが、絶対に失敗は許されないとノアランは拳を握りしめた。

まずはカーラの店をバックヤードの隅々まで検分させてもらい、カーラのこだわりや好きなこと、嫌いなことを吸収する。
いろいろな角度から質問をぶつけ、気になったことはそれこそ何でも確認しまくった。
『カーラ・シーズン』の立地をどう選んだか、内装や商品選択の目利きを誰がしたか、使用人たちをどんな基準で集め、どう把握したか。
給与を安定的に払うため、売上をあげる戦略、どんな工夫を考えているのか。

まるでストーカーのように数日カーラに付き纏ったノアランが、自分をミニカーラではないかと思えるほどに理解が進んだ頃。
気分転換に王都を歩き回っていて、間口は狭いが奥行きがあり、その向こうに中庭が見える建物を見つけた。
『カーラ・シーズン』ほど大きくはないが、それより少し新しいように見える。そして城に少し近いため、人通りや馬車通りはこちらの方が明らかに多かった。

「あれ?ここ空いてたかな」

昨日歩いたときには気づかなかったが、売家と書かれた紙が貼られており、その下に連絡先が小さく書かれている。

裏側に回ってみると、垣根で仕切られた先に、こちらも売家と札が建てられた既に無人の小ぶりなタウンハウスが建っていた。

「売主が同じだ。チユリス子爵って読むのかな?」

高位貴族ならさすがにノアランもわかるが、隣国の子爵クラスでは、よほどの家門でなければその名を知ることはない。

いずれにしても、王都のこれほどの立地にあるタウンハウスと店舗の建物を手放すのはよほどのことだろうと、その事情を慮る。
そして、早く手を打たねば売れてしまうのではないかと気が逸った。


カーラの店へと踵を返すと、五日間のプレオープンを終えて、本オープンに向け、手順の見直しや商品の並び替えに殺人的な忙しさのカーラを店から引っ張り出した。

「ちょ、ちょっとノアラン様!」
「ちょっとだけだから、お願いだ!一緒に来てほしい」

エイミとルブがノアランに引きずられていくカーラを追いかけてくる。

「お待ち下さいヴァーミル様っ!カーラ様をどちらへ」
「うん、君たちも来てくれ!」

そう言いながら足を止めることはなく、四プロックほど歩いただろう。

「ここ、見てくれないか」

期待のこもった目で、ノアランが振り向いた。

「あら」



カーラの店よりだいぶ小さいようだが、そのコンパクトさが隠れ家的な雰囲気に見えなくもない。

「ここ、トューリス商会だったところだ!売りに出したのか」

ルブが正しい読み方を意図せずしてノアランに教えた。

「トューリス?ああ、あの」
「あのって?」

話についていかれないノアランが訊ねると、ルブが答える。

「令嬢が不祥事を起こして、高位貴族相手に莫大な賠償金を払うことになった子爵ですよ」

そう言って肩を竦めた。
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