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六話 真打

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 また少し日が経った頃。

 「んくっ……んんっ……」

 当日は女湯の床掃除当番。
 少年はデッキブラシで床を擦り上げる。

 「はぁっ……んっ、んんっ……」
 「チンタラやってたら終わんないよ! ほら! 頑張りな!」
 「は、いっ……」

 家政婦長の檄が飛ぶ。ただはいと返事はすれど、身体の支えにしながらで無ければ立っていられず。大きく動かせない故、速度が上がる事は無い。

 わかってるくせにっ……くぅっ。

 「ふっ、ううぅっ……!」

 ぽたたっ、ぽたたたっ。特に射精感を伴った訳でも無いのに、透明な粘液は装具から漏れ出し、更には給仕服のスカートの下、吸い切れなくなったぐちょぐちょのオムツからも溢れて床を汚した。

 「レイ、また、汚してますよ」
 「っ、申し訳、ありません……」

 装具に何か機能が追加されたのか、それとも純粋に連日過剰な刺激が続く事によって破綻したのか。
 検診の日を境に、逸物は歯止めを失った。
 所謂我慢汁カウパー。その分泌が止まらなくなってしまったのだ。

 先日の移動中に判明した事だ。暫くすれば収まるだろうというキクチの希望的観測は外れた。折檻された後悪化し、扱い切れなくなった。

 「漏らして当たり前。そんな使用人に指導するつもりは毛頭ありませんでしたから、着用させない方針でしたが────」

 応急処置、曰く苦肉の策としてオムツの着用を義務化された。
 酷い屈辱だったが、漏らすよりもマシと受け入れた少年。これで漏らしても問題ない。さあ安心して働けとなったのも束の間。
 逸物の装具の隙間から溢れる分泌液は、たった数時間の清掃業務だけでオムツのキャパシティを超えた。

 掃除中の書架の間で、裏庭のタイルの上で。連日醜態を晒した。
 お陰で流石に許しが出なくなったのか、以来汚しても然程問題無いであろう場所での当番しか回らなくなった。

 予定外の事態らしく、キクチは業を煮やす。

 「はぁ……キリがありませんねこれでは」

 「あの闇医者め、要望書に目を通して無いのか……?」とボヤきが聴こえた。
 彼女も辟易としているらしく、もうお漏らし自体を咎めない。

 「仕方ない。ミマタ、シスイ」
 「はい、何でしょう」
 「レイを懲罰房に戻しておいて下さい。仕置きは任せます。私はこれからドクターの元に向かいますので」
 「承知しました」



 少年は二人の女衆に運ばれ、その日も懲罰房に戻された。
 そしてキクチ不在の中、片割れが名乗りを上げる。

 「んっふ~、よ~し。任されましたぁ~、副主任、調教担当のミマタでぇ~す」

 その蒼白で細長い右手の人差し指で、白い指輪が光る。
 キクチよりは低く、シスイよりは高い背丈の、やたら細い身を蛇の様にくねらせる女衆の一人。他女衆とは違い、認識阻害が目から上だけという特徴を持つ彼女が此度の担当者だった。
 彼女はシスイと協力して、用意された台の上、三つの窪みのある縦板のそれぞれに少年の首と両手首を押さえ付けて乗せると、同じ形状の窪みがある板で挟み込む。ガチャン。
 
 「っ…………いった……」
 「あ~手荒にしてごめんよぉ~。ちょっと挟んじゃったかなぁ?」

 錠を掛けると共に、彼女は印象に違わない長い舌をペロリ。恍惚に舐めずった。
 そして背後に周り、少年の給仕服のスカートを脱がし、オムツを剥ぎ取る。
 ねちょぉ……大量の粘液が糸を引いて落ち、青臭い性臭がむあぁっと解放された。
 実行犯から「うわぁすっごぉ」という感嘆が漏れる。
 
 「役得だなぁ~まさかこぉんなに早く出番が回って来るなんてねぇ」
 「……そう、かよ」
 「そうだよぉ~少なくともその『ススム君』?だったかが外れるまではアタシ実質キクチの補佐だからさぁ、暇で暇で、正直我慢の限界だったんだよね~」
 「ミマタさん、あまり余計な事は」
 「ああーんごめんごめんごぉ~。や~りましょやりましょ~!」

 前屈体勢で突き出された子供尻が開始の合図としてペチン! と叩かれ、甲高い音が鳴った。

 「っくぅっ……」
 「しかしほんといいケツしてるよねぇ。ずっと叩きたくなるキクチの気持ち分かるわぁ」

 ペチンッ! ペチンッ! 特に意味も無く暫し叩かれ続ける。
 尻は叩かれる度ふるんっと震えて、打たれた箇所に赤い紅葉を残していく。
 が、ある時何の前触れも無く止まった。

 「でもさ少年、叩かれてばっかは飽きてきたよね?」
 「…………」
 「痛いのも慣れて来てるっしょぉ? ねぇねぇ」

 慣れて来ているかと問われれば、その通り。痛みは事ここに至った少年にとっては、正気を保つのに丁度良かった。
 何せ、一部の物を除いて感覚が加速度的に鈍麻し始めている。気付けが無ければボーッとしてしまって仕方が無かったのだ。

 ────ヘルゼンとキクチの齟齬、女衆とキクチにも温度差が……熱っぽいのは風邪の影響も……何か腹も痛い……。

 故に逸物や、その他身体の具合の異変。キクチと女衆らのパワーバランスについて等々。今ならばと思考に耽っていて、大半の言葉を聞き流していた。

 「訊いてるじゃんさぁ!」

 刹那、もみゅんっ! 小さな桃尻は叩かれるでもなく揉みしだかれた。
 鋭いこそばゆさに「ふぎゅっ⁉︎」と少年は素っ頓狂な声で跳ね、引き戻される。

 「おおっ、良い反応~」

 もみゅっ、もみゅっ! 強弱緩急織り交ぜられ、丹念に捏ねられる。尻穴の装具の動きにも合わせて、もみもみ、こねこね。
 装具に包まれた竿先が揺れ、止めどなく滴り落ちる粘液が振り乱される。揉まれる度、まるで絞り出されたかの如く量も増す。
 預かり知らぬ刺激に、彼は情けない反応を我慢出来ない。

 「くっ、はっ、っ、ふぁっ⁉︎」
 「ほらどお~? なんか言ってよぉ、言ってみて?」
 「んっ、申し訳っ、ぁひまっ、ありませんっ……!」
 「いやそんな定型句じゃなくてさぁ~? お話しようって言ってん、のっ!」

 パチン! 改めて尻が張られた。瞬間火の出る様な電撃が背筋を駆け抜けて、脳裏で火花が散った。

 「んはっ……⁉︎ あぁっ……?」
 「そうだ質問してよ質問。聞きたい事いっぱいあるっしょ? ねえねぇ、してよ」
 「はぁっ……っーー……」
 「正直今だって何の懲罰で叩かれてるの~とか訊きたいっしょ? 良いんだよ訊いて。どんなのでも問題無~し、暫くキクチいないから」
 「ミマタさん……!」

 シスイの静止が入るが、「いいっしょちょっとくらい~」と彼女は譲らない。
 しつこい。手つきも、口調も。ヘルゼンの様にへばり付く感じとはまた異なり、湿度、粘度共に高くネチネチしている。
 少年は痺れを切らした。

 「っ……興味無いっ……勝手に、やっとけっ……」
 「あっ、やっと返事してくれたぁ!」

 嬉しいなぁと喜ぶ彼女はよしよしと尻を撫で回す。
 腫れてひりつく肌は敏感だ。叩かれるよりもある意味芯に効かされた。
 が、そこに懲罰的意図は見えない。言葉遣いで罰する気は無い様だ。

 「っくっ……うぅっ……」
 「でも興味ないかぁ、そっかぁ残念だなぁ。アタシ色々知ってんだけどなぁ~」
 「ふんっ……言うだけなら易いっ」
 「三年前、伏魔財閥、都市開発事業、役員裏切り、四月九日、灰原病院」
 「っ!」

 こいつ、何でそれを……⁉︎

 「アハ~っ、ここまで言えば分かるよね?」
 「その情報、国に売ったのか……?」
 「いや~やだなぁ売ってないよぉ~、売ったところで信じて貰えるものじゃないしぃ~」
 「だとしたら、脅しか……?」

 少年の彼女に対する警戒度が跳ね上がり、空気が一気に張り詰めた。

 「ん~やめてぇ~、これはホントにアタシの少年に関する知識の証明の為だけに上げただけだから~」
 「もう少し、マシな嘘をつけっ……!」
 「ほんとだってば~キクチと違って少年の事嫌いじゃないし、寧ろファンなんだから~。ホントにほんと、害する意図はな~し」
 「だったら、我が食いつく様な餌を、用意すれば済む話っ……それをいきなり劇物で歓待とは……明け透けが過ぎて、ヘドが出る。物知りなら尻から手を離して、もう少しっ、頭を使ったらどうなんだっ?」

 少年の嫌味を歯牙にかけず、「じゃあじゃあ~」とミマタ。手元の尻を揉み擦りしながら、提案の方向性を変える。

 「普通の食事とか久々にしたくな~い? ここに来てから注射や点滴で直に栄養ぶち込まれてばっかで、食事まだ一度もしてないっしょぉ?」
 「っ、この流れで、言葉通りの餌で釣るとは……アホなのか?」
 「でも欲しいっしょ流石に~? 今日はまだ栄養注射もしてないし~?」

 彼女は手元に中身の入った注射器を取り出し振って見せた。「ミマタさん貴方……!」とシスイが騒然とする。

 少年は俄かに顔を顰めた。
 欲しくないと言えば嘘になる。ここ最近の口寂しさは、料理の味恋しさにも近い。
 ミマタは返事を待たなかった。一時何処かに歩いて行ったかと思えば、直ぐに戻って来て正面に回る。

 「そう思って……持って来ちゃいました~!」

 突然、彼の目の前に馳走を隠す類の銀の蓋が出された。
 「じゃ~ん」の一言でそれが外される。中身は、この館の食堂で作られた賄いだろうか。牛角煮とネギの混ぜられたまんまだった。
 良い香りが広がり、ダイレクトに鼻腔を刺激する。久しぶりにクーっと腹が鳴り、少年は複数の点で違和感を覚え訝しんだ。

 「それ何処から持ってきたんですか⁉︎」
 「シスイちゃんステイ~、お堅いなぁもう。ただ単に今日のアタシの分の賄い持ってきただけだよ~」
 「……何のつもりだ」
 「何のつもりってやだなぁ~、交渉材料の一つだよ、さっき言われた通りのさ」

 不審の間が空いた。ミマタはくだを巻く。

 「だからなんでそう警戒するのさ~、チュートリアルだよ~ちゅ~とりあるぅ~。あやしくないよぉ~」

 話のペースに巻き込まれるのは不服であった。
 しかし、そうも言ってられない。空腹と熱感で再び思考が浅くなり始めた。

 「ふっ、しない方がおかしいだろ……当然の事ながら、何か代わりに差し出せってんだろうからな……」

 「ん~流石元名代様! 話が早い!」とミマタ。両の手を打ち、瞳を怪しく輝かせる。

 「で、何を出せってんだよ……今の我には、何の持ち合わせも」
 「あるよ~あるある。尊厳が、まだある」

 案の定、碌でも無かった。

 「それを、どう差し出せと……?」
 「簡単だよぉ、少年が自分で、自分を貶める手段を提案するのさ~」

 彼女の長い舌がチロチロと回る。

 「アタシ一応調教担当だから権限があって~、その淫紋にちょっとした条件を付与したり出来んのよ~。ホントは少年のその『ススム君』? だかが外れてからやろうと思ってた遊びなんだけどね~────」

 少年の頭にはもう余計な情報を入れる余裕が無かった。
 故に要約すると以下の通り。
 ・彼女は己が口にする事、ないし行動する事でどの様な罰が下るか、術式に条件を付与可能である。勿論条件設定の無い永続効果や、いつまで持続するかも設定可。一時の行動を対価とする場合の制約にする事も出来る。
 ・それを自身で決める事で、代わりに彼女はそれに見合った情報や、求める物事を与える。
 ・釣り合っているかどうかは彼女の心証と、指輪によって見透かされる少年の心理が基準。余程で無い限り最初の提案から擦り合わせが行われる。
 ・求める物事に見合わぬ条件を告げる事なかれ。相応の罰が下る。

 「ずっと見てたんだけどキクチホント下手だよねぇ~。自分の恨み辛みをぶつけるばっかでさ~、調教とは何たるかをまるで理解してないんだも~ん。これじゃいつまで掛かるか分からないじゃ~ん? だからやきもきしちゃってさ~ぁ」
 「キクチへの愚痴は、もういい……話は、分かったから……」

 酷い話だ。訊いているだけで消耗させられてしまった。
 喉が乾く。腹が鳴る。身体は疼く。
 何か頼み事をしなければいけない、悪条件を飲まざるを得ない状況を、強引に生み出されている。

 「ほんと? じゃあ早速」
 「待てっ」

 そこで一つ待ったをかけ、彼は妥協する条件を再提示した。

 「別に、食事はいい……まず、注射をくれ……」
 「え~? 折角用意したのに~?」

 そして主導権を取り戻さんと突き付ける。

 「とぼけるなっ……コソコソとっ……飢餓を引き起こす魔法を、使っただろっ……!」
 
 尻を揉んだり叩いたりする間、彼女は仕込んでいた。少年を、自身の土俵に持ち込む為に。

 「んぇえ~? 少年程の肉体にかけられる様な大魔法打ったらもっとバレバレだと思うんですけどぉ~?」
 「体内の栄養素だけを奪う分には、耐性はそう問題無いだろがっ……!」

 魔力順応に於ける魔術師の耐性はそんな万能な物では無い。細胞等が変性しないだけで、その存続に必要な物質に働きかける事は容易である。例として、肉体の水分だけを奪う魔法が戦場で猛威を振るったのはあまりに有名な話だ。
 接触出来る程の超至近距離ならば、精密な操作は可能である。高度な技術であり一介の魔術師には到底不可能だが、そうでない事は明らか。故に少年は確信した上で指摘した。

 「少しずつなら、バレないとでも思ったかっ……?」
 「ふ~ん、証拠は~?」
 「っ、魔力使用の痕跡が残ってるのは、そこのシスイとかいう女が調べれば、分かる事だ……」
 「そんなの~、シスイちゃんが少年の味方するかなぁ~?」

 シスイとミマタ、両者の視線がぶつかる。認識阻害のベールに隠されていても、それは誰の目にも明らか、蛇に睨まれた蛙だ。シスイは怯えすくんで何も言わなかった。
 が、しかし、彼女はただの蛙じゃない。その目には決してただ飲み込まれてやるつもりも無いという意思も感じられた。
 彼女は面倒になったか、頭を振って半ば観念する。

 「……はー分かったよぉ。でも、ホントにいいの~? この注射器の中身知ったら」
 「しつこいっ……いいからとっとと進めてくれっ……!」
 「む、じゃあいいよぉ。言ってみて」

 これなら、比較的安い対価で済む筈だ。
 少年は脳内で勘定を済ませた後、一つ呼吸を整えて言った。

 「お前に、キクチの時同様、しかたなく敬語で話す様にしてやるっ……破った場合の、罰則は」

 パリン。即座に注射器が床に叩きつけられ割れた。
 「は? おい何やってっ……!」と少年が声を荒げようとしたが、その前にミマタは目の前の膳を持ち去り、彼の背後に回った。
 カタン。

 「何でっ」
 「言ったでしょ~? 相応の罰が下るって」
 「でも、それは」
 「歳上の人間、それも女性に対して敬語で話す事は当たり前の事でしょぉお~~⁉︎」

 パァンッ! 有無を言わさず、力強く尻が張られた。
 「そんなのっ」と口答えしようとする少年の言葉も、続け様に乱れ飛ぶ強烈なスパンキングに遮られる。

 「口答えするんじゃぁありませ~ん! 下々の私にそんなのあり得ない~? そう思うなら情操教育に失敗していま~す! もう一度ママのお胎の中からやり直してくださ~い!」
 「ひっ、う゛っ、あ゛ぁっ」

 パンパンパチベチパパパパパァン! 最早彼の尻は彼女の説教を刻む為のドラムだ。

 「当たり前の事を天秤に乗せても質量はゼ~ロ! 論外論外論~外! 神妙に罰を受け~ぃ!」
 「っ…! それを言ったらっ、本来はっ、既に打たれてた筈の注射だろがぁ゛っ……⁉︎」
 「はいとぼけな~い! 知ってるっしょおおぉ~? タダの施しなんてなぁ~い!」
 「はぁっ、っ……」

 痛い分には問題無い。そう少年が反応を閉ざした瞬間、「そ~も~そ~もぉ~!」と動きは揉み擦りに切り替わる。
 
 「んぎゅっ⁉︎ っうっ⁉︎」
 「君はもう立場の弱い人間で~す! 誰かの庇護無くしては生きていけない雑魚で~す!」
 「あ゛っ、ぐぅっ……!」
 「生きていくには敬意は必須ッ……! 庇護される為敬うッ……! 然もなくば死あるのみッ……!」

 もぎゅっすりゅっもぎゅっ。痛みではなく、快感によって神経を嬲る本気の手捌きだ。
 叩かれていた時はやけに鈍かった衝撃が、恐ろしい程ダイレクトに伝わって来る。ぞくんっ、と頭の天辺からつま先まで響いて、脚がぴんと伸び腰が浮く。

 「や゛ぇっ……ふっ、うっ……!」

 息が吐けず少年の顔はみるみるうちに赤くなる。涙と鼻水も溢れ、額を脂汗が伝う。
 尚も止まらない。すりっ、すりゅっ、もぎゅっ!
 揉み潰され、その度腹の奥から迫り上がった物が竿先から滾れ落ちる。井戸の水を汲み上げるポンプが如く、滾々と。

 「敬えッ……! 神童だか何だか知らんが、それは過去のものッ……生きる為敬えぇッ……!」
 「あ゛っ、ぐっ、それ゛っ、やめっ……!」

 苦悶の童声に合わせて背筋が反る。腰が浮く。尻を揉まれているだけなのに、痺れる様な官能が飽和してしまう。

 おかじぃっ! こんな事でっ……身体、どうなってっ……っ⁉︎

 限界は早々に訪れ、あっという間に堰を破った。

 「ま゛っ、でっ……ん゛う゛ぅっ!」

 ぷぴゅぅっ! ぷしっ、しゅっ、しゅしゅっ!
 少年は射精した。否、正確には射精というにはお粗末な、微かにとろみがあるだけの澄し汁を噴いた。

 「っ゛、っお゛っ、おお゛おぉっ……⁉︎」
 「分かったかなぁ~? 分かったよなぁ~?」

 間違いないっ────ボク、刺激に、弱く、なってるっ……。

 「っ゛ーー……ん゛ううぅーー……」
 「お姉さんが訊いてるでしょおおぉ⁉︎」

 更にトドメの一揉み。ぶしゅぅっ! 残りが噴き出て激痛が走り、彼は耐え兼ねた。

 「んぐぅ゛ぅっ⁉︎ わがっ……わ゛かったっ……!」
 「分かりぃ~~⁉︎」
 「わかり゛っ、わかり、ま゛ひたぁっ……!」
 「お~しそうかぁ~! 分かったかぁ~!」

 尻が「よしよし、いい子だぞぉ~」とわざとらしく撫で回される。ぞくぞくぞくぞくっ! 背筋を妙な痺れが駆け上がる。

 「わ゛っ……わぁ゛ああっ……!」

 しょおおおぉ……。散々体液を漏出したにも関わらず、少年はしめやかに失禁してしまった。

 「あらら~やっちゃったねぇ~」

 その後ミマタは一度しゃがんで何やら拾い上げると、彼の正面に周り、顔を下せば付く近い距離に配膳する。

 「ハハァ~本来ならダメだけどぉ~今回は初めてだし、お漏らしにも免じて特別大サービスッ。どうぞお食べ~」
 「っ゛……!」

 賄い料理は、器の半分程が彼自身の体液で満たされ、汚されていた。
 青臭さとアンモニアの臭いが食物と混じり合った異臭が鼻腔を刺す。
 忽ち胃液が上がり、喉奥を越える。

 「う゛ぷっ……! おえ゛ええぇっ……!」
 「ああっ、何で吐くのさ~? 自分のじゃあないか~」
 「っ……っ~~!」
 「少年の身体は今水分も、身体の維持に必要な栄養も枯渇してる。過酷な環境下でこの先サヴァイヴしなきゃならないであろう君に配慮したんだけどなぁ~」
 「ふざっ……っ、ぐぅっ……!」

 飢餓は深刻なまでに進行していた。
 胃が空く。何かを口に入れねば、飲み込まなければ。なんでもいい何か食べたい食べなきゃ食わせろ食うクウクウ────っ、クソオオォッ!
 強烈な衝動に自我が呑まれかける。

 「そうそう、お近づきの印に耳寄りな情報を一つ。キクチはそれに文句言いに行ったけど、ヘルゼン氏曰く『量が多くてエネルギー変換しきれないから排出せざるを得ない』体液だから」
 「ふぅっ、うぅ゛っ」
 「だから~、もしかしたら飲めば元気が湧くかも~?」
 「っっ、あ゛あぁっ……ああああ゛っ!」

 少年は食した。否、苦味酸味エグ味、全ての入り混じった流動物を、ただ飲み込んで胃に入れた。
 入れる度尊厳と引き換えに少しずつ、渇きが癒されていく。
 
 「おお゛ぉおほぉ~、いい食べっぷりぃ~」

 ミマタはそれをただ恍惚とした表情で眺め舌舐めずり。
 後方、いつからか押し黙っているシスイに近付き、出来る限り彼女だけに聴こえる様な小さな声で言う。

 「少年、気付いてるかなぁ~? 姿見に映る自分の顔ぉ~」
 「っ、趣味が悪過ぎますっ……」
 「えぇ~? キクチよりよっぽどいいと思うんだけどなぁ~? これぞ教育的指導ってもんでしょぉ~?」
 「我々の任務は、彼の身体に継続的負荷を与える事……破壊ではありませんっ、心身の崩壊を招き兼ねない程の心理的負荷は、推奨出来ませんっ……」

 薄暗い部屋に少年の嗚咽が木霊する中、不吉に灯りが揺れた。

 「……フッ、壊してあげるのも、良心な気がするけどねぇ~?」
 
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