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十一話 主導権

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 時は少し遡る。
 少女と成り果てた少年はそうなる間際、譫言の様に言った。

 “手脚の自由と引き換えに、思考の自由の担保と、キクチの、情報を────”



 「────っ!」

 ハッと目覚めた。感じたのは、少しの血生臭さの中に混じる、癖になる様な甘い香りと、全身を包む寝巻きの肌触り。痛みが引き、熱感の質が変わった重怠い肉体。それを撫でる冷たい風。
 微かに一頻り息み続けた後「っ……はぁっ……」と息を吐く。
 か細い手脚は、動かせなくなっていた。

 「おっ、ようやくお目覚め~?」

 ヌッと床から生えるが如くミマタが現れ「おはよ~」と挨拶する。
 彼は少し間を置いた後、朧げに決した自身の選択を理解し、反省した。緊急だったとはいえ、馬鹿な事を言ったと。
 そして頭髪と同色の白銀の眉を顰め、挨拶代わりに文句を返した。

 「っ……ぜんぜんっ、よくなって、ないぞっ……っっ」

 股間から臍の下、その奥にかけて。着々と育っていた痙縮する痼りが開通してしまっていて、そこを何かに押し広げられ、揺さぶられている。
 尻奥を弄る物とは別の、少し前側に並行して開拓されたルート。ずっと何か裂ける様な痛みに苛まれていた箇所で、今では猛烈な掻痒を訴えキュウキュウと締まる肉の芯。そんな未知の局部に、意識は引き摺り込まれていく。
 チラと目の前で揺れる細長い指に付けられた白い指輪を一瞥し、訂正した。

 「ない、ですよ……どういう、っこと、ですかっ……?」

 痛みは無い。ただ体感のベクトルが変わって前よりも耐え難く、堪らず歯が食いしばられギリっと音が鳴った。
 頭の靄は思考に絡み付き、瞳は気張っていないと直ぐにとろーんと微睡んで、淫靡な熱の中に溺れてしまいそうになる。
 最中「いや、そんな事はないよ~」とミマタは頭をゆるりと振って言う。

 「正確に意識してみて~? 身体から、意識を遠ざける感じ~」
 「ふっ……なにをっ…………」

 何を意識するでも無く意識は靄の中に沈んで、現実から遠ざかってしまう。
 だったら、と、逆のイメージ。必死に靄を振り払い、意識をそこから必死に引き離す。
 ギュッと目を瞑って、暫し身を強張らせた後、徐々に脱力しスゥっと見開いた。

 「……出来た」
 「でしょぉ~?」

 それは、さながら精神のセーフティスペース。今まであった入れ物の外に、何か別の容器が作られた様な感覚だった。
 その場所だけは先程までの狂ってしまいそうな悶々としたムラつきが嘘の様に凪いでいて、とても静かだ。
 しかし、完全では無い。常に元の容器の方へと引き戻される重力が感じられた。

 「でも、これキツいっ……!」

 おまけに、「そうなの~?」とミマタが胸元へと手を伸ばし、もみゅん。思った以上に存在する、思いの外硬めの膨らみを揉めば、「ぅひゃんっ⁉︎」と訳の分からない恥ずかしい声を上げ、華奢な女体は弾み、意識は一瞬の閃光に撃たれ元の淫熱地獄に堕とされる。

 「っはーー…………っっ~~!」

 ミマタは直ぐにパッと胸から手を離し、その柔和な赤い頬を「アッハハ~、『うひゃんっ⁉︎』だってさ~! かっわい~」と指でぷにぷに突いた。

 「っ、わりゃっ、わらぅわ、ないで、くださゃぃっ……!」

 こそばゆくも、湯に浸かった瞬間の心地良さを数十倍にも濃くしたかの如き快感を伴う甘美な痺れだった。
 腰から脳天にかけて、通り抜けた後の身体の芯が爛れて熱を持ち、余韻となって肢体を震わす。刺激を反芻し苦悶する中で、再び先の手順を踏む事で何とか復帰する。

 「はぁっ……ん゛んっ! っ、ん゛っん゛んっ!」

 必死に咳払いをして先の甲高い嬌声を払拭しようとした。
 が、幾ら咳払いしても、幾分真っ直ぐ喉を通り出てくる声は以前と異なる。ここに来てからのしゃがれていた声とも、変声期直前の少し低くなり始めていたものとも違い、幼少の頃に戻ったか、はたまたそれ以上に何処か愛らしく、女々しく甘美に響く。
 自覚した童顔が不機嫌に歪められた。

 「っーー……クソっ! 何がどうしてっ、ここまで変わったってんだっ……ちきしょうっ!」
 「それを話すのもアリだけど、いいの~? キクチの情報は~?」

 そうだった、と癇癪が中断され、濡れた紅の瞳は訝しげに細まり蛇女を映す。

 「……ケチらず話して……くれますか?」

 そうしてモチのロンと語られた話は、ケチられた物でも、偽りでも無く。裏付けの取れた事実であり、元名代にとっては、とても聞き苦しい物だった。

 「────そうか。あの役員の、娘だったか」

 ありふれた、と切り捨てるには些か稀有で酷な転落人生だろう。
 華やかな立場にあった令嬢が親の失敗によって一族郎党恨みを買い、奴隷に堕とされ、ただの道具として扱われる、なんて話は。

 「アイツは、知っているのかっ……っ、ますかっ……?」
 「い~や? でも、知らなくとも、逆恨みするには十分じゃな~い? あっ、真っ当な相手にしてるんだから逆恨みって言うのは変かぁ~!」

 その不幸の大元は、白神黎人。今は亡き名を過去に持っていた自身にある。
 動機は十分。故に黎人に思う所のある人物に拾い上げられ、利用された。

 「ははっ、因果応報って本当にあるんだねぇ~」
 「……そうだな」

 曇る横顔に、ミマタは瞳を輝かせる。
 
 「アハハっ! 君って罪悪感とかあるんだ~! いや、それともただの後悔~?」
 「…………分からない」
 「……ふ~ん」

 彼女は頬杖をつきながらその様をじぃっと観察した後、その心根を汲んだかの如く尋ねた。

 「なら、どうする~? どうしたい~?」
 「っ……尊厳をまた、差し出せと?」
 「うんうん~、アタシの有用性はぁ、十二分に理解したでしょ~?」

 懐に滑り込む様な、毒々しい蛇の笑み。
 直面した薄紅色の幼げな唇は引き上がり、苦々しくも微笑んだ。

 「……、ですよ? このザマで、まだ其方のお眼鏡に叶う物があるかどうか」
 「ははぁ~、ほ~んとそうだね~おかしな事だけどね~……その口振りの時点で、ない訳が無いでしょ~」



 悪魔だろうが何だろうが、一度売り渡した以上、躊躇いは無かった。

 ────三日間、痛みの全てを快感に変換する。代わりにその間、キクチを煽り追い込んで欲しい。

 場面は再び懲罰房へ戻る。
 
 「確かに~、己を顧み無い覚悟さえ決まってしまえば、実~に簡単、ではあるんだろ~ねぇ」
 「っーー……っはーー……」

 実行後、キクチへの揺さぶりは成功し、確実に彼女の立場は弱くなった。

 「まあ、天秤の吊り合わせも巧だったよ~? 手脚の不自由も、痛覚変換も……こっちとしては納得しか出来ないものだしさ~」

 ミマタは手元から治療魔法の緑光を放ちながら「あ、ちょっと四つん這いになって~」と指示。すると、ぐったりとしていた肢体は指示をこなすべく動き、その通りの姿勢を作る。

 自由の奪われた手脚は首元の魔術刻印の入った白銀のチョーカーによって制御されており、指輪を持つ者の命令によってのみ、その命令の範囲内でだけ動かす事が出来る。身体がどれだけ辛く動かし難くても、魔力によって命令の実行が強制される動作サポート付き。命令する者の指導に忠実に動く。動かされる。

 「アタシとキクチ、双方の性格と立場を鑑みた上で、必要最低限の条件を確保して~」

 徹底した自由の排除。しかしそれは裏を返せば、指導役の責任がより明確になるという事。
 そうなってしまえば、責任感の強いキクチは他者の視線に耐えられない。元よりあるミマタとの対立も兼ねて彼女は苛つき、自滅する。

 「更には無様さも逆手に取ろうとするなんてなぁ~」

 最後のひと押しとして下腹部刻印に付け足された痛覚変換も、リスクこそあれどキクチや他の女衆を焦らせる決定的一打になった。ただの演技では、あそこまで危機感を煽れなかっただろう。
 尤も、何もしなくともいずれこうなっていた可能性は高い。ただ早めただけであり、ミマタの掌の上という感は否めない。

 「凄いよ~、すごい。中々出来る事じゃないかも~」

 おざなりな称賛。明らかに何か言いたげな態度を取るミマタ。
 彼は突っ伏したまま訝しみ、言葉を絞り出す。

 「っ……何か……文句でも……?」
 「い~や? ないよ~? 納得しか出来ないって言ったじゃ~ん、取引自体はさ~」

 緑光が徐々に弱まり、そしてフッと消えた。

 「でも~、すこ~し、分かってない」

 刹那、パァンッ! ミマタの掌は目の前の丁度良い位置に置かれた瑞々しい白桃を打った。
 伏せられていた真っ赤な童顔は「っ、ふぁ゛っ……⁉︎」と舞い上がり、涙で滲んだ瞳が白黒する。

 「アタシに任された仕事は~、君の調教、なんだよぉ~?」

 二度、三度。同様に気持ちの良い音が木霊し、甲高い嬌声が相槌の如く続く。

 「っっ……んあ゛ぁっ……!」
 「お遊び的な取引もその手段のひと~つ」
 「ぅ゛っ、ま゛ってっ……はぁ゛っ!」
 「幼気な元坊ちゃんには、ちょ~っと理解し難かったのかもしれないけど~……別にただ憐れな少年を虐めて、愉悦しに来たわけじゃぁな~いの」

 叩かれた後は擦られ、強く揉み潰される。
 痛みが変換される事を前提にした、乱暴で力強い指圧。華奢な背筋が跳ねる。反れる。
 まって、まってとしきりに口にすれど、加減される事は無く。瞬く間に限界が来て、「やっま゛っ、でりゅっ、てっ、っっ゛~~~~!」と哀叫が上がり、スリットからプシュッ、シュッ! と勢いよく淫汁が吹きこぼれた。

 「それに……君のカラダはもう女の子。勝手がちが~う」
 「っ~~……ぅううぅ……っ!」
 「せっかくだ~、これからそれをキッチリと教え込んで~、あっ、げっ、るぅ~」



 事実、彼の見通しはまだ甘かった。
 大幅に譲歩し、これでもかと切り詰めた筈だった。
 しかし、あくまで調教。全ては、彼をある目的の為最適化するプロセスに過ぎない。
 端から心身の自由など、奪う前提で進む話。
 どんなに手を尽くしても、能動的に働きかけられる問題では無かったのだ。



 「ふっ……ふっ……なっ、なに、をっ……っ!」
 
 新たな拘束具によって両手両足を広げた形で、仰向けに寝かせられた彼の肢体。そこへ「ハハァっ、垂らすよぉ~?」と上からミマタ。椅子に座りながら火の灯された白い蝋燭を構えると、その溶けた蝋を太腿に一滴垂らした。
 はたり。傷一つ無い透き通る様な白桃色の絹肌が濁った白蝋で汚された瞬間、刺激を受けた意識はその熱で一気に沸騰する。

 「あぐっ⁉︎ っっ~~っ⁉︎」
 「どう? 普通最初の内は熱くて痛~いってなると思うんだけど~」
 「ぅ゛っ、いひゃ゛っ、いひゃい゛いぃっ……んぐぅううぅっ⁉︎」

 「うんうんそうだよね~」という生返事と共に更に数滴垂らされた。
 はた、はたた。灼熱が内腿に付く度、鋭い快感に堪らず絶叫し仰け反り、腰を突き出す。

 「敬語の浸透率もまだまだだし~、嘘吐きだし~……な~んかまだ、勘違いしてるよね~」
 「ふっ、ふっ、んぅううう゛ぅっ……⁉︎」
 
 蝋の落ちた場所には余熱が残り、育まれた官能は長々と燻される。
 彼の精神はその一切を処理出来ず、くねる肢体と共に悶えるばかり。

 「『肉体や体面がどんなに穢されようと、内面は絶対に変わらない。我は我だ~』とか、未だにそ~んな事思ってな~い~?」

 蝋燭が下腹部、淫紋のすぐ横に構えられた。
 「や゛らっ! っちがぅっ、おもってな゛ぃっ!」と白銀の頭髪が横に振られる。
 が、その返答は意に介さず、改めて肉体に問うが如く、はたり。

 「ひゅぐぅ゛っ⁉︎」

 更に装具に隠されていない鼠蹊部右端に、「思ってないよね~?」とはたっ。「ぅあ゛っ!」とひっくり返った嬌声が弾む中、間髪入れず「思ってるの~?」と左端にもはたり。

 「はぁ゛っ! あぁあっ、っ゛~~~~!」
 「思ってるんだ~?」

 急に顔に近づき、胸元、装具の上、鎖骨付近に構えた。
 恐慌に染まった表情が炎の灯りで照らされる中、いや、いやと左右に振られる。
 「そっか~残念だなぁ~!」と無慈悲に蝋燭は縦に振られ、はたり、はたり、はたり。垂らされた。

 「変わらないモノなんて無いって、君なら分かってると思ったんだけどなぁ~!」
 「あ゛っ、っ、ふぁ゛あああぁっ────」

 肌の上を燻すそれらが、嫋やかな身体の境界線をハッキリとさせていく。 
 そうして明滅を繰り返す意識も、全身も、白濁に染め上げられた後。
 スパァン!

 「あ゛っ……んっっ゛~~~~!」

 鞭の音で、砕かれる。

 「はぁ゛っ、っあ゛っ、っぁああ゛っ……!」

 取り止めもなく喘ぐ彼の滲んだ視界に映ったのは、腰と両手首を天井に吊り上げられている、白濁に穢された白銀髪紅眼の少女の姿。
 虚に上擦った瞳からは涙を、赤らんだ額や首筋、白濁の隙間からは汗を流し、唇から放り出された舌からは涎を、筋の通った鼻からは鼻水を、股倉からは愛液を垂らす。痛ましく悩ましげで、息を呑むほど美しく瑞々しい、上品でいて下劣な、万人の劣情を誘いそうな芸術品。
 未熟な精神には過ぎたる過激な光景は、憔悴した心理を惹き込む。目が、離せなくなる。
 
 「ねぇ~この間も言ったけどさ~……鏡は、何の為にあると思う~?」

 ヒュパァン! 空を裂く衝撃が尻を叩く。
 合わせて彼の心身に閃光が走り、鏡の中の少女も「んはぁ゛っ」と背筋を逸らす。

 「答えられたら、今日の所は楽にしたげるぞ~?」

 餌がぶら下げられた。彼は淫蕩の靄の中、相手が求める答えを追おうと必死にもがく。
 が、ペシンッ! と尻たぶを叩かれ、邪魔される。

 「ん゛んっ、あ゛ぁっ……!」
 「考えなくても分かるでしょ~?」

 仕方なく、震える声で一般的な回答を返した。
 
 「っ……じぶんの、すがたっ……かくにん、するため゛ぇっ……」
 「う~ん、間違ってない、ふつ~の答えだぁ~」

 「ま~今はそれで十分か~」とミマタは嘆息し、こう続けた。

 「なら、分かるよね~? 今、映ってる自分の姿が、何なのかさぁ~」

 どくんっ。心音が跳ねる。瞳は揺れ泳ぐ。鏡の中も同じ。
 ────ダメだ、受け入れたら、ボクは終わる。
 根源的な恐怖が、視線を逸らさせた。
 項垂れて返事の無いその様に、蛇女の口角がまたニィっと上がる。
 彼の顎を掴み、クイと上げて鏡に向けさせ言う。

 「これから毎朝、ハルノミヤとカゾノの二人と一緒にお粧しする事になるから~……その度しっかり、確認するんだよ~」

 「返事は~?」とペシペシ軽く尻を叩かれ、彼は身体を強張らせながら「はいっ、わかり、ました……」とぎこちなく返した。
 彼女はヨシヨシと白銀の頭髪を撫でる。が、その後直ぐにわざとらしくハッとして見せた。

 「っと~、楽にするって言ったもんなぁ~ごめんよぉ」

 繋がれた鎖が漸く解かれるのかと余裕の無い純な心が俄かに期待した、その時だった。
 ゔぃんっと装具の起動する音が、静かな懲罰房に木霊した。

 「はっ……んぇっ……?」
 「辛かったろ~? イッていいよ~」

 胸と尻、そして股間。それまで軽く蠢く程度だった各所を埋める物が一斉に激しく動き出す。

 「あっ……ぁっ……?」
 「あっ、イクって言葉分かる~? 分かるよね~? まあ分からなかったら、それもじっくり教えるだけなんだけど────」

 ミマタの声が遠ざかり、彼の耳に入らなくなる。
 胸と尻。密閉されたそこは、単純に快感を拾う範囲が大きく深くなっただけで概ね前とは変わらない。電気的刺激と、物理的に舐る様な刺激。蠕動し、官能を生む中枢を外側から抉られるだけだ。
 しかし、もう一つ、否、は違う。
 今なお微かに縮小を続けている肉茎、改め陰核が陰茎の頃と同じ扱いを受けているものの、何か流動物が通る感覚は無く、拾う官能は鋭く比べ物にならないのもそう。
 だが、その下と言うべきか。尻穴とは別の、体内へ繋がるトンネルの開けられてしまった箇所は、明らかに追加された肉体の性感帯でありながら、その性感の根源に限りなく近く強く紐付いていた。
 そこが、尻穴と似たパルスと抽送運動によって揺さぶり灼かれていく。ちゅトトトトトトト……小刻みに最奥をノックしながら、ちゅぶちゅぶ、ちゅくちゅく。掻き混ぜられる。

 「ぁっ、ぁ~~……────」

 鏡の中の少女の身体が徐々にくの字に折れ曲がると、彼の肺の空気が抜けるのに合わせて息が多分に漏れた、甘いニュアンスを含んだ女の嬌声が上がった。
 間も無く、縮んだバネが弾け、ビクビクンッ! いつもの痙縮が起こる。
 何かが出る気がしたが、思った通りには出ない。そのせいで排出されなかった熱は対流し、腹奥に貯まる。
 溜まった熱は今までとは違い、直に掻き回され、膨れ上がっていく。

 「っ゛っ、あぁっ゛、っ~~~~────」

 止まらない。ぷしっ、ぷしぃっ、と小水の如き何かが噴き出ても、射精とは違う。静まるどころか飽和して、尚も昂まる。「あああぁっ、っあ゛っ、はぁっ、ぁ~~──!」と、女ったらしい嬌声もより切迫度合いを増し、彼の思考は蕩け、境目を失う。
 逃れられない。腰を何処に逃しても、何度噴き出しても、芯に直接叩き込まれる官能が何処までも熟れる。

 じゅくじゅく、ずぶずぶ。爛れる。狂う。
 波が繰り返される。終わりが見えない様でいて、何か途轍もないモノが迫り来る。
 これでは、コワされる────
 誰でも良い、助けて欲しい。その方法を知らない理性に代わって本能が叫ぶ。

 「ぁっ、な゛っ、これ゛っ、むり゛っ、だれっだすけっ……あっぁっあ゛ぁっ、しぬ゛っ、しんじゃっ……────っ!」

 よるべも無く破滅を迎えるかに思われたその時。大きくて柔らかな抱擁が彼を包んだ。
 ただそれで救われるかと言えばそんな事は無く、「んきゅ゛っ、っ、ふぅ゛ううぅっ……!」と臨界点を迎え、そして。

 「ふぐっ、っっ゛! っっ~~~~────」

 彼の意識はこれまでに無い強烈な衝撃を受け、連続で飛んだ。

 「────っあ゛っ、っ、はあ゛あぁっ……!」

 情けない女声が消え入り、彼の視界はチカチカと明滅しながら、徐々に白んでいく。

 「あら~? ハルノミヤ──なんで────」
 「一人にする訳────規則で────」

 間際に見たのは、母の幻影。尤も、乳飲み子の段階を最後に彼にこうして抱かれた経験は無いし、既に当人は目の前で他界している。
 甘えた幻想だ。などといつもの様に気取る事はままならず、彼はひしと抱き返して瞼を閉じた。
  
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