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11. 変わっちゃったのは…… 〜少年サイド〜

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 緊迫の余韻で鼓動が暴れて五月蝿い。僕は呼吸を整えようと、静かに深く息を吸って吐く。時を同じくして、床に座る彼女はお茶を手に取って少しずつ飲み、一つ間を置いて飄々と言う。

 「まあでも、お母さんにも勧められたし……続きでもする?」
 「っ⁉︎ かんべんしてよっ⁉︎」
 「はは、ウソウソ。興が削がれてやる気起きないよ」

 本当かどうか疑いの眼差しを向けて警戒する。けれど、彼女はお茶をゆっくりと口に含んで寛ぐばかりで、動いて来る様子は無い。

 「……もうっ」

 卑猥な意地悪をされた後で打ち解けるのとは程遠いけれど、怒りは無い。お母さんが割り込んだせいで変に毒気を抜かれてしまった。
 最初の頃の様な妙な距離感も取れていて。少し喧嘩腰ながらも、僕達は自然と会話を始める。

 「……ほんと、意地悪だよね。昔はそんなじゃなかったのに」
 「そう? 覚えてないや」
 「……なにか、悩みとかあるの?」
 「ははっ、あんたにそれ訊かれたらおしまいだわ」
 「茶化さないでよっ」
 「……まあ、強いて言うなら、タイクツ、とか?」

 今まで真っ直ぐ見られなかった表情が今は分かる。へらへらしているけど顔は笑ってない。はぐらかした感じだけど、嘘では無さそう。

 「学校でもいつも一人で退屈そうにしてるもんね……」
 「まあね。でもまあ、学校ってそういうところでしょ?」
 「人によると思うけど……」
 「そうだね。あんたは一人で鬱屈してるし」
 「っ、僕はともかく、そっちは別にみんなに馬鹿にされるような要素無いじゃん! 背も高いし! 顔だって……わるくないし……」

 口籠る僕。それを向こうは「ちっちっち、そうじゃないのだよ少年」と小馬鹿にする。

 「見た目じゃないのよ人間は。中身中身」
 「いや中身だって、その、昔はカッコよくて、優しかったじゃん!」

 ずっと言えなかった本音を、勢いで言えてしまった。思わずハッとして口を抑えると、相手は違う風に勘繰った様で、「っ、なにそれ、今はそうじゃないって?」と冷笑を返す。

 こっ、こわい……けど、仕方ないじゃん。ほんとの事だし……。
 
 気圧されながらも恐る恐る「うん……」と、素直に頷いた。怒るかな、どうかな。身構えていると、
 
 「……あっそ。まあでも、確かに。昔はカッコつけてたかもねー…………」

 思いの外、彼女は懐かしそうに目を細めた。しかし、それも束の間。すぐさま取り繕う様に「ふっ、だからさ、今が素だよ。ガサツで意地悪なのが私の本性」と視線を逸らした。

 案外分かり易い。これはまた、はぐらかしてる。

 「適当言わないでよ。今だって十分カッコつけだし、ガサツなのは昔からだし……変わったのは意地悪なとこだけだよ」
 「っ、言うねぇ……」
 「…………あっ」

 そうか。

 自分で言ってて気付いた。変わっちゃったなと思ってたけど、よく考えたら。

 「いや、でも意地悪だけど、みんなに言いふらしたりはしてないし、配信が危ない、なんて態々忠告する為に駆けつけてくれたし……もしかして」
 「いや、勘違いすんなよ? 私はただ、えーと……」

 眉間にシワを寄せて考え込んだ末、彼女は「あーもう! さっき言ったろ! 後味悪いのが嫌なだけって!」と爆発。お茶をぐいっと飲み干した。

 変わっちゃったのは、僕の身体だけなのかも。

 何か分かった気がして、少し前のめりに体勢を変えようとしたその時だった。

 くにっ。

 「んぃっ……?」

 股の部分に体重が掛かって、違和感と共にさっきの電流が走る。そして、ひくんっ。

 「っぅ……はぇっ⁉︎」

 体感的に睾丸の裏の辺りが今までにない力感で締まる様な、そんな感じがした。いや、正確には睾丸自体が身体の中に入ってしまってるから____あれ? 何なの?

 なんか、変だ。思えばさっき、触られた時からズボンと触れ合う股の輪郭が変になってる気がする。

 「っ…………」
 「……? どうした?」

 此方の様子がおかしい事に気付いて首を傾げる彼女を尻目に、僕は恐る恐る異変の箇所を手で触って確かめた。

 っ、服の上から軽く触るだけだとはっきりと分からない。パンツの中に手を入れないと……。

 考えた通りに実行して、指先で直に股座の柔肌を探った。「えっ、急にマジでなにしてんの⁉︎」と本気の困惑の声が投げ掛けられる中、間も無く違和感の正体に触れる。

 「っ⁉︎ っ、ぇっ、あっ、あああっ……!」
 「っ、今すぐワケ話さないとぶん殴るぞ⁉︎」
 「うっ、ごめんっまってっ! っ、うそっ……⁉︎」

 撫でたその輪郭は、深々と刻み込まれた一本のスジだった。

 「いっ、今まで、こんなのなかったのにっ……!」
 「ああ? こんなのって何⁉︎」

 何度か指を沿わせる。こそばゆい。股をより開いたりしてみる。少しスジが開く。それをまたなぞる。こそばゆい。そこだけ皮膚が無いみたいだ。少し湿っていて傷口に似てるけど、そうじゃない。

 「っ……わかんないっ…………」
 「分かんないじゃ分かんないよ! てか、えっ、いや、なんで急に涙目になってんの? ほんと何なの⁉︎」

 こわい。わけがわからない。胸の内に恐怖と混乱が渦巻いて、溢れ出してしまう。

 「ぼくにもわかんないっ……わかんないよっ…………!」
 「っ……あーもうっ」

 ベッドを揺らして、彼女が近付いてくる。その姿が涙で滲んだ。
 

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