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卒業まで後一ヶ月
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2、3週間も経てば噂なんてものはすぐに広がるもんで、あっという間に俺が辞める話は広まっていた。
健太には寿退社か?なんて意味のわからない冗談を言われたり、陽介と湊は俺らと一緒に卒業なら寂しくないな!なんて励ましてくれて、隼人には改めて将吾の事をよろしく頼むとお願いしたら、言われなくてもそうすると言われたけど、正直寂しくないと言ったら嘘になる。
そして卒業式まであと1ヶ月、俺が辞めるまで後1週間と期限が迫ってきた頃、いつもよりも賑やかになった保健室に将吾の姿はなかった。
まぁそれならその方が都合がいい…
そもそも卒業を見届ける前に、誰にも言わずに姿を消そうと決めていたから。
将吾の卒業を待ってからでは決意が鈍って、中途半端な情が残ってしまいそうだったから、もういっそこのまま離れてしまえばいいんだと…そう思っていた。
・・・・・
そして当日の放課後…
大きい荷物は送ったし適当に残った荷物を紙袋に入れて、3年間お世話になった保健室を出る準備をしていた時、誰かが保健室の扉を力任せに開けたのか、大きな音が鳴り響いて思わず振り返ると、息を切らした将吾が俺を睨みつけそこに立っていた。
「将吾…っ、なんで!?」
「はぁっ、はぁっ…卒業までいるんじなかったのかよっ!」
「いや…っ」
「何でだよっ、何でっ!」
「荷物…まとめてただけだから…」
「嘘つき…っ」
さっきまで怒ってた将吾の顔がみるみる歪んで、俺の方に歩みよってきて服を掴み、しがみつきながら泣き出した。
こうなるのが嫌だったから、黙って出ていこうと思ってたのに…
「離れていくなよ…っ、お願いだから…っ」
「お前はお前で幸せになれよ」
「何でそんな事言うんだよ…っ」
「それがお前の為だと思ってるから」
「加野っちがいなきゃ幸せになんかなれない…っ」
「嬉しい事言ってくれるな」
「置いてかないでぇ…っ」
あぁ、だめだ…
だけどここで我慢すれば、もう一生会う事も無いし将吾に深い傷を残すことも無いし、俺がこれから悩み苦しむこともない。
俺の背中に回る手を解いてじゃあなって一言…
一言、言ってこの場を去ればいいだけの事。
それだけの事なのに―――
俺にしがみつく将吾の腕を解こうと、下ろしていた両手を上げて将吾の腕を掴もうとする…
なのにその手は俺の意思とは別に将吾の背中に回り頭を抱え込み、いつの間にか将吾を抱きしめていた。
これは俺の最後のわがままだ…
ごめん将吾…ごめんな…っ。
抱きしめていた腕を離すと、涙でぐちゃぐちゃの将吾。
このまま2人で幸せになれたらいいのにな…
だけどそんな思いを打ち消すようにこれで最後と心に決め、眼鏡を外してデスクに置くとそっと唇を重ねた。
「ん…っ」
「ほんと可愛いな…」
「思ってもない事言うなよ…っ」
俺の上着をぎゅっと掴み、見つめる将吾の瞳から大粒の涙がポロリと流れる。
もう行かないと…
俺の気持ちが揺らいでしまう前に―――
デスクに置いたメガネにそっと手を伸ばすと、それを阻止するかのように将吾が俺の手を掴んだ。
「どうせ…っ、もう帰ってこないつもりなんだろ…っ!?」
「…っ」
「だったら…最後くらい俺の好きにさせろ…っ」
デスク横の壁に追いやられ逃げ場を無くした俺は、そのまま抵抗もできず再び唇を塞がれた。
泣くのを必死に堪え容赦なく舌をねじ込んでくる将吾の姿に、さっきまでの決意が簡単に揺らぎそうになり慌てて唇を離す。
「んっ、ちょ…待って…っ!」
「そんなに俺の事嫌いかよっ!」
「ちが…っ」
好きだよ…
大好きだけど…っ
もうどうしたらいいか分からないんだ。
後ろめたさや苦しみから逃れるために離れる事を決めた今も、同じくらいに苦しくてしんどい。
湧き上がる感情を必死に押し殺し、言いかけた言葉を飲み込むと、何故か一筋の涙がこぼれていた。
「かの…っち?」
「あ…あれ、なんだろ…っ、おかしいな…っ」
自分の意識とは別に、溢れ出す涙が止まらない…
そんな俺を今度は将吾が包むようにぎゅっと抱きしめてくれた。
いつの間にこんなおっきくなったんだろう。
ずっと子供だと思ってたのに…
「ばかっ…何で加野っちが泣くんだよ…っ」
「んっ、あぁ…何でだろうな…っ」
俺は鼻をすすりながら慌てて袖で涙を拭った。
こんなはずじゃなかったのにな。
こんなに好きになるはずじゃなかった…
保健室に西日が差し込みオレンジ色に染まり、将吾の頬に流れた涙がキラリと光る。
俺の目をじっと見つめながら俺の服をぎゅっと掴む将吾の手に触れて、そっと服から手を離し涙を拭った。
「もう遅いから…帰ろ?」
「ねぇ…っ、一緒にいてよ…っ」
「…っ、ごめん…一緒にはいられない」
大きく見開いた将吾の目は見る見るうちに涙でいっぱいになり、拭った涙の跡をまた涙が伝っていき、俺までつられて涙が込み上げてくる。
「…っ、そうかよっ…わかった…っ!もう…いい…っ」
「しょ…っ」
そう吐き捨てて保健室を出て行く将吾に、俺は思わず手を伸ばした。
だけど今更引き止める事なんて出来なくて、伸ばした手を力なく下ろすと、目の前が歪みその場に座り込んだ。
溢れてくる涙が止まらなくて、結局あの時と同じくらい苦しくて、自分のした事が本当にこれで良かったのか分からなくなった。
暫く座り込んだたまま動けないでいると、クラクラとする意識の中で俺を呼ぶ声に顔を上げた。
ぼやけた視界にうっすらと映ったのは、心配そうに俺の顔を覗き込む涼ちゃんの姿だった。
「りつ!?りつ大丈夫!?」
「…っ、りょ…う…」
「何があったの!?」
「…将吾と…っ、さよならした…っ」
「りつ…」
健太には寿退社か?なんて意味のわからない冗談を言われたり、陽介と湊は俺らと一緒に卒業なら寂しくないな!なんて励ましてくれて、隼人には改めて将吾の事をよろしく頼むとお願いしたら、言われなくてもそうすると言われたけど、正直寂しくないと言ったら嘘になる。
そして卒業式まであと1ヶ月、俺が辞めるまで後1週間と期限が迫ってきた頃、いつもよりも賑やかになった保健室に将吾の姿はなかった。
まぁそれならその方が都合がいい…
そもそも卒業を見届ける前に、誰にも言わずに姿を消そうと決めていたから。
将吾の卒業を待ってからでは決意が鈍って、中途半端な情が残ってしまいそうだったから、もういっそこのまま離れてしまえばいいんだと…そう思っていた。
・・・・・
そして当日の放課後…
大きい荷物は送ったし適当に残った荷物を紙袋に入れて、3年間お世話になった保健室を出る準備をしていた時、誰かが保健室の扉を力任せに開けたのか、大きな音が鳴り響いて思わず振り返ると、息を切らした将吾が俺を睨みつけそこに立っていた。
「将吾…っ、なんで!?」
「はぁっ、はぁっ…卒業までいるんじなかったのかよっ!」
「いや…っ」
「何でだよっ、何でっ!」
「荷物…まとめてただけだから…」
「嘘つき…っ」
さっきまで怒ってた将吾の顔がみるみる歪んで、俺の方に歩みよってきて服を掴み、しがみつきながら泣き出した。
こうなるのが嫌だったから、黙って出ていこうと思ってたのに…
「離れていくなよ…っ、お願いだから…っ」
「お前はお前で幸せになれよ」
「何でそんな事言うんだよ…っ」
「それがお前の為だと思ってるから」
「加野っちがいなきゃ幸せになんかなれない…っ」
「嬉しい事言ってくれるな」
「置いてかないでぇ…っ」
あぁ、だめだ…
だけどここで我慢すれば、もう一生会う事も無いし将吾に深い傷を残すことも無いし、俺がこれから悩み苦しむこともない。
俺の背中に回る手を解いてじゃあなって一言…
一言、言ってこの場を去ればいいだけの事。
それだけの事なのに―――
俺にしがみつく将吾の腕を解こうと、下ろしていた両手を上げて将吾の腕を掴もうとする…
なのにその手は俺の意思とは別に将吾の背中に回り頭を抱え込み、いつの間にか将吾を抱きしめていた。
これは俺の最後のわがままだ…
ごめん将吾…ごめんな…っ。
抱きしめていた腕を離すと、涙でぐちゃぐちゃの将吾。
このまま2人で幸せになれたらいいのにな…
だけどそんな思いを打ち消すようにこれで最後と心に決め、眼鏡を外してデスクに置くとそっと唇を重ねた。
「ん…っ」
「ほんと可愛いな…」
「思ってもない事言うなよ…っ」
俺の上着をぎゅっと掴み、見つめる将吾の瞳から大粒の涙がポロリと流れる。
もう行かないと…
俺の気持ちが揺らいでしまう前に―――
デスクに置いたメガネにそっと手を伸ばすと、それを阻止するかのように将吾が俺の手を掴んだ。
「どうせ…っ、もう帰ってこないつもりなんだろ…っ!?」
「…っ」
「だったら…最後くらい俺の好きにさせろ…っ」
デスク横の壁に追いやられ逃げ場を無くした俺は、そのまま抵抗もできず再び唇を塞がれた。
泣くのを必死に堪え容赦なく舌をねじ込んでくる将吾の姿に、さっきまでの決意が簡単に揺らぎそうになり慌てて唇を離す。
「んっ、ちょ…待って…っ!」
「そんなに俺の事嫌いかよっ!」
「ちが…っ」
好きだよ…
大好きだけど…っ
もうどうしたらいいか分からないんだ。
後ろめたさや苦しみから逃れるために離れる事を決めた今も、同じくらいに苦しくてしんどい。
湧き上がる感情を必死に押し殺し、言いかけた言葉を飲み込むと、何故か一筋の涙がこぼれていた。
「かの…っち?」
「あ…あれ、なんだろ…っ、おかしいな…っ」
自分の意識とは別に、溢れ出す涙が止まらない…
そんな俺を今度は将吾が包むようにぎゅっと抱きしめてくれた。
いつの間にこんなおっきくなったんだろう。
ずっと子供だと思ってたのに…
「ばかっ…何で加野っちが泣くんだよ…っ」
「んっ、あぁ…何でだろうな…っ」
俺は鼻をすすりながら慌てて袖で涙を拭った。
こんなはずじゃなかったのにな。
こんなに好きになるはずじゃなかった…
保健室に西日が差し込みオレンジ色に染まり、将吾の頬に流れた涙がキラリと光る。
俺の目をじっと見つめながら俺の服をぎゅっと掴む将吾の手に触れて、そっと服から手を離し涙を拭った。
「もう遅いから…帰ろ?」
「ねぇ…っ、一緒にいてよ…っ」
「…っ、ごめん…一緒にはいられない」
大きく見開いた将吾の目は見る見るうちに涙でいっぱいになり、拭った涙の跡をまた涙が伝っていき、俺までつられて涙が込み上げてくる。
「…っ、そうかよっ…わかった…っ!もう…いい…っ」
「しょ…っ」
そう吐き捨てて保健室を出て行く将吾に、俺は思わず手を伸ばした。
だけど今更引き止める事なんて出来なくて、伸ばした手を力なく下ろすと、目の前が歪みその場に座り込んだ。
溢れてくる涙が止まらなくて、結局あの時と同じくらい苦しくて、自分のした事が本当にこれで良かったのか分からなくなった。
暫く座り込んだたまま動けないでいると、クラクラとする意識の中で俺を呼ぶ声に顔を上げた。
ぼやけた視界にうっすらと映ったのは、心配そうに俺の顔を覗き込む涼ちゃんの姿だった。
「りつ!?りつ大丈夫!?」
「…っ、りょ…う…」
「何があったの!?」
「…将吾と…っ、さよならした…っ」
「りつ…」
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