記憶の欠片

桜ゆき

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5話 記憶の扉

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今日もいつものファミレスで待ち合わせして、いつものように昔話をする。
最初は興味無いと言っていた結斗も段々興味が出てきたのか、会う度に俺の見た夢の話を目をまんまるくしながら真剣に聞いてはいたが、未だに確信に触れることは無かった。

だけど俺が幼少期の頃の話をし始めると、急に思い出したように結斗が親から聞いた話を話し始めた。

「あ…俺もね、母さんに聞いた事があるんだけど」
『うん』
「俺が5歳くらいの頃、「俺は愛斗が産まれて
   くるの待ってたんだ、約束したから」って     
    話したんだって…でも俺は覚えてなくてさ…」

俺は胸がぎゅっと締め付けられて、感情が溢れそうになった…
それには思い当たる節があったからだ。
結斗…あの日約束…覚えててくれたんだね…

「これも前世と関係ある事なのかな?」
『うん、多分そうだと思うよ…』

でもこの約束の事はまだ話せない…
今の結斗にとっては、辛い出来事になるかもしれないから。
突き詰めたい気持ちを抑え、当たり障りのない話をしていくうちに結斗の記憶も少しずつ蘇っていく…

「俺、愛斗に迷惑ばっかかけてた…なんも出来なくて…でもそれってどっちの記憶だろ…後…愛斗に会う前からなんだけど…地下の牢屋みたいなところに閉じ込められる夢見るの…あれってやっぱり…」
『結斗…それ…』
「あれが前世なの?じゃあやっぱりあの子は愛斗なの?俺寂しくて…いつも怒られて…それで…あ…違う…もっと怖いことも…あった…かも…あれっ…なんかっ…怖いっ…!」

昔の記憶が急に呼び起こされてパニックになる結斗に、俺は慌てて駆け寄り隣に座った。

『落ち着いて…結斗っ、大丈夫だから…もう思い出さなくてもいいから…』

震えながら泣き出す結斗の背中をさすり宥める。
もしかしたら、結斗は自分から前世の記憶を封印してるのかもしれない…

俺の前世の記憶を辿れば、俺と結斗に両親はなく、孤児院で育ち屋敷の主に拾われ雑用をさせられていた。
要領がよく何でもこなせた俺とは反対に、不器用で何をやらせても上手く出来ず怒られる事が多く、雑用もまともにこなせないような結斗が屋敷にずっと居座る事が出来たのは、単に俺が頼み込んだからだけではなく、旦那様のお気に入りだったからなのだった。

色が白く女の子みたいに可愛いかった結斗は、旦那様のお相手をする事でこの屋敷にいる事を許されていたのだ。
ただ奥様にとっては厄介者でしか無かったから、度々奥様の反感を買い地下牢に閉じ込められる事がよくあった。
俺は夜中に忍び込み鍵を開けて結斗と一晩過ごし、朝方また人目を盗んで部屋に戻るなんて事をしていたのだ。
結斗にとっては、思い出していい事なんかないのかもしれないな。
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