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4巻
4-2
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「あんな所になんの用事が」
「うふふ、ヒミツよ。あそこに挑むことができるだけのメンバーも集めなくちゃいけないし……あ、〝いないいないばあ〟、あなたは参加確定よ?」
突然、母が明後日の方向を向いて誰かに話しかけた。
〝いないいないばあ〟のスレーバ?
『粘菌封鎖街道』攻略で斥候を務めた彼は、ローミルで別れたきりのはずだが。
「……あら、だんまりかしら。いいわ、あぶり出しましょうね」
母は指先に小さな炎を揺らめかせて、凄惨な笑みを浮かべる。
すると、近くで掃除をしていた小太りの女性の全身がいきなりペラリとめくれて、小人族の老人が姿を現した。
「……はぁ、姐さんにはかないやせんね」
「大した変装ね、〝いないいないばあ〟?」
変装というより魔法の類にしか見えない。
「南方に、こういうのが得意な連中がいるんですわ。ちーっとコツを教えてもらいましてな」
〈魔法感知〉に引っかからない高度変装なんて、コツってレベルじゃないぞ!
「はぁ……ワシはこのまま、密かに旦那を見守っていようと思ってやしたが」
「相変わらず金にならないところで、妙なこだわりがあるのね」
「性分でさぁ。ま、『深淵』にも興味はありやすけどね」
くるりと体を向けて、スレーバが腰を折る。
「ということで、旦那。今度こそ、しばしのお別れでさ」
ローミルで別れたと思ったら、ここまでついてきてくれていたのか。
考えてみれば、妙にサービスの良い乗り合い馬車ばかり乗り継いだものだと思ったが……それもきっと彼の仕業だったのだろう。
「……ええ、スレーバさんもお元気で。母をよろしく頼みます」
「〝魔導師〟抜きで『深淵』なんぞ、ご免こうむりたいんですがね」
「俺なんかより頼りになる、〝業火の魔女〟がいるじゃないですか」
そんな軽口を叩き合う。
彼の協力がなければ、俺達は『粘菌封鎖街道』を攻略できなかったし、この試験にも間に合わなかっただろう。
何故そうまでしてくれるのかはスレーバにしかわからないが、助かったのは事実なので、今さら理由を追及するのはやめておこう。
「じゃ、母さん達は行くわね。そうねぇ、金羊の月あたりには一度様子を見にくるから……頑張るのよ、システィル。アストルは頑張りすぎないようにね」
何故か俺も釘を刺されてしまった。
「お母さん、私頑張るから」
「いってらっしゃい、母さん」
システィルに続いて、母と軽くハグする。
お互い冒険者だ、これが最後に顔を見る機会になる可能性だってあることはわかっている。
「ユユちゃん、ミントちゃん。アストルをよろしくね」
「まかせて、ください」
「ええ! 全力で!」
姉妹とも軽く抱擁を交わした後、母はいつもより少し晴れやかな笑顔で席を立ち、スレーバを半ば引きずるようにして、俺達の前から去っていった。なんともあっさりした別れが、母さんらしい。
「お母さん、行っちゃったね」
システィルが少し不安そうに呟いた。
「ま、俺達も頑張ろう。まずは合格しないとだしな」
少ししんみりした気持ちになってしまったが、気分を引き締め直す。
そもそも三日後の試験で合格しなければ、ここに留まれないのだ。
もらった入試パンフレットによると、課題にはいくつかの種類があり、それを複数こなすことで、合格が決まるそうだ。
課題の内容は、たとえば『翼竜の翼爪』の提示であったり、目的地までの到達であったり、あるいは魔法道具の作製であったりするらしい。
また、課題にはそれぞれ色とポイントが割り振られているとのことだ。
それが、三日後……マーブルに指定された広場で、冒険者ギルドの依頼ボードよろしく大量に貼り出される。俺達は一ヵ月かけて、規定点に到達するまでそれをこなしていくのだ。
パンフレットには〝自分の希望する塔のポイントが高い課題をこなしていくことが合格の秘訣だ!〟と、煽り広告みたいな太字で書かれている。
……これを作った人はとても疲れているか、まじめにやる気がないかのどちらかだろう。
「お兄ちゃん、マーブルさんの塔は何色?」
「ここに一覧がある。えーっと……緑だな」
パンフレットのかなり上部の方に、その名前を見つけることができた。
もしこれが序列順だとすると、結構偉い人だったのかもしれない。
そんなやり取りをしていると……
「やあ、少しいいカナ? イイヨネ?」
見知らぬ、痩せぎすの男が俺の隣――母の座っていた席に、ドカリと腰を下ろした。
「キミ、うちの塔に入りなさイ」
「誰だ? あなたは」
「私? 私かネ? この『ウェルス学園』が誇る賢人の一人、パッツ様ダヨ」
尊大な態度と、いかにもこちらを見下した目つきを向けてくる男。
ひどく痩せた体躯に金縁の眼鏡、伸び放題の黒髪がかかる不健康で神経質そうな顔には、危うい笑みが浮かんでいる。
マーブルは信用ならないが、このパッツという男からは身の危険を感じる。
〝これ〟は人を見る目ではない。
世間が☆1に向ける視線の多くも、こちらを人間扱いしていないと感じるけど、コイツの場合は〝物〟を見るような視線だ。
「あいにくだが、希望する塔はもう決まっていてね」
「そんなことはどうでもいいじゃないカ。キミが私の塔に来る……それだけが重要なのダ」
話通じない系の人だった。
「ハッキリ言おう。答えはノーだ」
「ホ、何故かネ?」
これは説明しても通じないだろうな。性質の悪い駄々っ子を相手にするみたいな、不毛な問答が続くだけだ。
「とにかくノーだ」
「理由がわからないと、帰れないヨネ?」
「顔と態度が好みじゃない」
我ながら実にバカバカしくて愚かな返答だと思うが、効果は覿面だったようだ。こういった手合いには、理不尽と思える返答の方が有効な場合がある。
「ホ、ッホ……」
思いの外ショックを受けて絶句しているらしいパッツには悪いが、マーブル以上にヤバそうなヤツに関わる気はない。
しかし、この町にはこんなのがいっぱいいるのか……。システィルが心配になってきたな。
「さ、みんな。戻ろうか」
とにかく、こういう時はとっとと退散するに限る。
俺が席を立つと、意を察した三人も同様に席を立った。
「あの人、置いといていいワケ?」
「関わり合いになりたくない。今にも俺を解剖しそうなヤツだ」
足早に歩きながら、ミントに答える。
しばらく、通りを行くと、受験者の仮宿となっている塔が見えてきた。
俺達『エルメリア王国』出身者にとっては見たこともないほどに背の高い建物なのだが、この『ウェルス学園』では中規模の高さであるらしい。
塔には魔力を利用した昇降機が備えられていて、この十二階にある部屋まですぐに俺達を運んでくれる。
中央に昇降機が設置された構造のため、塔内のフロアはドーナツ状の円形になる。それを仕切って部屋にしてあるのだ。
昇降機から降りた俺達は、すぐ目の前に配置されているリビングのような部屋に入り、それぞれ椅子に腰かける。
「はぁ……せっかく良い一日になりそうだったのに、最後の最後で変な人に会ってしまったな」
言葉とともにため息が出た。
「お母さんが、席を立つのを待ってたのかも」
システィルの推論はおそらく正しい。俺達だけになってから声をかけたのか、それとも〝業火の魔女〟を避けたのかは不明だが。
「お茶、淹れるね」
「ああ、ユユ、頼むよ……ん? 待て、みんな動くな」
部屋に違和感を覚え、慌ててユユを制止する。
極めて魔法的な違和感だ。スレーバが変装していた時のような自然な魔力の流れではなく、これは魔法で何かを隠している感じだ。『ダンジョンコア』でレベルの限界を突破して以来、こういった感覚が鋭くなっているので、わかる。
「誰か……いるな? 五秒待つから、魔法を解いて姿を現せ」
そう言いつつ、目星をつけた場所に〈拘束Ⅰ〉を放つ。
狙い違わず、魔法は何者かを捉えた。
「ウソォン!? 五秒待ってくれるって言ったじゃな~い!」
「気が変わった」
「ンフ、でも、これが無詠唱なのね……。とっても素晴らしいわ」
〈拘束Ⅰ〉が効いてるはずなのに、くねくねする……妙に筋肉質な男が姿を現した。
「誰だ? あ、いや……やっぱり答えなくていい。ミント、侵入者だ、斬り捨てろ」
「了解よ!」
「待ってぇ! 怪しい者じゃないわよぉ!」
彼を見て怪しくないと答えられる人は、おそらく何かしらの呪いを受けている。教会へ急いだほうがいい。
上半身は何も身に着けておらず、筋肉質で黒光りする体を露わにしているし、下は革製の短衣のみ。……早い話が、ぱっと見下着一枚でうろついているようにしか見えない。
耳には五芒星をかたどったピアスが光っているので、賢人だろうと思い当たるが……賢さってなんだろうと考えさせられる格好だ。
「ワタシ、賢人のマスキュラー! あなたをスカウトしにきたの」
「断る」
「そんな! ワタシと知識と肉体の限界に挑んでみな~い? ☆1の限界突破……しちゃうゾ?」
マスキュラーと名乗った男は、やけにばっさばさのまつ毛で、ウィンクを繰り出す。
「もう一度ウィンクしたら、攻撃魔法を撃つからな……? それに、入る塔はもう決めている」
「マーブルのトコでしょ~? 知ってるわよォ。でーも、ワタシのところに来れば、イイ思い、できちゃうゾ」
二回目のウィンクだな。
弱めの電撃を飛ばす。
「アハァン! 効くゥ!」
……やめとけばよかった。クネクネとよがるマスキュラーを見て、すぐに後悔した。
「帰ってくれ。ついでに、他の賢人連中にも伝えといてくれ。誘われても塔は変更しない、とな」
「イヤよぉ。賢人が他の賢人の言うことなんて聞くわけないじゃない。今日のところは帰るけど、考えておいてねぇン」
投げキッスを残して、筋肉質な賢人は窓に向かって駆け出し……そのままガラスごと窓をぶち破って夜の学園都市に姿を消した。
〈拘束Ⅰ〉、まだ発動中だったぞ? ……まさか筋肉の力で強引に動いたのか!?
そして、ここは十二階だぞ!?
「アストル、あれ」
ユユの指さす方には、元気に通りを駆けるマスキュラーの姿があった。
……上位の魔物並みに頑丈だな。
「アストル、賢人って……変人?」
「ユユ、上手いこと言ったな。きっとそうに違いない」
システィルに至っては、呆然として声も出ないようだ。
これに慣れなければ、学園生活はままならないだろうが……慣れてしまったシスティルを見るのもなんだか嫌な気がする。
「昇降機と窓の周りに魔法で罠を張っておくよ。しかし、なんだって賢人はみんなして俺をスカウトしに来るんだ」
どうせなら将来有望なシスティルに目を向けてくれればいいのに。
「アストルが、すごいから?」
途中で買った茶葉を鞄から取り出しながら、ユユが笑った。
「☆1としては優れているんだろうさ。でも、ここは研究と魔法の最先端都市だぞ……そう珍しくもないだろうに」
俺のぼやきを聞いて、姉妹とシスティルが顔を見合わせ、クスクスと笑いあった。
◆
その後も試験開始までの二日間、なんだかんだと理由をつけて、賢人達が俺のもとを訪れた。
ハッキリ言って迷惑なのだが、あれで学園の偉いさん方だ。
あまり直接的な方法でお帰りいただくとシスティルの受験に響くかもしれないと思って、多くは穏便に帰っていただいた。
しかし、中にはかなり強めの電撃を食らわせても、ひるまずにメモを取るような猛者もいた。
「ああ、疲れた……」
周囲が受験者でごった返す広場で、俺はうなだれてかがみ込んだ。
夜でもお構いなしに侵入者が来たので、気が休まらない。
これならダンジョンの中で長い休憩をした方が、まだ気が休まるというくらいだ。
「大丈夫? これからが、本番だよ?」
かがみ込む俺の頭を、ユユが優しく撫でた。
「ああ、頑張ろう。システィルが合格できればいいわけだしな」
「……ほう、ずいぶん消極的なことだな」
聞き覚えのない声に振り向くと、スキンヘッドに眼帯という出で立ちの男が立っていた。
耳には、見慣れた五芒星をあしらったピアスが光っている。
「吾輩が、諸君らの試験官であるクランキーだ」
学園の正式ローブこそ羽織っているが、冒険者にしか見えない。いや……実際、冒険者なんだろうな。学者兼冒険者がいる以上、冒険者の賢人がいたっておかしくはない。
「よろしくおねがいします」
「うむ」
一応、頭を下げておく。
俺に倣って、システィルとユユ達も頭を下げる。
「開始までまだ少し時間があるな。何か質問は?」
「説明をあまり詳しく聞けなかったのですが……学園ではどのくらいの教養を要求されますか? できれば、どんな分野が必要かも教えていただければ」
気になっていたことを尋ねた。
システィルは、植物に関してはとても詳しいが、他の知識については田舎出身故に疎い部分がある。
入学までに押さえておくべき基礎教養があれば、ある程度は本などを買い揃えて、事前に勉強させたい。
「『賢人』を目指す者に、既存の教養など無意味だ。学びたいことを学び、必要なことを知り、そして至るがいい」
眼光鋭く言い放ったクランキーの言葉に、俺は好感と共感を抱いた。
この賢人が言っていることは極論だが、正しくもある。
「う、この先生ちょっと怖い……かも」
システィルがじわりと後ずさりして俺の陰に隠れる。俺の後ろはすでにユユで定員一杯だけどな。
「すまんな、よくそう言われる。だが、君達がここで何を学び、何を得て、何を目指すかは自由だ」
鋭い目つきは変わらないが、もしかすると出会った賢人の中では一番まともな人物かもしれない。
そんなことを考えていると、甲高い鐘の音が木霊した。
「む、鐘だ。試験が始まるぞ……あそこに掲示板が見えるな?」
クランキーが指さした先に、いつの間にか超巨大な掲示板が設置されていた。
そこかしこにロープがかかっているところを見るに、倒してあったものを引き起こしたのだろう。
高さは建物の三階分、横幅は一棟ほどもある。
なるほど、今しがた掛けられた梯子は、上の課題を確認するためのものか。
「あそこに吾輩達賢人が出したお使いやらなんやらの依頼――課題票が大量に貼り付けられている。一人一枚ずつ剥がして、課題に取り掛かるがいい。魔法で追跡しているから、一度に二枚剥がすと失格になる。注意しろ。課題をこなすか、破棄したら、次のものを剥がしていい」
今、依頼って言ったな。やはりこの人、本質は冒険者か。
「次の鐘で試験開始だ。課題を完遂したら、課題票に青いサインが出るので、それを向こうに見える詰め所の、吾輩のところへ持ってくるのだ。試験ポイントの加算や管理は吾輩が行なう」
クランキーが説明を終えたちょうどその時、二回目の鐘が高らかに響いた。
「では、健闘を祈る」
そう言ってクランキーがその場を立ち去った。
実に質実剛健とした立ち居振る舞い……まともな賢人もいるじゃないか。
試験開始の合図と同時に、受験者達は一斉に掲示板に殺到する。その光景を見て、システィルが緊張に身を強張らせる。
「システィル、緊張するな。俺達がついている」
「うん……わかってるよ、お兄ちゃん」
「お姉さんに任せときなさい!」
「ん、合格……させる」
気合も充分に、俺達も掲示板へと走る。
ギルドと同じ方式なら、割の良い課題は早い者勝ちだろう。
掲示板前は阿鼻叫喚の様相を呈していた。
転倒した者が踏まれて、怪我人も出ているようだ。
これは、冒険装束を着てきたのは正解だったな。
特に、頑丈な混合鎧で身を固めたミントは、小さいながらも威圧感は抜群だ。その膂力を活かしてグイグイと強引に進んでいく。
……すぐに掲示板前にたどり着いて、課題の物色を始めている。
「どうしよう、か?」
ユユが少し困った顔で俺を見る。
この混雑の中を突き進んで怪我をするのもバカらしい。
「よし、〈望遠〉の魔法で上の方の課題で良いのを探そう。見つけたら〈見えざる手〉で取り寄せればいい」
俺は鞄から〈望遠〉が付与された魔法道具を取り出して、ユユに渡す。
「私はどうしよう……」
「システィルは、そうだな……落ち着くまで待ってもいいけど、怪我をしないように気を付けて行ってみたらどうだ? 受験の醍醐味かもしれないぞ」
一度に受けられる課題は、一人一つまで。徐々に混雑は解消されていくはずだ。
「自己強化して行ってくる。うん、頼りきりじゃ、ダメだもんね」
システィルは俺に頷くと、いくつかの魔法を自分にかけて人混みに入っていった。
自主性を重んじるこの学園では、待っているだけでは前に進めないだろうと、妹もわかっているようだ。
「お、これはいいな。これにしよう」
しばし課題を物色していると、かなり上部の方に、俺好みのものを見つけることができた。
これは俺の得意分野だ。
「どんな、の?」
「Nevidebla mano, bonvolu altiri(見えざる手よ、引き寄せよ)」
軽いため、まるでツバメのような速さで俺の手に飛んでくる課題票を掴み取り、俺はその内容を読み上げる。
「〝新しい魔法を創造する〟だってさ」
手元の課題票は、すでにスタンプのようなものが青く輝いている。
なるほど……作った魔法を提示する必要はないわけか。
「ええと、緑のポイントが100点か。そういえば、何点が合格ラインなんだろう? 知ってるか? ユユ」
「毎年、テスト方式が変わるみたいだから……公表されてないし、わかんない」
他の課題と比較して相対的に測るしかないな。
一ヵ月の間に課題を十個クリアしたら合格として、平均的なポイントを合算していけばいいだろう。
とにもかくにも、これで最初の課題クリアだ。
「ちょっと詰め所に行って、これ渡してくる。次の課題取れないしな」
「ん。ユユはまだ少し、探してるね」
俺は軽く手を振ってユユと別れ、一人で詰め所へと向かう。
広大な詰め所には、すでに何人かの受験生が来ており、それぞれ青く輝く課題票を提出している。
ぐるりと見渡すと、一番端に目当てのクランキーが見つかった。
他の机には複数の受験者がいるが、彼の机には誰もいない。
もしかすると、受験をねじ込んだ俺達に対応するために、仕事を押しつけられたのかもしれないな。
「ほう、もう課題をこなしたか。有望なことだ」
厳つい顔のまま受験票を受け取ったクランキーの眉が、ぴくりと動く。
「……。……? ……!? お前、コレ……! 無理課題じゃないか!」
「無理課題?」
彼は俺の問いに答えることはなく、天を仰ぐ。
その声に反応して、周囲から視線とざわめきが俺に浴びせられた。
「……ハズレ課題だよ。冗談か嫌がらせで出される、完遂無理課題。それをこなして持ってくるヤツがいるなんて、吾輩、初めての経験だぞ」
クランキーは盛大なため息と共に首を振る。
「コホン……まあいいだろう。では、次の課題に取り掛かりたまえ」
クランキーは平静を装って、手で追い払うようなジェスチャーをする。
これ以上注目を集めるのは俺としても本意ではないので、ざわつくその場を足早に立ち去った。
「うふふ、ヒミツよ。あそこに挑むことができるだけのメンバーも集めなくちゃいけないし……あ、〝いないいないばあ〟、あなたは参加確定よ?」
突然、母が明後日の方向を向いて誰かに話しかけた。
〝いないいないばあ〟のスレーバ?
『粘菌封鎖街道』攻略で斥候を務めた彼は、ローミルで別れたきりのはずだが。
「……あら、だんまりかしら。いいわ、あぶり出しましょうね」
母は指先に小さな炎を揺らめかせて、凄惨な笑みを浮かべる。
すると、近くで掃除をしていた小太りの女性の全身がいきなりペラリとめくれて、小人族の老人が姿を現した。
「……はぁ、姐さんにはかないやせんね」
「大した変装ね、〝いないいないばあ〟?」
変装というより魔法の類にしか見えない。
「南方に、こういうのが得意な連中がいるんですわ。ちーっとコツを教えてもらいましてな」
〈魔法感知〉に引っかからない高度変装なんて、コツってレベルじゃないぞ!
「はぁ……ワシはこのまま、密かに旦那を見守っていようと思ってやしたが」
「相変わらず金にならないところで、妙なこだわりがあるのね」
「性分でさぁ。ま、『深淵』にも興味はありやすけどね」
くるりと体を向けて、スレーバが腰を折る。
「ということで、旦那。今度こそ、しばしのお別れでさ」
ローミルで別れたと思ったら、ここまでついてきてくれていたのか。
考えてみれば、妙にサービスの良い乗り合い馬車ばかり乗り継いだものだと思ったが……それもきっと彼の仕業だったのだろう。
「……ええ、スレーバさんもお元気で。母をよろしく頼みます」
「〝魔導師〟抜きで『深淵』なんぞ、ご免こうむりたいんですがね」
「俺なんかより頼りになる、〝業火の魔女〟がいるじゃないですか」
そんな軽口を叩き合う。
彼の協力がなければ、俺達は『粘菌封鎖街道』を攻略できなかったし、この試験にも間に合わなかっただろう。
何故そうまでしてくれるのかはスレーバにしかわからないが、助かったのは事実なので、今さら理由を追及するのはやめておこう。
「じゃ、母さん達は行くわね。そうねぇ、金羊の月あたりには一度様子を見にくるから……頑張るのよ、システィル。アストルは頑張りすぎないようにね」
何故か俺も釘を刺されてしまった。
「お母さん、私頑張るから」
「いってらっしゃい、母さん」
システィルに続いて、母と軽くハグする。
お互い冒険者だ、これが最後に顔を見る機会になる可能性だってあることはわかっている。
「ユユちゃん、ミントちゃん。アストルをよろしくね」
「まかせて、ください」
「ええ! 全力で!」
姉妹とも軽く抱擁を交わした後、母はいつもより少し晴れやかな笑顔で席を立ち、スレーバを半ば引きずるようにして、俺達の前から去っていった。なんともあっさりした別れが、母さんらしい。
「お母さん、行っちゃったね」
システィルが少し不安そうに呟いた。
「ま、俺達も頑張ろう。まずは合格しないとだしな」
少ししんみりした気持ちになってしまったが、気分を引き締め直す。
そもそも三日後の試験で合格しなければ、ここに留まれないのだ。
もらった入試パンフレットによると、課題にはいくつかの種類があり、それを複数こなすことで、合格が決まるそうだ。
課題の内容は、たとえば『翼竜の翼爪』の提示であったり、目的地までの到達であったり、あるいは魔法道具の作製であったりするらしい。
また、課題にはそれぞれ色とポイントが割り振られているとのことだ。
それが、三日後……マーブルに指定された広場で、冒険者ギルドの依頼ボードよろしく大量に貼り出される。俺達は一ヵ月かけて、規定点に到達するまでそれをこなしていくのだ。
パンフレットには〝自分の希望する塔のポイントが高い課題をこなしていくことが合格の秘訣だ!〟と、煽り広告みたいな太字で書かれている。
……これを作った人はとても疲れているか、まじめにやる気がないかのどちらかだろう。
「お兄ちゃん、マーブルさんの塔は何色?」
「ここに一覧がある。えーっと……緑だな」
パンフレットのかなり上部の方に、その名前を見つけることができた。
もしこれが序列順だとすると、結構偉い人だったのかもしれない。
そんなやり取りをしていると……
「やあ、少しいいカナ? イイヨネ?」
見知らぬ、痩せぎすの男が俺の隣――母の座っていた席に、ドカリと腰を下ろした。
「キミ、うちの塔に入りなさイ」
「誰だ? あなたは」
「私? 私かネ? この『ウェルス学園』が誇る賢人の一人、パッツ様ダヨ」
尊大な態度と、いかにもこちらを見下した目つきを向けてくる男。
ひどく痩せた体躯に金縁の眼鏡、伸び放題の黒髪がかかる不健康で神経質そうな顔には、危うい笑みが浮かんでいる。
マーブルは信用ならないが、このパッツという男からは身の危険を感じる。
〝これ〟は人を見る目ではない。
世間が☆1に向ける視線の多くも、こちらを人間扱いしていないと感じるけど、コイツの場合は〝物〟を見るような視線だ。
「あいにくだが、希望する塔はもう決まっていてね」
「そんなことはどうでもいいじゃないカ。キミが私の塔に来る……それだけが重要なのダ」
話通じない系の人だった。
「ハッキリ言おう。答えはノーだ」
「ホ、何故かネ?」
これは説明しても通じないだろうな。性質の悪い駄々っ子を相手にするみたいな、不毛な問答が続くだけだ。
「とにかくノーだ」
「理由がわからないと、帰れないヨネ?」
「顔と態度が好みじゃない」
我ながら実にバカバカしくて愚かな返答だと思うが、効果は覿面だったようだ。こういった手合いには、理不尽と思える返答の方が有効な場合がある。
「ホ、ッホ……」
思いの外ショックを受けて絶句しているらしいパッツには悪いが、マーブル以上にヤバそうなヤツに関わる気はない。
しかし、この町にはこんなのがいっぱいいるのか……。システィルが心配になってきたな。
「さ、みんな。戻ろうか」
とにかく、こういう時はとっとと退散するに限る。
俺が席を立つと、意を察した三人も同様に席を立った。
「あの人、置いといていいワケ?」
「関わり合いになりたくない。今にも俺を解剖しそうなヤツだ」
足早に歩きながら、ミントに答える。
しばらく、通りを行くと、受験者の仮宿となっている塔が見えてきた。
俺達『エルメリア王国』出身者にとっては見たこともないほどに背の高い建物なのだが、この『ウェルス学園』では中規模の高さであるらしい。
塔には魔力を利用した昇降機が備えられていて、この十二階にある部屋まですぐに俺達を運んでくれる。
中央に昇降機が設置された構造のため、塔内のフロアはドーナツ状の円形になる。それを仕切って部屋にしてあるのだ。
昇降機から降りた俺達は、すぐ目の前に配置されているリビングのような部屋に入り、それぞれ椅子に腰かける。
「はぁ……せっかく良い一日になりそうだったのに、最後の最後で変な人に会ってしまったな」
言葉とともにため息が出た。
「お母さんが、席を立つのを待ってたのかも」
システィルの推論はおそらく正しい。俺達だけになってから声をかけたのか、それとも〝業火の魔女〟を避けたのかは不明だが。
「お茶、淹れるね」
「ああ、ユユ、頼むよ……ん? 待て、みんな動くな」
部屋に違和感を覚え、慌ててユユを制止する。
極めて魔法的な違和感だ。スレーバが変装していた時のような自然な魔力の流れではなく、これは魔法で何かを隠している感じだ。『ダンジョンコア』でレベルの限界を突破して以来、こういった感覚が鋭くなっているので、わかる。
「誰か……いるな? 五秒待つから、魔法を解いて姿を現せ」
そう言いつつ、目星をつけた場所に〈拘束Ⅰ〉を放つ。
狙い違わず、魔法は何者かを捉えた。
「ウソォン!? 五秒待ってくれるって言ったじゃな~い!」
「気が変わった」
「ンフ、でも、これが無詠唱なのね……。とっても素晴らしいわ」
〈拘束Ⅰ〉が効いてるはずなのに、くねくねする……妙に筋肉質な男が姿を現した。
「誰だ? あ、いや……やっぱり答えなくていい。ミント、侵入者だ、斬り捨てろ」
「了解よ!」
「待ってぇ! 怪しい者じゃないわよぉ!」
彼を見て怪しくないと答えられる人は、おそらく何かしらの呪いを受けている。教会へ急いだほうがいい。
上半身は何も身に着けておらず、筋肉質で黒光りする体を露わにしているし、下は革製の短衣のみ。……早い話が、ぱっと見下着一枚でうろついているようにしか見えない。
耳には五芒星をかたどったピアスが光っているので、賢人だろうと思い当たるが……賢さってなんだろうと考えさせられる格好だ。
「ワタシ、賢人のマスキュラー! あなたをスカウトしにきたの」
「断る」
「そんな! ワタシと知識と肉体の限界に挑んでみな~い? ☆1の限界突破……しちゃうゾ?」
マスキュラーと名乗った男は、やけにばっさばさのまつ毛で、ウィンクを繰り出す。
「もう一度ウィンクしたら、攻撃魔法を撃つからな……? それに、入る塔はもう決めている」
「マーブルのトコでしょ~? 知ってるわよォ。でーも、ワタシのところに来れば、イイ思い、できちゃうゾ」
二回目のウィンクだな。
弱めの電撃を飛ばす。
「アハァン! 効くゥ!」
……やめとけばよかった。クネクネとよがるマスキュラーを見て、すぐに後悔した。
「帰ってくれ。ついでに、他の賢人連中にも伝えといてくれ。誘われても塔は変更しない、とな」
「イヤよぉ。賢人が他の賢人の言うことなんて聞くわけないじゃない。今日のところは帰るけど、考えておいてねぇン」
投げキッスを残して、筋肉質な賢人は窓に向かって駆け出し……そのままガラスごと窓をぶち破って夜の学園都市に姿を消した。
〈拘束Ⅰ〉、まだ発動中だったぞ? ……まさか筋肉の力で強引に動いたのか!?
そして、ここは十二階だぞ!?
「アストル、あれ」
ユユの指さす方には、元気に通りを駆けるマスキュラーの姿があった。
……上位の魔物並みに頑丈だな。
「アストル、賢人って……変人?」
「ユユ、上手いこと言ったな。きっとそうに違いない」
システィルに至っては、呆然として声も出ないようだ。
これに慣れなければ、学園生活はままならないだろうが……慣れてしまったシスティルを見るのもなんだか嫌な気がする。
「昇降機と窓の周りに魔法で罠を張っておくよ。しかし、なんだって賢人はみんなして俺をスカウトしに来るんだ」
どうせなら将来有望なシスティルに目を向けてくれればいいのに。
「アストルが、すごいから?」
途中で買った茶葉を鞄から取り出しながら、ユユが笑った。
「☆1としては優れているんだろうさ。でも、ここは研究と魔法の最先端都市だぞ……そう珍しくもないだろうに」
俺のぼやきを聞いて、姉妹とシスティルが顔を見合わせ、クスクスと笑いあった。
◆
その後も試験開始までの二日間、なんだかんだと理由をつけて、賢人達が俺のもとを訪れた。
ハッキリ言って迷惑なのだが、あれで学園の偉いさん方だ。
あまり直接的な方法でお帰りいただくとシスティルの受験に響くかもしれないと思って、多くは穏便に帰っていただいた。
しかし、中にはかなり強めの電撃を食らわせても、ひるまずにメモを取るような猛者もいた。
「ああ、疲れた……」
周囲が受験者でごった返す広場で、俺はうなだれてかがみ込んだ。
夜でもお構いなしに侵入者が来たので、気が休まらない。
これならダンジョンの中で長い休憩をした方が、まだ気が休まるというくらいだ。
「大丈夫? これからが、本番だよ?」
かがみ込む俺の頭を、ユユが優しく撫でた。
「ああ、頑張ろう。システィルが合格できればいいわけだしな」
「……ほう、ずいぶん消極的なことだな」
聞き覚えのない声に振り向くと、スキンヘッドに眼帯という出で立ちの男が立っていた。
耳には、見慣れた五芒星をあしらったピアスが光っている。
「吾輩が、諸君らの試験官であるクランキーだ」
学園の正式ローブこそ羽織っているが、冒険者にしか見えない。いや……実際、冒険者なんだろうな。学者兼冒険者がいる以上、冒険者の賢人がいたっておかしくはない。
「よろしくおねがいします」
「うむ」
一応、頭を下げておく。
俺に倣って、システィルとユユ達も頭を下げる。
「開始までまだ少し時間があるな。何か質問は?」
「説明をあまり詳しく聞けなかったのですが……学園ではどのくらいの教養を要求されますか? できれば、どんな分野が必要かも教えていただければ」
気になっていたことを尋ねた。
システィルは、植物に関してはとても詳しいが、他の知識については田舎出身故に疎い部分がある。
入学までに押さえておくべき基礎教養があれば、ある程度は本などを買い揃えて、事前に勉強させたい。
「『賢人』を目指す者に、既存の教養など無意味だ。学びたいことを学び、必要なことを知り、そして至るがいい」
眼光鋭く言い放ったクランキーの言葉に、俺は好感と共感を抱いた。
この賢人が言っていることは極論だが、正しくもある。
「う、この先生ちょっと怖い……かも」
システィルがじわりと後ずさりして俺の陰に隠れる。俺の後ろはすでにユユで定員一杯だけどな。
「すまんな、よくそう言われる。だが、君達がここで何を学び、何を得て、何を目指すかは自由だ」
鋭い目つきは変わらないが、もしかすると出会った賢人の中では一番まともな人物かもしれない。
そんなことを考えていると、甲高い鐘の音が木霊した。
「む、鐘だ。試験が始まるぞ……あそこに掲示板が見えるな?」
クランキーが指さした先に、いつの間にか超巨大な掲示板が設置されていた。
そこかしこにロープがかかっているところを見るに、倒してあったものを引き起こしたのだろう。
高さは建物の三階分、横幅は一棟ほどもある。
なるほど、今しがた掛けられた梯子は、上の課題を確認するためのものか。
「あそこに吾輩達賢人が出したお使いやらなんやらの依頼――課題票が大量に貼り付けられている。一人一枚ずつ剥がして、課題に取り掛かるがいい。魔法で追跡しているから、一度に二枚剥がすと失格になる。注意しろ。課題をこなすか、破棄したら、次のものを剥がしていい」
今、依頼って言ったな。やはりこの人、本質は冒険者か。
「次の鐘で試験開始だ。課題を完遂したら、課題票に青いサインが出るので、それを向こうに見える詰め所の、吾輩のところへ持ってくるのだ。試験ポイントの加算や管理は吾輩が行なう」
クランキーが説明を終えたちょうどその時、二回目の鐘が高らかに響いた。
「では、健闘を祈る」
そう言ってクランキーがその場を立ち去った。
実に質実剛健とした立ち居振る舞い……まともな賢人もいるじゃないか。
試験開始の合図と同時に、受験者達は一斉に掲示板に殺到する。その光景を見て、システィルが緊張に身を強張らせる。
「システィル、緊張するな。俺達がついている」
「うん……わかってるよ、お兄ちゃん」
「お姉さんに任せときなさい!」
「ん、合格……させる」
気合も充分に、俺達も掲示板へと走る。
ギルドと同じ方式なら、割の良い課題は早い者勝ちだろう。
掲示板前は阿鼻叫喚の様相を呈していた。
転倒した者が踏まれて、怪我人も出ているようだ。
これは、冒険装束を着てきたのは正解だったな。
特に、頑丈な混合鎧で身を固めたミントは、小さいながらも威圧感は抜群だ。その膂力を活かしてグイグイと強引に進んでいく。
……すぐに掲示板前にたどり着いて、課題の物色を始めている。
「どうしよう、か?」
ユユが少し困った顔で俺を見る。
この混雑の中を突き進んで怪我をするのもバカらしい。
「よし、〈望遠〉の魔法で上の方の課題で良いのを探そう。見つけたら〈見えざる手〉で取り寄せればいい」
俺は鞄から〈望遠〉が付与された魔法道具を取り出して、ユユに渡す。
「私はどうしよう……」
「システィルは、そうだな……落ち着くまで待ってもいいけど、怪我をしないように気を付けて行ってみたらどうだ? 受験の醍醐味かもしれないぞ」
一度に受けられる課題は、一人一つまで。徐々に混雑は解消されていくはずだ。
「自己強化して行ってくる。うん、頼りきりじゃ、ダメだもんね」
システィルは俺に頷くと、いくつかの魔法を自分にかけて人混みに入っていった。
自主性を重んじるこの学園では、待っているだけでは前に進めないだろうと、妹もわかっているようだ。
「お、これはいいな。これにしよう」
しばし課題を物色していると、かなり上部の方に、俺好みのものを見つけることができた。
これは俺の得意分野だ。
「どんな、の?」
「Nevidebla mano, bonvolu altiri(見えざる手よ、引き寄せよ)」
軽いため、まるでツバメのような速さで俺の手に飛んでくる課題票を掴み取り、俺はその内容を読み上げる。
「〝新しい魔法を創造する〟だってさ」
手元の課題票は、すでにスタンプのようなものが青く輝いている。
なるほど……作った魔法を提示する必要はないわけか。
「ええと、緑のポイントが100点か。そういえば、何点が合格ラインなんだろう? 知ってるか? ユユ」
「毎年、テスト方式が変わるみたいだから……公表されてないし、わかんない」
他の課題と比較して相対的に測るしかないな。
一ヵ月の間に課題を十個クリアしたら合格として、平均的なポイントを合算していけばいいだろう。
とにもかくにも、これで最初の課題クリアだ。
「ちょっと詰め所に行って、これ渡してくる。次の課題取れないしな」
「ん。ユユはまだ少し、探してるね」
俺は軽く手を振ってユユと別れ、一人で詰め所へと向かう。
広大な詰め所には、すでに何人かの受験生が来ており、それぞれ青く輝く課題票を提出している。
ぐるりと見渡すと、一番端に目当てのクランキーが見つかった。
他の机には複数の受験者がいるが、彼の机には誰もいない。
もしかすると、受験をねじ込んだ俺達に対応するために、仕事を押しつけられたのかもしれないな。
「ほう、もう課題をこなしたか。有望なことだ」
厳つい顔のまま受験票を受け取ったクランキーの眉が、ぴくりと動く。
「……。……? ……!? お前、コレ……! 無理課題じゃないか!」
「無理課題?」
彼は俺の問いに答えることはなく、天を仰ぐ。
その声に反応して、周囲から視線とざわめきが俺に浴びせられた。
「……ハズレ課題だよ。冗談か嫌がらせで出される、完遂無理課題。それをこなして持ってくるヤツがいるなんて、吾輩、初めての経験だぞ」
クランキーは盛大なため息と共に首を振る。
「コホン……まあいいだろう。では、次の課題に取り掛かりたまえ」
クランキーは平静を装って、手で追い払うようなジェスチャーをする。
これ以上注目を集めるのは俺としても本意ではないので、ざわつくその場を足早に立ち去った。
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