白銀が征く異世界冒険記―旧友を探す旅はトラブルまみれ!?―

埋群のどか

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第三章:蒸奇の国・ガンク・ダンプ

第53話

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『さぁさぁ、皆さん!! お昼ご飯はいかがでしたか? 白熱の第一回戦の興奮は忘れていませんか!? 今からは白熱の、いえいえ、大白熱の二回戦の始まりです! 博士、一回戦はどうでしたか?』
『そうですねー。やはり予選を勝ち抜いてきただけあってどれもレベルが高いものでした。しかしやはり注目すべきはチームミーズ工房ですかね。』
『チームミーズ工房! 初戦に相応しい強烈なインパクトのある試合でした! やはりあの特徴的な蒸奇装甲(スチームアーマー)は注目ですか?』
『そうですね。あの超軽量蒸奇装甲スチームアーマーは今までの常識を覆す画期的なデザインでした。量産化など製品化の面では難しいところではありますが、間違いなく蒸奇装甲スチームアーマー界に一石を投じる物でしょう。』
『ふむふむ、とても興味深いですね……おっと! そんなことを話している内に第二回戦一試合目の準備が整った模様です! それでは登場していただきましょう、どうぞー!!』

 司会のアリシアの高らかな宣言と共にファンファーレが鳴りだす。その音楽と共に選手が入場した。

『さぁ、まずはこの選手! 今大会において最注目と言っても過言ではないでしょう! 可憐な見た目とは裏腹に電光石火の戦ぶり! 中小工房の期待の星、チームミーズ工房のクロエ選手です!!』

 観客席から割れんばかりの歓声が響いた。フィールドへ向かうクロエへ向けられたそれは、一回戦の試合の前とは比べ物にならないほどだ。誰もがすぐに負けることを予想した少女は、誰にも思いつかないような蒸奇装甲スチームアーマーで見事な勝利を収めた。その大逆転は観客の多くを魅了するものだったのだ。
 その大歓声を向けられるクロエ自身はあまりそういう事に慣れていないのだろう。申し訳なさそうな様子で身を縮こませながら少し駆け足で歩いていた。その顔は赤く照れている。

『おー、緊張している様子ですねー。情報によると今回の大会が初挑戦と言う事らしいですが、こういった場には慣れていないんでしょうね。さぁ! 注目株のクロエ選手、その対戦相手はこちらです!!』

 アリシアの声と共に先ほどとは別の音楽が流れだした。観客の歓声が響く中、クロエの対戦相手となる人影がその姿を現す。
 それは人類種の女性だった。身長はおそらくサラと同じぐらいであろう。眼鏡をかけて髪を後ろに三つ編みにする姿は、一見大人しそうに見える。だが、その足取りはしっかりとしていて、フィールドをまっすぐに見つめるその姿からは弱々しさなどは感じられない。観客の声援に手を振ってこたえる姿からは、こうした状況に慣れている様子を感じさせるものだった。

『続いて入場したのはこの方! もはやこの大会の常連ともなりつつありますチームエルトース工業のキリア選手です! 昨年度大会の優勝者でもありますキリア選手、今年も危なげなくこの本大会の第二回戦準決勝まで勝ち上がってきました! 博士、解説お願いします!』
『えー、エルトース工業は昔から武器などを作っていた老舗の工房ですね。蒸奇装甲スチームアーマーへの参入も比較的早い段階から行ってきました。その長い経験で培われた戦術などは隙のない盤石な構えとなっています。さらに注目したいのは装着者であるキリア選手ですね。彼女は最近エルトース工業の専属となった訳ですが、実は彼女国内でも名門の学校を優秀な成績で卒業した才女でもあります。エルトース工業の経験と彼女の知恵が合わさったその戦いは、まるで事前から決められた流れであったかのようとも称されています。』
『ありがとうございました! さぁ、この強敵を相手にクロエ選手は一体どのような戦術を見せてくれるのでしょう!? 注目の一戦が、今! 始まります!』

 両選手の紹介が終わったところで、フィールドの上にクロエとキリアが向かい合った状態で揃った。試合前恒例の握手を交わす。

「よ、よろしくお願いします……」

 クロエが少し緊張したように口を開いた。その様子にキリアが和んだように笑う。

「ウフフ、第一回戦であんなに凄い戦いをしましたのにまだ緊張してるんですか?」
「こ、こういう注目を集める場所は慣れていなくて……」
「あら、そうなんですか。でも、私だって真剣なんです。手加減はしませんよ?」
「望むところです。」

 互いに全力を尽くすことを誓う二人。フィールドの両端に位置取り開始の合図を待つ。

『準備が整いました! それでは第二回戦第一試合、始めっ!!』
「起動! そして……加速!!」

 開始の合図とともに、クロエは蒸奇装甲スチームアーマーを展開。加速機構を駆動し一気に距離を詰める。高速で迫る先、キリアは蒸奇装甲スチームアーマーを展開したばかりだ。

(――もらった!)

 加速と同時に取り出したソードを肩に構え、一気に振り抜く。だが、振り抜いたソードは甲高い硬質な音を立てて弾かれてしまった。

「え? な、何で……!?」
「ウフフ……あんなに印象的な試合だったんですもの、対策は万全です。同じ手が効くはずないじゃないですか。」

 巨大な盾を構え、重厚な蒸奇装甲スチームアーマーを展開したキリアがクロエに向かって話しかけた。その全身は一回戦の対戦者と同じく蒸奇装甲スチームアーマーに覆われている。だが、そのフォルムはアズガルド工業の物とは違い各所で軽量化がなされているようであった。

「我がチームの機体にはとある特殊機能が備わっているんです。まだ正式発表していない、この大会が初披露となる機能。『自動防御オートガード』です。」

 キリアの言葉はマイクを通し、会場全体へ届けられる。そしてその言葉を受け取った会場内はにわかにざわめきだした。

「え、み、皆さん何を驚いているんですの?」

 サラが一人雰囲気についていけず疑問の声を上げる。隣に座るミーナやオトミは驚いた様子でフィールドを見つめるばかりだ。
 すると会場内の雰囲気を悟ったのか、司会のアリシアが話し出した。

『お、おーっとぉ! ここでエルトース工業の新技術が発表されました! その名も自動防御オートガード! 博士、これは凄いですね!?』
『え、ええ。まさかそんな機能を発明してくるとは……今年の大会は驚きの連続ですねぇ。』

「……いえ、ですからそれがどう凄いのか教えて欲しいのですわ……」

 サラが困ったようにボソリと呟いた。その言葉を聞いたのか、今まで思案気に黙っていたミーナがサラの方を向いて口を開く。

「お嬢様、一つお考え下さい。例えば戦いの場面で自分よりも力量が上の敵と対峙した時に、勝つのではなく生き残るならば何をすべきですか?」
「え? そ、そうですわね……相手の意表を突く作戦を立てる、ですの?」
「それも有効でしょう。しかし、往々にしてその様なヒラメキはなかなかに出る物ではありません。ましてや強敵との戦闘と言う極限状態でもあります。お嬢様ならば可能でしょうが、一般的には難しいですね。」
「むぅ……それなら、どうするんですの?」
「簡単な事です。相手の攻撃をすべて防いでしまえばいいのです。」

 ミーナがあっけらかんと言い放った。その言葉にサラは一瞬の間をおいて反論を返す。

「そ、それは何でも不可能だと思いますわ……」
「ええ。不可能です。しかし、それを可能とするのが今発表された新機能『自動防御オートガード』なのですよ。仕組みは分かりませんが、相手の攻撃を自動で防御する。もしそれが本当なら、これは戦闘という概念が大きく変わるかもしれません。」

 ミーナがそこまで言い終わると、今度はオトミが話し出した。

「ああ。あの機能が正式に広まれば戦場における強者弱者の概念が変わるさね。戦闘経験が少ない者でも戦場で生き残ることが可能となる。攻撃なら銃をばらまけばいい。これは凄い事だよ……!」

 二人の言葉にサラがようやく事態を飲み込み始めた。普段弓を使う彼女にとって防御と言う物はあまり縁のないものであるからこそ理解しにくいものだったのだ。
 そして事態を理解すると同時にサラは顔を青ざめさせる。

「そ、それでは、クロエさんはどうなるんですの? 確かクロエさんは……」
「……はい。クロエさん自身銃火器を使ったことがないそうで、武装はあの大剣を含め近接系ばかりです。この戦い、苦戦することになるかもしれませんね……」










(マズい……マズいマズい……何その自動防御ってやつ。そんなの反則じゃないの!?)

 フィールドの上で抜け目なく剣を構えるクロエだが、その内心は非常にざわついていた。汗が額から垂れる。頭の中で必死に打開策を練るクロエだが、その表情には焦りしか浮かばない。

「うふふ……打つ手なし、と言うところですか?」

 一方のキリアは涼しげな顔、その顔は蒸奇装甲スチームアーマーに覆われ見えないのだが、そのような雰囲気を漂わせクロエに相対する。先ほどまで展開していた巨大な盾を収納し、左手に小型の盾を、右手に中型の剣を取りだした。

「では、私から行きますよ……!」
「――クッ!?」

 その堅牢な見た目からは予想しがたい加速でクロエに肉薄するキリア。クロエはその予想外の展開に戸惑い、うまく対処ができていない。そうする間にも、キリアはクロエの目の前に迫った。そして左手に持つ盾をクロエ目掛け思い切り叩きつける。

「あうっ!」

 いわゆるシールドバッシュを食らってしまったクロエは、その機体と体重の軽さもあったのだろう、いとも軽々と吹き飛ばされてしまった。腹部は装甲に守られていないが、魔力式の物理防御膜のおかげでダメージは軽減された。
 しかし、それも完全とはいかないようだ。体を地面に叩きつけられすぐに身を起こすも、ジンジンと響く鈍い痛みが腹部から脳へと不快感を与える。

(クソ……あんな攻撃するなんて……何でみんな遠距離攻撃せずに殴ってくるの……?)

 鈍痛を覚える腹部を気にしながらも、その意識はキリアからそらさない。視線の先のキリアはクロエの超加速を警戒しているのか、油断なく左手の盾を構えている。

(あんな風に防御を固められると、困っちゃうな……こっちはスピードは出るけどパワーとかディフェンスは弱いのに……加速してもそれを防がれるなんて、どうしろって言うんだよ。)

 焦るクロエに余裕を見せるキリア。これが蒸奇装甲スチームアーマーの試合ではなくただの戦闘、もしくは魔法使用可の戦いならその軍配はすぐにでもクロエに上がっていたのだろう。だが、こうして本来弱者であるはずのキリアがクロエを、制約があるとはいえ追い詰めることができている。これこそが蒸奇装甲スチームアーマーの真価なのだろう。

「……さぁ、もっと戦ってもらいますよ。この試合はそれぞれの企業、工房のアピールの場でもあるんですから。私としても弱い者いじめみたいで不本意ですが、少し、遊んでもらいましょうか!」
「……性格の悪いことで……」

 ぼそりと呟くクロエの言葉は聞こえたのか聞こえなかったのか。キリアは右手の剣を構え、クロエに肉薄するのだった。

 ―続く―
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