白銀が征く異世界冒険記―旧友を探す旅はトラブルまみれ!?―

埋群のどか

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第三章:蒸奇の国・ガンク・ダンプ

第60話

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『な、何事ですか!?』

 司会のアリシアが狼狽した声を上げた。そしてその狼狽はフィールドに立つクロエとルウガルーのみならず、観客席に座る観衆すらも飲み込んでいく。
 その狼狽の原因となったのは、この丸で国中に轟くかのようなけたたましいサイレンであった。実際、国のあらゆるところに設置された電源の入っている放送機器からは同じようなサイレンが鳴り響いている。

「い、一体何が起きているんです……?」

 先ほどまでの気勢をそがれたのか、又はその反動か。クロエの堂々とした態度は消え去り、代わりに周囲をまるで小動物のように警戒している。
 そしてそれはクロエの正面に立つルウガルーも同じであった。クロエほどの狼狽は見せないものの、明らかにわかるこの異常事態に判断をしかねているようだ。

「ル、ルウさん。これは、このサイレンは……何なの……?」

 クロエが分からないとばかりにルウガルーへ問いかけた。その声に意識が戻されたのか、ルウガルーはハッとしたような顔でクロエの方へ向き直る。

「え、えぇと、これは緊急事態を知らせるための国防サイレンであります……国の一大事などに鳴らされるものなのでありますが、何故これが……も、もうすぐ何の緊急事態か知らされるはずであります。それを待つしか……」

 丁度その時、まるでルウガルーの言葉を聞いたかのようなタイミングでサイレンが鳴りやんだ。そして機械的な抑揚の女性の声が聞こえだす。

『こちらは、ガンク・ダンプ国営放送です。現在、谷の傍の岩山にて大型の落石の危険を観測いたしました。対抗策といたしまして、国上部の防護シャッターを閉鎖いたします。念のため、屋外の方は屋内に、飛行中の飛行船などは緊急着陸をお願いします。繰り返します。こちらは、ガンク……』

 その放送に観客らは完全ではないものの、ある程度の落ち着きを見せた。谷の傍の岩山からの落石は、そう多くはないものの珍しい事ではない。谷に沿うように設置されている防護シャッターまで閉鎖することは珍しいものの、国民はある程度慣れているようだ。
 クロエもその周囲の様子を察知したのだろう。落ち着いたように一息つくと、少しだけ笑いながらルウガルーの方へと向き直った。

「いやぁ、びっくりしちゃった。こんな事あるんですね……って、ルウさん?」

 ルウガルーへ話しかけたクロエだったが、すぐにその言葉は途切れてしまう。ルウガルーは周囲やクロエの反応とは真逆に、その放送を聞いてからより一層その顔色を悪くしていた。脂汗をたらたらと流し、焦点は虚ろ。ブツブツと何か小さな声で呟いていた。

「ル、ルウさん!!」

 クロエがルウガルーの下へ駆け寄り、その両肩をつかんで揺さぶった。すぐには気が付かなかったものの、ルウガルーはクロエの呼びかけにハッとしたように目を見開く。

「あ……ク、クロエ殿……」
「一体どうしたの? 顔色が悪いけど、何があったの?」
「た、大変であります……! こ、このサイレンは……この放送は……!」
「この緊急放送が、どうしたって言うの? 観客の人も、別に慌ててる様子じゃないけど……」

 クロエが再び周囲を見渡しながらそう声をかけた。その言葉通り、周囲の観客らはいまだ多少の動揺を見せるもののパニックなどを見せる様子はない。むしろ、フィールドの中心で何やら話し込んでいるクロエたちの方を訝し気な顔で見ている者もいた。それらの様子から判断する限り、どうやら周囲の反応が抜けているのではなくルウガルーの反応が異常なようだ。

「と、当然であります。周囲の観客は、何も知らないのでありますから……」
「え? ど、どういう事……?」

 ルウガルーの返答はいまいち要領を得ない。いまだにその顔色は青ざめたままで、どこか混乱している様子も見られた。
 仕方がないので、クロエは声に力を込めてルウガルーに詰め寄った。

「ルウさん。このままそんな風にオタオタされてても何も始まらないよ。この状況がルウさんにとって不足の事態だってことは推測できる。でも、実際何が起こってるかまでは分からないんだ。ねぇ、教えてよ、ルウさん!」

 クロエの言葉にルウガルーは逡巡をみせた。しかし、すぐに決意したような顔になると、誰にも聞こえないようになのか、少し声を落として話し始めた。

「隊長、ヒフミ隊長がこの大会の裏で特殊任務に向かわれているのはご存知ですか?」
「え、えぇと……確か、この国へ向かっているリントブルム逸脱種フリンジの対応だよね? それがどうしたの?」

 クロエの言葉にルウガルーは再び迷うようなそぶりを見せた。しかし、ここまで来て迷ってはいられないと覚悟を決めたのだろう。続く言葉をやっとの思いで口に出した。

「こ、このサイレンは……このサイレンは、ヒフミ隊長が、自分が任務に失敗した際に鳴らすよう、指示していた物なのであります……! 最悪自分が失敗しても、国上空の隔壁さえ閉じれば、被害は最小で済む、と……! そう仰っていたのであります……!」
「そ、そんな……」

 ルウガルーの言葉はまさに青天の霹靂と言うべきものだった。予想もし得ないその答えに、クロエは一瞬足元にぽっかりと穴が開いたような心持になる。だが、ここで焦ってしまってはいけない。いや、情報が足りない今この状況だからこそ、確実に情報を集めなければならない。まず先決すべきはヒフミの安否だ。
 崩れそうになる足に力を再び込めて、クロエはルウガルーへ話しかける。

「ルウさん。ここでああでもないこうでもないと話してても仕方ないよ。ボクたちがするべきことは一つだ。」
「すべきこと、でありますか……?」
「うん。まずはヒフミさんのところへ行こう。ルウさんの蒸奇装甲スチームアーマーって飛行機能ついてるんだよね?」
「え、ええ……そこまで高性能ではありませんが……」

 今までの試合でルウガルーは飛行する場面もあった。それをモニターで見ていたクロエはその事を踏まえた上で話を進める。

「ボクの蒸奇装甲スチームアーマーにはその機能がないけど、魔法で飛ぶことができる。サラさんとミーナさんもつれていきたいから、二人を抱えて飛ぶことは出来る?」
「それくらいなら可能でありますが……い、一体何をしようとしているのでありますか?」

 クロエの指示の意図がつかめないのだろう。ルウガルーは困惑したようにクロエへ問いかけた。クロエはその問いに上空を指さす。

「う、上……?」
「このままだと、隔壁が閉じちゃって国から出られなくなる。他にも道はあるだろうけど、遠回りだよ。なら、最短ルートは一つ。空を飛んで、ヒフミさんの下へ向かおう!」
「な……!? し、正気でありますか!?」
「悪いけど、これ以上話している暇はないよ! サラさんたちを連れてくるからルウさんは準備をお願い!」

 そう言い残すとクロエは背中に翼を展開。ふわりと飛び上がると、観客席のサラたちの元まで飛び去って行ってしまった。

「あ、ちょ、ちょっと!? あぁ、もう! 仕方ないでありますな!」

 ルウガルーはそう吐き捨てると通信を開き、まずはこの大会本部に要所の事情は伏せながらも緊急事態を告げ、その対応に当たると宣告した。クロエらもギルドAランクの実力者として同行させることを告げる。
 次に開いたのは国軍本部への回線である。エマージェンシーコールをすでに受け取っていた国軍本部はルウガルーに調査命令を出した。ギルドAランクであるクロエらの動向もすぐに許可される。
 これで準備は整った。一息ついたルウガルーの下へクロエたち三人が集まる。

「緊急事態らしいですわね。微力ながら加勢いたしますわ!」
「お二方の決勝を拝見できなかったのは残念ですが、事態が事態です。それよりもこの国の危機を救いましょう。」

 まるで助力することに何のためらいもない二人の様子に、ルウガルーは少しばかり面食らったような表情になった。

「お、お二方とも、何故そこまで力を貸してくれるのでありますか? 我々国軍も、ヒフミ隊長も、お二方とは直接の関係はないはずでありますのに……」

 ルウガルーの疑問にきょとんとした顔になった二人だが、すぐに顔を見合わせるとサラが口を開いて言った。

「私の大切な人の、友人ですもの。助けない理由がありませんわ!」
「右に同じく、です。さ、ここで話していても埒があきません。私たち二人は飛べないので、申し訳ありませんが連れて行ってください。」
「り、了解であります!」

 感激したように敬礼したルウガルーは両腕部と背後のスラスターを展開、両腕にサラとミーナを乗せた。

「準備できたみたいだね。さ、行こう!」
「隊長……今、向かうであります!」

 勢いをつけて飛び上がった二人は、あっという間にコロッセオを飛び出し、立ちふさがる建物や飛行船を避け、閉まりかかる隔壁を抜け、国外へと飛び出したのであった。

―続く―

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