白銀が征く異世界冒険記―旧友を探す旅はトラブルまみれ!?―

埋群のどか

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第三章:蒸奇の国・ガンク・ダンプ

第66話

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 陽も暮れかかった砂漠を、土煙を上げて移動する影があった。一つは大きな機械のような様相である。両腕に二人の人物を乗せて飛んでいた。その顔はやり切ったような、満足げな表情である。
 もう一方、こちらはとても小さなシルエットをしていた。隣で飛ぶ影が背部のスラスターらしきもので飛ぶのに対し、背中から伸びた黒い羽で飛んでいる。同じように人を一人抱えて飛ぶその様子は、隣とは対照的にすこし物憂げなものだった。
 もうすぐ陽も暮れるであろう時間帯、茜色に染まる空の下。優しい日差しは砂漠の酷暑もなく、ほんのわずかな間の快適な暖かさを届けていた。
 だからだろうか。ヒフミを抱えて飛ぶクロエは彼女に向かってポツリと呟いた。

「……ねぇ、ヒフミさん。」
「ん? 何だ、どうした?」
「少し、話したいことがあるんだ。」
「それは、皆の前では話しにくい事なのか?」
「そう、だね……できれば二人っきりがいいな。」
「……分かった。ルウに【魔力念話テレパス】で伝えておこう。少し待ってろ。」

 そう言うとヒフミはルウガルーへ向けて【魔力念話】を発した。受信したルウガルーは始めこそ驚いたものの、ヒフミの真剣な様子に何かを察したのかすぐに頷いてサラたちに事情を話した。二人もルウガルーから話を聞き、クロエの方を見てそのことに了承した。
 辺りを見回し、近くに丁度いい岩場があることを確認したクロエはルウガルーの方を向き合図をしてそちらへ方向を変えた。ルウガルーはそのまま直進し、ガンク・ダンプへと向かう。
 岩場の上、柔らかな夕焼けが姿を照らす砂漠の世界。ゆっくりと着地したクロエは盛り上がった近くの岩にヒフミを座らせた。その一連の行動に、ヒフミが少し照れたように顔を赤らめた。

「フフッ、まさかお前に抱えられてこんな風にされるとはな? 男だった時よりたくましいんじゃないか?」
「ん、まぁね。この身体は人間じゃないから……」

 ヒフミの言葉にクロエは軽口もなく言葉を返す。その反応にヒフミは察するものがあった。

「話したい事は、その身体の事か?」
「……うん。色々と思うことがあってね。」

 そう言うとクロエはヒフミに向かい合う位置に座り込んだ。何かを思い出すように上空を見つめる。ふと吹き抜けた風がクロエとヒフミの長い髪をなびかせて行った。吹かれた髪を手櫛で直したヒフミだったが、向かい合うクロエは乱れた髪そのままであった。

「ボクさ……この国に来る前、吹っ切れたつもりだったんだ。転生したこと、この身体のこと……でも、この国であった戦技大会で『バケモノ』って呼ばれて、さっきのグラン・ガラドヴルムと戦って、思ったことがあったんだ。」
「ふむ……」
「ボクのこの身体……間違いなく人間じゃないし、身体能力とか魔力とかだって明らかに人間レベルは超えてる。そう考えるとさ、さっきのグラン・ガラドヴルムだってリントブルムって言う種族の範疇を超えちゃったからこうして討伐されたんだから、何か、やりきれない気持ちになっちゃって。アイツは、言ってみればただ歩いていただけだし、その道中に偶然ガンク・ダンプがあっただけ。もしアイツが逸脱種フリンジでさえなければ殺されることはなかったんだ。」

 クロエは上に向けていた顔を下げると、ヒフミの方を向いた。その真剣な眼差しにヒフミは言葉に詰まる。クロエの言葉はまだ続いた。

「ねぇ、ヒフミさん……ヒフミさんはボクの事、怖いと思う? ボクの事、どう思ってるの?」

 クロエの問いかけに、ヒフミは少し考えるような仕草を見せた。ここで軽率に優しい言葉をかけないのは、彼女の生真面目さ故なのだろう。砂に覆われた静寂の世界、風の吹く音のみが耳朶を叩く中、静寂を破ってヒフミが口を開いた。

「そうだな……私は、怖くないさ。お前のことは、それこそ前世から知っている。比喩でも何でもなくな。だからこそ言える。だが、そうじゃなければ? お前のことを良く知らず、ふとお前に出会っていたら……その時私は、お前に恐怖を抱かない自信がない。」
「……」

 ヒフミの言葉にクロエは沈黙を保ったままだ。沈みゆく太陽、暗がりゆく世界。まるでそれはクロエ自身の心を示すかのように重く、暗くなっていく。

「さっきの戦いでも、恐怖は抱かなかったがゾッとした。確かに皆の力もあったが、ほとんどお前の力で決まったようなものだ。まだまだお前の力は洗練され切っていない。私なんて歯牙にもかけないほど強くなるだろう。その時、私ははたしてお前に、今日と同じように言葉をかけられるのか? 自身がない、と言うのが本音だな。」
「そっか……」

 クロエが落胆したでもない、抑揚の少ない言葉でそう漏らした。少しの間二人の間に静寂が訪れる。沈みかけの太陽は急速にその姿を隠しつつあった。

「……冷えて来たね。もう戻ろっか。」

 クロエがそう口を開いてヒフミの下へ近づいた。ヒフミはある程度回復できたのか、自身の力で立ち上がる。
 背中は翼があるために背負えないクロエは、先ほどと同じようにいわゆるお姫様抱っこの体勢でヒフミを抱えた。ふわりと浮かび上がると、そのままガンク・ダンプの方向へ移動する。
 すこし肌寒さを覚える風を浴びながら、ヒフミが口を開いた。

「……さっき話したのは、私の嘘偽りない本心だ。どうだ、落胆したか?」
「そうだね……ショックじゃないって言えば嘘になるかな。でも、嬉しかったよ。変に嘘をつかれるよりも本音を話してくれてよかったよ。」

 遠く地平線に薄っすらと明かりが見える。太陽が沈んだ方向とは真逆の位置にあるそれは、クロエたちが守った紛れもない人々の営みの明かりだ。
 飛びゆく二人の間に会話はなく、ただただまっすぐに帰国するのだった。


 ―続く―
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