白銀が征く異世界冒険記―旧友を探す旅はトラブルまみれ!?―

埋群のどか

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第三章:蒸奇の国・ガンク・ダンプ

第67話

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 ――そこは、いつもの世界ではなかった。
 ――そこは、荒風吹きすさぶ空の世界ではない。
 ――そこは、戦火残る荒れた戦場。
 ――彼女は、一人立ちすくんでいた。

「……バケモノ、か。」
「なんじゃ、まだウジウジしとるのか?」
「お、お前……!」
「起きると忘れておるようじゃが、ここに来ると思い出すじゃろ? ここは貴様の精神世界とも言うべき場所じゃ。なら、妾がいてもおかしくはなかろう?」
「ふん……で、魔神様が何の用なの?」
「そんなこと妾が知るか。貴様の精神世界じゃろう? 妾もいつの間にかここにおったのじゃよ。この景色も……まぁ、懐かしいの。」
「それじゃあ……早く消えてよ。今はお前にかまってるほど余裕があるわけじゃないんだ。」
「知っておるぞ。『バケモノ』呼ばわりされて悩んでおるのじゃろう?」
「――ッ! な、なんで……」
「貴様はバカか? お前の内に封じられている妾じゃぞ? 貴様の鬱陶しい愚痴が直に聞こえてくるわ。で、強すぎるが故の悩みか。フン、贅沢なことじゃの。」
「……わかってるさ。でも、悩むものは悩むんだよ。」
「良い解決方法があるぞ。妾に体を明け渡せ。さすれば名実ともに『バケモノ』じゃ。どうじゃ、名案じゃろ?」
「ふざけるな! そんなこと出来るわけないだろ!」

 ――クロエが声を荒げながら振り向いた。
 ――しかし、そこには誰もいなかった。
 ――残火の荒城が黒い空の下に鎮座する。
 ――クロエは一人、肩で息をしながら立っていた。










「ん? むぅ……ふぁ~あ……朝か。」

 入国当初、ギルドの紹介で取った宿の一室。そこの大きなベッドの上でクロエは目を覚ました。服は昨日のまま、髪はボサボサの実にだらしない姿である。

「んー、昨日は忙しかったしなぁ……」

 髪をグシグシと荒く撫でつけながら、クロエは昨日の様子を思い返していた。



 ヒフミを連れガンク・ダンプに帰国したクロエだったが、すっかり日が暮れた空の下たどり着いたガンク・ダンプはすでに警戒状態が解かれていた。国に降りるための昇降機に入りたどり着いた谷の底。鉄柵に囲まれた籠が開かれた先には、ルウガルーを始めとした軍人ら、そしてサラとミーナが待ち構えていた。

「「「任務成功、お喜び申し上げますッ!!」」」

 ザッと音をそろえて行われる敬礼に二人は一瞬呆気にとられてしまう。だが、抱えられた状態からクロエの肩を借りていたヒフミはすぐに敬礼を返した。クロエはサラとミーナの下へ駆けよっていく。

「……おかえりなさい、ですわ。」
「はい、今帰りました。」
「何を話されていたのか……それを聞くような真似は致しません。ですが、問題は解決しましたか?」
「ありがとうございます……正直、解決はしてませんけど、これはもう少しボクが考える事だと思うんです。」
「そう、ですの……無理はなさらないでくださいね? 私たちはクロエさんの味方ですわ。」

 三人が会話する傍らで、ヒフミの胸にルウガルーが飛び込んでいた。今まで我慢していた不安や心配などが堰をきってきたのだろう。隊員の目も気にすることもなく抱き着いて泣いている。

「ううぅ……心配したであります……!」
「……済まなかったな。だが、これで確かに作戦成功だ。みんな! 国は守られたぞ!!」
「「「ウォォオオオッ!!」」」

 国軍の隊員らがヒフミの言葉に喜びを爆発させていた。それを外野から三人は見つめている。そんな三人にヒフミから声がかけられた。

「おい、クロエ。すでにルウが報告は終わらせてあるから、これにて作戦は終了となる。詳細な報告書は後日でもいいだろう。お前にはキチンと礼を言いたい。これから慰安をかねて飯に行くが、一緒に来てくれないか?」
「え? いや、気持ちは嬉しいけど……二人は?」
「この中の、一番の功労者はクロエさんですもの。クロエさんが行きたいのであれば行きましょう。」
「そうですね。しかし、飲みすぎはダメですよ?」

 二人から許可の出たクロエは共に行くことを告げる。無論サラとミーナも同じだ。すでに三人の活躍は隊員たちに知れ渡っている。歓声をもって迎えられた三人を連れて、影ながら国を救った英雄たちはひっそりと疲れを癒しに行くのだった。



「う~ん……ちょっと呑みすぎちゃったかなぁ……ヒフミさんも少し引いてたもんなぁ。」

 クロエの身体は、どうやら内臓機能の方も常人より強かったらしい。部隊の中でも一の酒豪と名高いルウガルーと最後まで張り合って酒を煽っていたのだった。

「あー……マズイ。ちょっと頭が痛い……」

 うつむきがちに頭を抱えてクロエは呻いている。するとそこへ、寝室の扉からノックの音が聞こえてきた。

『クロエさん? 起きていますか?』
「あ、はーい……起きましたー……」
『フフッ、どうやら酷い様子のようですね。入りますよ。』

 そう会話が終わると寝室の扉が開かれた。扉をくぐって入ってきたのは、その手に水の入った水瓶を持ったミーナである。その姿は久々にメイド服がとても似合う姿だった。
 ミーナはクロエの傍まで寄るとどこからともなくコップを取り出し、なみなみと水を注いでクロエに手渡した。

「ん……ゴクッゴクッ……ぷはっ。ありがとうございます……」
「ですから、あれほど飲みすぎないようにと仰いましたのに……」
「はい……すいません……以後気を付けます……」
「とりあえずこれをお飲みください。先ほど調達しました頭痛薬です。」

 クロエはミーナから手渡された薬液を、苦そうな顔をしながらやっとの思いで飲み干した。実際とても苦かったそれは、現在の苦い物が苦手な体となったクロエには苦痛であったようだ。

「さて、目覚めたばかりで申し訳ありませんが、クロエさんにギルド支部長から収集がかけられています。どうやらヒフミ様も一緒のようですので、おそらく昨日の報告待ちでしょう。昼過ぎと仰っておりましたので、そろそろご支度ください。」
「わかりました……あれ? そういえば、サラさんはどうしたんですか?」
「お嬢様なら、そちらに。」

 ミーナの言葉に振り返ると、そこにはクロエと同じように昨日と同じ服装でベッドに寝転ぶサラの姿があった。その表情はとても苦しそうに見える。

「お嬢様は、いえエルフ全体に言える事なのですが、お酒にとても弱いのですよ。それなのに昨日はクロエさんと張り合うように飲んでいらっしゃいましたから……まぁ、夕方まで起きられないでしょうね。」
「サラさん……」

 二人分の憐みの眼差しをうけたサラは、気づいているのかいないのか、ゴロンと寝返りをうっていた。

「まぁ、とりあえず湯あみをされてはいかがでしょう。内風呂はすでにご用意できておりますので。」
「あ、ありがとうございます。」

 ミーナの手を取ってベッドから降りたクロエは、手渡された着替えをもって寝室を出る。ミーナも共に寝室を出て、そのまま部屋を後にした。

「とりあえず、お風呂入ろう……」

 眠気眼のクロエは、トボトボとした足取りで浴室へと向かったのだった。

―続く―
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