白銀が征く異世界冒険記―旧友を探す旅はトラブルまみれ!?―

埋群のどか

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第四章:犠牲の国・ポルタ

第76話

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「ふむ、なかなか良い稼ぎになりましたね。」

 ミーナが金貨の入った革袋を手にしながら、満足そうにそう呟いた。ジャラジャラと音のなるそれは、中身を察するにかなりの額なのだろう。
 ミーナは空間魔法【パンドラ】を展開し、亜空間に革袋を収納した。恐らくこの世界で最も安心できる収納場所だろう。これで盗まれたり奪われたりする心配はなくなった。

「本当だね。魔結晶ってこんなに高く売れるんだ。騎士団の人たち驚いていたもんね。」
「そういえばクロエさんは、ガンク・ダンプでの換金の場面を見ていませんでしたものね。かく言う私も実際に見たのは初めてでしたけど。」
「魔結晶が高価な理由ですが、無論魔結晶の需要がそれほど高いと言う理由もあります。」

 三人は詰所を出た北区画の大通りを歩きながら話に花を咲かせていた。北区画はどうやら主に居住区画らしく、一般家屋や商店、そして宿屋が数件存在していた。

「も、ってことは他にもあるの?」

 クロエがミーナの言葉に反応する。クロエの言葉を受けたミーナは頷きを一つ返すと、歩きながら言葉を続けた。

「もう一つの大きな要素として、魔物自体が強力である事ですね。魔結晶自体がなかなか供給されないのです。需要は高かれどその供給は少ない。これで価格が高くならないはずがありませんから。」
「あー、そっか。普通の人は魔法も使えないんだもんね。」
「クロエさん、自画自賛みたいであまり言いにくいですけど、魔法が使えても魔物を討伐出来るかは別ですわよ? 私たちだからある程度楽に倒せるんですわ。勘違いはダメですわよ?」

 サラが苦笑しながらクロエに注意を加えていた。クロエ自身が非常に強力な存在であるから忘れられがちであるが、ギルドに所属するメンバーの平均レベルはSからEの中でCに届くかどうかと言うレベルなのだ。魔物を道中に資金稼ぎで討伐していられるパーティーはそう多くない。ましてこんな少人数など本当に稀少だろう。

「さて、日暮れまで時間がありませんし、少し分担して動きましょうか。」

 ミーナが懐から懐中時計を取り出して提案した。補給と観光が主な目的である以上、夜間に出歩く用事はない。

「では、私たちで買い物をしてきますわ。その代わり、ミーナは宿を取ってくれませんこと? 私たちは宿を取ったこともありませんし。」
「それが妥当ですね。ではお嬢様、こちらをお持ちください。必要物品のメモと……資金はイグナシアラント金貨の方が良いでしょうね。どうぞ。」

 そういったミーナは再びパンドラへ右手を突っ込むと、小さな革袋と紙片を取り出した。それをサラへ渡す。サラは紙片を一瞥するとそれを懐へ、革袋は腰のベルトに着けた。
 ミーナの言葉に出てきた「イグナシアラント金貨」と言うのは、主に人類種の国家で普及している共通貨幣である。この世界では貨幣は統一されていない。国家内でそれぞれ独自の貨幣制度を導入している。また国家間で条約を結んで共通貨幣制を取ることもある。
 しかし、国家間を行き来する商人にとって貨幣が異なるのは手間が増えてしまう事となる。為替の問題もある。金や宝石類の物々取引では、貨物が圧迫されてしまう。
 その不満を解消すべく、商人連合と冒険者・旅人相互扶助組合、通称ギルドが連携して発行しているのが「イグナラシアラント金貨」なのだ。その価値は連合とギルドが保証しており、人類種の国家はほぼすべてが、その他魔族の国家の大部分でも導入されている信頼度の高い貨幣なのである。

「そう言えば、ボクたちのお金は基本的にミーナさんの管理だけど、どんな風に管理してるの?」

 クロエがふと思い立って尋ねた。サラも興味があるのだろう、無言でミーナの返答を待っている。

「基本的にはイグナラシアラント金貨です。大体、資金の半分ほどですね。残り四割は宝石類や魔結晶で、一割程度はその国々の貨幣に換金しております。過去の旅ではイグナラシアラント金貨の割合はもっと少なかったのですが、現在は普及が進みましたからね。これが安心です。」

 ミーナの返答はクロエの予想以上にしっかりと考えられたものだった。流石エルフの郷では長老であるサーシャの秘書であっただけはある。

(そっか、ミーナさんって日本で考えれば官房長官みたいなものになるのか。)

「やっぱりミーナさんについて来てもらって正解だったね。ボクだけだったらそんなお金の管理出来てなかったもん。」
「そんな……おだてても何も出ませんよ? ……ですがクロエさん、あそこのお菓子でも食べますか?」

 ミーナが謙遜しつつもクロエにお菓子を買い与えていた。ポルタの家庭的な焼き菓子らしい。甘い香りがクロエの鼻孔をくすぐる。クロエはそれを「ありがと!」と言いながら受け取って食べ始めた。なんとも微笑ましい様子である。ミーナのこの行動を見る限り、どうやら表には出さないが彼女も褒められて嬉しいようだ。
 すると、突然サラが後ろからクロエの服の裾を引っ張った。

「……クロエさん。あの、わ、私はどうですの?」
「え? サラさん、ですか……えっと、ですね……」

 クロエが言葉を濁した後に視線をそらした。その反応にサラがショックを受けたような表情となる。わざとらしく「よよよ……」と膝をついた。

「嘘だよ嘘! 冗談だよ! サラさんだってかけがえのない仲間だよ。郷を出たとき、一番初めにボクの下に来てくれたんだもん。とても嬉しかったんだから!」
「ク、クロエさん……! フ、フーン、騙されませんわ? 言葉だけなら何とも言えますものね……?」

 クロエの言葉にサラは一瞬目を輝かせるものの、少し拗ねたような態度を取った。わざとらしく呟きながらクロエを横目でチラチラ見ている。

(あ、これ面倒な奴だ。困ったなぁ……)

 クロエが助けを求めるようにミーナへ視線を向けるも、ミーナは関係ありませんとばかりにそっぽを向いていた。そしてそのまま一礼すると、宿を取るべく彼方へと去ってしまう。

(み、味方もいないのか。しょうがない、少し恥ずかしいけど……)

 心の中で嘆息したクロエは覚悟を決めてサラの正面に回ると、恥ずかし気に赤らんだ顔のままサラを正面から抱き留めた。

「ク、クロエさん!?」
「さ、さっきの言葉は本心だよ? サラさんには本当に感謝してるもん。」

 クロエの薄いながらもしっかりと柔らかい少女の身体が、サラに確かな重みと安心感を与えてくれる。その柔らかな感触と熱さにサラが鼓動を早くした。

(え? え? えぇ!? ちょ、ちょっとからかってみるだけのつもりでしたのに、何というゴネ得! で、でもこの状態、かなりマズいですわ! 主に私の理性が!)

 少女特有の甘い香りがクロエの髪から立ち上る。サラの理性を破壊しかねないその凶悪な魅力はサラの顔を真っ赤にさせるには十分すぎた。
 そしてそれはクロエも同様である。

(マ、マズイ……! サラさんすっごいいい匂いする!? それに、その、おっぱ……胸も当たってるし!? やっぱこれ止めるべきだったかな!)

 目をぐるぐるさせて顔を真っ赤にさせるクロエ。もはや両者ともこれからの展開を望めそうになく、膠着状態にある。どうでもいいが、人通りが少ないとはいえ真昼の往来である。国によっては警察が呼ばれても仕方ないだろう。
 そろそろクロエたちがいろいろな理由で限界に達しつつあったその時、不意にとある商店から出てきた影が大きな声を上げて二人を引きはがした。

「ちょっ! こんな真昼間からなにやってんのよアンタら!?」
「ふぇ……?」

 ―続く―
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