白銀が征く異世界冒険記―旧友を探す旅はトラブルまみれ!?―

埋群のどか

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第四章:犠牲の国・ポルタ

第86話

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 クロエが脱獄《プリズンブレイク》を敢行していた一方、クロエ失踪の真実に気が付いたサラ達三人は現在――

 ――何故か空を飛んでいた。

「うぅ……夜の上空ってこんなに冷えるのですわね……!」

 少し見当違いな声を上げたのは、漆黒の空に金の髪をたなびかせるサラだ。このポルタは現在温暖期にあるが、それでも夜の上空で風を受けていると寒く感じるらしい。エルフ特有の長い耳の端が少し赤くなっている。

「お嬢様、こちらをどうぞ。」

 そう言いながら亜空間よりマフラーを取り出しサラに手渡したのはミーナである。彼女は一体どこで用意したのか、飛行士が付けるようなゴーグルを装備していた。
 ミーナが手渡したマフラーをサラが礼を言って受け取った。そしてぐるぐると装着し始める。その様子を見てミーナが少し眉尻をひそめて話しかけた。

「お嬢様、せっかく風魔法への適性がありますのに飛行魔法をどうして習得なさらないのです? 大長老様は習得なさっていらっしゃいましたよ?」
「だ、だって……郷では空を飛ぶ必要なんてありませんでしたもの! まさか郷を出るだなんて考えてもいなかったですし……でも、やっぱり覚えた方が良いですわね。」
「そうですね。今後このような事態がそうそうあるとは限りませんが、あらゆる場面で役には立つでしょう。」

 ミーナがこのような場面と言った時、彼女は自身の下を見下ろした。その視線の先にあったのは、彼女たちが乗る巨大な蝙蝠である。
 二匹の巨大な蝙蝠はバッサバッサと大きな羽音を立てながら、月の夜空を背景にサラとミーナを乗せた浪漫飛行である。その内の一匹がミーナの言葉を受けて話し出した。

「え、何よ。アンタ頑張れば飛べるの? んじゃあちょっと自分で飛んでよ。分身して変身して人乗せてって、いくらアタシでもちょっとキツイんだけど。」
「いやあの、エリーさん? 私はまだ飛行魔法覚えていませんのよ?」
「気合で何とかなるんじゃない? ほーら。」

 そう言ったサラの乗っている蝙蝠が、なんと空中で半回転。乗っていたサラは危うく落下しかかってしまう。

「キ、キャーッ! キャーッ!? ちょちょっ、冗談になりませんわよ!? も、戻して! 戻してくださいですわ~!?」
「ほらほら、早く飛ばないと落ちるわよ~?」
「やめてくださいましッ! ちょ、ほんとに! 本当に落ちますからッ!!」

 今までの静かな星空散歩はどこへやら。ギャーギャーと騒がしくなってしまった夜空に、ミーナは静かにため息をつくのだった。

「……エリー様、お戯れはそのあたりになさってください。お嬢様もそう騒がないでください。」
「これが騒がずにいられますかッ!? いい加減にしてくれませんこと!?」
「あー、はいはい。悪かったわよ。ほらっ」

 掛け声と共に蝙蝠ことエリーはもう半回転し、元の飛行体勢に戻った。危うく落下を免れたサラは、荒い息のまま何度も何度も呼吸を重ねた。

「ハッハッ……し、死ぬかと思いましたわ……!」
「お嬢様、今はふざけている場合ではありませんよ?」
「そうよ、信じられないわ。これからクロエの救出に行くって言うのに……」
「どの口が言いますのっ!?」

 付き合いの長いミーナは分かるが、先ほど知り合ったばかりのエリーまでもがサラをからかって楽しんでいた。サラの顔は夜でも分かるぐらいに真っ赤になっている。これもひとえに、サラの雰囲気や性格によるものなのだろうか。

「そ、それで、どうして空から大聖堂へ向かっているんですの!? 私、聞いておりませんわ。」

 サラがやや憤慨しながらそう二人へ尋ねた。その様子はまるでからかわれたことに対する照れ隠しのようで、ミーナも苦笑しながら答える。

「それはもちろん、効率よくクロエさんを救出するためです。」
「だから、そこでどうして空から行くことになるんですの? 堂々と大聖堂の正面から行って、悪事を糾弾すれば良いではないですか。」
「……アンタ、見かけによらず脳筋なのね。」
「な、何ですって!?」

 サラの発言にエリーが呆れながらツッコミを入れた。サラは憤慨するが、隣のミーナは「やれやれ」とでも言わんばかりに頬に手を添えている。
 バサバサと羽を羽ばたかすエリーが、仕方ないとばかりに解説を加えた。

「常識的に考えて、よ? いきなり大聖堂に女三人がやってきて『ここに捉えている女性たちを解放せよ!』って叫んでいたら、ただの狂人じゃない。証拠はアタシが蝙蝠状態で見ただけ。あっちは知らぬ存ぜぬで通せるのよ。」
「それにこの国にはギルドもなく、警察機関たる騎士団も大聖堂と友好関係にあります。最悪今回の件も、国は黙認している可能性も否めないのです。そこで、正攻法で行くのではなく、警備の薄い上空より侵入するのですよ。」

 改めて聞かされた作戦に、サラも先ほどの宿屋での作戦会議を思い出す。ミーナとエリーの二人で話し合っていたためにいまいち分からなかったが、断片断片で聞き取れた単語がようやく結びついた。

「そんな作戦なら、私にも教えてくださればよかったですのに……」
「お伝えしようとしましたらお嬢様、『話は終わりですの? さぁ、行きますわよ!』と言ってきかなかったではありませんか。」
「そ、それは……」

 痛いところを突かれたとばかりに胸を抑えるサラ。そう、彼女は単語単語を耳にしてはいたが、詳しく聞こうとはしていなかったのだ。彼女の内心はクロエを助けに行くと言う一年に満たされていた。はやる気持ちを抑えきれなかったのも無理はないだろう。

「ま、まぁ、良いじゃありませんの。ここできちんと聞けたので結果オーライですわ。あ! 城が見えましたわよ!」

 肌寒い夜空だと言うのに軽く汗を流していたサラが、露骨な話題逸らしに見えてきた城を指さした。それを理解していながらも、ミーナは苦笑しながらサラの指さした方角を見る。
 眼下に見えるのはポルタの東区画の大部分を占める大建築物、ポルタ皇国の大聖堂だ。石造りの壮大な尖塔も建ち並び、まさに圧巻の様相を誇る。

(クロエさんがここに囚われているとしたら、探すのは骨が折れそうです。しかし、まさか彼らも大っぴらに女性たちを捉えては置かないはず。ならば……地下、ですかね。)

 ミーナが城を見下ろし思案する。どうやら一筋縄ではいかないようだが、それでも臆する気配は一切見せず冷静に事態を把握していた。

「さ、着いたわよ。やっぱり上の方は見張りがいないわね。地上にいるけど。」
「着いたのは良いですけど、大きいですわね……。探すのは大変そうですわ。」
「……おそらく、女性たちは地下などの目立たない場所に囚われているでしょう。エリー様、右前方のテラスに向かってもらえますか? 降りましょう。」

 大聖堂を見下ろしたミーナがエリーにそう指示をした。空を刺すかのように突き出た尖塔、その内の一番近い塔のテラスである。その場所ならば見張りもなく安全に着地できるだろう。
 ミーナの指示に従ったエリーはそのテラスへ向かい二人を降ろした。そして自身も元の姿に戻る。三人は体勢を低くして窓から身を隠した。

「……で、ここからどうするのよ?」

 口火を切ったのはエリーだった。どうやら彼女は二人を大聖堂へ連れていくことのみを考えていたようだ。その言葉にミーナが答える。

「私たちはこれより大聖堂へ潜入します。エリー様、ここまで連れてきてくださり、誠にありがとうございました。」
「ええ、本当に助かりましたわ。ありがとうございます。」

 二人が笑顔でエリーに感謝を伝えた。その言葉にエリーがにわかに焦りを見せる。

「ちょ、待ってよ! アタシ、別に帰らないわよ!?」
「……え? そ、そうですの?」
「言ったでしょ? アタシにもアタシの目的があるの。その為にこの国に来たんだから。」
「確か……探している方がいらっしゃるのでしたか?」

 ミーナが思い出すように顎に手を添え、口を開いた。その言葉にエリーは頷きを返す。

「そうよ。ちょっとそいつに用事があってね。そう言う訳で、アタシもついて行くわ。単なるついでよ? べ、別にクロエの事なんて心配してないわよ?」

 照れ隠しのような言葉にサラとミーナが顔を見合わせた。そして同時に軽く噴き出す。

「な、なによ!?」
「いえいえ。エリー様のお気持ち、大変ありがたく存じます。なにとぞ、よろしくお願いいたします。」
「わ、分かればいいのよ。さ、これからどうするのか説明してちょうだい!」

 改めて目標を一つにした三人は改めて顔を突き合わせた。そしてミーナが作戦を話し始める。
 今ここに、クロエ奪還作戦が始まったのだった。


 ―続く―
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