白銀が征く異世界冒険記―旧友を探す旅はトラブルまみれ!?―

埋群のどか

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第四章:犠牲の国・ポルタ

第89話

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 サラ達が本格的に探索を始めたその頃、クロエもまた大聖堂の地下空間をさまよっていた。

(あれ、おかしいな……? ここさっき通らなかったっけ?)

 ――そう、さまよっていた。

 クロエは初めてアンデッドと聖騎士との遭遇を果たしてから、地下空間を当てもなく歩き回っていた。あれから何度もアンデッドとの遭遇を果たしている。しかしサラ達と違う点を挙げるとすれば、それはなるべく、いや極力戦闘を避けていると言った点であろう。
 クロエは現在、鎖は解かれたとは言え手枷と首枷を着けられているのである。仮に戦闘になってしまった場合、一対一、もしくは一対二程度ならば何とかなろうが、それ以上ならば非常にマズいことになる。特殊な手枷のせいで魔力が封じられているのだ。魔法を主体に戦うクロエにとって、現状はなかなかに最悪だった。

「うぇ……あっちにもいるのか。」

 最初の部屋で拾った剣の欠片を、影腕《アーム》で曲がり角から少しだけ出して先の様子を伺う。きれいに磨き上げられた破片には、キョロキョロと辺りを伺うアンデッドの姿が映っていた。

(あの曲がり角、見覚えがあるな。さっきは確か右に曲がったはず……だったら次は左かな。)

 クロエがそんな事を考えていると、T字路に立っていたアンデッド、クロエはゾンビだと思っているものが、クロエの向かおうとしていた方向へゆっくりと歩いて行ってしまった。

「……あいつ、テレパシーでも使ってるのかな。」

 クロエは小さくため息をついた。しかしここで留まっている訳にもいかない。クロエは足音を最小限に殺し、アンデッドを追いかける形でT字路へ向かった。
 T字路の曲がり角から再び欠片を突き出す。アンデッドが前を向いていることを確認したクロエは、そろりと顔を出した。
 T字路を曲がった先は少し長めの直進路が続き、そしてその先は十字路になっているようだ。薄暗い照明が道を照らしている。

(それにしても、この地下空間はダンジョンか何かなのかな? 無駄に曲がり角とか多いし、意味の分からない部屋とかあるし……。地図が欲しい。)

 クロエが牢を脱出して、体感的に一時間近くは経っている。そのほとんどを探索に費やしているのだが、地下から出る階段すら見つけられていないのだ。クロエは内心で徐々に焦って来ていた。

(いつかはボクが脱獄したこともバレちゃうだろうし、こんな所でぐずぐずしてられないのに……あのゾンビもっと早く走れないの!?)

 もはや死体だからなのか、クロエの目の前のアンデッドは実に鈍間でゆっくりとした歩みだった。早くこの場から去ってほしいクロエにとっては歯がゆい物だろう。
 だが、事態は突然動き出した。クロエが視線を向けるアンデッドのその先、直進路の先の十字路から一人の少女が姿を現したのだ。少女はアンデッドの方に気が付いて驚きの表情を見せる。
 そして、驚いたのは少女だけではなかった。

「――危ない!!」

 思わず叫び声を上げたクロエは、瞬間でいくつもの判断をした。そしてとっさに天井へ向けて影腕《アーム》を伸ばす。石で囲まれた天井には引っ掛かりがあり、影腕《アーム》は容易く天井をつかんだ。クロエは影腕《アーム》を縮め自身の身体を浮かび上がらせる。
 通路のアンデッドがクロエの叫び声に振り向いたのは丁度その時だった。しかし、その時にはすでにクロエの身体はアンデッドの直上にある。上手くアンデッドを上から乗り超えたクロエは、そのままアンデッドの首へ背後から両足を絡めた。そして影腕《アーム》を消し去る。飛び上がった運動エネルギー、空中の位置エネルギー、そして幼いとはいえ十数キロはあるクロエの体重が合わさりアンデッドの身体はクロエの下降と共に投げ出された。
 入れ替わるように宙へ投げ出されたアンデッドは、クロエが首元にしがみ付いているが故に頭から落下する。そしてそのまま、抵抗する余裕もなくアンデッドは、堅い床へ脆い頭を打ち付けるのだった。いわゆる首投げの成功である。
 グシャッと言う何とも不愉快な音と共にアンデッドは活動を停止する。荒い息のクロエは肩で息をしたまま立ち上がった。

「うぇぇ……足が気持ち悪いぃ……」

 軽く涙目になりかけているクロエだったが、何故アンデッドを倒すに至ったかと言う理由を思い出すと、振り返り十字路の方へと視線を向けた。
 そこにはまるで放心しているかのようにクロエの方を見て突っ立っている少女がいた。いわゆるゴスロリと言うのだろうか、黒を基調としたドレスにフリルたっぷりの可愛らしい服を着ていた。
 クロエが少女に近寄る。近くまで来るとよく分かるのだが、少女はとても小さかった。クロエよりも少し小さいだろう。年の頃にして十もいかないだろう。黒色の髪を背中まで伸ばしていた。真っ赤な瞳に真っ白な肌がとても印象的である。服装とも相まってまるで人形のようだ。

(おぉ……凄い可愛い子だね。でも、なんでこんな小さい女の子がここに?)

「……ねぇ、あなた。」
「ん? ボ、ボク?」
「あなた、なんでこんなところにいるの?」

 少女は可愛らしく小首をかしげクロエに尋ねてきた。とても耳から入ってきた聴覚信号であるはずなのに、なぜだか甘さを感じさせるほどの声である。ますます持ってここにいることが似つかわしくない。
 しかし、ここでクロエはとある可能性に気が付いた。

(ま、まさか……この子もボクと同じように攫われてきたんじゃ……!? どうにかして逃げ出してきたのかな。それなら、敵じゃないことを伝えて安心させなくちゃ!)

「安心して、ボクも君と同じように攫われてきたんだ。ここはゾンビがいっぱいいて危険だから、ボクと一緒に行こう?」

 クロエが笑顔で少女に手を差し出した。少女は混乱しているのか、少しの間クロエを見て悩むような仕草を見せていた。しかし、すぐに花が咲くような笑みを見せると、可愛らしい声でクロエの手を取る。

「……そうなの、お姉ちゃん。アタシ、突然こんな所に連れてこられてびっくりしちゃった。お姉ちゃん、アタシの事守ってくれる?」
「と、当然だよ! よし、じゃあボクに付いて来てね? さっきみたいなゾンビがいっぱいいるからね。」
「うん! ……ゾンビ? さっきのはアンデッドだよ、お姉ちゃん。」
「ア、アンデッド? ……うん、知ってるよ! 勘違いしちゃったんだ。」
「フフッ、……お姉ちゃん、かーわいい。」

 少女の目が怪しく輝く。その瞳はまるで、獲物を狙う狩人のようだ。クロエが違和感を覚えもう一度少女を見ると、そこには先ほどまでと同じ少女がいるだけだった。
 首をかしげながら可愛らしい様子でクロエの方を見る少女。怪しい様子はない。内心首を傾げたクロエだったが、気にしても仕方がないと少女を背に十字路を左に曲がった。そして周囲を警戒しながらもまっすぐに進む。すると、進んだ先にはクロエが見たことのない扉があったのだ。つまり、初めて通る道である。

「ちょっとここで待ってて。中に誰かいるかもしれない。」
「……何となくだけど、誰もいないと思うな。」
「え……? で、でも、一応確認するね?」

 クロエは困惑しながらも扉に近寄った。扉に耳をつけ、中の様子を伺う。

(……うん、何も聞こえないな。)

 中に人の気配を感じられなかったクロエは、慎重にドアノブに手を伸ばした。そしてゆっくりとノブをひねる。少しだけ扉を開くと、その隙間から扉の先を覗き見た。
 扉の先は小さな小部屋になっていた。どうやらクロエが初めてアンデッドと顔を合わせた場所と同じような場所らしい。安心したクロエは更に扉を開くと、慎重に中の様子を伺った。

「……よし、中には誰もいないよ。おいで!」
「だから言ったでしょ? 誰もいないって。」
「い、いやでも、確認しない訳にはいかないし……」
「お姉ちゃん、心配性なんだね。」

 少女はクスクスとクロエの方を見て笑っていた。その笑顔はどこか蠱惑的な魅力を孕む、怪しさに満ちた笑みだった。まるでそれは長い時を経て自然と獲得されたような、ごく自然で、それでいて忘れられないような笑顔だった。

―続く―
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