白銀が征く異世界冒険記―旧友を探す旅はトラブルまみれ!?―

埋群のどか

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第四章:犠牲の国・ポルタ

第90話

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 小部屋に入ったクロエと少女は、入ってきた扉と向かいの扉の鍵を閉めた。これでとりあえずは一安心だろう。二人は部屋に設置された椅子に腰かけた。
 クロエは疲れていたのだろう、椅子に座ると大きく息をついて伸びをした。手枷がジャラリと音を鳴らす。それに気が付いた少女がクロエに話しかけた。

「ねぇ、お姉ちゃん。何でお姉ちゃんはそんなの着けてるの?」
「ん、これ? あ、そっか。君は捕まってる途中だったのかな。たぶん君も牢屋に入れられると着けられたかもよ。」
「あ、うん。そうだね。」

 少女は気の無いような返事をクロエに返すと、部屋の中を見渡した。そして部屋の中のある一点に注目する。

「お姉ちゃん、あんなところに鍵があるよ。もしかしてその手錠の鍵じゃない?」
「え? まさかぁ……でも、本当なら助かるな。」
「取ってきてあげる。」

 少女は椅子から降りると鍵束のぶら下がる壁へ走り寄って行った。そして懸命に背伸びをして、鍵を取ろうと試みる。その様子は幼子が高いところのものを取ろうと一生懸命になっているようで、とても微笑ましいものだった。
 クロエは思わず笑みを浮かべると、影腕《アーム》を展開させた。そしてそのまま影腕《アーム》をのばすと、鍵束を影腕《アーム》で掴む。
 少女は突如現れた影腕《アーム》におどろいたような表情を見せた。しかしすぐにクロエの方を見ると、珍しいものを見たように目を輝かせる。

「すごーい! さっきも出してたけど、それってお姉ちゃんの魔法なの?」
「うん、そうだよ。」
「お姉ちゃんって、実はすごい人なんだね。……フフッ。」

 可愛らしい少女に褒められて喜ばないものはいないだろう。クロエもその例に漏れないようで、少し頬を赤らめながらも嬉しさを隠せないように口元を緩ませていた。
 影腕《アーム》で取り寄せた鍵束を見たクロエは、自身の手枷の鍵穴を見ながら形状が合いそうなものを探す。どうやらこの手枷は素材が特殊なものなのか、影腕《アーム》が少しでも触れると影腕《アーム》が消え去ってしまうのだ。故に牢を出る際にしたように鍵穴に影を突っ込むことが出来なかったのである。

(……ん? この形、まさか……)

 ダメ元で探していたクロエだが、なんと鍵束の内の一本がクロエの手枷の鍵穴とピタリと当てはまりそうなのだ。期待半分、疑い半分でその鍵を影腕《アーム》でつかみ鍵穴へ差しいれる。すると、驚くべきことにすんなりと、まるで吸い込まれるように鍵が入ったではないか。
 クロエは驚きのままに影腕《アーム》で鍵をひねる。すると、「カチャリ」と言う小気味いい音と共に、手枷が外れたのだ。

「わ、わ……! は、外れた……! 嘘……!?」
「わぁ、良かったね、お姉ちゃん! 貸して? 首のやつ外してあげる。」

 少女が近寄って手を差し出して来た。クロエは自分の手で鍵を渡す。少女はクロエに近づくと、顔を近寄せて首元の枷を観察し始めた。

(うわ、何かいい匂いする! 女の人って、こんな小さくてもいい匂いするものなんだ……)

 自身がその女の子である事など頭の隅に追いやって、クロエは何故かドキドキと緊張していた。少女はそんなクロエの気持ちを知らずか、無警戒に身体を密着させて首の後ろを見ていた。よく考えれば後ろに回るだけで良いはずなのだが、現在のクロエにそんな事を思う余裕はない。

「あ、お姉ちゃん。首の後ろに鍵穴があったよ?」
「ひぅっ!?」

 耳元で囁かれた少女の声に、思わず叫び声を上げてしまうクロエ。少女はそんなクロエの様子に、ただクスクスと笑っていた。

「お姉ちゃん、変な声~♪」
「ご、ごめんね? その、耳元、くすぐったいから、早く鍵を外してくれると嬉しいな……?」
「お姉ちゃん耳がくすぐったいの? これも?」

 少女はそう言うと、クロエの耳へ向かって「ふぅ~」と可愛らしく息を吹きかけた。クロエの右耳に何とも言えないこそばゆさが襲い掛かる。

「にゃっ!? や、あんっ!」
「フフッ、お姉ちゃん本当に可愛い……食べちゃいたいなぁ~?」

 少女はクロエの過敏な反応にご満悦のようだ。髪を絡ませ、口元をクロエの耳元へ近づけ、まるで内緒話をするかのようにクロエへ囁くのだ。
 手枷が外れ本来の力を発揮できるようになったクロエだが、枷が外れたからこそ身動きが取れずにいた。いくら相手がまるで少女とは思えないほどであっても、少女は少女である。クロエの人外の力で振りほどいては怪我をさせてしまう可能性がある。クロエはただ耐えて、枷を外すようにお願いするほかなかった。

「ね、ねぇ……! は、早く外してよぉ……!」
「ウフフ……外してほしかったら、ちゃんとお願いして?」
「お、お願い……!?」

 少女は調子に乗っているのか、クロエに首枷を外すよう懇願させ始めた。正直後ろに鍵穴があることは分かっているのでこの頼みを聞かなくても良いのだが、少女の言葉には不思議とそれを聞かせようとする強い力が感じられた。

(が、我慢だ……! 少し背伸びしたい年頃なんだろうし、ここはボクが大人にならなきゃ……!)

「え、えぇと……は、外して、くださぃ……?」
「えー? もっとちゃんと言ってくれなきゃいやー。」
「ちゃ、ちゃんとって……?」
「分かるでしょ? ちゃんと言わないと、お仕置きしちゃうんだから。」

 そう言うと少女は、先ほどよりもより強くクロエに身体を密着させた。子ども特有の熱い体温が感じられる。ついクロエがその少女特有の甘い香りと柔らかさに顔を赤らめると、なんと少女は突然クロエの耳たぶを軽く甘噛みしたのだ。

「かぷっ!」
「ぃひゃん! ちょ、ダ、ダメだって……!」
「んふふ……」

 思わず声を上げてしまったクロエだが、流石にこれ以上はマズいと判断したのか。今までよりも少し強めに制止する。しかし少女は楽しそうな声を上げるばかりだ。さらに耳元から顔を離すと、そのまま首元へ顔を寄せる。ようやく外してくれるのかとクロエが内心安心したように息を吐いた。
 しかし少女はどこまでも小悪魔だった。なんと少女は小さく真っ赤な舌を口から覗かせると、ペロンとクロエの首筋を舐めたのだ。

「ひゃああっ!?」
「レロ……ん、どうひたの、おねぇひゃん? んちゅ、早くお願いしないと、ペロ……またカプッって、しちゃうよ……? はむ……お姉ちゃん、美味しぃ……」

 少女はクロエの首元、首枷の上あたりを器用に舐めたり甘噛みしたりしている。もはやこれまでと限界を悟ったクロエは、プライドを捨て去り少女に懇願するのだった。

「分かった分かった、分かったから!! お、お願いします早くこれ外してくださいぃっ!!」
「んふふ、よくできました。」

 少女は楽しげで満足そうな声を上げると、クロエに再び抱き着くような格好になった。そして今度はそのままクロエの首の後ろでカチャカチャと手を動かしている。
 クロエは荒い息をつきながら、何とか火照った顔と体を冷まそうと、そして跳ねるように鼓動を繰り返す心臓を落ちつけようと必死になっていた。

(うぅ……何なのこの子!? どう考えてもマセてるってレベルじゃないよね!? それか、この世界の子どもって、そ、そう言った知識が早いのかな……?)

 そんな取り留めのない事を考えていたクロエだったが、不意にガチャンと大きな音をたてて首枷が外れた。首元が解放感に満たされる。

「あ……」
「はい、外れたよ。」
「あ、ありがと……できればもっと早く外してほしかったんだけどね……」
「ごめんなさい。だってお姉ちゃん、可愛いかったから、つい……」

 少女はさっきまでとは打って変わったしおらしい様子でクロエに謝ってきた。その様子に先ほどまでの事をつい許してしまう。

(そうだよね……こんな小さい女の子がこんな所に一人ぼっちだったんだもん。少しぐらいふざけたって許してあげなくちゃ。)

「んもぅ、次は本当に怒るからね? もうあんな事しちゃダメだよ?」
「はーい、ごめんなさーい。」

 声だけは申し訳なさそうに、しかし表情は笑顔で少女は謝った。そしてクロエがそっぽを向くと、ペロリと可愛らしく舌を出すのだった。

 ―続く―
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