白銀が征く異世界冒険記―旧友を探す旅はトラブルまみれ!?―

埋群のどか

文字の大きさ
104 / 110
第四章:犠牲の国・ポルタ

第104話

しおりを挟む
 そして、どれくらいの時間が経っただろうか。数秒にも数分にも数時間にも、数日にも感じかねない。しかし実際はそこまで時間は立っていないのだろう。ステンドグラスから注がれる月の光は変わらない。夜明けは、まだ遠い。
 しかしクロエたちは満身創痍の様相を呈していた。三人とも服はボロボロ、体のどこかに傷をこさえている。血も流していた。それぞれが荒い息で咎人を見上げている。

「クッソ、何だこれ……!?」

 ゼェゼェと息を吐きながらクロエが愚痴をこぼした。先ほどから襲い来る触手をかいくぐりミーナのナイフで攻撃を仕掛けているのだが、所詮少女が持つ程度のナイフである。咎人への致命傷となり得ず、すぐに再生してしまっている。
 そしてそれはサラも同じであるようだ。主力の魔法矢が効かない以上物理の矢でしか攻撃できないが、どれだけ風で補助しようとも所詮は矢である。今の咎人には効かないようだ。牽制程度にしか効果が発揮できていない。
 主な主力として活躍しているのはミーナだった。元々あまり魔法に頼らない戦闘スタイルである彼女は、【パンドラ】から繰り出す豊富な武器で咎人と応戦していた。
 しかし咎人はその豊富な武器をことごとく無効化していた。すぐに再生する触手を犠牲に攻撃を受け止め、そのまま武器を破壊もしくは遠くへ投げ飛ばしていた。ミーナは致命傷を与えられず、ただただ手数で応戦するしかなかった。
 つまりは、劣勢である。

「魔法が効かないのがこうも歯がゆいとは……私ももう少し戦い方を見直さねばなりませんわね。」

 ミーナが苦笑を浮かべた。実際彼女は物質の矢を使う機会があまりなく、魔法以外の攻撃手段を持たない。しかしそれは魔法に高い適性を持つエルフと言う種族としては仕方ないのだろう。ミーナのような肉弾戦のできるダークエルフの方が特殊なのだ。彼女自身、過去に一人で旅をしていた。自分である程度のことが出来ねばならなかったのだろうか。

「そんなこと言ったらボクもだよ。不甲斐ない、この体の小ささを久々に呪うね。」

 クロエも苦笑を浮かべながらナイフを握りなおした。そこへミーナの声がかかる。

「……参りましょう。私が引きつけます。お嬢様はサポートを、クロエさんは陽動しつつ弱点などを探ってください!」

 ミーナが言い終わると同時に走り出した。クロエは翼を展開して飛翔する。ミーナは襲い来る触手群を右手に持ったチェーンソーで切り倒し、伸びてきた咎人の腕を左手のハンマーで叩き落した。
 しかしそれでも捌ききれない数の触手群がミーナに襲い掛かるが、サラが風で強化した矢でそれらを射抜く。その狙いはまさに百発百中、ミーナも信頼して背中を預けているようだ。

(やはり、魔法で作った矢は無効化されてしまいますわ。矢だって無限ではないですし、このままではいずれジリ貧に……私ができる事って、一体……?)

 先ほどからミーナとクロエの援護の傍ら【風の矢ウィンドアロー】を混ぜて射っていたのだが、見事魔法の物だけが消えてしまっていた。ついつい思い浮かぶ悪い想像に、思わず歯噛みする。
 そしてそれは宙を舞うクロエも同じであるようだ。クロエは先ほどから襲い来る触手群を華麗に避け、時に手にしたナイフで斬り落としながらなんとか咎人の本体に接敵しようと試みていた。しかし迫りくる触手と腕の圧は凄まじく、ミーナの引き付けとサラの援護がなければすぐに捕まっていただろう。

(クソッ、本体に近寄れない! って言うか近寄っても回復されちゃうし……本当に倒せるのか、コイツ?)

 咎人の周りを飛ぶだけで何もできない自分に苛立ちを隠せなくなってきているクロエ。魔法が効かないだけで、ここまで自分と言う存在が役に立たないとは思いもしなかったのだろう。それがこのようなバケモノ相手ならば尚更だろう。
 しかしクロエの頭には、とある作戦が思い浮かんでいた。この膠着したジリ貧状態を打開し得る、考え付く唯一の方法。だがそれを実行する時間も、そして勇気もクロエには無かった。

(あれは……あの方法はなるべく使いたくない……。本当にアイツに効くかどうかも分からないし、それより危険すぎる。アイツを倒した後、今度はボクが倒される対象になるとか笑えないし……。)

 そんな考え事をしていたからだろうか。宙を舞うクロエは襲い来る触手の一本を避けそこなってしまった。横腹を強く打たれバランスを崩し、右足を触手に囚われてしまう。

「痛……ッ! って、うひゃあ!? 気持ち悪っ! 離せ……!」

 クロエは急いで身体を曲げ、右足を掴む触手へナイフを振るった。しかしナイフを振るおうとした右手が、今度は別の触手に囚われてしまう。

「しま……ッ!」

 あわやピンチかと思われたその瞬間、二本のチェーンソーが回転しながら飛んできてクロエを拘束する二本の触手を切り裂いた。チェーンソーはそのまま飛び去り壁に激突、そのままチェーンが弾け飛び壊れてしまった。

「わ、わ、……うわぁ!?」

 突然解放されたクロエは、とっさの出来事に翼の展開も間に合わず地上へ落下した。体重は軽いとは言えそのダメージは小さくない。肺の空気すべてが衝撃で押し出され、意識がもうろうとしてしまう。

「あ、ぐ、うぅ……?」
「クロエさん!?」

 立ち上がろうとして、しかしふらつき膝をついたクロエの頭上に咎人の拳が振り下ろされた。このままではクロエはミンチになるだろう。
 しかしその直前に飛び込む影があった。ミーナだ。先ほどの投擲で武器を失ったミーナはその身一つでクロエの前に立つ。腕を交差させ、クロエを潰さんとする咎人の拳を受け止めた。

「――ガフッ! くっ、ハァッ!!」
「ミ、ミーナさん!」

 口から血を吐き両足を床へ陥没させたミーナだったが、気合一閃。火事場の馬鹿力めいた迫力で咎人の拳を押し返すと【パンドラ】を展開。体を回転させる動きで中から巨大な包丁のような剣を取りだすと、そのまま横薙ぎに咎人の腕を斬り落とした。

「クロエさん! ミーナを連れて下がってください!」
「は、はい!」

 展開した影腕《アーム》で巨大包丁を持ち上げたクロエは、ミーナを抱えて後退した。咎人は腕を斬られさすがにダメージが通ったのか、触手の群れで斬り落とされた腕を持ち上げそのまま吸収してしまった。そしてそのまま動かなくなる。

「ミーナさん、大丈夫ですか!?」

 クロエが床に座り込んだミーナへ心配そうな声をかける。ミーナは脂汗の浮いた笑みでクロエを見ると、自身のお腹を少し擦りながら答えた。

「……骨と、内臓を少し痛めたかもしれません。しかし、まだ戦えます。ダークエルフは、頑丈ですから、ね。」
「そうは言っても無茶はいけませんわ! ほら、これを飲んで……」

 サラが自身の回復薬《ポーション》をミーナの口へ流し込んだ。普段なら拒んでいるであろうミーナだが、よほど余裕がなかったのだろう。サラからの施しをそのまま受け入れた。

「……申し訳ありません。助かりました。これで、まだ戦えます。」
「でも、このまま無策に突っ込んでも先ほどと同じですわよ? 何か、策を練らないと……」
「その、肝心の策がないんですけどね。」

 ミーナが苦笑を浮かべながら立ち上がった。クロエが影腕《アーム》で回収した巨大包丁を取ると、右手に持って構える。

「まぁ、そうですわね。矢尽き弓折れるまで戦ってやりますわよ!」

 サラも苦笑を浮かべて矢筒から矢を取った。ミーナから渡された矢も残り少ない。それに気が付いたクロエは、心の中でとある決心をした。それは、ともすれば二人を殺しかねない作戦である。しかし、この膠着状態を解除するにはこれに掛けるしかない。
 クロエは覚悟を決めて口を開いた。

「――二人とも、作戦があるんだ。聞いてくれないかな?」


 ―続く―
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

触手エイリアンの交配実験〜研究者、被験体になる〜

桜井ベアトリクス
恋愛
異星で触手エイリアンを研究する科学者アヴァ。 唯一観察できていなかったのは、彼らの交配儀式。 上司の制止を振り切り、禁断の儀式を覗き見たアヴァは―― 交わる触手に、抑えきれない欲望を覚える。 「私も……私も交配したい」 太く長い触手が、体の奥深くまで侵入してくる。 研究者が、快楽の実験体になる夜。

異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める

自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。 その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。 異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。 定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。

無能勇者の黙示録~勝手に召喚されて勝手に追放されたので勝手に旅に出ます~

枯井戸
ファンタジー
力も強くない、足も速くない、魔法も使えないし、頭も大してよくない、どこにでもいるちょっとオタク趣味の主人公・東雲真緒が白雉国に勇者として転生する。 同期の勇者はそれぞれ力が強かったり、魔法が使えたり、回復ができたりと各々の才能を開花させ頭角を現していくのだが、真緒に与えられた才能は異世界転生モノでよく見る〝ステータスオープン〟のみだった。 仲間には使えないと蔑まれ、ギルドには落第勇者の烙印を押され、現地人には殺害されかけ、挙句の果てに大事な人を亡くし、見ず知らずの土地の最底辺で生きていくことになった真緒だったが、彼女はまだ〝ステータスオープン〟の可能性に気づいていないだけだった。 ───────────── ※投稿時間は多少前後しますが毎日投稿は続けていくつもりです。 ※タイトルは予告なしにガラリと変わる場合があるのでご了承ください。 ※表紙は現在の主人公のイメージ図です。もしまた別の国へ行く場合、彼女の装いも変化するかもしれません。

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

処理中です...