業火の夜は続く

まー

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2 発火

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 吾郎が駆る覆面パトカーは、高速道路を常識的な速度で、滑らかに走行していた。
 先日の夜、NITEナイトから、焼損した電子レンジが届いたと連絡があった。着払いで県警に送付しようかとNITEの職員は申し出てくれたのだが、時が惜しい吾郎と園田は、直接受け取りに行くことにした。
 県を跨ぐ移動となり、高速を飛ばして片道2時間と少し、往復で5時間の行程であるが、2人は昼前には電子レンジを受けとって、もと来た道を戻り始めた。
 行きは吾郎が、帰りは園田が車を回す。
 吾郎は窓枠に左腕のひじを当てて頬杖を付き、流れる景色を見ていたが、ふいに口を開いた。
「なあ、仮に犯人が電気火災の起こし方を練習していることが事実だったとしてさ、その目的はなんなんだろうな」
 放火をするにも目的がある。保険金詐欺のため、自分に都合の悪い誰かあるいは何かを消すため、自身の精神的安寧を保つため。
 だが、どのような目的があったにしろ、3年以上をかけて、どこまで行っても確実性に欠ける方法を極めるよりは、もっと手っ取り早いやり方があるはずだ。
 園田は前方から目を逸らすことなく応えた。
「それも気になるが、人知れず放火の修練を積んでいた犯人が、突如人を殺したのは何故なんだ。犯人は殺意をもって弓野さんを殺したのか、それとも修練の過程で起きた“事故”なのか」
「弓野さんが殺される理由も見つからないんだよなあ。こうなると、弓野さんの自殺という線も捨てきれなくなるな」
 吾郎の言葉に軽くうなずいてから、園田は言った。
「まあ、聞き込みしていない重要人物がもう1人残っているからその人に期待しよう」
「ああ、弓野さんが連れてたっていう若い社員だろ。弓野さんの葬式が終わってすぐ、他県の現場に出張してるらしいな。電話したら、弓野さんが最後に取ってくれた仕事だからどうしても途中で辞めるわけにいかないと言われたんだそうだ。今週末に帰ってくるから、それから聴取に行くって言ってたよ」
「その人が何か知っていればいいけどな」
 会話が途切れて、吾郎はまた視線を流れる景色へと戻した。


「ちょっと驚くことがわかったぞ」
 おつかいから帰り、その足で鑑識に電子レンジを持ちこんで刑事課の事務室に戻った2人に、班長が声をかけた。
「なんですか?」
 園田が短く先を促した。
「弓野さんが連れていた若い社員な、25年前の大火災の時に火元の電気工事を行い、最終的に自殺した男の息子だってことが判明した」
「えぇ……」吾郎は戸惑いがちに声を上げた。
 なんとも複雑な思いがした。
 25年前、弓野から請け負った仕事が元で命を絶った男。町中からの誹謗中傷に耐えきれず町を出た妻子。
 迫害された息子が、今郷里に戻って父親の死の根源のもとで働いている。
 もちろん仕事をふった弓野が悪いわけではないことは百も承知だが、それでもその因縁を考えると、息子はどういう気持ちで弓野のそばに居たのだろうと考えずにはいられない。
「それで、どうするんですか? 彼が今出張している場所まで捜査員を派遣して聞き込みしますか?」と園田。
「いや、そこまでしなくてもいいだろう。彼は明後日の夜には帰ってくる。それを待って話を聞きに行くのでもかまわないさ」
 班長の言葉に、吾郎と園田はうなずいた。


 刑事2人が半日をかけて入手した電子レンジを鑑識に持ち込んだ次の日には、鑑識員が結果を知らせてくれた。
「発火原因は、ターンテーブルを回転させるモーターの配線が短絡していることと思われます」
「それは消防の人からも聞いてる。で、配線の切り口に谷型の傷があったのか?」
「それがですねえ、配線が燃えちゃってるので、わからないというのが結論です。火災事案はこういうことが多いんですよ。証拠物は燃えちゃって跡形もない。火災原因はどこまで行っても推論するしかないって場合が往々にして起こる」
 吾郎と園田はあからさまにがっかりした顔を見せた。わざわざ他県まで走って取りに行ったブツだというのに。
「ですがね」鑑識員が続けた。
「消防の調査の人から情報を聞き取りました。横のつながりというやつですねぇ」
「米山さん?」と吾郎が聞くと、鑑識員は「はい、はい。そうです。あの人顔は怖いですけど、出来る人でしてね」と答える。
「どうも電子レンジの側板を止めていたネジが一つだけわずかに緩かったというんです。最初からなのか、それとも誰かが開けたのか」
 ここですよ、と鑑識員は左側面の右下のネジを指し示した。側板は左上付近が激しく焼損して溶融しており、角から幅15センチメートル高さ5センチメートルの範囲で扇状に穴が空いていた。
「何者かが開けた可能性か……それだけでも持ち主に聞き込みに行く理由になるな」
 吾郎が呟く。
 園田は鑑識に頭を下げてお願いした。
「手間をかけるが、この結果を米山さんにも共有しておいてもらえないか」
「はい、はい、それはもちろん。あの人もそのつもりで焼損物を譲ってくれたんです、ダンマリなんてやったら二度と助けてくれませんよ」
 刑事2人は礼を述べて、鑑識を飛び出した。

 
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