業火の夜は続く

まー

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2 発火

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 電子レンジの持ち主は60過ぎの老婦人だった。
 先日、証拠物を警察で収去しても良いかを問い合わせるために電話をしていたこともあり、もはや知らぬ仲ではないとばかりに、婦人は2人を居間まで通してお茶を出してくれた。
 木造の2階建て住宅、築年数は30年は経っているだろう。しかし掃除は行き届いており、居間から見える庭も、小さな花壇に花が咲き誇っていた。
「ご主人はお仕事ですか?」
 何気なく聞いた吾郎の言葉に、婦人はうなずく。
「定年してから、再任用で雇われましてね、今は後進の指導にあたっているんですよ」
「失礼ですがお仕事は何を?」
 園田の問いに、婦人は答える。
「造船をやっています」
「技術者の育成はどこも大事な課題ですね」
 園田が訳知り顔で言った。それから改めて婦人に向き直る。
「それで、件の電子レンジの話なんですが。あの電子レンジを購入したお店はどちらですか。また、いつ頃」
 婦人は一軒の大型電気量販店の名を告げた。購入した時期は5年前だと言う。
「購入後配送してもらったんですか?」
「いいえ、車で行っていましたし、その場で持ち帰りました」
「その後修理に出したことは」
「ありません。燃え出すその日の朝まで、普通に使えていたので」
 つまり、購入してから燃え出すまで、何者かが細工をする機会はなかったということだ。
 これは取り越し苦労だったかなと思いながらも、吾郎は現場を見ておこうと思い、婦人にキッチンを見ても良いか尋ねた。
「もちろんですよ。どうぞ」
 婦人は磨りガラスの引き戸を開けて廊下に出ると、居間の向かいにある、同じデザインの引き戸を横に開く。
 今時の住宅はキッチンとリビングが一体になっている間取りが一般的であるが、古い住宅はわざわざドアで仕切ってまで別の空間にしているものが多い。
 部屋の広さは6畳程度と思われるが、食器棚や冷蔵庫、食品等を入れる棚などが壁際に置いてあり、作業スペースはそう広くない。それでも居間や庭と同じで、シンクや三口ガスコンロは綺麗に掃除されていた。
 年季の入った食器棚に比べて、冷蔵庫は比較的新しく見える。吾郎は婦人を振り返った。
「この冷蔵庫は新しいですね」
「今年に入ってから買ったんですよ。半年くらいかしら」
「それは配送で?」
「ええ、さすがにね。あ、それに、これを見てくださいな」
 婦人はウキウキとした様子で、作業台の下の取手に手をかけ引き出した。立派な食洗機が音もなく顔を出す。
「夫が後付けで付けてくれましてね。年をとって、私も色々大変だからと」
 どうやら、新しく高価な食洗機と夫との仲睦まじさを、誰彼なく自慢したいらしい。
 ほー、立派ですねと言いながら、吾郎は食洗機を覗き込んだ。
「後付けすると、作業に時間がかかるでしょう」
「そうね、3、4時間くらいかかっていたかしら。私は居間でテレビを見ていましたから、大変なのは業者さんだけですけどね」
「業者さんが家に入る時はいつもそうなのですか」
「ええ、私がいない方が作業もやりやすいだろうと思って」
 食器棚の左側の壁に、ブレーカーが設置されている。冷蔵庫には、電気やガス、水道の問題が発生した時のためだろう、業者の広告がマグネットで貼り付けられていた。
「ここ1、2年の間に、業者さんがここに立ち入ったのは、冷蔵庫と食洗機の時だけですか」
 園田の問いに、婦人はおっとりと首を横に振った。
「電気やガスの点検は定期的に来てくださいますし、浄水器フィルターの交換もいらっしゃいますね」
 キッチンに限らず家の中のどの場所であろうと、一度入り込んでしまえば、居間でテレビを見ている老婦人の目を盗んで悪さをすることは可能だろう。
 仮に誰かが電子レンジに細工したとしても、もはや特定することは困難だった。
 
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