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【21】-6

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『ただ、母は父と二人でいる時、二頭の青い蝶を見た。そして、これは何かのお告げだと思ったらしい。そのことがあったから、どんなことがあっても立ち向かう覚悟ができたと言っていた』
 何かを信じる気持ちも、人の心の本質だとトモは言った。
『誰にも侵すことのできない聖域、その人の真実の姿だよ』
 ぼんやりと、四角い画面を見る。
 断崖絶壁に人が集まり、ありとあらゆる二時間ドラマで刑事役を務める俳優が、事件のあらましをみんなに説明していた。
 風が吹き、波が砕ける。
 リモコンを手にして電源を切ると、急にあたりがしんと静かになった。
(どうして、忘れてたんだろう……。あんなに大事なことだったのに……)
 忘れていたことにも気付かないまま、十二年も過ぎてしまった。
『自然に思い出せる時がきたら、その時は話していいって、お医者様には言われてたけど……』
 本当に大丈夫かと、母は心配そうな顔で玲の目を見つめた。
『聞きたい』
 玲の言葉に母は覚悟を決めたように頷く。
『……玲は、小さい頃、おかしな人に狙われることが本当に多くて……』
 その事件も、そんな被害の一つだったのだと母は続けた。
 高原鉄道を使ってケアンズ駅に戻ってきたトモと玲は、十五分ほどの距離をホテルまで歩いた。後になってわかったことだが、男はそこで玲に目をつけたのだった。
 玲を母の元に帰すため、トモはフロントに向かい、内線電話をかけていた。手を伸ばせばすぐに捕まえられる距離に玲を立たせ、服の裾を握らせていたと、ホテルのフロント係が証言している。
 それは、一瞬だった。
 男は玲を抱き抱えるようにさらい、人の間を縫って建物の外に走りでた。
『玲っ!』
『トモ……っ』
 荷物も電話も放り出し、トモは男を追いかけた。
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