【完結】花咲く手には、秘密がある 〜エルバの手と森の記憶〜

ソニエッタ

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先生がお花屋さん

オルガの提案

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数十分後、馬の足音と共に冒険者たちが到着した。先頭には杖を持ったセレンの姿があった。

「大丈夫? 状況は?」

「オルガがマルタを眠らせた。でも、油断はできない。」


「……わかった。ちょっと診せてもらうわ。」



セレンは、そっと床に横たわるマルタに近づき、絡みついている植物に手をかざした。指先から魔力がじわりと滲み出る。花の根は、まだ脈打つように微かに動いている。



「……これは……」

彼女の眉がわずかに寄った。

「オルガ、あんたの力と波動が似てる気がする。でも――」

セレンは視線をオルガに移し、真剣な表情で言った。

「――何かが、決定的に違う。」

オルガは言葉を失い、マルタの方を見た。マルタの顔は穏やかに眠っているが、巻きつく花の根はまるで彼女を生きたまま“保持”しているようだった。

「……こんな花、私の生成本にはのってなかったの……」

呟くように言ったオルガの声に、沈んだ緊張が広がる。

その静けさを破るように、レオニダスが低い声で言った。

「側妃の一件もある。……隣国がオルガを排除しに動いていると見た方が自然だ。ご丁寧に、ミカリウム油まで使ってな。」

その言葉に、オルガの胸の奥を氷の棘が這った。

――マルタが、私を殺すために使われた?

無意識に手を伸ばし、マルタの肩にそっと触れる。
指先にかすかな震えが伝わってきた。

「……なんでこんなこと……」

誰かが答えてくれるはずもない呟きだった。
オルガの顔に浮かぶ迷いを、レオニダスが見逃すはずもなかった。

「冷静になれ、オルガ。お前がこの花の異常に気づかなかったのは当然だ。だが、これは明らかに仕組まれている。放っておけば、次はお前が狙われる。」

その言葉に、オルガは唇を噛み、ゆっくりと立ち上がった。
震えそうになる膝を押さえ込んで、はっきりとした声で言った。

「マルタを助ける。私が、なんとかする。」

セレンが手を止めて顔を上げた。

「これまでの『エルバの手』とは明らかに違う。これは、どこか異常だ。もしかすると、花そのものが『人為的に』改造されている可能性もある。そんな花をただ引き抜けば、マルタにどんな影響を与えるか分からない。」

「じゃあ、どうすれば……?」

オルガはマルタを見つめた。彼女の呼吸は浅く、顔色も悪い。
まるで今にも壊れそうな、か細い命の光が、そこにあった。

レオニダスが口を開いた。

「時間がない。隣国が動く気配もある。――だが手を出す前に、敵の意図を知らなければ動けん。」

オルガは視線を落とし、深く息を吸った。


オルガは振り向き、レオニダスの言葉を噛み締めた。隣国の影が迫っている。それは、すぐにでも現実のものとなりそうだった。

その言葉に、オルガは決意を固めた。

「なら、やるしかない。マルタを助けるために、私が何かをしなければ。」



セレンがじっとオルガを見つめ、少しの間黙っていたが、最終的に頷いた。



「オルガ、私たちの力を合わせれば、きっとできる。でも、焦らず、確実に行動しよう。」

オルガはしばらく黙って考え込んでいた。周りの空気もピリつき、誰もが次にどうするべきかを慎重に見守っている。マルタの命が危うい状況を前に、彼女の心は焦りと不安に押しつぶされそうだった。



しかし、ふと一つの考えがオルガの中で膨らんでいった。顔を上げ、静かに口を開く。

「……もしかしたら、側妃に会って、話を聞くことで何か分かるかもしれない。」



その言葉に、セレンやレオニダスは驚きの表情を浮かべた。



「側妃?」

セレンが眉をひそめる。



レオニダスも静かに首を振った。



「あまりにもリスクが大きすぎる。エメリナが本当のことを言うとは限らないぞ?」



オルガは少し考え、深く息を吸った。



「でも、側妃がこの事態にどれだけ関与しているか、私たちが知っておくべきだと思う。彼女は隣国のスパイだろうし、何か手がかりが得られるかもしれない。」

「オルガ、投獄されているといえ、お前は危険を承知でそんなことを言っているのか?」

レオニダスが少し眉をひそめて、真剣な口調で言った。

「でも、何もしないでいるよりはましだと思う。」

オルガは少し背筋を伸ばし、決意を固めた。

「私たちが側妃に会うことで、隣国の動きやマルタに関わる花のことがわかるかもしれない。」

セレンはその言葉にしばらく沈黙してから、ゆっくりと頷いた。



「……分かった。でも、気をつけて。どんなに情報を得られても、お前一人で決断を下しちゃだめだよ」



オルガは軽く頷いた。



「ありがとう、セレン。」



レオニダスも、渋い顔をしながらも理解を示す。

「ただし、俺が一緒に行く。お前一人でエメリナに会わせるわけにはいかない。」



オルガはその言葉に微笑みを浮かべた。

「頼りにしてる、レオニダス。」







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