恋語り

その後の二人～抜け人の町へ

＃60

　
　苦しそうな熱い息が「ふぅ」と彼から吐き出され、自分もオーディンに何かしてあげたい衝動に駆られる。
　シャールだって、いつまでも何も知らない子供扱いされるのは嫌だったし、今までは『お前は知らなくてもいい』と言われたり『後で教える』と言われて、でも結局、教えてもらえないことが多かった。
　だから、自分も出来ることを証明したいと思い、揺れるオーディンの腰に手を伸ばし「……オーディン」と名を呼び首を傾げた。

「……ん、っ、どうした？」
「僕もしてみたい」
「え……」
「だから、さっきオーディンがしたでしょ？　あれ、僕もしたい」

　シャールを見下ろしながら、オーディンは固まり「いや、それは」と口籠る。

「僕だって、子供じゃないし出来るよ？　それにして見たい……」

　暗がりでも分かるほど、ぼわっとオーディンの顔が赤くなり、シャールは、わくわくする。
　自分もさっきは凄く気持ちよかったし、甘く痺れる快感を思い出し、オーディンも同じ気持ちにさせて見たくなる。
　シャールがそっと彼の昂りに手をあてた瞬間、自分の後ろに入っていた指が引き抜かれ、彼はザーっと後ずさった。

「えー……、どうして避けるの？」
「あ、いや……」
「嫌？」
「いや、って……、その嫌じゃなくて、だって、お前にそんなこと……」

　ごにょごにょ言うオーディンに、ずりずりと近付く、彼はまだ下服を穿いたままなので、それを脱がせようと腰紐を引っ張ると、彼の手がぎゅっとシャールの手を握りしめる。

「……じ、自分で脱ぐ、から……」
「うん」

　うきうきしながら、オーディンが服を脱ぐのを待っていると「本当にするのか？」と、チラチラとこちらを見ながら、もじもじするので「する」と強く断言した。
　大きな溜息を吐くオーディンが全てを脱ぎ捨てる。けれど、後ろを向いたままこちらを向いてくれない。

「どうして、こっち向いてくれないの？　僕だって裸なのに……」
「分かってるけど……さ……、恥ずかしいんだよ」
「うん、僕も」
「うそつけ……、恥ずかしい奴がそんな満面の笑顔なわけないだろ……」

　くふふ、と笑みを溢しながら、オーディンに近付くと、覚悟を決めた彼は座りながら、シャールの方へと体を向けた。
　さっき触れた熱いモノがグっと血管を浮き立たせながら、お腹に張り付いているのが見える。自分の性器との違いを、まざまざと見せつけられて、何故か分からないけど凄いと思う。
　オーディンは横を向くと片腕で顔を隠し「するなら、早くしてくれ……」と言うので、シャールはこくっと喉を鳴らした。

「大きい……」
「っ、そんな感想はいらない……」

　先端の濡れている部分に唇を近付け、ぷちゅっと口づけをして見ると、オーディンの性器がぷるっと震えて、苦しそうな呻き声が聞える。
　勢いよく口に含んだが、シャールが一生懸命大きく口を開けても、先端のくびれた部分までしか入らなかった。

「んーっ、ぅ、口に入らない……」　
「っ、いい……、から、入れなくても……」

　ふっと顔を上げオーディンを見れば、彼の綺麗な顔は頬が、ほわっと色濃く赤い薔薇の花のように染まっており、見下ろす熱い眼差しは、シャールだけに注がれている。
　何だか彼を独り占めしているような感覚になり、嬉しくなるが、どれだけ口を大きく開けても、オーディンのモノは入りそうにないので、全体を舐めて見ることにした。上から下までゆっくり舐めて見ると。

「……う……、ぁ……」

　オーディンの熱い吐息が上から降って来る。ビクンと跳ねる性器が別の生き物のように見えて、シャールが手で握るとトクトクと脈を打っていた。
　もっといっぱい舐めればいいの？　と今度はどこを舐めようかと考えていると、オーディンの手が伸びて来て、シャールの顎を持ち上げた。

「……なあ、シャール、やっぱりいい、って言うか、辛い……」
「気持ちよくない？　僕、上手に出来なくてごめんね」
「違う……、俺は、余裕が無いんだよ……、だから、また今度な？」

　ちょっと残念になるけど、次は上手に出来るようになりたい、と思いながらシャールはオーディンの言うことを聞くことにした。
　彼は少しほっとした顔を見せると「……続き、させて欲しい」と甘く囁いてくる。

「じゃあ、また寝ればいい？」

　こくりと彼が頷くのを見て横になった。
　オーディンは、また香油をシャールの腹に垂らし、今度は二つの指にたっぷりと含ませ、そーっと後孔の入り口を撫でまわしてくる。
　馴染ませながら、ゆっくりと指が中へと入って来ると、意図しない感覚に内襞が震えた。

「あ……、ぁぁ、それ……」

　尋常では無いほど気持ちがいい箇所に、オーディンの指で擦られ、気が変になりそうだった。
　性器に口づけをされるよりも、もっと強烈な快感が走り、他のことが考えられなくなる。オーディンと何度も名を呼び「そこ擦ると変なの」と訴えても「直ぐに悦よくなる」と言われてしまい、止めてはくれなかった。

「……っ、あぁ、……ゃぁ……」
「シャール、力抜いて……、もう一本入れたい」

　そんなことを言われても、勝手に内襞が反応してオーディンの指をきゅきゅうと銜え込んでしまう。どうやって力を抜いたらいいのか、分からないでいると、オーディンは、またシャールの性器へ口づける。
　違う気持ちよさに、一瞬でふにゃっと意識が反れ、オーディンの指が追加されてぴりぴりと痺れてくる。

「や、……ぅ……」
「大丈夫か？」
「ぅん、ぴりぴりして……どうしようってなる……」

　オーディンの指を出し入れする刺激で、ぶるりと肌が粟立つけど、嫌な感じはしなかった。
　それどころか彼の指の動きに合わせて、口からは勝手に喘ぎ声が出てしまい、恥ずかしくなる。
　自分の声と一緒に、ぐちゅっと液体の音が部屋に響いて、その粘り気のある音が妙に卑猥に感じてしまい、頭がぼーっとしてしまう。
　ぴりぴりと痺れる箇所を擦られて、さっき漏らしてしまった感覚が戻って来たので、シャールは慌てて声をかけた。

「っ、んぁ、……ま、た、漏れちゃう、よ……？」

　オーディンはシャールの言葉を聞き「いいよ」と言う。いつもと違い、今の彼は凄く優しくて、声も甘くて何だか耳がくすぐったくなる。
　熱い吐息は性器の先端へ吹きかけられ、熱くて分厚い舌で何度も捏ねられて、身体の奥から痺れるような快楽に襲われ、シャールはあっけなく爆ぜた。

「――ん……、ぁっ……！」

　激しい快楽のせいで脳内が溶けそうになり、全身がふわりと浮くような感覚を味わう。
　オーディンが薄紅色に染めた頬を揺らしながら、シャールの股の間に体を捻じ込んで来ると「ごめんな、辛いかも知れない……」と言う。
　けれど辛いのは、オーディンの方だと思った。
　だって、ずっと苦しそうな顔をしている、それに彼の股間のモノは、弾けてしまいそうなほど張りつめているのが分かる。
　ぐっとシャールの腰を掴むと彼へと体を引き寄せられて、後ろの窄まりにオーディンの性器が、そっと口づけをするようにあてがわれる。

「は……」と彼が切なく吐息を出し、表情を歪めるのを見ているだけで、シャールの胸がきゅうっと甘く締め付けられた。
　彼の性器がゆっくりと後孔をこじ開け、熱い異物がズッ、ズッ、と小刻みにシャールの中へ入って来ると、息苦しさと嬉しい気持ちが同時に襲った。
　息を詰めていたオーディンは一呼吸置き、細く長い息を吐きながら奥深くまで挿れ終えると。

「っ、大丈夫か？」
「――うん、なんか凄く……気分がいい……」
「っ、何で、そんなに余裕なんだ、俺は頭がくらくらして、倒れそうなのに……」
「じゃあ……やめる？」

　と首を傾げオーディンに聞いて見ると「……やだ」と言いながら、少し腰を揺らしてくる。

「う、動くけど……いいか？」
「うん、いいよ」

　オーディンの綺麗な瞳がふるふる震えてシャールだけを映し出すと、彼の腰が互いの身体を溶かすように甘く動いた。
　何度も怒張どちょうが内襞を擦りあげ、上から降って来る彼の熱い吐息を感じるだけで、シャールは胸が一杯だった。
　全身が震えてしまうような、刺激の強い箇所を思い切り抉るように突かれ、穿たれた箇所に力が入り、堪らずきゅうっと彼の性器を締め付けた。

「――っ」

　擦られている襞が蜜を吹き出したかのように湿った音がし始めると、オーディンがグラリと身体を崩し「……くっ」と悔しそうな言葉を吐き出し、荒い息を全身で吐いていた。

「オーディン、大丈夫？　どうかしたの？」
「どうかしたって、で……出た、んだよ……」

　ぼそぼそとオーディンが『出た』と言うので、今シャールの中で感じているドクドクした物のことだと分かった。

「ん、あ、じわーってするよ……」
「そんな説明はいらないっ……」
　　
　自分が二度も経験した、あの快感をオーディンもしてくれたなら、良かったと思うし、嬉しかった。
　彼はシャールの唇を指で突きながら、何故か恥ずかしそうに。

「あのさ……、もっとしてもいい？」
「うん、いいよ？」
「……体は辛くないのか？」

　そう聞かれても、こんなに充たされた気分を味わうのは初めてで、仮に体が辛くても、どれだけでもシャールは我慢出来そうだった。

「僕ね、ずっとこうしていたいかも」
「……シャール」

　急にオーディンの死を聞かされた日のことを思い出してしまい、思わず涙が溢れて来る。あの日、自分も死んでしまった気分になったし、どうやって生きて行こうか真剣に悩んだ。
　急に涙を流すシャールにびっくりしたオーディンが、おたおたする。

「な、何で泣くんだ……」
「オーディンが好きだから？」
「お前、こんな時に言うなよ……」

　どうして？　と不思議に思いながら彼を見つめていると、シャールの中にいるオーディンのモノが徐々に硬くなって行くのを感じる。彼がぐいっとシャールの上半身を抱き起こすと。

「シャール、俺は何の取り柄も無い男だけど、お前を悲しませたりはしないし、二度と離れたりしない、だから俺の永遠すべてをお前に捧げる……」
「オーディン……」

　永遠を誓われてシャールの胸がジンと熱くなる。
　言霊の森で誓った時は、また何時か会おう、という約束しか出来なかったけど、今は彼の言葉に迷いが無いことが感じ取れて、シャールは愛しさが溢れて来る。
　いつからオーディンを好きだと認識したのかは忘れてしまったけど、初めて彼を見た時、全身がキラキラして綺麗な色の人だと思った。
　単純に仲良くなりたくて、でも上手く行かなくて、一度は諦めたけど、オーディンも同じように上手く接することが出来なかったことを教えられた日は、シャールの胸が苦しくなった。
　そんなことを思い出し、堪らない気持ちになり、ぎゅっとオーディンに抱き付くと、その後は我を忘れて互いを求めあい、体が離れたのは天窓から薄っすら朝日が昇る頃だった――――。