61 / 63
その後の二人~抜け人の町へ
#61
しおりを挟む翌朝、二人共うたた寝をした程度で、あまり寝ていなかった。
「朝飯の準備……するか」
「あ、僕もっ……」
「大丈夫か?」
「うん、大丈夫だよ」
オーディンのモノがまだ中にあるような感覚に、ちょっと変な感じもするけど、何故か嬉しいとシャールは思う。
昨日は夢中だったから、痛みなんて感じてる暇はなかったけど、身体を動かすと鈍い痛みが走るので、自分が作った痛み止めの薬を飲むことにした。
食卓へ移動し、朝食の用意してくれるオーディンを見つめながら、テーブルに並ぶ食べ物を眺め、シャールは一声かけた。
「オーディン? こんなに食べられないよ?」
「……! あ、わ、悪い……」
お皿も五人分くらいの物が並び、中央には山もりの果物が乗っている。シャールがくすくす笑うと、カリっと頭を搔きながら「よく普通でいられるな」とオーディンが言うので、どう言う意味なのかな? と思う。
「さっきまで、あんなことしてたのに……」
「あんなこと……」
ベッドでの行為のことを言っているのだと気が付き、シャールも聞きたいことがあるので聞いて見ることにした。
「あのね、初夜って毎日するの?」
「え……、いや、毎日じゃない、と言うか初めてする情交を初夜って言うんだ、だから初夜はもう終わりだ」
初夜は終わりと言われて、シャールはちょっとだけ残念だった。
「言い方は色々あるけど……、とにかく好きな相手同士が気持ちを誓い、それを確かめる行為で……だから、毎日でもいい……し……」
ほわほわと徐々に、頬が赤らんでいくオーディンが、情交は毎日でもいいし、そうじゃなくてもいいと言う。
「そっか……、あ、あとね、僕の口はどうすれば大きくなるのかな、オーディンのが全部入らないから、入るようになりたい」
「っ、……っご、ほっ」
飲みかけていた水を吹き出したオーディンは「入れなくてもいい!」と言う。
彼は、喉を「ん」と鳴らすと、新たな約束をシャールに追加した。
「一番重大な約束をする。初夜、情交に関することは絶対に人前で口に出したり、聞いたりしないこと」
「うん、約束ね」
シャールの返事を聞き、彼は深い吐息を吐くと「絶対に忘れて言いそうだな……」と眉をひそめながら言う。
そもそも、オーディンの約束が多いから、忘れてしまうだけなのに、と彼の言葉にシャールは少し不満を覚える。
「あのね、ちょっと約束が多すぎると思う……」
「……しょ、しょうがないだろ」
「じゃあ、前の約束は、えーっと……? ん、何だっけ……」
「分かった……前の約束は、忘れてもいいことにする」
そう言ってくれてシャールは良かったと思う。
もう前の約束は忘れてしまったし、思い出そうとすると、悲しいことも思い出しそうで嫌だった。
彼は慌てて朝食を食べ終えると、仕事に出かけると言い、玄関先へ移動した。
「シャール、片付け頼んでも良いか?」
「うん、綺麗にしておくね」
「早く帰って来るから、大人しくしてろよ」
シャールは「わかった」と答え、彼を玄関の戸口から見送った。
何度も振り返るオーディンを見つめながら、彼の姿が見えなくなると、片付けを始めた。
食器を洗い終え、部屋の中を掃除するが、あっと言う間にやることがなくなり、どうしようかと考える。
調理場の前で雑巾を手に持ち、次は何をしようかと考えて、そういえば……、とあることを思い出す。
水場と調理場の間にある裏口を開けると、オーディンがまだ建設途中だと教えてくれた調合室の骨組みが見えて、その場所をくるくると歩いた。
ちょっと広すぎる気がする……、と間取りを見ながら、伸び放題の雑草に寝転がった。
僅かな期間で様々なことがあったことを思い出し、言霊の森にいたら経験出来なかったこと、そして出会えなかった人達のことを思い浮かべた。
――皆、元気かな……
公爵家の皆に、挨拶も出来ずに国を出てしまったことも気がかりだった。
二度とあの国へ行くことは出来ないけど、また会えるといいなと思い出に浸っていると、急に寂しくなってしまった。
やることが無いと余計なことを考えてしまうので、シャールは町中を歩いて見ることにした。
家から外へ出て、町の中心へ向かって歩いて行くと、馬で移動している人が目に付く、殆どの人が馬で移動しているようで、シャールも馬に乗れるようになりたいと歩きながら思う。
――オーディンが帰って来たら相談しよう……
てくてく歩き続け、昨日見かけた市場へと辿り着くと「あ……」と声が聞え、その声の方へ視線を動かせば、ルシアンが視界に入った。
シャールが「こんにちは?」と声をかけると、もじもじしなながら、彼も「こんにちは」と挨拶をしてくれた。
「仕事中?」
「今、終わったところで……、だから、シャールさんの所に行こうと思って……」
「そう、じゃあ一緒に帰ろう?」
「うん……、でも何か用事があったんじゃ……」
「んー、暇だったから散歩してたの、それで市場に来たけど、僕お金持って無かった……」
シャールの言葉を聞き、ルシアンはくすくす笑う。
初めて笑顔を見せてくれた、とちょっと嬉しく思いながら、シャールが彼をじっと見ていると笑みが消えてしまって残念に思う。
二人並んで家の方面へと歩きながら、彼に農園の仕事はどんな物なのか聞いて見ると。
「今は時期的に、葉物を収穫してるから、だから……午前中で仕事は終わる」
「そっか、時期によって仕事の時間が違うんだね」
「うん」
「僕もね子供の頃、自分の家に畑があったから、色々育ててたんだよ」
「ほんと?」
シャールも作物に関しては、それなりの知識はあったので、ちょっとだけ知ってることを話した。
言霊の森でしか育たない、つるつるとしたガラス玉のような野菜の話をしてあげると、ルシアンは目を輝かせた。
「そんな野菜があるの?」
「うん、甘くてね、果物見たいな野菜なんだよ。あ……、僕の家に種が残っていたら、今度持って帰って来るね、でもここでは育たないかも……」
「そうなんだ……、でも見て見たい」
嬉しそうな顔をしている彼を見て、少しでも打ち解けることが出来て良かったと思っていると、ルシアンが急にもじもじしながら「あの……」と言った後、小さな包みを手渡された。
「くれるの?」
「うん、似合いそうだから……、さっき買った」
「え……」
シャールは驚いて包みを開けると、綺麗なガラス細工の装飾の付いた髪紐だった。
「本当にもらってもいいの?」と彼に聞けば、ぼっと顔を赤くして俯いてしまった。
彼の反応が何もかも、昔のオーディンにそっくりで、シャールは頬をふにっと緩ませた。
「ありがとう、大切にするね」
「うん」
そのまま二人で家に戻り、シャールは約束通りルシアンに本の読み書きを教えてあげることにした。彼が読んで見たいと思っていた本は、やはり農業に関することのようで、種の配合の本だった。
「難しそうな本だね」
「うん、けど新しい野菜とか作って見たいから」
「そっか、じゃあ読める所は読んで見て、読めなかったら僕が教えるから」
シャールの言葉に頷き、ルシアンは本を読み始める。
文字を教えながらシャールは不思議な感じがした。
いままで、教えられることが多かった自分が、誰かを教えてあげる日が来るなんて思ってもいなかったので、少しずつでも大人に近付けている気がして、シャールは自分が誇らしくなった――。
仕事を終えたオーディンが帰ってくると「今日の食事はこれにしよう」と言って、大きな肉の塊を調理台にドンと置いた。
「これ、どうしたの?」
「なんか、新婚だと思われててさ、違うって言ったんだけど、職場の大将が持って行けって言うから……」
「新婚って何?」
「最近、婚姻した夫婦のことだよ」
「へぇ、そう、でもこんなにたくさん食べられないね」
「ん、まあ、適当に切り分けて、ご近所に配るよ……、そんなことより、それ……どうしたんだ?」
「うん?」
オーディンの視線がシャールの束ねた髪へ向かうのを見て、早速、ルシアンからプレゼントしてもらった髪紐を自慢をすることにした。
「あのね、ルシアンが買ってくれたんだよ?」
「……へ、ぇ……そう」
「今日ね、退屈だったから、市場まで行ったの、そしたら偶然ルシアンに会ってね。僕のために髪紐を選んでくれていたの」
「…………」
くるくると回って装飾のついた髪紐をオーディンに見せると、「シャール、それは大事にした方がいいな」と言い、彼は髪紐を解くと戸棚の中へしまった。
ハラリと解けたシャールの髪を撫でながら「あれは使うな」と言うので「どうして?」と聞いた。
「壊れたり、無くしたらルシアンが悲しむだろ?」
「あ、そっか」
「……俺が違う物を買って来るから、それを付けろ」
「うん、あ、でもね、髪、短く切ろうと思うの」
「俺はこのままがいいけど……」
「そうなの? んー、じゃあ切らない」
オーディンが良いと言うなら、このままにしておくことにした。
不意に何の予兆もなくオーディンの唇が重なり、シャールは昨夜のことを思い出し、ふにゃっと腰が砕けそうになる。
しかも、ぐっと体を寄せてくるオーディンの中心にある昂ぶりを感じて、余計に意識した。
スルっと彼の手がシャールの服の中に忍び込んで来る、またアレをするのかな? と思い、確認のために「オーディン……」と名を呼ぶと。
「っ……、なんか、悪い」
「ううん。悪くないよ?」
そう、別に悪くないのに……、とシャールが思っていると、何事も無かったようにオーディンは、くるっと背中を向け、肉を処理し始めた。
肉を切り分け終えると、近所に持って行くと言うのでシャールも付いて行くことにした――――。
0
あなたにおすすめの小説
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
塔の魔術師と騎士の献身
倉くらの
BL
かつて勇者の一行として魔王討伐を果たした魔術師のエーティアは、その時の後遺症で魔力欠乏症に陥っていた。
そこへ世話人兼護衛役として派遣されてきたのは、国の第三王子であり騎士でもあるフレンという男だった。
男の説明では性交による魔力供給が必要なのだという。
それを聞いたエーティアは怒り、最後の魔力を使って攻撃するがすでに魔力のほとんどを消失していたためフレンにダメージを与えることはできなかった。
悔しさと息苦しさから涙して「こんなみじめな姿で生きていたくない」と思うエーティアだったが、「あなたを助けたい」とフレンによってやさしく抱き寄せられる。
献身的に尽くす元騎士と、能力の高さ故にチヤホヤされて生きてきたため無自覚でやや高慢気味の魔術師の話。
愛するあまりいつも抱っこしていたい攻め&体がしんどくて楽だから抱っこされて運ばれたい受け。
一人称。
完結しました!
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
あなたの隣で初めての恋を知る
彩矢
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。
その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。
そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。
一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。
初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。
表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。
逃げる銀狐に追う白竜~いいなずけ竜のアレがあんなに大きいなんて聞いてません!~
結城星乃
BL
【執着年下攻め🐲×逃げる年上受け🦊】
愚者の森に住む銀狐の一族には、ある掟がある。
──群れの長となる者は必ず真竜を娶って子を成し、真竜の加護を得ること──
長となる証である紋様を持って生まれてきた皓(こう)は、成竜となった番(つがい)の真竜と、婚儀の相談の為に顔合わせをすることになった。
番の真竜とは、幼竜の時に幾度か会っている。丸い目が綺羅綺羅していて、とても愛らしい白竜だった。この子が将来自分のお嫁さんになるんだと、胸が高鳴ったことを思い出す。
どんな美人になっているんだろう。
だが相談の場に現れたのは、冷たい灰銀の目した、自分よりも体格の良い雄竜で……。
──あ、これ、俺が……抱かれる方だ。
──あんな体格いいやつのあれ、挿入したら絶対壊れる!
──ごめんみんな、俺逃げる!
逃げる銀狐の行く末は……。
そして逃げる銀狐に竜は……。
白竜×銀狐の和風系異世界ファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる