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番外編 ジークのお散歩
#01
しおりを挟むアダムが畑仕事をしている最中、子供達が楽しそうな声を上げながら森から帰って来るのを見て、「こら、森に入ったら駄目だっていつも言ってるでしょ?」と叱りつけた。
「うん、ごめんなさい、それよりアダムお兄ちゃん見てよ」
一人の子供が抱えている動物を見れば、子犬のようだった。
「その犬どうしたの?」
「なんか森でね、ぐったり倒れてたから……」
「うーん、怪我でもしてるのかも知れないね? 寝てるの?」
子犬の方へ近付きアダムがじっと子犬を見下ろせば、しっかり閉じていた目が開かれ、子犬が飛びついて来る。
いきなりの事で驚いたが、取りあえずは抱き抱えた。
全体的に薄汚れてはいるが、黄金色に輝く瞳が綺麗で、犬のわりには品のある雰囲気が漂っている気がして、何処となく懐かしさも感じる。
少し妙な感覚に包まれたが、必死にアダムに縋りつく様子を見て、余程怖い目にあったのだろうと思い、教会の近くにある切り株の椅子へ腰かけ、子犬の体をしげしげと見つめた。
「怪我はしてない見たいだね」
「アダムお兄ちゃん、この犬教会で飼えない?」
「うーん……、どうかな、それに関しては、神父様に聞いて見ないとね。それに、もしかしたら、飼い犬かも知れないよ」
と子供達に説明をしながら子犬を見つめれば、ふるふると首を横に振りながら「くぅーん」と悲しそうに鳴く。
人懐っこい子犬はアダムの撫でる手をペロペロと舐め、すりすりと体を摺り寄せて来る。
――可愛い……。
動物は小さな頃は皆可愛いし、獰猛な猛獣でも幼い頃は愛くるしい姿をしている。当然アダムも例外なく、その幼い生き物に心を奪われる。
取りあえず汚れているし、ちょっと綺麗にしてあげようかな? と井戸で布を濡らして優しく拭いてあげることにした。
やはり飼われていた犬なのか、警戒心は殆ど無く大人しいが、切なげに「くぅ……ん」と泣きだすので「何処か痛い所でもあるの?」と言葉をかけると、そうじゃないとでも言うかのように、ぶるぶると頭を振る。
「少し我慢してね……」
そのままアダムが体を優しく拭いていると、子犬の背中に何か異物があることに気が付く、これ何だろう? と確認しようとした時、仕事を終えたビビアンが背後から声をかけてくる。
「アダム様……?」
「あ、ビビアン、今日は随分早く終わったんだね」
「ええ、あの……それは……?」
「何か、森で倒れてたらしくて子供達が拾って来たんだよ」
「……左様で……、分かりました。森に捨てて来ましょう」
「え?」
その言葉を聞き、子犬は急に威嚇の声を出した。「グルゥゥ」とビビアンを見て今にも飛び掛かりそうな様子に、きっと獣人だと分かって警戒しているのだとアダムは思った。
彼女は何時もフードを被っているし、人間には耳さえ見えなければ普通の人に見えるが、獣からすれば本能で分かるのかも知れない。
「ビビアン、そんな可哀想なこと言っちゃだめだよ。子犬が怯えちゃう」
「で、でも……」
「取りあえず、飼い主が見つかるまで教会に置いてもらえるようにレナード神父様に頼んで来るから、ビビアン見ててあげて」
アダムはビビアンに子犬を渡すと、まるでゴミでも見るかのように彼女は子犬を抱く、と言うより持っている。
両手で子犬の両脇に手を差し込み、なるべく自分に近付けないようにしているのを見て「ビビアン? そんな持ち方じゃ駄目だよ」と、ちゃんと抱くようにアダムは指示をし、一旦その場を離れた――。
神父様に事情を話して、少しの間子犬の保護をしてもいいかと、お願いをすると。
「それは構わないよ、けど、あまり子供達に懐いてしまうとね……」
「あー、それもそうですね」
確かに子供達が懐いてしまうと飼い主が現れた時、子供達が悲しむのは目に見えている。
アダムは、どうしようか? と考え、シドのお屋敷でしばらく預かってもらうのが、一番良さそうだと自分の中で結論が出る。
「シドさんのお屋敷で預かってもらえないか聞いて来ます」
「そうだね……、彼達には普段から世話になってるし、あまり無理をお願いしたくはないけれど聞いて見てくれるかい?」
「はい」
教会を出てビビアンの元へ行くと、畑の隅にある木の椅子に腰掛け、その横に子犬を座らせ、ビビアンが何かぶつぶつと言っているのが、遠目からでも分かった。
アダムが近付くと「まったく、勝手に抜け出して」と言う言葉が聞える。
「キャン!」
「あ、アダム様、おかえりなさいませ」
アダムの気配に気が付いた子犬が鳴いたことで、ビビアンは咄嗟に笑顔を見せるが、少し様子が変だと感じるし、先程の言葉は子犬に向かって発せられていたように思う。
アダムが首を傾げていると、「神父様は何ておっしゃってましたか?」とビビアンに聞かれたので「シドさんのお屋敷に……」とアダムがそう言葉を溢すと、慌てて子犬は駆け出し、森の方面へと逃げて行った。
「えぇ?」
「アダム様、放っておきましょう」
「けど……、まだ子犬だよ?」
「外見が子供でも、中身は大人の場合があります」
けれど、先程の犬はどう見ても子供だったし、この辺りの森がいくら安全だからと言って、子犬では危険なことも多いので少し心配になる。
探しに行こうか考えていると、隣町の仕事を終えて帰って来たクリフが、何かあった気配を感じたのか「何か事件でも?」と聞いて来る。
「実は迷い子犬が居たのですが……、でも、いなくなってしまったので大丈夫です」
「左様でございますか」
クリフがチラっとビビアンへ顔を向けると。
「アダム様、少しビビアンをお借りします」
「あ、はい」
「それから、シド様はお帰りになってないのでしょうか?」
「そういえば……」
ディガ国からジョエルが迎えに来て、三日ほどで帰ると聞いてたが、それが今日だった。
戻って来るのは夜になるのかも知れないと、クリフと話をしているとビビアンが「多分、帰って来れないのだと思います……」と盛大な溜息を付く。
「え、ビビアン何か知ってるの?」
「はい、先程の犬……獣人でして……」
「そうなの?」
「……アレ……ジーク殿下です」
「……」
アダムは凍り付いたが、クリフは「そうですか」と、いつもと変わらない笑みを浮かべていた。
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