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第二話 情報提供と情報収集
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6月22日 午前7時10分
冒険者ギルド・ヴィラフォリダニア中央本部
ギルド内が賑わってきた頃、勇者パーティーとマイラは窓側のテーブル席で集まっていた。魔王軍にスパイとして堂々と入ったマイラは、右肩から左の腰の方にかけている少し長めの肩掛けカバンから様々な紙を机の上に取り出して、説明のための準備をしていた。
賢者と聖騎士はその資料に目線を向けていたが、正面に座っていた魔導師は別の点で気になることがあるようで、じっとマイラを見つめていた。魔導師から漏れ出る謎の強い思念を感じ取った彼女が、気まずそうに聞き返すのにはさほど時間はかからなかった。。
マイラ「……あ、あの……何か用でしょうか。」
メリー「……えっ?あ、あぁ……私に聞いてる?」
マイラ「……はい。先程からただならぬ強い思念が漏れ出ていましたし、何よりそれが私の方に向いているような気がしまして……」
メリー「そ、そうね……まぁ、大したことじゃないんだけれど……どうして貴女は当たり前のようにパーシィの膝の上に乗ってるわけ……?」
そう、資料を出すのも並べるのも、あわよくばこのまま話をするのさえもパーシィの膝の上で行うとでも言うかのように、ごく当たり前の様子で膝の上に乗っていた。メリーも年頃の女性、特に深い意図はないと分かっていてもなお、気になって仕方がなかったようだ。
マイラ「あぁ、その事ですか。お気になさらないで下さい。私は皆さんと比べて背が低いですので、この椅子に座ってだと目線が合わないのですよ。」
仇忌(……声に出して突っ込むのはやめておこう。面倒は御免だ。)
癒果「なるほどです……!ちゃんと目線を意識してお話するなんて偉いですね!」
メリー「な、なるほど……?」
仇忌(そしてお前らも何故気づかない?)
マイラ「……そ、それに、勇者さんのお膝の上であれば、机に対してのある程度の向きは把握出来ると思いまして。」
パーシィ「……らしいぞ。」
マイラ「あと、そもそも机に対しての椅子の数が4つしか無かったので。他のテーブル席から持ってくるのも迷惑になるかと思って、勇者さんにお願いしました。」
メリー「そ、そう……分かったわ。ごめんなさいね、変な事を言って。」
パーシィ「何だ?お前も乗りたいのか?」
メリー「バッ……!?バカ言ってんじゃないわよ!!」
仇忌「……それで、どれがどの情報の」
メリー「アンタもアンタで無視しないでよ!?」
パーシィ(話、進まないな~……)
こんな勇者パーティーで本当に魔王討伐が成せるのか甚だ心配ではあるが、それも彼女の持ってきた情報次第で変わってくる。態々資料まで持ってきているのを見るに、少しは役に立つ情報がありそうなものだが、こんな少女の見た目をした魔族が大した情報を持ってこれているのだろうか。
パーシィ「もういいか?出来れば早いこと情報を聞きたいんだが……」
メリー「悪かったわねぇ……!長引かせて!!」
マイラ「それでは、早速始めさせていただきます。まず初めに、この資料を…………この……この資料なんて書いてありますか。」
仇忌「帰っていいか?」
癒果「ま、まぁまぁ……!」
パーシィ「一つ聞きたいんだが、ずっとそんな感じなんだとしたらこの資料どうやって持ってきた?」
マイラ「魔王城の中での会議で配られたものをそのままいくつか拝借してきました。その後に個別で資料の図を思念として読み取らせて頂いたので、内容は把握しているのですが……一度置いたが最後どれがどれか分からなくて…………」
メリー「よくそれでスパイやるって言ったわね……」
目が見えなくても三次元のものであれば少しであれば情報を得ることが出来たかもしれない。だが、二次元のもの。画面上や紙に記されている情報はどうしようもない。寧ろ内容が理解出来ているだけ奇跡である。
仇忌「……えー、“今後訪れうる勇者パーティー並びに冒険者達の訪問時の対応と対策”と…………スゥーッ……なるほどな、本当に良くやった、お前。」
パーシィ「……えっ?ち、ちょっと僕にも確認させてもらって……」
癒果「見終わったら私たちにもお願いしますね~!」
メリー「……それ以前に、魔王軍ってそんな入念に事前準備してるの?」
仇忌「しかも人間が今使ってるニューラット語(固有言語その2)を使った資料だぞ。本当に魔物と魔族の軍か?」
そんな魔王軍の資料に盛り上がる一行だったが、マイラが軽く咳払いをしたのを聞いて少し冷静になる。ついでに彼女がゆっくりと他の資料を端に避けると、勇者は手に持っていた資料を机の真ん中に戻した。
マイラ「……では、改めて……勇者さん達の最近の積極的な魔物討伐や、この国の軍による魔王軍の駐屯所制圧を受けて、魔王軍としてはかなり警戒を強めているみたいです。資料の通り、昨年よりも魔物や魔族の動員数が二倍近くになっています。」
パーシィ「二千体から三千七百体くらいにまで増えているみたいだね……」
メリー「中途半端な数……」
マイラ「……ま、まぁ……事務方の魔族の方や、見習いの方。メイドさんや執事さん、設備拡充などの方にも数を割いていますので、割とカツカツなのです。」
仇忌「人事って魔王軍にもあるんだな……」
癒果「それを聞くと少し攻めずらいですね……」
魔物にも数に限りはある。食料や住処などの確保にも数は割かなければならない。現代であれば魔物や魔族の世界でも通貨という概念はある為、容易に食料及び資材の確保は出来ない。冒険者ギルドのようなものもなければ通貨の生産技術も無い。
あれやこれやと、それらの課題を考慮しつつやり繰りしていくとなると、やはり警備全特化という訳にもいかないのだろう。挙句、人間には容赦なく攻め込まれる世の中。魔物の世界は人の世よりも世知辛いのかもしれない。
マイラ「ひとまず、進軍している余裕はなさそうでしたが、守り自体は万全といった様子ですかね。」
パーシィ「なるほどね。確かに、最近魔王軍が攻め込んできたりっていう報告が無かったような……」
メリー「でも、魔物の数は減ってないわよ?」
マイラ「…………皆さんが倒している魔物は、まだ魔王軍に入っていない方々ですね。」
仇忌「魔王軍に入る・入らないがあるのか?」
マイラ「魔王軍に入るには、いくつかの手順を踏んだり、条件を満たす必要があるのです。魔物の皆さんにも生活がありますので、直ぐに移り住むという訳にもいかないのです。」
仇忌「食い気味に話すな、お前なら分かるだろう?」
パーシィ「まぁまぁ……」
癒果「では、その魔物さんたちが皆さん魔王軍に入れば、かなりの戦力になってしまうのでは……?」
マイラ「………………今、怒られたと思うので反省中です…………」
仇忌(めんどくせぇガキだな……)
マイラ「聞こえてますよ……!?」
仇忌「あ、悪い。」
もちろん他には分かっていないので、この二人以外は首を傾げている。彼女の前では心の中でさえ、不用意に悪口を言うことすら出来ない。寧ろそういう意味では、先週メリーが面倒臭いと口で言ったのは賢かったのかもしれない。
パーシィ「今あちこちにいる魔物や魔族が、全て魔王軍になる危険性はあるかい?」
マイラ「……そんな事は出来ません。仮に皆さん魔王軍になったとして、その後受け入れられる程の大量の居住地はありません。下手に開拓をすれば、人間のようにィェルミェイの恨みを買うことになりかねませんから。」
癒果「える……やる……え?」
メリー「何の恨みって言ったの……?」
マイラ「……ィェルミェイです。ニホンゴの『い』と『え』の中間くらいの音で『や』の行を発音するようなイメージです。」
パーシィ「……袁、分かったか?」
仇忌「いや分かるか。聞いたことも無いが。」
ィェルミェイはこの星で昔から使われている言葉で、人間の言葉では“精霊族”と表す。精霊族はあらゆる物事に宿っており、様々なものを司る存在であるとされている。人間が彼らに恨まれているというのはつまりそういうことなのだろう。
仇忌「要するに、その危険性は無い、と。」
マイラ「……ざっつらいと!です。」
メリー「発音……あとその部分だけ無理にテンション上げなくていいのよ。」
癒果「ま、まぁ……!ひとまず魔王城の魔物の総数は分かりましたね……!その他にはどう言った情報を頂けるんですか?」
マイラ「……はい。次に魔王城への経路ですが、最短ルートでも、理論上は最低三日はかかります。……地図のある資料があるはずなのですが……」
パーシィ「地図……あぁ、これ……かな?……子供の落書きみたいだけど……」
マイラ「……すみません。何分、何も見えないものですから。」
仇忌「お前が描いたのかよ。」
そう言ってパーシィに手渡された資料を先程の資料の上に置き、説明を始める。彼女の言う通り、資料にはこの国とその周辺、そして魔王城が乱雑に記されていた。そして所々にぐちゃぐちゃと印が着けてあり、その図の外にはミミズの這ったような字で、その印についての説明もあるようだった。
マイラ「まず、この国から魔王城に向かうルートは大きく分けて三つです。一つはダンジョン経由、一つは迷いの森経由。そしてもう一つは、危険ですが、魔物用の専用ルートがあります。」
パーシィ「魔物専用ルート……?」
マイラ「……はい。私にとっては負感体に襲撃される恐れもないので最も安全ですが、人間である皆さんにとっては、自ら魔物の生活圏に踏み込む訳ですから、とても危険です。」
仇忌「まぁ……最悪倒して行ってもいいが……」
マイラ「……この国に魔物が入り込んだ時の逆バージョンになると思いますけれど……本当にそうしますか」
パーシィ「やめておこう。」
普通、人間の国に魔物が入り込んだら生きては帰れない。この国に住んでいる者ならば誰でも伝わる重度の警告である。いくら脳筋勇者であっても、手数で押されれば十分負けは有り得る話。ここは別のルートをとるのが無難であろう。
メリー「ダンジョン経由だとどのくらいかかるの?」
マイラ「…………ダンジョンの数は六つほどで、階数も多く、魔王城が近いということもあってかなり強い魔物が多いので、一週間から二週間程度が妥当ですが……他の勇者さんも挑戦して亡くなられているのでおやめになった方がいいかと思います。」
癒果「では、迷いの森は……」
マイラ「……はい、迷いの森が一番短く済む可能性がありますが、早くても抜けるのに一日から三日ほど……運が悪いと一週間、一月、一年……最悪の場合は一生抜けれません。」
仇忌「運次第では最も早く抜けられると……」
マイラ「……はい。一応、私の体でも一日で抜けれることは確認していますし、私が森を出るまでの平均的な時間は三日程度ですので、一週間はかからないかと。」
パーシィ「魔物のリスクは?」
マイラ「……魔物の匂いは特にありませんでしたから、基本は居ないと思います。ただ、ミリエンやナルイルブズの香りはしましたけど。」
仇忌「もういいよそれ……」
※ミリエン=妖精族
ナルイルブズ=白精族(ホワイトエルフ)
マイラ「ィェル……精霊族は香りが無いのでなんとも言えませんが、あの辺は純精族の類がいる可能性が高いですね。」
癒果「妖精さんなんて久しぶりに見ますね~……!」
メリー「……あれ?もう迷いの森に行く前提の話の進め方してない?」
パーシィ「出れないリスクはまぁあるとして、魔物のリスクが少ないのは助かるな。体力も温存していける方がいざっていう時に活きるからね。」
一日中ぶっ通しで歩き続けた方が疲れるような気もするが、回復役・魔法防御役である賢者の魔力温存や、即死トラップなどの恐れもあるダンジョンの危険性なども考えると、迷いの森で少し迷ってでも素早く、戦闘無しで出る方がいいのかもしれない。それに、例えその情報が嘘だとしても、ダンジョンとは違って森ならば、頑張れば隠れてやり過ごすことも出来るかもしれない。長旅において様々な節約は大事なのである。
ルートが全員の中で決まったところで、彼らは皆一斉に頷き、その意を確認しあった。となれば次はいつ出立するかと、どれだけ準備をしていくかも決めなくてはならない。
仇忌「早速、明後日にでも出るか?」
癒果「えっ?明日じゃないんですか?」
メリー「癒果ちゃん……」
マイラ「……え?明後日には出るんですか?」
パーシィ「まぁ、善は急げってね。」
マイラ「…………善……ですか…………」
パーシィ「まぁ、魔物にとっては悪かもしれないけどね……」
マイラ「……善言撤回……なんちゃって…………(小声)」
パーシィ「……あぁ?」
マイラ「……い、いえ……なんでも……」
パーシィ「だよな?」
※ただの悪い癖なのでスルーしてあげてください。
癒果「明日だって暇じゃないですか。」
仇忌「準備もしなければならないし、明日は負感体の討伐依頼をこなさないとだろう。」
癒果「あーっ!!言っていましたね!!」
メリー「癒果ちゃん……しっかりしてよぉ…………」
そんな会話をしていると、マイラの体が一瞬震え、後ろを向き顔を上げて勇者の顔を見つめる。いや、見えてはいないのはずなので見つめるという表現は違うのかもしれない。が、ボロ布の下に隠れているガラス玉のような瞳は間違いなく勇者の目を見ている。何がそう思わせるのかは分からないが、少なくとも彼らにはそう思えたようで、そんな彼女の行動に一度息を飲んでいた。
パーシィ「ど、どうしたんだい?」
マイラ「……負感体…………」
負感体。正式名称は自立型負感性個体。魔物とも魔族とも違う、種を問わず全ての存在に力を振るう存在。また、変異個体とも呼ばれる異質な個体。あらゆる存在の負の感情が具現化し、強力かつ制御の無いチカラを持ち、躊躇無くあらゆる命を奪っていく、人魔共通の敵。
それは、古の時代から魔族の生活を脅かしてきた存在であり、人がこの星に渡って来てからは更に数を増やし、残虐性を増していた。生きていれば、必ずこの存在に大切な存在を奪われたという人や魔物にあたる。それが、彼女であっても何ら不思議では無い。それほど被害が甚大であり、無視出来ない厄介な存在なのである。
仇忌「…………先に言っておくが、お前は置いていくぞ。」
マイラ「……足手まといだからですか。」
仇忌「違う。奴らはなんの害もない存在でも構わず命を奪う。お前をそんな危険な相手の前に連れていくのは流石に心が痛い。」
パーシィ「そうだね……負感体には僕たちでも容易には近付けない。そんな相手に、君を対峙させるなんて、僕たちにはとても出来ないよ。」
言ってしまえば、相手はチカラの塊。負の感情とチカラのみを元に構成されている負感体には、手加減などというものは存在しない。それ以前に、そのような知力すら持ち合わせていないことが多い。ただ目の前の存在に力を振るう、それが負感体である。そんな存在の前に彼女を連れて行くなど、実質自殺させに行くようなものである。
マイラ「……でも、置いていくと言われても、私この辺りに家ありませんよ。」
メリー「じゃあ今までどうやって暮らしてたのよ?」
マイラ「……ホテルや宿屋に泊まっているんです。ただ、魔族がこの国で生活しているのは世間体的にあまり宜しくないようで、殆どの方からは嫌悪の念を感じます。なので、毎日転々としている形ですね。」
メリー「なら……その前」
マイラ「お答え出来ません。」
彼女は少し食い気味に、その部分だけ強調するかのように、少しだけ大きな声でそう告げた。ただ彼女が嫌いなのか、はたまた話すのが嫌なだけなのかは分からないが、マイラは少し表情を強ばらせて彼女を睨んでいた。
癒果「……では、連れていくしか……?」
仇忌「何で答えられないんだ?」
マイラ「……えっ…………その、ちょっとは遠慮して欲しいのですが……」
メリー「アンタねぇ……デリカシーとか無いわけ……?」
仇忌「ん……?……まぁいいか。」
パーシィ「……ま、まぁ……それはいいとして……もし、どうしてもついてくるというのならば、僕たちはもちろん君の事を最大限守れるよう最善を尽くすけれど、残念ながらそれは絶対じゃない。それで」
マイラ「行きます。」
パーシィ「早いって。」
まだ話しきっていないが、心を読めばすぐである。それでも行くという彼女の表情はほぼ無表情に近かったが、何を言われても引き下がらないあたり、それ相応の覚悟をもってのことなのだろう。むしろ、そんな生半可なものでは表しきれないものがあるのかもしれない。でなければ、既に満身創痍に近いその身体を態々死地に運ぶ理由にはならないだろう。
メリー「じゃあ……マイラも連れていくとして……次に決めることは?」
マイラ「……あとは、出立の為の準備。いわゆる買い出しですが、勇者パーティーの皆さんの装備ならば戦闘面での問題は無いと思います。どちらかと言うと飲食物の買い出しや外で使える調理器具、テントや外用寝具に軽い応急手当のできるものなどが必要かと。」
癒果「回復であれば私がいつでも致しますよ……?」
仇忌「それはありがたいが、出来ることなら大怪我の際や戦闘時の為にとっておきたい。癒果の魔力を温存させる為にも、軽い怪我や傷に対応出来る救急セットは欲しいところだな。自然治癒が早いものに癒果の魔力を使わせるのは勿体ない。」
もし、今後命に関わる大怪我や大事故にあった際には、賢者の回復が必須になってくる。しかし、そのレベルの回復ならば魔力の消費量も著しい。小さな怪我に対して毎度毎度魔法で治癒していては、魔王の元に辿り着く頃には魔力が枯渇しているかもしれない。そうならない為にも、彼女の力を温存させるのは特に重要なのである。
マイラ「……救急セットで思い出しましたが、皆さんもポーションは使わない派ですか。」
ポーション、よくあるファンタジーに出てくるそれと同じ、飲む傷薬(即効性)である。一応医薬品の類ではあるが、あくまでも使用者の自然治癒の力を一時的に活性化させるだけなので、何でもかんでも治せる万能な薬という訳では無く、医師もあまり推奨していない。そんなポーションだが、この世界では冒険者の中でもポーションを使う派と使わない派で別れていたりする。
癒果「ゼッタイに使わない派ですっ!!」
メリー「んん……まぁ気持ちはわからなくもないけど、何もそこまで強く言わなくても……ちなみに私も使わない派よ。」
パーシィ「僕も使わない派だね。」
仇忌「使わないな。大怪我ならば医者に行く、小さな怪我なら自然治癒か癒果に治してもらうかだな。」
癒果「ですよねっ!」
マイラ「……ですよね。あんなの飲んだら戦闘中吐きますし。」
四人「やっぱりそれが一番大きい(です)。」
普通、ポーションを飲む場合はボトル一本(約750ml)を三回ほどに分けて飲みきる。一回辺り250mlを飲むと数十分の間は自然治癒力が飛躍的に上昇するが、ちまちま飲むと大してその恩恵を得られない。ポーションもあくまでも飲み物。一度ならまだしも、それが三回、四回と増えていき飲む量が増えていくと、その後に過度な運動(主に戦闘)をすると大抵は胃が苦しくなるという。酷ければ嘔吐、最悪の場合は死亡例もあるという。
想像が難しいのであれば、2リットルペットボトルの半分を飲んで、ペースランニングまたはシャトルランをするイメージをしてみてもいいかもしれない。ちなみに賢者が必死になっているのは、回復役としての存在意義の問題だろう。
マイラ「……では、ポーションはいいですね。私も必要なものは買い揃えておきます。」
パーシィ「何を買うんだい?」
マイラ「……ナイショです。私に必要なものとだけ言っておきます。」
メリー「パーシィもあんまり不用意に聞かないの……!」
パーシィ「あぁ……まぁプライベートに首を突っ込むのは失礼かな。ごめんね。」
ノンデリは能力の如何に関わらず、パッシブスキルである。
マイラ「……別にいつか知ると思いますので謝らなくていいんですが……ここでは言い難いだけです。」
仇忌「なら、買い出しは個別行動、ペア自由。今日と明日の午後でいいか?」
メリー「はーい、賛成で。」
癒果「はい、私も賛成です……!」
パーシィ「僕もそれで構わないよ。……君も賛成でいいのかい?」
マイラ「……異論はありません。その方が気が楽です。」
仇忌「満場一致で可決だな。なら、今日のクエストから帰ってきたら一旦解散でよろしく頼む。午後六時にはここに戻ってきてくれ。」
そうして、魔王城への遠征計画はサクッと立てられた。こうも早く事が済んでしまうとなると、マイラがスパイになった意味があまり無いような気もするが、危険な場所(?)に長居させるよりはいいのかもしれない。
作戦タイムが終了すると、マイラは机に置いていた資料を一箇所に集め、乱雑にカバンの中に戻した。使わなかった資料の方が多いが、一体何の資料だったのだろうか。
仇忌「……残りの資料は何が書いてあるんだ?」
マイラ「……えっ…………あぁ、良ければ全部貰ってください。私どうせ読めないので。」
そう言ってマイラは一度しまった資料を全て仇忌の方に差し出す。先程見せたもの以外にも、魔王城の内部地図や魔物の配置、経済状況のようなものを示した資料など様々な種類があった。
パーシィ「……この数字が沢山並んでいるのは?」
マイラ「……それは資材の仕入れだったり輸出だったりの収支額が書いてあるものだと思います。どうしても攻めようがないということでしたら、周りから経済面で打撃を与えることも提案しようかと思って……」
仇忌「こっちの城内地図は?」
マイラ「魔物の配置場所と城内のマップですね。魔王様までの最短ルートと、戦闘がいちばん少なくて済みそうなルートには線を引いていますが、どちらにせよ後々まとまって攻められないように全部倒すと思いますので、別に話さなくても良いかと……」
仇忌「いや、一番話せ?城内ルート重要だぞ割と。そのくらい分かるだろ?」
そう突っ込まれた彼女は、とぼけるように明後日の方向に顔を向け、鳴ってもいない口笛を吹いてわざとらしく知らんぷりをする。確かに、魔物の配置などは正直言って全て倒してしまえばいいので気にしなくてもいいが、魔王城の内部構造については説明しておくべきだっただろう。魔王や魔物の側とはいえ城は城。そこら辺のダンジョンなどよりも遥かに内部は複雑なはず。そうなると攻略ルートの案内も必要だろう。
マイラ「……まぁ~……道すがら話しますので、ね?どうせ最低でも三日かかるんですから、三日あれば覚えられますし、その資料もお渡ししますから。いいですよね?」
パーシィ「なんか開き直ってないか?」
マイラ「……気のせいです。」
仇忌「……はぁ……もう面倒だから後にしよう。こいつのペースに合わせてたら時間がいくらあっても足らん。」
メリー「まぁ……そうね。先に今日の分のクエストを終わらせる方がいいわね。……どうせそれもまたついてくるって言うんでしょうけど……」
マイラ「……はい、ついて行きます。じゃないと、案内中に私が皆さんを殺めてしまう恐れもありますし……そうならない為にも、私の戦闘方法についてもちゃんとお話しないとですからね。」
癒果「め、目が見えない分それも有り得そうですもんね……?」
仇忌「ならちゃんとついてこい。リードは持たないぞ。」
マイラ「……そこは安心してください。皆さんの匂いを追いますから。」
メリー「それはそれでなんか嫌だけど……はぐれちゃダメよ?」
マイラ「……善処します。」
パーシィ(心配だな……)
同時刻
ヴィラフォリダニア近辺 魔王城
魔王「………………」
従者「……魔王様、盗聴はあまり宜しくないかと。」
魔王「あちら側がこちらの情報が欲しいと言うなら、こちらもそれ相応の情報を貰う。人間の言葉で言うところの、『ギブアンドテイク』というものだ。」
従者「それをあの小娘……いえ、新人に任せたのですか?」
魔王「スパイとして来たのは彼女だからな。二重スパイとして動いてもらおうと思ってな。ちゃんと見えない場所に盗聴器を忍ばせておけと命令しておいたし、心配はしてないよ。」
従者「……スパイとして来たということは、自らスパイだとバラしたのですか?」
魔王「まぁ、そうなるな。」
従者「はぁ……何をふざけた事を……」
魔王「ちなみに言っておくぞ?アルミナ。」
アルミナ(従者)「はい?」
魔王「アイツお前が知らなかっただけでだいぶ前から居るぞ。」
アルミナ「…………あんな子供に出し抜かれたと?」
魔王「それ、聞かれてたら骨折られるぞお前。」
アルミナ「ご安心を。魔王様の真の右腕であるこのアルミナにかかれば、あのような小娘の更生並びに育成、おしおきや調教、その他諸々など朝飯前です。」
魔王「お前なぁ……仲間に対して対抗心を燃やすなよ。」
アルミナ「人間の世界に入り浸っているような者に気など許しません。彼女が私たちを裏切らないとも言い切れないでしょう?」
魔王「まぁ、なんなら入ってくる時に“後々裏切るかもしれませんが、それでも良ければよろしくお願いします”って言ってたしな。」
アルミナ「なんでそんなヤツ入れたんです……?」
魔王「え?まぁ……何となく?」
アルミナ「何となくで怪しいの拾って来ないでください。絶対後悔しますよそれ。」
魔王「ま、その時はその時だな。それに、アイツならきっと賢い選択をするだろうしな……」
アルミナ「…………?」
第二話 終
tips
「魔王軍」
ある地域を治めている魔王の傘下に入っている、またはその魔王について行くとした魔物・魔族。あるいは魔王との直接契約によって仕えることとなった者達(人間も含む)の総称。基本は人間の敵とされている。魔王軍としての共通の制約はほぼ無く、入ってから抜けるまで基本はフリー。魔王からの協力の要請、もしくは魔王と傘下の者との双方の合意の元での指示くらいでしか魔王軍に在籍している者としての活動は無い。嫌なら嫌と言えば基本強制はされないというホワイトな団体。挙句、最低限の衣・住・働(食料調達の仕事。働けば確実に食料は貰えるため実質的な食の部分。)は用意してくれる。しかし、給料が支払われるのはそういった事に協力してくれた者、あるいは直接契約を行っている者のみとなっている。魔王軍によっては加入に一定の条件(魔王からの指示は基本引き受けるなどの前提事項)などが設けられている場合もある。魔物・魔族に友好的な人間は大歓迎されるので、たまに人間が居たりもする。軍とあるが、実際は軍としての仕事はほぼ無い(人間からの自衛が大半の為)。なお、とある王国の魔王の傘下だけは魔王軍とは呼ばれておらず、人間同様に法による統治が成されている。
冒険者ギルド・ヴィラフォリダニア中央本部
ギルド内が賑わってきた頃、勇者パーティーとマイラは窓側のテーブル席で集まっていた。魔王軍にスパイとして堂々と入ったマイラは、右肩から左の腰の方にかけている少し長めの肩掛けカバンから様々な紙を机の上に取り出して、説明のための準備をしていた。
賢者と聖騎士はその資料に目線を向けていたが、正面に座っていた魔導師は別の点で気になることがあるようで、じっとマイラを見つめていた。魔導師から漏れ出る謎の強い思念を感じ取った彼女が、気まずそうに聞き返すのにはさほど時間はかからなかった。。
マイラ「……あ、あの……何か用でしょうか。」
メリー「……えっ?あ、あぁ……私に聞いてる?」
マイラ「……はい。先程からただならぬ強い思念が漏れ出ていましたし、何よりそれが私の方に向いているような気がしまして……」
メリー「そ、そうね……まぁ、大したことじゃないんだけれど……どうして貴女は当たり前のようにパーシィの膝の上に乗ってるわけ……?」
そう、資料を出すのも並べるのも、あわよくばこのまま話をするのさえもパーシィの膝の上で行うとでも言うかのように、ごく当たり前の様子で膝の上に乗っていた。メリーも年頃の女性、特に深い意図はないと分かっていてもなお、気になって仕方がなかったようだ。
マイラ「あぁ、その事ですか。お気になさらないで下さい。私は皆さんと比べて背が低いですので、この椅子に座ってだと目線が合わないのですよ。」
仇忌(……声に出して突っ込むのはやめておこう。面倒は御免だ。)
癒果「なるほどです……!ちゃんと目線を意識してお話するなんて偉いですね!」
メリー「な、なるほど……?」
仇忌(そしてお前らも何故気づかない?)
マイラ「……そ、それに、勇者さんのお膝の上であれば、机に対してのある程度の向きは把握出来ると思いまして。」
パーシィ「……らしいぞ。」
マイラ「あと、そもそも机に対しての椅子の数が4つしか無かったので。他のテーブル席から持ってくるのも迷惑になるかと思って、勇者さんにお願いしました。」
メリー「そ、そう……分かったわ。ごめんなさいね、変な事を言って。」
パーシィ「何だ?お前も乗りたいのか?」
メリー「バッ……!?バカ言ってんじゃないわよ!!」
仇忌「……それで、どれがどの情報の」
メリー「アンタもアンタで無視しないでよ!?」
パーシィ(話、進まないな~……)
こんな勇者パーティーで本当に魔王討伐が成せるのか甚だ心配ではあるが、それも彼女の持ってきた情報次第で変わってくる。態々資料まで持ってきているのを見るに、少しは役に立つ情報がありそうなものだが、こんな少女の見た目をした魔族が大した情報を持ってこれているのだろうか。
パーシィ「もういいか?出来れば早いこと情報を聞きたいんだが……」
メリー「悪かったわねぇ……!長引かせて!!」
マイラ「それでは、早速始めさせていただきます。まず初めに、この資料を…………この……この資料なんて書いてありますか。」
仇忌「帰っていいか?」
癒果「ま、まぁまぁ……!」
パーシィ「一つ聞きたいんだが、ずっとそんな感じなんだとしたらこの資料どうやって持ってきた?」
マイラ「魔王城の中での会議で配られたものをそのままいくつか拝借してきました。その後に個別で資料の図を思念として読み取らせて頂いたので、内容は把握しているのですが……一度置いたが最後どれがどれか分からなくて…………」
メリー「よくそれでスパイやるって言ったわね……」
目が見えなくても三次元のものであれば少しであれば情報を得ることが出来たかもしれない。だが、二次元のもの。画面上や紙に記されている情報はどうしようもない。寧ろ内容が理解出来ているだけ奇跡である。
仇忌「……えー、“今後訪れうる勇者パーティー並びに冒険者達の訪問時の対応と対策”と…………スゥーッ……なるほどな、本当に良くやった、お前。」
パーシィ「……えっ?ち、ちょっと僕にも確認させてもらって……」
癒果「見終わったら私たちにもお願いしますね~!」
メリー「……それ以前に、魔王軍ってそんな入念に事前準備してるの?」
仇忌「しかも人間が今使ってるニューラット語(固有言語その2)を使った資料だぞ。本当に魔物と魔族の軍か?」
そんな魔王軍の資料に盛り上がる一行だったが、マイラが軽く咳払いをしたのを聞いて少し冷静になる。ついでに彼女がゆっくりと他の資料を端に避けると、勇者は手に持っていた資料を机の真ん中に戻した。
マイラ「……では、改めて……勇者さん達の最近の積極的な魔物討伐や、この国の軍による魔王軍の駐屯所制圧を受けて、魔王軍としてはかなり警戒を強めているみたいです。資料の通り、昨年よりも魔物や魔族の動員数が二倍近くになっています。」
パーシィ「二千体から三千七百体くらいにまで増えているみたいだね……」
メリー「中途半端な数……」
マイラ「……ま、まぁ……事務方の魔族の方や、見習いの方。メイドさんや執事さん、設備拡充などの方にも数を割いていますので、割とカツカツなのです。」
仇忌「人事って魔王軍にもあるんだな……」
癒果「それを聞くと少し攻めずらいですね……」
魔物にも数に限りはある。食料や住処などの確保にも数は割かなければならない。現代であれば魔物や魔族の世界でも通貨という概念はある為、容易に食料及び資材の確保は出来ない。冒険者ギルドのようなものもなければ通貨の生産技術も無い。
あれやこれやと、それらの課題を考慮しつつやり繰りしていくとなると、やはり警備全特化という訳にもいかないのだろう。挙句、人間には容赦なく攻め込まれる世の中。魔物の世界は人の世よりも世知辛いのかもしれない。
マイラ「ひとまず、進軍している余裕はなさそうでしたが、守り自体は万全といった様子ですかね。」
パーシィ「なるほどね。確かに、最近魔王軍が攻め込んできたりっていう報告が無かったような……」
メリー「でも、魔物の数は減ってないわよ?」
マイラ「…………皆さんが倒している魔物は、まだ魔王軍に入っていない方々ですね。」
仇忌「魔王軍に入る・入らないがあるのか?」
マイラ「魔王軍に入るには、いくつかの手順を踏んだり、条件を満たす必要があるのです。魔物の皆さんにも生活がありますので、直ぐに移り住むという訳にもいかないのです。」
仇忌「食い気味に話すな、お前なら分かるだろう?」
パーシィ「まぁまぁ……」
癒果「では、その魔物さんたちが皆さん魔王軍に入れば、かなりの戦力になってしまうのでは……?」
マイラ「………………今、怒られたと思うので反省中です…………」
仇忌(めんどくせぇガキだな……)
マイラ「聞こえてますよ……!?」
仇忌「あ、悪い。」
もちろん他には分かっていないので、この二人以外は首を傾げている。彼女の前では心の中でさえ、不用意に悪口を言うことすら出来ない。寧ろそういう意味では、先週メリーが面倒臭いと口で言ったのは賢かったのかもしれない。
パーシィ「今あちこちにいる魔物や魔族が、全て魔王軍になる危険性はあるかい?」
マイラ「……そんな事は出来ません。仮に皆さん魔王軍になったとして、その後受け入れられる程の大量の居住地はありません。下手に開拓をすれば、人間のようにィェルミェイの恨みを買うことになりかねませんから。」
癒果「える……やる……え?」
メリー「何の恨みって言ったの……?」
マイラ「……ィェルミェイです。ニホンゴの『い』と『え』の中間くらいの音で『や』の行を発音するようなイメージです。」
パーシィ「……袁、分かったか?」
仇忌「いや分かるか。聞いたことも無いが。」
ィェルミェイはこの星で昔から使われている言葉で、人間の言葉では“精霊族”と表す。精霊族はあらゆる物事に宿っており、様々なものを司る存在であるとされている。人間が彼らに恨まれているというのはつまりそういうことなのだろう。
仇忌「要するに、その危険性は無い、と。」
マイラ「……ざっつらいと!です。」
メリー「発音……あとその部分だけ無理にテンション上げなくていいのよ。」
癒果「ま、まぁ……!ひとまず魔王城の魔物の総数は分かりましたね……!その他にはどう言った情報を頂けるんですか?」
マイラ「……はい。次に魔王城への経路ですが、最短ルートでも、理論上は最低三日はかかります。……地図のある資料があるはずなのですが……」
パーシィ「地図……あぁ、これ……かな?……子供の落書きみたいだけど……」
マイラ「……すみません。何分、何も見えないものですから。」
仇忌「お前が描いたのかよ。」
そう言ってパーシィに手渡された資料を先程の資料の上に置き、説明を始める。彼女の言う通り、資料にはこの国とその周辺、そして魔王城が乱雑に記されていた。そして所々にぐちゃぐちゃと印が着けてあり、その図の外にはミミズの這ったような字で、その印についての説明もあるようだった。
マイラ「まず、この国から魔王城に向かうルートは大きく分けて三つです。一つはダンジョン経由、一つは迷いの森経由。そしてもう一つは、危険ですが、魔物用の専用ルートがあります。」
パーシィ「魔物専用ルート……?」
マイラ「……はい。私にとっては負感体に襲撃される恐れもないので最も安全ですが、人間である皆さんにとっては、自ら魔物の生活圏に踏み込む訳ですから、とても危険です。」
仇忌「まぁ……最悪倒して行ってもいいが……」
マイラ「……この国に魔物が入り込んだ時の逆バージョンになると思いますけれど……本当にそうしますか」
パーシィ「やめておこう。」
普通、人間の国に魔物が入り込んだら生きては帰れない。この国に住んでいる者ならば誰でも伝わる重度の警告である。いくら脳筋勇者であっても、手数で押されれば十分負けは有り得る話。ここは別のルートをとるのが無難であろう。
メリー「ダンジョン経由だとどのくらいかかるの?」
マイラ「…………ダンジョンの数は六つほどで、階数も多く、魔王城が近いということもあってかなり強い魔物が多いので、一週間から二週間程度が妥当ですが……他の勇者さんも挑戦して亡くなられているのでおやめになった方がいいかと思います。」
癒果「では、迷いの森は……」
マイラ「……はい、迷いの森が一番短く済む可能性がありますが、早くても抜けるのに一日から三日ほど……運が悪いと一週間、一月、一年……最悪の場合は一生抜けれません。」
仇忌「運次第では最も早く抜けられると……」
マイラ「……はい。一応、私の体でも一日で抜けれることは確認していますし、私が森を出るまでの平均的な時間は三日程度ですので、一週間はかからないかと。」
パーシィ「魔物のリスクは?」
マイラ「……魔物の匂いは特にありませんでしたから、基本は居ないと思います。ただ、ミリエンやナルイルブズの香りはしましたけど。」
仇忌「もういいよそれ……」
※ミリエン=妖精族
ナルイルブズ=白精族(ホワイトエルフ)
マイラ「ィェル……精霊族は香りが無いのでなんとも言えませんが、あの辺は純精族の類がいる可能性が高いですね。」
癒果「妖精さんなんて久しぶりに見ますね~……!」
メリー「……あれ?もう迷いの森に行く前提の話の進め方してない?」
パーシィ「出れないリスクはまぁあるとして、魔物のリスクが少ないのは助かるな。体力も温存していける方がいざっていう時に活きるからね。」
一日中ぶっ通しで歩き続けた方が疲れるような気もするが、回復役・魔法防御役である賢者の魔力温存や、即死トラップなどの恐れもあるダンジョンの危険性なども考えると、迷いの森で少し迷ってでも素早く、戦闘無しで出る方がいいのかもしれない。それに、例えその情報が嘘だとしても、ダンジョンとは違って森ならば、頑張れば隠れてやり過ごすことも出来るかもしれない。長旅において様々な節約は大事なのである。
ルートが全員の中で決まったところで、彼らは皆一斉に頷き、その意を確認しあった。となれば次はいつ出立するかと、どれだけ準備をしていくかも決めなくてはならない。
仇忌「早速、明後日にでも出るか?」
癒果「えっ?明日じゃないんですか?」
メリー「癒果ちゃん……」
マイラ「……え?明後日には出るんですか?」
パーシィ「まぁ、善は急げってね。」
マイラ「…………善……ですか…………」
パーシィ「まぁ、魔物にとっては悪かもしれないけどね……」
マイラ「……善言撤回……なんちゃって…………(小声)」
パーシィ「……あぁ?」
マイラ「……い、いえ……なんでも……」
パーシィ「だよな?」
※ただの悪い癖なのでスルーしてあげてください。
癒果「明日だって暇じゃないですか。」
仇忌「準備もしなければならないし、明日は負感体の討伐依頼をこなさないとだろう。」
癒果「あーっ!!言っていましたね!!」
メリー「癒果ちゃん……しっかりしてよぉ…………」
そんな会話をしていると、マイラの体が一瞬震え、後ろを向き顔を上げて勇者の顔を見つめる。いや、見えてはいないのはずなので見つめるという表現は違うのかもしれない。が、ボロ布の下に隠れているガラス玉のような瞳は間違いなく勇者の目を見ている。何がそう思わせるのかは分からないが、少なくとも彼らにはそう思えたようで、そんな彼女の行動に一度息を飲んでいた。
パーシィ「ど、どうしたんだい?」
マイラ「……負感体…………」
負感体。正式名称は自立型負感性個体。魔物とも魔族とも違う、種を問わず全ての存在に力を振るう存在。また、変異個体とも呼ばれる異質な個体。あらゆる存在の負の感情が具現化し、強力かつ制御の無いチカラを持ち、躊躇無くあらゆる命を奪っていく、人魔共通の敵。
それは、古の時代から魔族の生活を脅かしてきた存在であり、人がこの星に渡って来てからは更に数を増やし、残虐性を増していた。生きていれば、必ずこの存在に大切な存在を奪われたという人や魔物にあたる。それが、彼女であっても何ら不思議では無い。それほど被害が甚大であり、無視出来ない厄介な存在なのである。
仇忌「…………先に言っておくが、お前は置いていくぞ。」
マイラ「……足手まといだからですか。」
仇忌「違う。奴らはなんの害もない存在でも構わず命を奪う。お前をそんな危険な相手の前に連れていくのは流石に心が痛い。」
パーシィ「そうだね……負感体には僕たちでも容易には近付けない。そんな相手に、君を対峙させるなんて、僕たちにはとても出来ないよ。」
言ってしまえば、相手はチカラの塊。負の感情とチカラのみを元に構成されている負感体には、手加減などというものは存在しない。それ以前に、そのような知力すら持ち合わせていないことが多い。ただ目の前の存在に力を振るう、それが負感体である。そんな存在の前に彼女を連れて行くなど、実質自殺させに行くようなものである。
マイラ「……でも、置いていくと言われても、私この辺りに家ありませんよ。」
メリー「じゃあ今までどうやって暮らしてたのよ?」
マイラ「……ホテルや宿屋に泊まっているんです。ただ、魔族がこの国で生活しているのは世間体的にあまり宜しくないようで、殆どの方からは嫌悪の念を感じます。なので、毎日転々としている形ですね。」
メリー「なら……その前」
マイラ「お答え出来ません。」
彼女は少し食い気味に、その部分だけ強調するかのように、少しだけ大きな声でそう告げた。ただ彼女が嫌いなのか、はたまた話すのが嫌なだけなのかは分からないが、マイラは少し表情を強ばらせて彼女を睨んでいた。
癒果「……では、連れていくしか……?」
仇忌「何で答えられないんだ?」
マイラ「……えっ…………その、ちょっとは遠慮して欲しいのですが……」
メリー「アンタねぇ……デリカシーとか無いわけ……?」
仇忌「ん……?……まぁいいか。」
パーシィ「……ま、まぁ……それはいいとして……もし、どうしてもついてくるというのならば、僕たちはもちろん君の事を最大限守れるよう最善を尽くすけれど、残念ながらそれは絶対じゃない。それで」
マイラ「行きます。」
パーシィ「早いって。」
まだ話しきっていないが、心を読めばすぐである。それでも行くという彼女の表情はほぼ無表情に近かったが、何を言われても引き下がらないあたり、それ相応の覚悟をもってのことなのだろう。むしろ、そんな生半可なものでは表しきれないものがあるのかもしれない。でなければ、既に満身創痍に近いその身体を態々死地に運ぶ理由にはならないだろう。
メリー「じゃあ……マイラも連れていくとして……次に決めることは?」
マイラ「……あとは、出立の為の準備。いわゆる買い出しですが、勇者パーティーの皆さんの装備ならば戦闘面での問題は無いと思います。どちらかと言うと飲食物の買い出しや外で使える調理器具、テントや外用寝具に軽い応急手当のできるものなどが必要かと。」
癒果「回復であれば私がいつでも致しますよ……?」
仇忌「それはありがたいが、出来ることなら大怪我の際や戦闘時の為にとっておきたい。癒果の魔力を温存させる為にも、軽い怪我や傷に対応出来る救急セットは欲しいところだな。自然治癒が早いものに癒果の魔力を使わせるのは勿体ない。」
もし、今後命に関わる大怪我や大事故にあった際には、賢者の回復が必須になってくる。しかし、そのレベルの回復ならば魔力の消費量も著しい。小さな怪我に対して毎度毎度魔法で治癒していては、魔王の元に辿り着く頃には魔力が枯渇しているかもしれない。そうならない為にも、彼女の力を温存させるのは特に重要なのである。
マイラ「……救急セットで思い出しましたが、皆さんもポーションは使わない派ですか。」
ポーション、よくあるファンタジーに出てくるそれと同じ、飲む傷薬(即効性)である。一応医薬品の類ではあるが、あくまでも使用者の自然治癒の力を一時的に活性化させるだけなので、何でもかんでも治せる万能な薬という訳では無く、医師もあまり推奨していない。そんなポーションだが、この世界では冒険者の中でもポーションを使う派と使わない派で別れていたりする。
癒果「ゼッタイに使わない派ですっ!!」
メリー「んん……まぁ気持ちはわからなくもないけど、何もそこまで強く言わなくても……ちなみに私も使わない派よ。」
パーシィ「僕も使わない派だね。」
仇忌「使わないな。大怪我ならば医者に行く、小さな怪我なら自然治癒か癒果に治してもらうかだな。」
癒果「ですよねっ!」
マイラ「……ですよね。あんなの飲んだら戦闘中吐きますし。」
四人「やっぱりそれが一番大きい(です)。」
普通、ポーションを飲む場合はボトル一本(約750ml)を三回ほどに分けて飲みきる。一回辺り250mlを飲むと数十分の間は自然治癒力が飛躍的に上昇するが、ちまちま飲むと大してその恩恵を得られない。ポーションもあくまでも飲み物。一度ならまだしも、それが三回、四回と増えていき飲む量が増えていくと、その後に過度な運動(主に戦闘)をすると大抵は胃が苦しくなるという。酷ければ嘔吐、最悪の場合は死亡例もあるという。
想像が難しいのであれば、2リットルペットボトルの半分を飲んで、ペースランニングまたはシャトルランをするイメージをしてみてもいいかもしれない。ちなみに賢者が必死になっているのは、回復役としての存在意義の問題だろう。
マイラ「……では、ポーションはいいですね。私も必要なものは買い揃えておきます。」
パーシィ「何を買うんだい?」
マイラ「……ナイショです。私に必要なものとだけ言っておきます。」
メリー「パーシィもあんまり不用意に聞かないの……!」
パーシィ「あぁ……まぁプライベートに首を突っ込むのは失礼かな。ごめんね。」
ノンデリは能力の如何に関わらず、パッシブスキルである。
マイラ「……別にいつか知ると思いますので謝らなくていいんですが……ここでは言い難いだけです。」
仇忌「なら、買い出しは個別行動、ペア自由。今日と明日の午後でいいか?」
メリー「はーい、賛成で。」
癒果「はい、私も賛成です……!」
パーシィ「僕もそれで構わないよ。……君も賛成でいいのかい?」
マイラ「……異論はありません。その方が気が楽です。」
仇忌「満場一致で可決だな。なら、今日のクエストから帰ってきたら一旦解散でよろしく頼む。午後六時にはここに戻ってきてくれ。」
そうして、魔王城への遠征計画はサクッと立てられた。こうも早く事が済んでしまうとなると、マイラがスパイになった意味があまり無いような気もするが、危険な場所(?)に長居させるよりはいいのかもしれない。
作戦タイムが終了すると、マイラは机に置いていた資料を一箇所に集め、乱雑にカバンの中に戻した。使わなかった資料の方が多いが、一体何の資料だったのだろうか。
仇忌「……残りの資料は何が書いてあるんだ?」
マイラ「……えっ…………あぁ、良ければ全部貰ってください。私どうせ読めないので。」
そう言ってマイラは一度しまった資料を全て仇忌の方に差し出す。先程見せたもの以外にも、魔王城の内部地図や魔物の配置、経済状況のようなものを示した資料など様々な種類があった。
パーシィ「……この数字が沢山並んでいるのは?」
マイラ「……それは資材の仕入れだったり輸出だったりの収支額が書いてあるものだと思います。どうしても攻めようがないということでしたら、周りから経済面で打撃を与えることも提案しようかと思って……」
仇忌「こっちの城内地図は?」
マイラ「魔物の配置場所と城内のマップですね。魔王様までの最短ルートと、戦闘がいちばん少なくて済みそうなルートには線を引いていますが、どちらにせよ後々まとまって攻められないように全部倒すと思いますので、別に話さなくても良いかと……」
仇忌「いや、一番話せ?城内ルート重要だぞ割と。そのくらい分かるだろ?」
そう突っ込まれた彼女は、とぼけるように明後日の方向に顔を向け、鳴ってもいない口笛を吹いてわざとらしく知らんぷりをする。確かに、魔物の配置などは正直言って全て倒してしまえばいいので気にしなくてもいいが、魔王城の内部構造については説明しておくべきだっただろう。魔王や魔物の側とはいえ城は城。そこら辺のダンジョンなどよりも遥かに内部は複雑なはず。そうなると攻略ルートの案内も必要だろう。
マイラ「……まぁ~……道すがら話しますので、ね?どうせ最低でも三日かかるんですから、三日あれば覚えられますし、その資料もお渡ししますから。いいですよね?」
パーシィ「なんか開き直ってないか?」
マイラ「……気のせいです。」
仇忌「……はぁ……もう面倒だから後にしよう。こいつのペースに合わせてたら時間がいくらあっても足らん。」
メリー「まぁ……そうね。先に今日の分のクエストを終わらせる方がいいわね。……どうせそれもまたついてくるって言うんでしょうけど……」
マイラ「……はい、ついて行きます。じゃないと、案内中に私が皆さんを殺めてしまう恐れもありますし……そうならない為にも、私の戦闘方法についてもちゃんとお話しないとですからね。」
癒果「め、目が見えない分それも有り得そうですもんね……?」
仇忌「ならちゃんとついてこい。リードは持たないぞ。」
マイラ「……そこは安心してください。皆さんの匂いを追いますから。」
メリー「それはそれでなんか嫌だけど……はぐれちゃダメよ?」
マイラ「……善処します。」
パーシィ(心配だな……)
同時刻
ヴィラフォリダニア近辺 魔王城
魔王「………………」
従者「……魔王様、盗聴はあまり宜しくないかと。」
魔王「あちら側がこちらの情報が欲しいと言うなら、こちらもそれ相応の情報を貰う。人間の言葉で言うところの、『ギブアンドテイク』というものだ。」
従者「それをあの小娘……いえ、新人に任せたのですか?」
魔王「スパイとして来たのは彼女だからな。二重スパイとして動いてもらおうと思ってな。ちゃんと見えない場所に盗聴器を忍ばせておけと命令しておいたし、心配はしてないよ。」
従者「……スパイとして来たということは、自らスパイだとバラしたのですか?」
魔王「まぁ、そうなるな。」
従者「はぁ……何をふざけた事を……」
魔王「ちなみに言っておくぞ?アルミナ。」
アルミナ(従者)「はい?」
魔王「アイツお前が知らなかっただけでだいぶ前から居るぞ。」
アルミナ「…………あんな子供に出し抜かれたと?」
魔王「それ、聞かれてたら骨折られるぞお前。」
アルミナ「ご安心を。魔王様の真の右腕であるこのアルミナにかかれば、あのような小娘の更生並びに育成、おしおきや調教、その他諸々など朝飯前です。」
魔王「お前なぁ……仲間に対して対抗心を燃やすなよ。」
アルミナ「人間の世界に入り浸っているような者に気など許しません。彼女が私たちを裏切らないとも言い切れないでしょう?」
魔王「まぁ、なんなら入ってくる時に“後々裏切るかもしれませんが、それでも良ければよろしくお願いします”って言ってたしな。」
アルミナ「なんでそんなヤツ入れたんです……?」
魔王「え?まぁ……何となく?」
アルミナ「何となくで怪しいの拾って来ないでください。絶対後悔しますよそれ。」
魔王「ま、その時はその時だな。それに、アイツならきっと賢い選択をするだろうしな……」
アルミナ「…………?」
第二話 終
tips
「魔王軍」
ある地域を治めている魔王の傘下に入っている、またはその魔王について行くとした魔物・魔族。あるいは魔王との直接契約によって仕えることとなった者達(人間も含む)の総称。基本は人間の敵とされている。魔王軍としての共通の制約はほぼ無く、入ってから抜けるまで基本はフリー。魔王からの協力の要請、もしくは魔王と傘下の者との双方の合意の元での指示くらいでしか魔王軍に在籍している者としての活動は無い。嫌なら嫌と言えば基本強制はされないというホワイトな団体。挙句、最低限の衣・住・働(食料調達の仕事。働けば確実に食料は貰えるため実質的な食の部分。)は用意してくれる。しかし、給料が支払われるのはそういった事に協力してくれた者、あるいは直接契約を行っている者のみとなっている。魔王軍によっては加入に一定の条件(魔王からの指示は基本引き受けるなどの前提事項)などが設けられている場合もある。魔物・魔族に友好的な人間は大歓迎されるので、たまに人間が居たりもする。軍とあるが、実際は軍としての仕事はほぼ無い(人間からの自衛が大半の為)。なお、とある王国の魔王の傘下だけは魔王軍とは呼ばれておらず、人間同様に法による統治が成されている。
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