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ep20.疑惑

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(……さて、どうしようか)
 葛西の部屋で俺は夕食を作りながら悩んでいた。今日のメニューはカレーだ。ルー物しか作っていないとは言ってはいけない。食材切って鍋に入れてルーを入れるだけだから楽なのだ。決して選択肢がそれしか無いわけではない。
「そろそろ帰ってくる時間だけど……」
 彼は、一体「何」と話していたのだろうか?
 病気が悪化した? 妄想? それとも――……。
 
 ――葛西は、精神に影響を受けるくらいに、姉について何かを知っている?
 
 いや、それでもアレに納得が行かない。あの超常現象。あれはいったい何なんだ?
 彼が「芽衣子」と呼んだ「それ」はいったいなんなんだ?
 葛西は姉について、俺に何かを隠しているのか?
 疑問は尽きない。まあ、それも今日帰ってきたら聞いてみればいいだろう。俺は鍋に蓋をして葛西の帰りを待った。……が、いくら待っても葛西は戻ってこない。
「おっそいな……。いつもならそろそろ帰ってくるはずだけど」
 暇すぎて変にうろうろしてしまう。まさか、またどこかで自殺未遂でもしているのだろうか?
「連絡入れてみるか……」
 葛西の携帯の番号は知らないが、まだ彼が「K」だった頃の鬼電の履歴は残っている。この番号にかければ繋がるだろう。スマートフォンをタップして端末を耳にあてる。
 コール音、コール音、コール音。
 いつまで経っても電話に出ない葛西に、苛立ちを覚えた時だった。
『……もしもし』
「遅い。どこ行ってるんだ」
『ああ、日南くんか……』
 スピーカーの先の声は暗い。何かあったのだろうか。また自傷行為をしていなければいいけれど。遠回しに今居る所を聞こうと口を開くと、その前に葛西の声が耳に通った。
『日南くん、今……、会えたりするかい?』
「会えたりって言うかお前の家に居る。飯作ってあるから早く帰ってこいって言ってるんだよ」
『それなんだけど、帰れなくなっちゃって』
「はあ? どうした、どっかで事故ったか?」
『……あの公園で待ってる』
「は⁉ ちょ……おいっ!」
 そうして耳にはツーっという音だけが残った。
「な、なんなんだよ……」
 とりあえず、指定された公園に行くしかない。また自殺未遂されたらたまらないからな。
 冷めた鍋は冷蔵庫にしまって、財布とスマートフォンを持ってマンションを出た。
 外には冷たい風が吹いている。マフラーを持ってきて正解だったと思う。車を運転できればいいが、生憎俺は免許を持っていない。だからあんな遠いクソ住宅街まで歩きで行かなければいけない。とても面倒くさいが、仕方がない事だ。
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