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ep21.葛西と星川
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公園のベンチに、葛西は座っていた。
「……どうしたん」
「日南くん……」
泣きそうな顔で葛西は俺を見る。俺は仕方なく隣に座りコンビニで買って来たホットドリンクを手渡す。
「寒いな、ほら」
「……ありがとう」
公園は静かだ。何も話さない俺たちの息する音だけを響かせる。
「……今日は謝りたいと思って」
「何を」
「……依頼を受けたのを、取り消したいんだ」
「……なんかあった?」
葛西はしばらく無言になると、言いずらそうに言った。
「理由は、言えないんだ」
「……そっか。それってさ、今日居たレストランでのことに関係ある?」
彼はそれに目を丸くすると、どこか諦めたような複雑な表情で答えた。
「見てたのか」
「偶然」
葛西はそれを聞くと、「そっかあ」と笑った。
「僕と一緒にいた人は見えた?」
「一緒? お前ひとりだっただろ?」
「……ひとりじゃないんだ」
「え?」
いや、どう見てもひとりだっただろう。少し奇怪なことはあったが俺が見た限りはひとりだったはずだ。もしや、やっぱり葛西はまた何かこじらせているのだろうか? 例えば見えないものが見えるだとか。病院に行かせるべきだろうか。
葛西は話を続ける。
「“彼女”は、ずっと僕の傍に居る」
「彼女?」
「……僕が殺した」
そういえば、昔言っていた「自分は人を間接的に殺したことがある」と。まさかアレは本当の事だったのだろうか。でも、それなら……。
「アンタは、姉さんの知り合いなのか」
もし、それが本当なら。
『芽衣子! いい加減にしてくれ!』
葛西の言う「彼女」は姉だという話になる。でも、葛西と姉に接点はないはずだ。少なくとも俺と葛西は姉が生きていた頃に会ったことはない。葛西は俺の質問には答えず、ひとりごとのように呟く。
「僕はね、きみの事が大切なんだ。死のうとした僕を助けてくれた恩人。でも、彼女はそれが気に食わないらしい」
妄想だとは思う。葛西は精神を病んでいる。きっとこれは妄想だろう。
……妄想だよな?
「きみに会うのもこれを最後にしようと思って。だから、寝室の引き出しにある完成した遺書を届けて欲しいんだ」
「……死ぬのか」
「『葛西鈴音』はね」
この良いようだと、自殺はしないだろう。
「遺書を届ける先は中身を見たらすぐにわかるよ。部屋はキミに預けるよ、後は頼むね」
葛西はベンチから立ち上がると、ぬるくなったドリンクを俺に手渡す。
「きみと出会えて幸せだったよ」
「おい、ちょ……っ!」
彼は立ち止まらなかった。
葛西が言っている意味が解らない。
仮に、姉と葛西が知り合いだったとして、葛西が姉を殺したわけではない。だって、姉は星川のせいで自殺したのだ。葛西と星川はなんの接点も無い。顔だって違う。
(……とりあえず、遺書を読んでみるか。葛西が渡してほしいって言う人に会えばそこら辺何かわかるかもしてない)
俺の目的は一貫して「星川糺を殺すこと」だ。葛西が手を引いたとしても、自分は動かなければいけない。
合鍵を使って部屋に入る。寝室の引き出しを漁ってみると例のブツはすぐに見つかった。無地の白い封筒から中身を取り出す。俺はその一行目を見て自分の目を疑った。
『日南新くんへ』
まさか、そんなこと。
『これを読んでいるという事は、彼女がしびれを切らしたのだと思う。結論から言う。僕の本名は星川糺。きみの姉の芽衣子さんの死んだ原因を作った罪人だ』
そんなわけない。葛西と星川が同一人物?
だって、葛西と星川は顔が違う。実際に俺と星川は会っているし、写真もある。間違えるわけがない。
混乱する俺を置いて、目は文章を追う。
『依頼を受けたのは、まだ死にたくなかったからだ。少しでもきみと一緒にいられる時間が欲しかった。僕が作ったシナリオはこうだ。日南芽衣子は星川糺が原因で自殺。星川糺もその後を追う。葛西鈴音として生きることを決めた僕はその名前を捨てることに何の躊躇もなかったし、死亡した証拠だって金を積めば作れたから。でも、それは芽衣子が許さなかった。彼女は僕に憑りついている。僕が死ぬ事を望んでいる。葛西鈴音として最初にきみと出会った時、自殺しようとしていたのも彼女が望んだからだ。彼女は最初こそ、きみが元気な事に喜んでいたが、つい最近になってイラつき始めた。僕に笑顔が増えたのが気に食わなかったらしい。だから、きみに会うのはやめる。彼女がきみに何かするかもしれないから』
妄想に決まっている。そうだ、これはアイツの妄想だ。
『きみから愛する人を奪って、本当にすまなかった』
文末には『星川糺』と書かれていた。
「……なんだこれ」
まさか、そんなわけ。じゃあなんだ。俺は星川と毎日の様に会っていたのか。いや、信じられない。姉がアイツに憑りついている? そんなスピリチュアルな事、俺は信じない。
……何もかも、信じられないけど。
「もう一回、詳しく話を聞く必要があるな」
俺は葛西の電話番号に電話をかける。だけど星川の携帯は電源が切られているようで繋がらない。
「……どうすりゃいいんだよ」
もし、アイツが星川であるなら、俺はアイツを殺さなければならない。でも、ただの妄想であるなら、助けてやりたい。きっとアイツは星川の事を調べていくうちに自分の事がわからなくなってしまったのだ。そうに違いない。
――葛西がいなくなったなら、自分でやるしかない。
俺は立ち上がって荷物をまとめて部屋を出た。
「……どうしたん」
「日南くん……」
泣きそうな顔で葛西は俺を見る。俺は仕方なく隣に座りコンビニで買って来たホットドリンクを手渡す。
「寒いな、ほら」
「……ありがとう」
公園は静かだ。何も話さない俺たちの息する音だけを響かせる。
「……今日は謝りたいと思って」
「何を」
「……依頼を受けたのを、取り消したいんだ」
「……なんかあった?」
葛西はしばらく無言になると、言いずらそうに言った。
「理由は、言えないんだ」
「……そっか。それってさ、今日居たレストランでのことに関係ある?」
彼はそれに目を丸くすると、どこか諦めたような複雑な表情で答えた。
「見てたのか」
「偶然」
葛西はそれを聞くと、「そっかあ」と笑った。
「僕と一緒にいた人は見えた?」
「一緒? お前ひとりだっただろ?」
「……ひとりじゃないんだ」
「え?」
いや、どう見てもひとりだっただろう。少し奇怪なことはあったが俺が見た限りはひとりだったはずだ。もしや、やっぱり葛西はまた何かこじらせているのだろうか? 例えば見えないものが見えるだとか。病院に行かせるべきだろうか。
葛西は話を続ける。
「“彼女”は、ずっと僕の傍に居る」
「彼女?」
「……僕が殺した」
そういえば、昔言っていた「自分は人を間接的に殺したことがある」と。まさかアレは本当の事だったのだろうか。でも、それなら……。
「アンタは、姉さんの知り合いなのか」
もし、それが本当なら。
『芽衣子! いい加減にしてくれ!』
葛西の言う「彼女」は姉だという話になる。でも、葛西と姉に接点はないはずだ。少なくとも俺と葛西は姉が生きていた頃に会ったことはない。葛西は俺の質問には答えず、ひとりごとのように呟く。
「僕はね、きみの事が大切なんだ。死のうとした僕を助けてくれた恩人。でも、彼女はそれが気に食わないらしい」
妄想だとは思う。葛西は精神を病んでいる。きっとこれは妄想だろう。
……妄想だよな?
「きみに会うのもこれを最後にしようと思って。だから、寝室の引き出しにある完成した遺書を届けて欲しいんだ」
「……死ぬのか」
「『葛西鈴音』はね」
この良いようだと、自殺はしないだろう。
「遺書を届ける先は中身を見たらすぐにわかるよ。部屋はキミに預けるよ、後は頼むね」
葛西はベンチから立ち上がると、ぬるくなったドリンクを俺に手渡す。
「きみと出会えて幸せだったよ」
「おい、ちょ……っ!」
彼は立ち止まらなかった。
葛西が言っている意味が解らない。
仮に、姉と葛西が知り合いだったとして、葛西が姉を殺したわけではない。だって、姉は星川のせいで自殺したのだ。葛西と星川はなんの接点も無い。顔だって違う。
(……とりあえず、遺書を読んでみるか。葛西が渡してほしいって言う人に会えばそこら辺何かわかるかもしてない)
俺の目的は一貫して「星川糺を殺すこと」だ。葛西が手を引いたとしても、自分は動かなければいけない。
合鍵を使って部屋に入る。寝室の引き出しを漁ってみると例のブツはすぐに見つかった。無地の白い封筒から中身を取り出す。俺はその一行目を見て自分の目を疑った。
『日南新くんへ』
まさか、そんなこと。
『これを読んでいるという事は、彼女がしびれを切らしたのだと思う。結論から言う。僕の本名は星川糺。きみの姉の芽衣子さんの死んだ原因を作った罪人だ』
そんなわけない。葛西と星川が同一人物?
だって、葛西と星川は顔が違う。実際に俺と星川は会っているし、写真もある。間違えるわけがない。
混乱する俺を置いて、目は文章を追う。
『依頼を受けたのは、まだ死にたくなかったからだ。少しでもきみと一緒にいられる時間が欲しかった。僕が作ったシナリオはこうだ。日南芽衣子は星川糺が原因で自殺。星川糺もその後を追う。葛西鈴音として生きることを決めた僕はその名前を捨てることに何の躊躇もなかったし、死亡した証拠だって金を積めば作れたから。でも、それは芽衣子が許さなかった。彼女は僕に憑りついている。僕が死ぬ事を望んでいる。葛西鈴音として最初にきみと出会った時、自殺しようとしていたのも彼女が望んだからだ。彼女は最初こそ、きみが元気な事に喜んでいたが、つい最近になってイラつき始めた。僕に笑顔が増えたのが気に食わなかったらしい。だから、きみに会うのはやめる。彼女がきみに何かするかもしれないから』
妄想に決まっている。そうだ、これはアイツの妄想だ。
『きみから愛する人を奪って、本当にすまなかった』
文末には『星川糺』と書かれていた。
「……なんだこれ」
まさか、そんなわけ。じゃあなんだ。俺は星川と毎日の様に会っていたのか。いや、信じられない。姉がアイツに憑りついている? そんなスピリチュアルな事、俺は信じない。
……何もかも、信じられないけど。
「もう一回、詳しく話を聞く必要があるな」
俺は葛西の電話番号に電話をかける。だけど星川の携帯は電源が切られているようで繋がらない。
「……どうすりゃいいんだよ」
もし、アイツが星川であるなら、俺はアイツを殺さなければならない。でも、ただの妄想であるなら、助けてやりたい。きっとアイツは星川の事を調べていくうちに自分の事がわからなくなってしまったのだ。そうに違いない。
――葛西がいなくなったなら、自分でやるしかない。
俺は立ち上がって荷物をまとめて部屋を出た。
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