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運命だと思った。
サラサラと揺れる狐色の髪、切れ長の透明感のある瞳、薄いピンク色の唇に、それを引き立てる口元のほくろ。
運命だと思った。この人が、この理想を詰めたようなこの男性が、自分の番なのだと。
すれ違って、一瞬。
一目見た時からそう確信していた。
「なのにβなんてさ~!誰が考えるかって話だよ!あれだけ顔がいいならどう考えてもαだろ?!しかもあのクソセクハラ生徒会長と付き合ってるって神はどれだけ俺を傷つければ気がすむんだっつーの!!」
「落ち着け八雲。失恋した愚痴なら仕事の邪魔だから帰ってもらえないか」
「煙草吸ってエロ本見るのが仕事だってかクソ教師!」
東雲八雲は激怒していた。必ずやあの噂のセクハラ生徒会長から自分の運命の相手ーー……明屋晴人を王子のように魔の手から守り俺たちは手を取り合いハッピーエンド、の筋書き目当てで生徒会を覗きに行ったはずが、二人が両思いの上既に付き合ってる事が発覚してしまったのだ。しかもαである会長に触られて反射的に一本背負いしてしまい、一番二人を近くで見る生徒会に入ることになってしまった。辛い。
「あ~~転校早々最悪だよ!もう俺には叶兄さんしか居ないのに本人はこれだしもう世界に絶望した……」
「また転校するか?」
「叶兄さんがいるからここに来たんじゃん!」
西野叶は八雲の従兄弟にあたる。この学校で保険医をしており、αからレイプされかけて転校した八雲には、保険医が身内と言うのは都合がいいのではないかと叶から提案され転校することになった。なのにその叶は八雲の恋愛相談に全く乗ってくれない。
「というか、本当にそのキャラで明屋に接してるのか?アイツはお前みたいな不真面目な男嫌いだと思うぞ」
「キャラ作ってんに決まってんじゃん!『ボク』は先輩を尊敬してます♡って毎日目線でアピールしてるってーの!」
「お前好きな子にはコミュ障だもんな」
「奥手って言え?!」
そうなのだ。八雲は転校してきてから今までまともに晴人と話した事がない。
この学校はΩへの配慮が充実しているが、同時にαも多く、権力のある会長、御影と共に行動した方が安全だからだ。自分で撃退したもののαに若干の恐怖心を抱いている八雲にとっては恋よりも自分の安心安全の方が大事なのだ。
「はあー……二人幼馴染なんだって。俺の入る隙なくない?」
「そうだな」
「そこはフォローしろ……」
簡単に諦められる話ではない。だって、運命だと思ったのだ。そんなのすぐに諦めたら運命だと思った自分も否定することになる。八雲はΩに生まれた自分を、Ωとαだけに許された「運命」を否定する事だけはしたくなかった。
「それよりさ」
「んー」
「オレと番になるって話はどうなったの」
「いつの話だよ」
「お前が幼稚園の時から待ってんだけどな~」
「そんな前の話時効だよ」
昔、まだ第二の性も分からなかった頃。
人生初めての告白をこの男にした事がある。
「もしぼくが『おめが』だったら、かのうにいちゃんのおよめさんにしてね!」
あぁ恥ずかしい消し去りたい過去。
昔の話だ。忘れ去りたい弱い五歳の話。
当時の叶は十も歳上のそれはそれはカッコいいお兄さんで、自他共にマセガキだった八雲は彼に首ったけだったのだ。
自分がΩだと理解した時も、多少今後の生き方からショックを受けたものの、叶の存在で絶望ばかりというわけではなかった。
……中学に上がるまでは。
合鍵を使って叶の家に上がった時だった。その時は確か勉強を教えて貰う約束をしていて、それで久しぶりに合うものだからワクワクしてたのを覚えている。
大好きな叶兄ちゃんに久しぶりに会えるのだとドキドキして、普段つけないフレグランスミストまでつけちゃって、大はしゃぎしていた。積み木みたいに一秒一秒積み上げてドアの鍵を開けるまでは全てがキラキラしていた。
そして部屋から聞こえる知らない男の喘ぎ声を聞いた時、その全てがガラガラと音を立てて崩れ落ちた。
ワンルームの奥のベッドには裸の叶と、同じく裸で喘ぐ華奢な男が重なり合っていたのだ。
ドサッ、と手土産にしていたケーキを床に落とす。
「叶兄ちゃん……、その人、だれ……?」
それにやっと気づいた叶が放った言葉は今でも忘れない。
「セフレ」
「なーにが『セフレ』じゃ俺にあの時力があればぶっ殺してたわ」
「あの時お前泣いて帰ってたよなあ。可愛かったのにどうしてこんなことに」
「アンタが浮気したからだよ!」
いや、あの時は付き合っていなかったのだ。厳密には浮気とは違うかもしれない。でも、当時の自分は本当に叶の事が好きで、本気だった分裏切られたとショックを受けたのだ。だから叶が居る学校を避けて別の学校を受験した。……結局結果は同じになってしまったけれど。
下校時刻を告げるチャイムが鳴る。
「……オレは仕事があるから、先に帰ってろ」
叶はエロ本を片付けると手を振って八雲を見送る。八雲は舌打ちをして保健室を出るのだった。
だが、
「で、メシ出来てる?」
「本当死ねお前!」
帰る場所も一緒なのである。
勿論、八雲が間借りしている身だ。
八雲が元にいた学校、地元の公立校からこの学校まで県を3つ跨ぐ。日本でもΩに配慮のある学校というものはとても少ない。関東圏でも一つ二つも無いのだからΩに理解がある学校というのは珍しいのだ。そこで叶が両親に手を挙げた。自分の家に来れば良いと。
最初は叶と住むなんて嫌だった。レイプされかけた後なのだ。自分を裏切った叶、しかもαとなんて住みたくない。だけど背に腹は変えられない。そう考えた八雲は嫌々であるが首を縦に振ったのだ。
そのかわりの条件がこの2LDKの一切の家事。家事は苦ではないが叶と居るのが苦。内心苦虫を噛み潰しながらもこんな生活をもう一週間も続けている。
「今日はカレーだよ馬鹿!」
「やったぜおい」
「さっさと食って風呂入れ!」
テーブルに夕食の用意をすると叶はスーツから着替えるために自室へ戻る。
八雲は自室に戻るとベットに横になり、ふうと一息ついた。失恋の傷は深い。
サラサラと揺れる狐色の髪、切れ長の透明感のある瞳、薄いピンク色の唇に、それを引き立てる口元のほくろ。
運命だと思った。この人が、この理想を詰めたようなこの男性が、自分の番なのだと。
すれ違って、一瞬。
一目見た時からそう確信していた。
「なのにβなんてさ~!誰が考えるかって話だよ!あれだけ顔がいいならどう考えてもαだろ?!しかもあのクソセクハラ生徒会長と付き合ってるって神はどれだけ俺を傷つければ気がすむんだっつーの!!」
「落ち着け八雲。失恋した愚痴なら仕事の邪魔だから帰ってもらえないか」
「煙草吸ってエロ本見るのが仕事だってかクソ教師!」
東雲八雲は激怒していた。必ずやあの噂のセクハラ生徒会長から自分の運命の相手ーー……明屋晴人を王子のように魔の手から守り俺たちは手を取り合いハッピーエンド、の筋書き目当てで生徒会を覗きに行ったはずが、二人が両思いの上既に付き合ってる事が発覚してしまったのだ。しかもαである会長に触られて反射的に一本背負いしてしまい、一番二人を近くで見る生徒会に入ることになってしまった。辛い。
「あ~~転校早々最悪だよ!もう俺には叶兄さんしか居ないのに本人はこれだしもう世界に絶望した……」
「また転校するか?」
「叶兄さんがいるからここに来たんじゃん!」
西野叶は八雲の従兄弟にあたる。この学校で保険医をしており、αからレイプされかけて転校した八雲には、保険医が身内と言うのは都合がいいのではないかと叶から提案され転校することになった。なのにその叶は八雲の恋愛相談に全く乗ってくれない。
「というか、本当にそのキャラで明屋に接してるのか?アイツはお前みたいな不真面目な男嫌いだと思うぞ」
「キャラ作ってんに決まってんじゃん!『ボク』は先輩を尊敬してます♡って毎日目線でアピールしてるってーの!」
「お前好きな子にはコミュ障だもんな」
「奥手って言え?!」
そうなのだ。八雲は転校してきてから今までまともに晴人と話した事がない。
この学校はΩへの配慮が充実しているが、同時にαも多く、権力のある会長、御影と共に行動した方が安全だからだ。自分で撃退したもののαに若干の恐怖心を抱いている八雲にとっては恋よりも自分の安心安全の方が大事なのだ。
「はあー……二人幼馴染なんだって。俺の入る隙なくない?」
「そうだな」
「そこはフォローしろ……」
簡単に諦められる話ではない。だって、運命だと思ったのだ。そんなのすぐに諦めたら運命だと思った自分も否定することになる。八雲はΩに生まれた自分を、Ωとαだけに許された「運命」を否定する事だけはしたくなかった。
「それよりさ」
「んー」
「オレと番になるって話はどうなったの」
「いつの話だよ」
「お前が幼稚園の時から待ってんだけどな~」
「そんな前の話時効だよ」
昔、まだ第二の性も分からなかった頃。
人生初めての告白をこの男にした事がある。
「もしぼくが『おめが』だったら、かのうにいちゃんのおよめさんにしてね!」
あぁ恥ずかしい消し去りたい過去。
昔の話だ。忘れ去りたい弱い五歳の話。
当時の叶は十も歳上のそれはそれはカッコいいお兄さんで、自他共にマセガキだった八雲は彼に首ったけだったのだ。
自分がΩだと理解した時も、多少今後の生き方からショックを受けたものの、叶の存在で絶望ばかりというわけではなかった。
……中学に上がるまでは。
合鍵を使って叶の家に上がった時だった。その時は確か勉強を教えて貰う約束をしていて、それで久しぶりに合うものだからワクワクしてたのを覚えている。
大好きな叶兄ちゃんに久しぶりに会えるのだとドキドキして、普段つけないフレグランスミストまでつけちゃって、大はしゃぎしていた。積み木みたいに一秒一秒積み上げてドアの鍵を開けるまでは全てがキラキラしていた。
そして部屋から聞こえる知らない男の喘ぎ声を聞いた時、その全てがガラガラと音を立てて崩れ落ちた。
ワンルームの奥のベッドには裸の叶と、同じく裸で喘ぐ華奢な男が重なり合っていたのだ。
ドサッ、と手土産にしていたケーキを床に落とす。
「叶兄ちゃん……、その人、だれ……?」
それにやっと気づいた叶が放った言葉は今でも忘れない。
「セフレ」
「なーにが『セフレ』じゃ俺にあの時力があればぶっ殺してたわ」
「あの時お前泣いて帰ってたよなあ。可愛かったのにどうしてこんなことに」
「アンタが浮気したからだよ!」
いや、あの時は付き合っていなかったのだ。厳密には浮気とは違うかもしれない。でも、当時の自分は本当に叶の事が好きで、本気だった分裏切られたとショックを受けたのだ。だから叶が居る学校を避けて別の学校を受験した。……結局結果は同じになってしまったけれど。
下校時刻を告げるチャイムが鳴る。
「……オレは仕事があるから、先に帰ってろ」
叶はエロ本を片付けると手を振って八雲を見送る。八雲は舌打ちをして保健室を出るのだった。
だが、
「で、メシ出来てる?」
「本当死ねお前!」
帰る場所も一緒なのである。
勿論、八雲が間借りしている身だ。
八雲が元にいた学校、地元の公立校からこの学校まで県を3つ跨ぐ。日本でもΩに配慮のある学校というものはとても少ない。関東圏でも一つ二つも無いのだからΩに理解がある学校というのは珍しいのだ。そこで叶が両親に手を挙げた。自分の家に来れば良いと。
最初は叶と住むなんて嫌だった。レイプされかけた後なのだ。自分を裏切った叶、しかもαとなんて住みたくない。だけど背に腹は変えられない。そう考えた八雲は嫌々であるが首を縦に振ったのだ。
そのかわりの条件がこの2LDKの一切の家事。家事は苦ではないが叶と居るのが苦。内心苦虫を噛み潰しながらもこんな生活をもう一週間も続けている。
「今日はカレーだよ馬鹿!」
「やったぜおい」
「さっさと食って風呂入れ!」
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