番になんてなりませんっ!

あいう

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2話

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「はあ……先輩……、今日もカッコいい……」

生徒会室で辞書を引く先輩をドアの隙間から眺める。鍵開けのために一番最初に来て、他の俗物達を一人で待つ晴人を見るこの時間が最近の八雲の中では一番至福の時だった。

「なーにしてんだ?」
「うわっ!」

肩を叩かれドキッとする。驚いて振り向くとそこには終生のライバルであり寄生対象の宇津木御影が小さな箱を持ってこちらを見下ろしていた。

「うっわ会長じゃないすか。ちーっす」
「お前本当に晴人がいる時といない時でキャラ違うよな。どっちが素?」
「貴方がバラさなければあっちが素です」

御影はΩを見下していない珍しいαだ。転校初日、生徒会長だからと好意で学校を案内してくれようとした際、条件反射で背負い投げしてしまった八雲を「面白いから」と生徒会に入れてくれた稀有な人物でもある。懐が深いのは長所だが、恋人である晴人に好意を抱いている恋敵(勝負になっていない)まで入れてしまうのは懐が深いと言うよりは感性が鈍いだけかもしれない。

「お前本当に面白いな~。ほら準備しろ、入るぞ」
「えっ、あっ、」

心の準備もしないままにドアを開けられる。咄嗟に御影の後ろに隠れると、前からは御影の大きな声が響いた。

「あっはっは!今日も辛気臭そうな顔してるなあ!晴人!」
「……何これ」

晴人のよく通る声が教室に響く。
八雲はこの声を聞くために生まれてきたような気がした。それほどの美声だった。
ワインを楽しむ絵面のようにそれに浸っていると、御影の馬鹿でかい声が邪魔をする。

「この間試験的に設置した目安箱だ!なんと五十通もある!これに今日中に目を通しておいてくれ!」
「は?」
(は?!)

八雲も心の中で異議を唱える。
折角今日は一日晴人と一緒に居られると思ったのに!ギリギリと内心で歯軋りで抵抗しても意味がない。

「じゃあ俺は転校生に学校案内してくるから、中身のチェックと仕分けよろしくな!」
(はあ?!)

そんなの聞いてない。困り顔を貼り付けて生徒会室外に連れられると、八雲は御影の横向かって足で壁を蹴りつけた。

「俺の先輩タイムを……説明してもらいましょうか……?」
「わかったわかった!そんな怒るなって!」

聞けば理由はオメガバース性に関わるもの。生徒会でΩは自分しかいない。理由を聞いた八雲は嫌々ながらもそれを受け入れた。

「お前が転校してきた理由と同じことがこの学校でもあるんだよ」

αからΩへの性的暴行。悔しいがどんなに配慮されていてもαとΩが揃えば避けられないものだ。

「いつかはΩ性を生徒会に取り入れなきゃいけなかったから助かってる。αだけじゃ生徒を怖がらせるからな、同じように寄り添える奴が必要だった」
「で?俺は何をすればいいんです?」
「暴行された生徒のカウンセリングをしてほしい」
「……それは」
「無理なことを言ってるのはわかってる。だが、実際に被害が出たんだ。寸止めだがな。俺じゃ事情聴取も出来ないんだ」

加害者と同じαは被害者に恐怖を与える。だから、と言うことだろう。

「……」

αに暴行されたのは自分も同じだ。
フラッシュバックする思い出したくもない情景。
どれくらい怖くて、辛かったかは身を以て知っている。

「わかりました。話を聞いてくればいいんですね」
「あぁ、すぐに逃げられてな。相手の素性もわからない状態だ。特徴だけでも掴んでくれると嬉しい」
「了解です」

保健室には叶もおらず、女子生徒一人がベッドの上に座っていた。叶もαだ。そこらへんは配慮して出て行ってくれたのかもしれない。

「こんにちは。安心して欲しいんだけど、俺はΩです。男だけど、恋人がいるから心配もありません。今日は先日のことについて少し聞きたいことがあるんですけど、話せそうですか?」

恋人がいるのは勿論安心させる為の嘘だ。同じ男のΩならまだしも、相手は女の子。彼女にとってはΩでも恐怖を煽る男という点では同じだ。

「……はい」 

女の子はか細い声で答える。

「身長の高い男の人で……黒髪の、厳つそうなαの方でした。メガネをかけていたと思います。でもそれ以外は……怖くて……あんまり覚えてなくて……」

そこまで言うと彼女は泣き出してしまう。御影が駆けつけたおかげで未遂に終わったとは言え、余程怖かったのだろう。

「ごめんなさい、辛いこと思い出させちゃいましたね」

彼女にはもう話を聞かせてもらえなさそうだ。泣き噦る彼女を落ち着かせた後、八雲は保健室から出た。

「どうだった?」

ドアの側で座っていた御影が立ち上がって聞く。

「身長の高い黒髪のいかつそうなメガネの男ですって。覚えあります?」
「何人か。だけど特定まではいかねえな。間違えたら相手にも傷をつける案件だ。慎重にいかなきゃ行けねえ」
「たまには良いこと言うじゃないですか」
「たまにはってなんだ。ほら、今日の仕事は終わりだ。生徒会室帰るぞ」
「はーい」

並んで帰路に着く二人。八雲は自然と御影にずっと疑問に思ってものを吐露していた。

「まぁΩにはΩがって言うのは理解してますけど、本当は晴人先輩をΩに近づかせたくないからじゃないんですか?」
「なんだいきなり」
「先輩、オメガバース性気にしてるみたいだから。俺が生徒会入るって伝えた時もショック受けてたみたいだし。あんまりΩにいい感情持ってないんでしょ」
よくある話だ。よくあり過ぎて当人である八雲すら気にならない。
「さぁ?どうだろうな」

意地悪そうに笑う御影にふむ、と八雲は考えを改めた。案外、この人は良い人かもしれない。セクハラ会長は改めてやろう。

「さぁ会長、俺は今から『ボク』になりますから良い塩梅で合わせてくださいね♡」
「お前は今のままが一番面白いよ……」

御影はそう行って呆れたように言うと八雲と共に生徒会室の扉を開けるのであった。
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