同人サークル「ドリームスピカ」にようこそ!

あいう

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冬、覚悟。

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 SNSは染衣が担当することになった。
 
 楓に任せるには全体的な負担が重い。桃華はSNS慣れしていないし、家事、育児、イラストと余裕がない。ならばニートの自分が、と手を挙げたのは建前。本当は、理由が欲しかった。

 二百人のフォロワー。三百人のフォロー。その中には「あ」が入っている。フォローバックはされていない。

 気がついてほしい、吉川に。

 自分はここにいると。

 偽りの一等星、バレたら叶に失望される。姫路夫妻も傷つけるだろう。吉川は、真相を知ったら呆れて染衣を嫌うだろう。

 破滅願望の一種かもしれない。吉川が気がつくわけがない。ドリームスピカでは全員仮名だ。染衣だってホワイトスピカ側にバレないように偽名を使っている。


「コロモ」


 わかるわけがない。でも、わかってほしかった。自分はここにいると。

 そして、もうひとつ重要なこと。

『叶くんにはドリームスピカのサークル名も、アカウントもバラさないでください』

『なんでですか?』

『当日のお楽しみにしたいからです』

 嘘だ。

 バレたくないのは、このゲームが確実に炎上するからだ。しかも、主人公の立場は叶と同じ身体障害者。きっと美麗イラストも相まって話題になるだろう。染衣は何を言われても気にしない。だけど、姫路一家には火の粉のひとつも降って欲しくない。安全な場所で、当日のダウンロード数だけを見て喜んでほしい。

 そして、もうひとつ懸念していること。

 ーー叶は、このゲームをプレイして喜びはしないだろう。

 大人からの押し付けだ。こんなの。

 責任の殆どは染衣にある。染衣があの子はまだ諦めてない、なんて言わなければこんなことにはならなかった。これで、ゲームをプレイした叶が「自分もこうなりたい」と思えるようになればいい。

 だけど、余計なお世話だと、何がわかると言われたら?

「……楓さん」

 ある日の作業日。家まで送ると車に乗せてくれた楓に声をかけた。

「なんですか?」

「楓さんって、今何やってるんですか?」

「IT会社の社長」

「作曲家の夢は?」

「諦めましたよ。現実はそんなに甘くなくて」

「叶くんが夢を諦めるって言ったらどうします?」

 もし、自分たちが叶にとって余計なことをしていたとして。その結果叶は絶望しないだろうか。

「いいですよ、諦めても」

「え?」

「夢は諦めてもいいんです。自分が納得できる終わり方ができるんなら、自分がきちんと心から諦められるならいいんです」

 諦めてもいい。

 こんなことを言う人間には初めて会った。どんな物語も、曲も、全部諦めなければ夢は叶うから諦めるなって。それが正しいはずなのに楓は諦めてもいいと言う。不思議だ。

「それは叶くんには言いましたか」

「いいえ。……怖くて言えません。あの子に嫌われたら、立ち直れない」

「……ですよね」

 なら、その時は自分が言おうと思った。

 この家族を壊さず、叶のサッカー選手の夢を諦めさせる。その役目は染衣が請け負おう。

 ゲームはもう出来上がりかけている。

 あとは最終チェックとリリースだけだ。
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