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呪いのオムライスで萌え萌えきゅん♡
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ところがどっこい、事実は小説よりも奇なりということか、幸太郎が連れられたのは海でも漁村でもヤバい部屋の一室でも無く、東京都、あのオタクの聖地で有名な、秋葉原のメイド喫茶だった。
「は?」
「ここが桃井さんが売られるとこなんだよねえ」
「え、は?」
そりゃ、自分が女の子ならソープに沈められるのはわかる。
でも男である自分が、メイド喫茶。ゲイ専用風俗ならまだわかるが、健全なメイド喫茶。もしかして女装喫茶なのか? と了承をとって窓から覗かせてもらうと、ツインテールのアイドル顔の女の子が「萌え萌えきゅん♡」とやっているところだった。見たところ普通のメイド喫茶だ。メイド喫茶とか行ったことないから知らないけど。
「いや、俺正真正銘男なんですけど。なんでメイド喫茶なんですか?」
自分は見た目もきゅるきゅるの可愛い系ではなく、クズと一見でわかる様な顔つき。それに加えて、いかにもチンピラ上がりらしい風貌だ。メイド喫茶で萌え萌えきゅん♡とかやったら客から確実にクレームが来るだろう。
「なんでも二面性ってあるじゃない」
「まあ、ありますね」
「そういうこと」
男はそう言って幸太郎を連れて入店する。
高いベルの音と共に「おかえりなさいませ! ご主人様!」と可愛い声が店内に響いた。
男は近くの女性店員に「萌え萌えオクラパスタ一つ」と言うと女性店員は顔を真っ青にして裏に回る。そうすると直ぐにヘコヘコとした禿げかかった店長らしき男が裏手から出てきた。
「お客様! いつもありがとうございます! お時間まで少しございますのでどうぞあちらへ!」
「いや、この後仕事があるからこの桃井くんだけお願いするよ」
「し、承知いたしました!」
恭しく店長らしき男は、店を出て行く若い衆のリーダーに頭を下げると、幸太郎に向き直った。
「こっちだ」
「アッ、ハイ」
幸太郎を凄んだ時のリーダーと同じ雰囲気に圧倒され思わず赤べこになってしまう。
多分この人も表の人じゃないんだろうなあ、と首元にちらつく刺青を見て幸太郎は落胆した。連れられたのはメイドさん達の控え室のもっと奥。三、四人入ればいいくらいの大きさのパイプ椅子と長机が無造作に並べられた部屋だった。店長はそこで無許可にタバコを吸うと、呆然としている幸太郎に軽く説明を始めてくれた。
「今、君は訳が分からなくなっていると思うが。端的に言えば君は『売られた』いや、未来の話だから『売られる』の方が正しい」
「ここメイド喫茶ですよね?」
「昼はそうして営業している。だが夜は地下で人身売買取引所として機能しているよ。勿論、君がお金を借りている大元であろう強い人たちの息がかかってるから、法というものは機能していない」
「うわあ」
マグロ漁船よりひどいじゃないか。だって買われてしまえばその後は飼い主の自由だ。内臓を売られたり、暴行の道具として使っても違法ではない。きっとここに連れてこられた時点で自分たちのような人間は行方不明扱いになるだろうし、そもそもここに連れて来られる類のそういう人間は親族とも疎遠だろうから捜索届けも出されないだろう。そして死んだとしても、おそらく金で解決できるだけの力が買い手にはある。
「君はこれからオークション方式で売られて行くんだよ。最低値は君の借金と同じ額、プラス店の売り上げ分。買われたらその後は娯楽として殺人ビデオに使われるかもしれないし、立派に医療の道具として生を終われるかもしれない」
「買い手がつかなかった場合は?」
「家畜以下の扱いを期待した方がいい。それと前者の方が娯楽なだけまだましだともね。まあ、そこまでは僕の範疇ではないけど……」
店長はタバコの煙をくゆらせると、俺に向かって微笑んだ。
「慈悲として最後の晩餐くらいは出すようにしてるんだ。君は何が食べたい?」
「お、おむらいすで……」
ああ、最期に風俗くらい行きたかったナア、幸太郎は内心涙を流しながら店長の用意してくれたオムライスを頬張った。
情けで萌え萌えきゅん♡の魔法をかけてくれたのかなんだか変な味がした。それからの記憶はない。
「は?」
「ここが桃井さんが売られるとこなんだよねえ」
「え、は?」
そりゃ、自分が女の子ならソープに沈められるのはわかる。
でも男である自分が、メイド喫茶。ゲイ専用風俗ならまだわかるが、健全なメイド喫茶。もしかして女装喫茶なのか? と了承をとって窓から覗かせてもらうと、ツインテールのアイドル顔の女の子が「萌え萌えきゅん♡」とやっているところだった。見たところ普通のメイド喫茶だ。メイド喫茶とか行ったことないから知らないけど。
「いや、俺正真正銘男なんですけど。なんでメイド喫茶なんですか?」
自分は見た目もきゅるきゅるの可愛い系ではなく、クズと一見でわかる様な顔つき。それに加えて、いかにもチンピラ上がりらしい風貌だ。メイド喫茶で萌え萌えきゅん♡とかやったら客から確実にクレームが来るだろう。
「なんでも二面性ってあるじゃない」
「まあ、ありますね」
「そういうこと」
男はそう言って幸太郎を連れて入店する。
高いベルの音と共に「おかえりなさいませ! ご主人様!」と可愛い声が店内に響いた。
男は近くの女性店員に「萌え萌えオクラパスタ一つ」と言うと女性店員は顔を真っ青にして裏に回る。そうすると直ぐにヘコヘコとした禿げかかった店長らしき男が裏手から出てきた。
「お客様! いつもありがとうございます! お時間まで少しございますのでどうぞあちらへ!」
「いや、この後仕事があるからこの桃井くんだけお願いするよ」
「し、承知いたしました!」
恭しく店長らしき男は、店を出て行く若い衆のリーダーに頭を下げると、幸太郎に向き直った。
「こっちだ」
「アッ、ハイ」
幸太郎を凄んだ時のリーダーと同じ雰囲気に圧倒され思わず赤べこになってしまう。
多分この人も表の人じゃないんだろうなあ、と首元にちらつく刺青を見て幸太郎は落胆した。連れられたのはメイドさん達の控え室のもっと奥。三、四人入ればいいくらいの大きさのパイプ椅子と長机が無造作に並べられた部屋だった。店長はそこで無許可にタバコを吸うと、呆然としている幸太郎に軽く説明を始めてくれた。
「今、君は訳が分からなくなっていると思うが。端的に言えば君は『売られた』いや、未来の話だから『売られる』の方が正しい」
「ここメイド喫茶ですよね?」
「昼はそうして営業している。だが夜は地下で人身売買取引所として機能しているよ。勿論、君がお金を借りている大元であろう強い人たちの息がかかってるから、法というものは機能していない」
「うわあ」
マグロ漁船よりひどいじゃないか。だって買われてしまえばその後は飼い主の自由だ。内臓を売られたり、暴行の道具として使っても違法ではない。きっとここに連れてこられた時点で自分たちのような人間は行方不明扱いになるだろうし、そもそもここに連れて来られる類のそういう人間は親族とも疎遠だろうから捜索届けも出されないだろう。そして死んだとしても、おそらく金で解決できるだけの力が買い手にはある。
「君はこれからオークション方式で売られて行くんだよ。最低値は君の借金と同じ額、プラス店の売り上げ分。買われたらその後は娯楽として殺人ビデオに使われるかもしれないし、立派に医療の道具として生を終われるかもしれない」
「買い手がつかなかった場合は?」
「家畜以下の扱いを期待した方がいい。それと前者の方が娯楽なだけまだましだともね。まあ、そこまでは僕の範疇ではないけど……」
店長はタバコの煙をくゆらせると、俺に向かって微笑んだ。
「慈悲として最後の晩餐くらいは出すようにしてるんだ。君は何が食べたい?」
「お、おむらいすで……」
ああ、最期に風俗くらい行きたかったナア、幸太郎は内心涙を流しながら店長の用意してくれたオムライスを頬張った。
情けで萌え萌えきゅん♡の魔法をかけてくれたのかなんだか変な味がした。それからの記憶はない。
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