12 / 35
指切った!(ハイリスク)
しおりを挟む
それからはトントンと話が進んでいき、時嗣はまずは週四日、学校に通うことになった。半年間のブランクは家のスパルタ教育が功を成して他の子より進んでいるくらいらしい。
『幸太郎! 今日友達できた!』
初めて登校した日、そう嬉しそうに報告されたのは微笑ましい記憶として今でも覚えている。
「そんな初めてでもないでしょうに」
「引っ越しで今までの友達とは会えなくなっちゃったからほとんど初めてだよっ! 明日勉強会するんだー!」
「ウチに来られるんですか?」
「ううん! 駅ナカのファミレス!」
そりゃこんな家、敬遠されるかもしれないからなあ。それじゃなくてもまともな人間がいないのだ。
(まぁご主人様が楽しそうで何よりです)
実際、フリースクールに通う様になってから時嗣は少し明るくなった。名前もわからない友人に賛辞を贈る。ありがとう、友達さん。やはり学校に行かせて正解だった。
「で、女の子のお友達は出来たんですか~~? ご主人様」
「う……っ! でも僕好きな人いるもん」
「おや。学校で好きな人でも出来たんですか?」
「……秘密!」
そう言うと時嗣は顔を赤くして庭から自室へ戻ってしまう。微笑ましい。これでミッションはクリアだろう。早速旦那様に報告に行かなければ。
幸太郎は館のロビーから階段を二つ上がり、旦那様の部屋へ向かう。
「旦那様、桃井です。時嗣様についてご報告に上がりました」
「……入れ」
ドアを開けると伊藤を横に控えさせながら書類仕事をしている旦那様が出迎えてくれた。
「簡潔に」
「ご主人様——、時嗣様の学園生活はうまくいっている様です」
「そうか」
旦那様はどこかホッとした表情で頷いた。やはり兄として心配だったのだろう。
「好意を抱いている人間もいる様です――……これは女性恐怖症が改善できたと考えてもよろしいでしょうか」
「いや、婚約者殿の相手が出来なければ意味がない。丁度一週間後に婚約者殿を交えたティーパーティがある。そこに同席出来たら認めよう」
「それが出来たらこのメイド服は脱いでも構わないでしょうか。厚かましいお願いですが報酬として別の制服をいただきたいです。」
「それが狙いか」
「当たり前でしょう! ご主人様がゲイじゃないならこの格好は不要です!」
元々、時嗣の趣味だからという理由で自分は連れてこられてこの格好を強いられているのだ。その疑いが晴れたのなら女装は不要だろう。
「それもそうだな。ティーパーティの結果次第では特注で制服を作らせよう」
「約束ですよ」
口約束の後、部屋を出る。
「……と言うわけで、ご主人様には一週間後のティーパーティに出席していただきます」
それを聞いた時嗣はあからさまに嫌そうな顔をして抵抗した。
「嫌……」
「嫌でもなんでも行っていただきます。婚約者なんでしょう? どちらにしろ避けては通れない道です」
「勝手に決められた縁談だもん! 僕はあんな女……」
そこまで言って時嗣はあからさまにしょぼくれる。どうやら女嫌いはまだ治っていないらしい。
「うーん……でもこれは決定事項ですから。どうしたら機嫌なおしてくれます?」
「……キスしてくれたら」
顔を真っ赤にして言いずらそうにそう告げた時嗣の言葉に一瞬思考が止まる。
「ご、ご主人様? ご主人様は女の子が苦手なだけでゲイではありませんよね? いくら好奇心旺盛と言っても体験しないほうがいいものってありますよ?」
そう言いなだめても「でも」と、時嗣は納得しない。
例えば、ここでキスをしたとしよう。幸太郎にとってはキスのひとつやふたつ犬に噛まれた様なものだと処理できるが、時嗣にとっては違う。
ゲイ向けエロ画像を集めるくらいには、ゲイ寄りのバイに揺れ動いているというのにここでキスをしてしまえば完全にゲイに振り切る可能性がある。そんなことになれば自分は殺処分確定。お空にドナドナされてしまうだろう。
そこでだ、先に婚約者に会わせてみればどうだろうか。婚約者に会わせてみて、案外悪くなくなくないと。男に傾倒していた自分がバカに思えるくらいのお膳立てをしてやる。そこでその気になったところで「そういえばあの約束……」と持ちかけてみたら「やっぱいいや」とはならないだろうか。ならんか。でもやってみる価値はある。
「じゃあご主人様が婚約者様とちゃんとお話しできたらキスしてあげます」
「なんで今じゃないの?」
「ご褒美は後々の方が気合入るでしょう?」
むくれる時嗣を適当にいなすが、本人はなんとか納得してくれた様でその場は収まった。内心ホッとして、部屋から下がろうとすると、メイド服の端を掴まれる。
「約束して」
「約束?」
「ティーパーティに耐えたら絶対キスしてくれるって」
(おっとぉ⁉)
流石自分のご主人様、意思が硬すぎる。
だがここで約束は出来ませんじゃ、また人間不信に逆戻りだ。ここは形だけでも約束する必要があるだろう。
「いいですよ。はい、ゆーびきりげんまん」
「嘘ついたら使用人に強めの拷問さーせる」
「待って」
「指切ったっ!」
切られてしまった。キスするか死ぬかってどういうことやねん。やっぱりご主人様も櫻木家の一員なんだなあ、と理不尽さに涙を流す幸太郎なのであった。
『幸太郎! 今日友達できた!』
初めて登校した日、そう嬉しそうに報告されたのは微笑ましい記憶として今でも覚えている。
「そんな初めてでもないでしょうに」
「引っ越しで今までの友達とは会えなくなっちゃったからほとんど初めてだよっ! 明日勉強会するんだー!」
「ウチに来られるんですか?」
「ううん! 駅ナカのファミレス!」
そりゃこんな家、敬遠されるかもしれないからなあ。それじゃなくてもまともな人間がいないのだ。
(まぁご主人様が楽しそうで何よりです)
実際、フリースクールに通う様になってから時嗣は少し明るくなった。名前もわからない友人に賛辞を贈る。ありがとう、友達さん。やはり学校に行かせて正解だった。
「で、女の子のお友達は出来たんですか~~? ご主人様」
「う……っ! でも僕好きな人いるもん」
「おや。学校で好きな人でも出来たんですか?」
「……秘密!」
そう言うと時嗣は顔を赤くして庭から自室へ戻ってしまう。微笑ましい。これでミッションはクリアだろう。早速旦那様に報告に行かなければ。
幸太郎は館のロビーから階段を二つ上がり、旦那様の部屋へ向かう。
「旦那様、桃井です。時嗣様についてご報告に上がりました」
「……入れ」
ドアを開けると伊藤を横に控えさせながら書類仕事をしている旦那様が出迎えてくれた。
「簡潔に」
「ご主人様——、時嗣様の学園生活はうまくいっている様です」
「そうか」
旦那様はどこかホッとした表情で頷いた。やはり兄として心配だったのだろう。
「好意を抱いている人間もいる様です――……これは女性恐怖症が改善できたと考えてもよろしいでしょうか」
「いや、婚約者殿の相手が出来なければ意味がない。丁度一週間後に婚約者殿を交えたティーパーティがある。そこに同席出来たら認めよう」
「それが出来たらこのメイド服は脱いでも構わないでしょうか。厚かましいお願いですが報酬として別の制服をいただきたいです。」
「それが狙いか」
「当たり前でしょう! ご主人様がゲイじゃないならこの格好は不要です!」
元々、時嗣の趣味だからという理由で自分は連れてこられてこの格好を強いられているのだ。その疑いが晴れたのなら女装は不要だろう。
「それもそうだな。ティーパーティの結果次第では特注で制服を作らせよう」
「約束ですよ」
口約束の後、部屋を出る。
「……と言うわけで、ご主人様には一週間後のティーパーティに出席していただきます」
それを聞いた時嗣はあからさまに嫌そうな顔をして抵抗した。
「嫌……」
「嫌でもなんでも行っていただきます。婚約者なんでしょう? どちらにしろ避けては通れない道です」
「勝手に決められた縁談だもん! 僕はあんな女……」
そこまで言って時嗣はあからさまにしょぼくれる。どうやら女嫌いはまだ治っていないらしい。
「うーん……でもこれは決定事項ですから。どうしたら機嫌なおしてくれます?」
「……キスしてくれたら」
顔を真っ赤にして言いずらそうにそう告げた時嗣の言葉に一瞬思考が止まる。
「ご、ご主人様? ご主人様は女の子が苦手なだけでゲイではありませんよね? いくら好奇心旺盛と言っても体験しないほうがいいものってありますよ?」
そう言いなだめても「でも」と、時嗣は納得しない。
例えば、ここでキスをしたとしよう。幸太郎にとってはキスのひとつやふたつ犬に噛まれた様なものだと処理できるが、時嗣にとっては違う。
ゲイ向けエロ画像を集めるくらいには、ゲイ寄りのバイに揺れ動いているというのにここでキスをしてしまえば完全にゲイに振り切る可能性がある。そんなことになれば自分は殺処分確定。お空にドナドナされてしまうだろう。
そこでだ、先に婚約者に会わせてみればどうだろうか。婚約者に会わせてみて、案外悪くなくなくないと。男に傾倒していた自分がバカに思えるくらいのお膳立てをしてやる。そこでその気になったところで「そういえばあの約束……」と持ちかけてみたら「やっぱいいや」とはならないだろうか。ならんか。でもやってみる価値はある。
「じゃあご主人様が婚約者様とちゃんとお話しできたらキスしてあげます」
「なんで今じゃないの?」
「ご褒美は後々の方が気合入るでしょう?」
むくれる時嗣を適当にいなすが、本人はなんとか納得してくれた様でその場は収まった。内心ホッとして、部屋から下がろうとすると、メイド服の端を掴まれる。
「約束して」
「約束?」
「ティーパーティに耐えたら絶対キスしてくれるって」
(おっとぉ⁉)
流石自分のご主人様、意思が硬すぎる。
だがここで約束は出来ませんじゃ、また人間不信に逆戻りだ。ここは形だけでも約束する必要があるだろう。
「いいですよ。はい、ゆーびきりげんまん」
「嘘ついたら使用人に強めの拷問さーせる」
「待って」
「指切ったっ!」
切られてしまった。キスするか死ぬかってどういうことやねん。やっぱりご主人様も櫻木家の一員なんだなあ、と理不尽さに涙を流す幸太郎なのであった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
60
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる