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イメチェンです!

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約束通り、時嗣は当日には完璧に櫻木家の子として外に出せるレベルまで仕上げてきた。問題は、時嗣はしっかり仕上げてきたが、幸太郎はと言うと何も出来ていないのである。当たり前だ。勤勉であれば元々借金なんてしていない。幸太郎はそもそもが不真面目なのだ。

「まぁそもそもお前には期待してない。元々お前は時嗣を出向かせるための餌みたいなもんだ。もしあいつが駄々をこねたら、それはそれでお前だけ連れて行く準備はしてたが」

「そこまで俺に目をかけてくれるのは何故です?」

そう聞くと、旦那様は幸太郎を鼻で笑った。

「そんなのおもしろい奴だからに決まっているだろう。あのひきこもりを外に出したんだ、それだけで期待以上、価値のある奴だよお前は」

「はぁ……」

どうしてそこまで時嗣を軽んじられるのかは不満だが、自分を褒められて悪い気はしない。

「そうだ、洋服。約束通り用意してくれたんでしょうね」

「男に二言はない。伊藤!」

「はい」

どこから湧いてきたのか伊藤が瞬時に飛び出してくる。

なんだか、今上から飛び出してきたような気がしたが、あまり気にしてはいけないのだろう。

「幸太郎様、新しいお洋服で御座います。一度お召しになってみてください」

そうして見せられたのは典型的な何処に出しても恥ずかしくない執事服。首元は赤い宝石のボウタイで飾られている。勿論下半身はスカートも短パンでもなく長ズボンで、数ヶ月ぶりに履いた下半身の温かみに涙が出かけてしまった。

「股間がスースーしない……」

「それで泣くってお前……」

男性なのに無理やり女性のように扱われるのがどれだけストレスだったかこの男にはわかるまい。幸太郎はズボンが履ける喜びを噛み締めながら、そういえばと純粋な疑問を口にした。

「ダンスパーティーの日付っていつなんですか?」

「明日だな」

「は⁉」

そんなの全く聞いてない。

服が貰えることと日々の勉強と仕事で頭がいっぱいでスケジュールを失念していたのはどう考えても自分が悪い。だけど、教えてくれたって良くない? 不安気な表情を見せる幸太郎に伊藤は優しく語りかけた。

「幸太郎様は見違えるほど成長されました。ご不安にならなくてもきっと大丈夫です。あとは……」

伊藤は幸太郎を上から下に見て、柔和な笑みを浮かべた。

「紳士にはその髪色は似合いませんね。七香さん、よろしくお願いします」

「は~い」

近くを通りかかった七香に肩を掴まれる。

外見からは想像出来ないほどの、あまりの力に困惑していると、抵抗もできないままに幸太郎は浴場に引きずり込まれたのであった。

浴場に連れてこられてあれよあれよと全裸にされ見せられたのは市販の茶染めのパッケージ。

「こんかいは、じかんがないので、きせいひんでいきまーす!ちなみに時嗣さまも、びよういんへ、がいしゅつちゅう! 時嗣さまのおきにめすようしっかりととのえましょうね~~」

意の一つも返せないまま、椅子に座らされて(この際チンモロしている)好きにされて早一時間ちょっと。幸太郎の色の抜け切った、毛先が縮れた長めの金髪は見事に消え去り、鏡の前にいたのは短髪で品のある自然な茶髪の、どこにでもいそうな地味そうな男だった。顔の地味さを髪色で隠していたのに、これでは完全に舐められてしまう。シャバに出たらダチに馬鹿にされるだろうな……出る予定は今後一切ないけど……。

幸太郎は鏡の前で大きくため息をついた。

「ふまんですか?」

「いや……あいも変わらず地味顔だなあと思っただけですよ……」

「あら~~、でも時嗣さまはおきにめすとおもうわ~~」

「ご主人様が?」

顔を見合わせて笑う七香にクエスチョンマークを出す。

執事服は明日用に片付けられていたので(どうして複数枚用意してくれないのか)いつものメイド服に着替えて、伊藤のところへ顔を見せた。

「おや、お似合いですね」

「そうですか? てか、ご主人様の好みから離れてしまうと思うんですが、大丈夫なんですか。そこ」

「問題ございません。坊っちゃまの好みは総じて素朴な造りのお方ですので」

「あぁ、そう……」

(つまり地味顔って事っスね……)

全く時嗣も男の趣味が悪い。しかしそれなら大学に上がったらよりどりみどりなんじゃないだろうか。世界には美男美女がそこら辺に転がっているわけではないのだから。 

「……おや」

「どうかしました?」

「坊っちゃまがお帰りのようです。お出迎えに参りましょう」

「……」

お見送りやお出迎えの度に思うのだが、この館の住人の察知成功率はなんなのだろうか。GPSでもつけられてるのか主人達は。

お出迎えの準備に入る。既に七香達や、山田など使用人全てが揃っており、やはりこのからくりに幸太郎は疑問を隠せなかった。

「なんでみんなお出迎えのタイミングがわかるんですかね」

「幸太郎様もしばらくここに勤めていれば分かりますよ」

そんなものなのだろうか。半ば納得いかないまま、最後尾に着き、ドアの開く音と共に一斉に声を上げる。

「「おかえりなさいませ、ご主人様!」」

幸太郎は重石がかかったようなプレッシャーを感じながら頭を下げ続けていると、自分の目の前で小さな足がピタリと止まった。

「……幸太郎? 顔を上げて」

「……はい?」

怪訝な声に言われた通りに顔を上げると、時嗣が下から眺めるように自分を見つめていた。

「髪、染めたの?」

「はい。……趣味ではありませんか?」

趣味は伊藤からリサーチ済みだが、あえてそう聞いてみると、時嗣は頭をぶんぶんと振ってキラキラした目で答えた。

「ううん! すっごい似合ってるっ!」

「うわっ」

いつもの癖なのか抱きついてくる時嗣の頭を見る。彼も美容院帰りのようで、伸ばしっぱなしで男にしては長い髪の毛は綺麗にショートで切りそろえられていた。

「ご主人様もお似合いですよ」

「本当? ……あのオシャレ空間に耐え抜いた甲斐があったよ……」

櫻木家御用達ともなると、それはキラキラ空間なんだろうな……。

そういう場に慣れていない時嗣に少し同情しながらいつもの様に頭を撫でた。
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