3 / 7
第1章
最弱な男3
しおりを挟む
ゼロのいるDクラスの教室は大いに盛り上がっていた。
それはやってきた講義の先生があまりにも素晴らしい人だったからだ。
その人物は…。
「では、諸君。静粛にな。」
そう告げたのは長い髭を生やした優しそうな老人だった。
このおじいさんがこの学園の長。ダグド・キャストルだ。
学園長でありながら王国の爵位も授与された偉人。
昔の戦争で他国と渡り合った天才でその名は今も恐れられるほどのものとなっている。
そんな学園長がDクラスの講義をしてくれるなど前代未聞であった。
ゼロは隣に座るリアに向けて口を開いた。
「俺たちってDクラスだよな?」
「…ん。…でもおかしい…。」
2人は学園長の話に耳を傾けた。
「わしが講義をするのは最初だけじゃぞ。今では名前を覚えるのも簡単ではないのじゃ。」
その言葉にDクラスの生徒たちは微笑む者も、少し残念そうにする者もいた。
そんな中、学園長は魔法でチョークを持ち上げ、黒板に素早く文字を書いていく。
「…まずは小手調べじゃ。この問題がわかる者はわしの横に来て書いてみてくれぬか?」
生徒たちは皆黒板に目を向けた。
そして一様に目を見開いた。
なぜならそこに書かれていたのは魔法の詠唱の言の葉だったからだ。
「誰もおらぬか?」
ゼロはその言の葉を心の中で呟いた。
(熱き炎と冷たき水が交わり、1つの事柄を成す。…こんな言の葉は存在しない…。)
そう、ゼロの考えるようにこの世界にそんな言の葉は存在しない。
つまり学園長は誰も生み出していない魔法の言の葉からどういう魔法が生まれるのかを生徒に質問しているのだ。
「…誰もわからぬか?簡単じゃぞ。火球と水球をぶつければ似たようなことが起こるじゃろ。」
この発言でゼロは学園長の意図に気がついた。
(…そうか。俺たちが試されてるのは魔法の知識と経験なんだ。)
ゼロは小さくため息を吐いた。
(…知識だけなら…多分…。)
ゼロはこれまでの知識からどうなるかを考える。
そんなゼロの考えている様子を学園長は見逃さなかった。
(…ふむ。1人しかおらぬか。)
学園長はゼロ座る机にそっと魔法でチョークを置いた。
ゼロはチョークに目を向けて、そして学園長を見た。
「…間違ってもよい。言の葉の続きをかけるかのぅ?」
「…推測ですが…。」
ゼロはチョークを手に持って前へ出た。
その様子に学園長は目を見開く。
なぜならこれまでにチョークを手に持つ生徒に出会ったことが無いからだ。
チョークを浮かせるのは生活魔法の基礎。誰しもが使えて当然。
それをゼロは使わずに手に持ったのだ。
(…そうじゃったか…。この者が…ゼロ・ワルドじゃったか。)
ゼロは学園長の横を通り、黒板に綺麗な字で言の葉を綴る。
「…これが俺の答えです。」
ゼロはチョークを置き、学園長に目を向けた。
学園長は黒板に目を向けてさらに驚いた。
熱き炎と冷たき水が交わり、1つの事柄を成す。されど2つでは叶わず、我が創る風を喰らい大いなる力と成す。小さき力も集えば絶大なりけり。我ここに大事を成さん。
それは学園長が求める答えのさらに先を行くものだった。
(…この者…魔法が使えぬはずじゃ…。しかしわしの思う言の葉よりも二節多い。)
学園長はすぐにこの言の葉を試したくなった。
「…皆、広場に出てみよ。わしが唱えるでな。」
学園長はゼロに声をかける。
「…答え合わせじゃな。」
「…はい。見学させてもらいます。」
「わしも楽しみじゃぞ。それとお主はゼロ君か?」
「えっ?そうだが…。」
学園長は胸が踊るように愉快な気分になった。
(魔法が使えぬ者がここまで…。面白いのぅ。)
学園長はゼロに微笑む。
「…お主は天才かもしれぬぞ。」
学園長は疑問符を浮かべるゼロの背中を叩き、急がせるのだった。
学園長はDクラスの生徒を集めて広場に立った。
「では近寄らぬように。」
学園長はゼロの答えた通りに詠唱を始めた。
するとみんなから離れた場所に小さな火球と水球が現れた。
そして学園長はさらに風球を出し、その3つを同時にぶつけた。
するとブシューという音がしてあっという間に白い水蒸気が発生し、生徒達を包み込んだ。
(…なんかイメージと違うな。)
ゼロは霧散していく水蒸気を見て思う。
(…これだけの勢いがあるんだ…。やり方を変えるだけで…。)
その時、ゼロはふと嫌なことを思い出した。
(…父さん。)
ゼロは驚いて腰を抜かすDクラスの生徒たちを見た。
(…作ったらダメかもしれない。吹き飛ばされて気絶くらいで済めばいいが…もしかすると…。)
ゼロは学園長を見つめた。
すると学園長も同じことを考えたのかゼロに近寄り、小さく口を開いた。
「…すまんかった。この魔法は失敗じゃ。」
「…いえ。失敗してよかったので。」
「…お主は優しいのぅ。」
学園長は生徒達に声をかけた。
「これが答えじゃな。雑務から逃げる時に役立つかもしれんのぅ。」
その言葉にゼロ以外の生徒は小さく笑った。
ゼロは1人、考え直していた。
(…知識が必要だ。魔法を使えるようになるためだけじゃなく、魔法を使わないための…。)
ゼロは自分の手を見つめた。
「…それには経験も必要なのに…。」
ゼロは手を強く握った。
「…あれはなんでしょう?」
学園の広場に舞い上がる白い水蒸気をみてとある女子生徒が呟いた。
「…白い雲見たいですね。…そういえば今朝の方も…。」
女子生徒は朝に見た馬車を飛び越える白髪の男子を思い出した。
「…この学園の生徒ですよね…?…逢えるでしょうか…。」
そんな女子生徒に講義をしている先生が声をかけた。
「そこの生徒さん。入学初日くらい先生のお話を聞いてくださいね。」
その言葉に女子生徒は軽く頭を下げた。
「失礼致しました。」
「よろしい。皆さんは我が学園を背負って立つ逸材ですからしっかりとしてくださいね。」
その言葉に教室にいた生徒の全員が頷いた。
「では、本日はここまでにしましょう。では、しっかりと復習をするように。」
先生はそう言って教室を後にした。
そんな先生が出たドアの上には確かにこう書かれていた。
…Sクラス…と。
つまり今年の入学生で基準の超える魔力値を叩き出した生徒達が集められたクラスだ。
最も有望とされ、最も注目され、最も優遇されるクラスだ。
しかしそんなSクラスに1つの噂が舞い込む。
それは…Dクラスが優遇されているという噂だった。
それはやってきた講義の先生があまりにも素晴らしい人だったからだ。
その人物は…。
「では、諸君。静粛にな。」
そう告げたのは長い髭を生やした優しそうな老人だった。
このおじいさんがこの学園の長。ダグド・キャストルだ。
学園長でありながら王国の爵位も授与された偉人。
昔の戦争で他国と渡り合った天才でその名は今も恐れられるほどのものとなっている。
そんな学園長がDクラスの講義をしてくれるなど前代未聞であった。
ゼロは隣に座るリアに向けて口を開いた。
「俺たちってDクラスだよな?」
「…ん。…でもおかしい…。」
2人は学園長の話に耳を傾けた。
「わしが講義をするのは最初だけじゃぞ。今では名前を覚えるのも簡単ではないのじゃ。」
その言葉にDクラスの生徒たちは微笑む者も、少し残念そうにする者もいた。
そんな中、学園長は魔法でチョークを持ち上げ、黒板に素早く文字を書いていく。
「…まずは小手調べじゃ。この問題がわかる者はわしの横に来て書いてみてくれぬか?」
生徒たちは皆黒板に目を向けた。
そして一様に目を見開いた。
なぜならそこに書かれていたのは魔法の詠唱の言の葉だったからだ。
「誰もおらぬか?」
ゼロはその言の葉を心の中で呟いた。
(熱き炎と冷たき水が交わり、1つの事柄を成す。…こんな言の葉は存在しない…。)
そう、ゼロの考えるようにこの世界にそんな言の葉は存在しない。
つまり学園長は誰も生み出していない魔法の言の葉からどういう魔法が生まれるのかを生徒に質問しているのだ。
「…誰もわからぬか?簡単じゃぞ。火球と水球をぶつければ似たようなことが起こるじゃろ。」
この発言でゼロは学園長の意図に気がついた。
(…そうか。俺たちが試されてるのは魔法の知識と経験なんだ。)
ゼロは小さくため息を吐いた。
(…知識だけなら…多分…。)
ゼロはこれまでの知識からどうなるかを考える。
そんなゼロの考えている様子を学園長は見逃さなかった。
(…ふむ。1人しかおらぬか。)
学園長はゼロ座る机にそっと魔法でチョークを置いた。
ゼロはチョークに目を向けて、そして学園長を見た。
「…間違ってもよい。言の葉の続きをかけるかのぅ?」
「…推測ですが…。」
ゼロはチョークを手に持って前へ出た。
その様子に学園長は目を見開く。
なぜならこれまでにチョークを手に持つ生徒に出会ったことが無いからだ。
チョークを浮かせるのは生活魔法の基礎。誰しもが使えて当然。
それをゼロは使わずに手に持ったのだ。
(…そうじゃったか…。この者が…ゼロ・ワルドじゃったか。)
ゼロは学園長の横を通り、黒板に綺麗な字で言の葉を綴る。
「…これが俺の答えです。」
ゼロはチョークを置き、学園長に目を向けた。
学園長は黒板に目を向けてさらに驚いた。
熱き炎と冷たき水が交わり、1つの事柄を成す。されど2つでは叶わず、我が創る風を喰らい大いなる力と成す。小さき力も集えば絶大なりけり。我ここに大事を成さん。
それは学園長が求める答えのさらに先を行くものだった。
(…この者…魔法が使えぬはずじゃ…。しかしわしの思う言の葉よりも二節多い。)
学園長はすぐにこの言の葉を試したくなった。
「…皆、広場に出てみよ。わしが唱えるでな。」
学園長はゼロに声をかける。
「…答え合わせじゃな。」
「…はい。見学させてもらいます。」
「わしも楽しみじゃぞ。それとお主はゼロ君か?」
「えっ?そうだが…。」
学園長は胸が踊るように愉快な気分になった。
(魔法が使えぬ者がここまで…。面白いのぅ。)
学園長はゼロに微笑む。
「…お主は天才かもしれぬぞ。」
学園長は疑問符を浮かべるゼロの背中を叩き、急がせるのだった。
学園長はDクラスの生徒を集めて広場に立った。
「では近寄らぬように。」
学園長はゼロの答えた通りに詠唱を始めた。
するとみんなから離れた場所に小さな火球と水球が現れた。
そして学園長はさらに風球を出し、その3つを同時にぶつけた。
するとブシューという音がしてあっという間に白い水蒸気が発生し、生徒達を包み込んだ。
(…なんかイメージと違うな。)
ゼロは霧散していく水蒸気を見て思う。
(…これだけの勢いがあるんだ…。やり方を変えるだけで…。)
その時、ゼロはふと嫌なことを思い出した。
(…父さん。)
ゼロは驚いて腰を抜かすDクラスの生徒たちを見た。
(…作ったらダメかもしれない。吹き飛ばされて気絶くらいで済めばいいが…もしかすると…。)
ゼロは学園長を見つめた。
すると学園長も同じことを考えたのかゼロに近寄り、小さく口を開いた。
「…すまんかった。この魔法は失敗じゃ。」
「…いえ。失敗してよかったので。」
「…お主は優しいのぅ。」
学園長は生徒達に声をかけた。
「これが答えじゃな。雑務から逃げる時に役立つかもしれんのぅ。」
その言葉にゼロ以外の生徒は小さく笑った。
ゼロは1人、考え直していた。
(…知識が必要だ。魔法を使えるようになるためだけじゃなく、魔法を使わないための…。)
ゼロは自分の手を見つめた。
「…それには経験も必要なのに…。」
ゼロは手を強く握った。
「…あれはなんでしょう?」
学園の広場に舞い上がる白い水蒸気をみてとある女子生徒が呟いた。
「…白い雲見たいですね。…そういえば今朝の方も…。」
女子生徒は朝に見た馬車を飛び越える白髪の男子を思い出した。
「…この学園の生徒ですよね…?…逢えるでしょうか…。」
そんな女子生徒に講義をしている先生が声をかけた。
「そこの生徒さん。入学初日くらい先生のお話を聞いてくださいね。」
その言葉に女子生徒は軽く頭を下げた。
「失礼致しました。」
「よろしい。皆さんは我が学園を背負って立つ逸材ですからしっかりとしてくださいね。」
その言葉に教室にいた生徒の全員が頷いた。
「では、本日はここまでにしましょう。では、しっかりと復習をするように。」
先生はそう言って教室を後にした。
そんな先生が出たドアの上には確かにこう書かれていた。
…Sクラス…と。
つまり今年の入学生で基準の超える魔力値を叩き出した生徒達が集められたクラスだ。
最も有望とされ、最も注目され、最も優遇されるクラスだ。
しかしそんなSクラスに1つの噂が舞い込む。
それは…Dクラスが優遇されているという噂だった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
『伯爵令嬢 爆死する』
三木谷夜宵
ファンタジー
王立学園の中庭で、ひとりの伯爵令嬢が死んだ。彼女は婚約者である侯爵令息から婚約解消を求められた。しかし、令嬢はそれに反発した。そんな彼女を、令息は魔術で爆死させてしまったのである。
その後、大陸一のゴシップ誌が伯爵令嬢が日頃から受けていた仕打ちを暴露するのであった。
カクヨムでも公開しています。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
英雄一家は国を去る【一話完結】
青緑 ネトロア
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。
- - - - - - - - - - - - -
ただいま後日談の加筆を計画中です。
2025/06/22
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる