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第1章
最弱な男5
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「ねえ聞いた?今年の新入生がもう決闘するらしいよ?」
「えっ?はやくない!?」
「しかもカインズ様らしいよ。応援しに行かないとね。」
「ホント!?それは行かないとね。でもカインズ様に決闘を申し込むとか失礼な生徒もいたもんだね。」
「ホントよね。」
そんな話をする生徒達の教室で2人の女子が話し合っていた。
「ねぇ、ジルも見に行く?」
「どうしよっか?あたしは興味ないかも。」
ジルと呼ばれた女子は自分の髪とよく似た真っ赤な色の財布を取り出した。
「それよりお昼かな。お腹空いたの。」
「ジルは食事の方が大事だよね…。」
「決闘がお昼休みじゃなかったら見に行くけどね。」
ジルはゆっくりと席を立った。
その時、さらに他の生徒から決闘に関する噂が聞こえてきた。
「…へぇ。相手の子もイケメンなんだ?」
「うん。噂ではカインズ様以上に。」
「どんな感じの子なの?」
「見たことあるんじゃないかな?髪が白銀のように白くて…。」
その聞こえてくる特徴にジルは耳を傾けた。
(白銀のような白髪…。)
…というか…先輩ですか?
(あっ!あの子かも…。)
ジルは小さく笑みをこぼした。
「どうしたの?何か面白いことでもあった?」
「少しね。ねぇ、決闘見にいこっか?」
「えっ?食事はいいの?」
「もちろん食べてからよ。いつもより少し急いで食べるの。」
「…量を減らそうよ。」
ジルは足早に食堂へと向かった。
「俺たちSクラスはカインズ様を応援するぞ!」
「当たり前よ!カインズ様、頑張ってください!」
Sクラスでは決闘の話で盛り上がっていた。
そんなカインズを囲むように盛り上がる教室の真ん中から少し離れた位置でそれを眺める生徒がいた。
「カインズ様は凄いのですね。もう決闘なんて…。」
「詳しくは知らないけど、Dクラスの子と闘うみたいだね。」
「えっ!?それはあまりにも…。」
女の子は少しカインズの対戦相手を可哀想に思った。
「ララさんもカインズ様を応援するよね?」
「…私は…。」
ララと呼ばれた女子は見に行きたくないと思っていた。
それはあまりにも結果が決まっている決闘で、ただ可哀想な相手を見たくなかった。
「…どうしても行かなくてはいけないのでしょうか?」
「見たほうがいいよ!この学年で最強のカインズ様の決闘だから。」
「…それでも…。」
「もうっ!絶対連れて行くからね!」
その言葉にララは小さく頷くしかなかった。
そして時間は過ぎ、決闘場に連れてこられたララが目にしたのは…。
(…えっ!?…あの方は…。)
ララが目にしたのは…。
…風に揺れる白銀の髪だった。
ゼロは決闘場の真ん中でカインズと向かい合っていた。
そんな決闘を仕切るのは学園長である。
「生徒の皆、此度の決闘によく来てくれた。」
その言葉に集まった生徒たちは歓声をあげる。
「しかし此度の決闘、試合のみを行う。賭けや取引は無しじゃ!」
学園長はカインズとゼロを見て頷いたのを確認した。
「一応の紹介じゃ。まずわしの右におるのが王子じゃ!」
学園長のその言葉に周りは歓声をあげる。
しかしカインズは面白くない。
(…王子?…名前を覚えてもらえていない…。)
そんなカインズには目もくれず、学園長はゼロを見た。
「そして左におるのがDクラスのゼロくんじゃ。」
すると王子の時には壮大だった歓声が止まった。
ゼロは小さく苦笑いを浮かべた。
「…わかりやすいな。」
ゼロは学園長を見つめて小さく頷いた。
学園長はそれに頷き返すと、大きく告げる。
「どちらかが降参、もしくは続行不能でやめじゃ。回復魔法はあるが程々じゃぞ。」
学園長は主にカインズへと言葉を告げた。
その言葉に観客の生徒たちは大きく笑った。
それもそのはずである。カインズの勝利がそれほど揺るがないからである。
「…では、始めよ。」
学園長がそう告げた瞬間、カインズは魔法を唱える。
「…紫電の一閃が貫く サンダーボルト。」
するとカインズの突き出した指先から青い稲妻が走り、ゼロへと向かった。
それに対してゼロは…。
何もしなかった。
「…ゼロくん。」
学園長のみが仕方ないと思いつつ、哀れに思っていた。
しかしこの時、学園長だけが気がついた。
(…なぜ避けぬ?)
たしかにサンダーボルトという魔法は速度が速い。
しかしそれでも動く時間はある。
ゼロはそれにもかかわらず、その場から1ミリも動かずサンダーボルトをもろにくらった。
「…がぁぁぁ!」
ゼロは身体中を電撃が走り、全身がまるでいうことを聞いてくれなかった。
息を吐けば焦げたような匂いがし、指先や瞼がピクピクと痙攣した。
それでもゼロはそれほど姿勢を変えずまっすぐに立ち直った。
「…様子見かい?」
「はぁ、はぁ、そう…見えますか…?」
「…チャンスを伺っているように見えるよ。」
カインズは次の魔法を唱えた。
「…紅き炎が球をなす ファイアーボール。」
カインズは大きな火の玉を作り出した。
それは普通の生徒が唱えるものよりも数段大きいものだった。
そんな火の玉をカインズはゼロに向けて放った。
「…チャンスはあげないよ。僕はSクラスだ。」
火球はまるで地面を抉るようにゼロへと向かっていった。
しかしカインズの目には驚くべきものが映った。
それはゼロが逃げることなく、むしろ身体の前で手を組んで突き出し、自分の身体を守るように立っていた。
(な、なんだ!?どうして逃げない。)
ファイアーボールの動きは遅い。避けることも割と簡単である。さらには魔法を唱えて対策することもできるほどだった。
それなのにゼロは違った。
ゼロはまるで炎の中に飛び込むように火の玉をくらった。
「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ゼロはその熱さに身体が悲鳴をあげた。
制服は魔法防御の魔法陣を刻まれていて燃えることはないが、ゼロの身体は制服の内部まで伝わる熱で焼かれ、制服に守られてない顔は腕で覆うが手の部分は大きく火傷を負った。
それでもゼロは膝すらつかなかった。
「な、なぜ逃げなかった!」
カインズは少し強くその言葉を投げかけた。
ゼロは腕をゆっくりと解き、顔を覗かせた。
「…言ったはずです。…俺は心で負けるわけにはいかない。…逃げるなんて…できません。」
「…死ぬとしてもか?」
ゼロは真っ直ぐにカインズを見つめた。
「…次のは避けないと死ぬ。」
カインズはゼロに向けて手を突き出した。
ララは目を覆いたくなったがそれでも目を離せなかった。
「…どうして逃げないのですか!?…どうして魔法を唱えないのですか!?」
ララは思わずそう呟いていた。
「…痛いですよね?…怖いですよね?…きっと…苦しいですよね!?」
「ララさん…?」
「だって可笑しいではないですか!?あの人の目は…なぜあんなにも…。」
「…うん。真っ直ぐだね…。」
ララの見るゼロの目は決して逸れたりしていない。
ただ自分の状況から目を離さないようにカインズを見ているだけだった。
「…疾風が刃を成して骨を断て ウィンドブレイド。」
カインズは突き出した手から収束した風を放った。
その風は形を変えて、地面を削り、刃のようにゼロへと向かっていく。
しかしまるでゼロは避けようとしない。
「…俺は…絶対死なない。」
「…避けろよっ!」
カインズはそう叫ぶが、ゼロは動かなかった。
カインズは咄嗟に風の向きを変え、ゼロの真横を刃が通り過ぎた。
直撃は免れたことでゼロは死んではいない。
しかし刃が額をかすめ、ゼロの白銀の髪は切れ、少し血が滲んで赤く染まっていた。
「なぜ避けないっ!死んだら信念もないもない!」
「それは違う!俺の父さんは信念を貫いて死んでいった!」
ゼロの言葉にカインズはたじろく。
「…俺は死にたくない。まだやりたいことがあるから。それでも死ぬ時が来るなら…。」
…自分らしく死ぬ。学園長が認めてくれた俺のまま…。
カインズはゼロに両手を突き出した。
「…一歩だけでも動かしてみたくなった。」
「…お好きにどうぞ。」
カインズは両手に魔力を集めた。
「…岩が拳を成し 敵を撃つ ストーンハンマー。」
カインズがそう告げた瞬間、ゼロの目の前の土が盛り上がり、中から拳の形の岩が出てきてゼロを全身を弾き飛ばした。
ゼロは決闘場の壁まで飛ばされ、壁に背中を撃ち、前に倒れた。
「…先生、コールをお願いします。」
「…そうじゃな。」
学園長は勝負の結果を告げようとして、目を見開いた。
そこには地面に手をつきながら荒く呼吸をするゼロの姿があった。
カインズも同様に目を見開いてゼロを見つめた。
(嘘だろう?さすがに骨の2、3本は…。)
そんなカインズの目の前でゼロは膝を立てた。
「…ゼロ。格好悪い…。」
リアは立ち上がろうとするゼロを見てそう呟いた。
「…魔法を使わない。…男らしくない。」
リアから見ればゼロが逃げているようにしか見えなかった。
正々堂々と闘うのが決闘だからだ。
しかしリアはゼロから目が離せなかった。
「…立ってほしい。」
リアは静かに手を合わせて見つめた。
ゼロはゆっくりと立ち上がると元の位置へと歩いて戻ってきた。
歩き方は歪でフラフラとしていたが、それでもまた同じ位置へと直立した。
「…ゼロくん…もうよいぞ…。」
「…ぜぇ、ぜぇ、な、何か…いい…ました…?」
ゼロは軽い脳しんとうを起こし、脳が機能しない。
「…すまんのぅ。」
学園長は気づかれないようにゼロに指先を向けた。
「…スリープ」
学園長はゼロの裏切りになると思いつつ、睡眠魔法を使った。
しかしここで不思議なことが起きた。
ゼロは眠るどころか目を見開いてカインズを視界に捉えた。
「なんじゃ?…スリープ。」
学園長は再び魔法を唱えた。
しかしゼロは眠らない。
(断絶じゃと!?…わしより強いというのか!?)
リジェクトとはいわば睡眠や催眠などの精神魔法に起きる現象である。
魔法を唱える側の精神力が相手の精神に勝っていればリジェクトは起こらない。
しかしゼロは確実に学園長の魔法を無効化していた。
(…わしが精神で負けたのか?…いや、それとも何か…。)
学園長が考える傍、カインズはゼロに手をかざす。
「…君はしぶとい。なぜ魔法を使わないのかわからないが僕は君が恐ろしいよ。」
カインズは手に魔力を集める。
「…一閃は敵を貫き 闇を晴らす。力は雷のごとく 速さは光の如く! ライトニング サンダー!」
カインズの魔法は一瞬にしてゼロを貫いた。
魔法をもろにくらったゼロは雷で身体がひかり、全身を電撃が貫いた。
そして光が無くなるとそこには…。
「…君は化け物かい…?」
身体から黒い煙を出すゼロが直立していた。
カインズはもう一度ゼロに雷を叩き込む。
もう一度…。
もう一度…もう一度…。
…何度も…。
それはまさに見る人から見れば数の暴力だった。
「…ま、まだ足りないかい?」
流石のカインズも魔力は残り少なかった。
しかしそんなカインズにゼロはゆっくりと、ゆっくりと何かを手繰り寄せるかのように手を伸ばそうとした。
「ま、まだ…動けるのかい?」
カインズはもはや恐怖の色を顔に浮かべていた。
ゼロはカインズに向けて手を伸ばして止まった。
カインズは自分が魔法を撃たれる前に勝負を決めようと両手を突き出した。
(固有魔法で決めるしかないっ!)
カインズは両方の手のひらを合わせた。
「我が向かい合う手に集え!世界の理を…。」
「待つのじゃ!」
カインズが詠唱している最中に学園長が割って入った。
「せ、先生っ!決闘を止めるのは…。」
「…もうよい。お主の勝ちじゃ。」
その言葉にカインズはゼロを見た。
すると動く気配はなく、ただ手を伸ばして固まっていた。
「…気絶しておる。」
学園長は皆に向けて告げる。
「この決闘…王子の勝利じゃ。」
その言葉に観客の生徒たちは大歓声をあげた。
そんな中学園長は他の先生に声をかけた。
「至急ゼロくんに回復魔法じゃ!ゼロくんに傷1つでも残すでない!」
学園長は急いでゼロの元へ駆け寄った。
そんな光景を見てカインズは自分の手を見た。
「…魔力が…。」
カインズの魔力はほとんど残っていなかった。
「…僕は…勝ったのだろうか…。」
カインズは自分でも疑問の残る決闘の結果にまるで喜ぶことができないのだった。
「…負けちゃったね、後輩くん。」
食事を終えて決闘を見に来たジルは先ほど見た光景が目に焼き付いていた。
「…あの時とは…随分変わっちゃった。」
ジルはまだ真新しい制服を着て、綺麗な白髪をして、少し不安そうなゼロを思い出す。
しかし今は汚れた制服を着て、くすんだ白髪をして、そして…迷いのない顔をして気絶をしていた。
「…あの手は…何をするための手なの…?」
ジルはただ一つ、それだけが気になった。
ゼロが最後に伸ばした…
弱そうで儚げで…真っ直ぐに伸びた手が…
たどり着く先を…。
「えっ?はやくない!?」
「しかもカインズ様らしいよ。応援しに行かないとね。」
「ホント!?それは行かないとね。でもカインズ様に決闘を申し込むとか失礼な生徒もいたもんだね。」
「ホントよね。」
そんな話をする生徒達の教室で2人の女子が話し合っていた。
「ねぇ、ジルも見に行く?」
「どうしよっか?あたしは興味ないかも。」
ジルと呼ばれた女子は自分の髪とよく似た真っ赤な色の財布を取り出した。
「それよりお昼かな。お腹空いたの。」
「ジルは食事の方が大事だよね…。」
「決闘がお昼休みじゃなかったら見に行くけどね。」
ジルはゆっくりと席を立った。
その時、さらに他の生徒から決闘に関する噂が聞こえてきた。
「…へぇ。相手の子もイケメンなんだ?」
「うん。噂ではカインズ様以上に。」
「どんな感じの子なの?」
「見たことあるんじゃないかな?髪が白銀のように白くて…。」
その聞こえてくる特徴にジルは耳を傾けた。
(白銀のような白髪…。)
…というか…先輩ですか?
(あっ!あの子かも…。)
ジルは小さく笑みをこぼした。
「どうしたの?何か面白いことでもあった?」
「少しね。ねぇ、決闘見にいこっか?」
「えっ?食事はいいの?」
「もちろん食べてからよ。いつもより少し急いで食べるの。」
「…量を減らそうよ。」
ジルは足早に食堂へと向かった。
「俺たちSクラスはカインズ様を応援するぞ!」
「当たり前よ!カインズ様、頑張ってください!」
Sクラスでは決闘の話で盛り上がっていた。
そんなカインズを囲むように盛り上がる教室の真ん中から少し離れた位置でそれを眺める生徒がいた。
「カインズ様は凄いのですね。もう決闘なんて…。」
「詳しくは知らないけど、Dクラスの子と闘うみたいだね。」
「えっ!?それはあまりにも…。」
女の子は少しカインズの対戦相手を可哀想に思った。
「ララさんもカインズ様を応援するよね?」
「…私は…。」
ララと呼ばれた女子は見に行きたくないと思っていた。
それはあまりにも結果が決まっている決闘で、ただ可哀想な相手を見たくなかった。
「…どうしても行かなくてはいけないのでしょうか?」
「見たほうがいいよ!この学年で最強のカインズ様の決闘だから。」
「…それでも…。」
「もうっ!絶対連れて行くからね!」
その言葉にララは小さく頷くしかなかった。
そして時間は過ぎ、決闘場に連れてこられたララが目にしたのは…。
(…えっ!?…あの方は…。)
ララが目にしたのは…。
…風に揺れる白銀の髪だった。
ゼロは決闘場の真ん中でカインズと向かい合っていた。
そんな決闘を仕切るのは学園長である。
「生徒の皆、此度の決闘によく来てくれた。」
その言葉に集まった生徒たちは歓声をあげる。
「しかし此度の決闘、試合のみを行う。賭けや取引は無しじゃ!」
学園長はカインズとゼロを見て頷いたのを確認した。
「一応の紹介じゃ。まずわしの右におるのが王子じゃ!」
学園長のその言葉に周りは歓声をあげる。
しかしカインズは面白くない。
(…王子?…名前を覚えてもらえていない…。)
そんなカインズには目もくれず、学園長はゼロを見た。
「そして左におるのがDクラスのゼロくんじゃ。」
すると王子の時には壮大だった歓声が止まった。
ゼロは小さく苦笑いを浮かべた。
「…わかりやすいな。」
ゼロは学園長を見つめて小さく頷いた。
学園長はそれに頷き返すと、大きく告げる。
「どちらかが降参、もしくは続行不能でやめじゃ。回復魔法はあるが程々じゃぞ。」
学園長は主にカインズへと言葉を告げた。
その言葉に観客の生徒たちは大きく笑った。
それもそのはずである。カインズの勝利がそれほど揺るがないからである。
「…では、始めよ。」
学園長がそう告げた瞬間、カインズは魔法を唱える。
「…紫電の一閃が貫く サンダーボルト。」
するとカインズの突き出した指先から青い稲妻が走り、ゼロへと向かった。
それに対してゼロは…。
何もしなかった。
「…ゼロくん。」
学園長のみが仕方ないと思いつつ、哀れに思っていた。
しかしこの時、学園長だけが気がついた。
(…なぜ避けぬ?)
たしかにサンダーボルトという魔法は速度が速い。
しかしそれでも動く時間はある。
ゼロはそれにもかかわらず、その場から1ミリも動かずサンダーボルトをもろにくらった。
「…がぁぁぁ!」
ゼロは身体中を電撃が走り、全身がまるでいうことを聞いてくれなかった。
息を吐けば焦げたような匂いがし、指先や瞼がピクピクと痙攣した。
それでもゼロはそれほど姿勢を変えずまっすぐに立ち直った。
「…様子見かい?」
「はぁ、はぁ、そう…見えますか…?」
「…チャンスを伺っているように見えるよ。」
カインズは次の魔法を唱えた。
「…紅き炎が球をなす ファイアーボール。」
カインズは大きな火の玉を作り出した。
それは普通の生徒が唱えるものよりも数段大きいものだった。
そんな火の玉をカインズはゼロに向けて放った。
「…チャンスはあげないよ。僕はSクラスだ。」
火球はまるで地面を抉るようにゼロへと向かっていった。
しかしカインズの目には驚くべきものが映った。
それはゼロが逃げることなく、むしろ身体の前で手を組んで突き出し、自分の身体を守るように立っていた。
(な、なんだ!?どうして逃げない。)
ファイアーボールの動きは遅い。避けることも割と簡単である。さらには魔法を唱えて対策することもできるほどだった。
それなのにゼロは違った。
ゼロはまるで炎の中に飛び込むように火の玉をくらった。
「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ゼロはその熱さに身体が悲鳴をあげた。
制服は魔法防御の魔法陣を刻まれていて燃えることはないが、ゼロの身体は制服の内部まで伝わる熱で焼かれ、制服に守られてない顔は腕で覆うが手の部分は大きく火傷を負った。
それでもゼロは膝すらつかなかった。
「な、なぜ逃げなかった!」
カインズは少し強くその言葉を投げかけた。
ゼロは腕をゆっくりと解き、顔を覗かせた。
「…言ったはずです。…俺は心で負けるわけにはいかない。…逃げるなんて…できません。」
「…死ぬとしてもか?」
ゼロは真っ直ぐにカインズを見つめた。
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カインズはゼロに向けて手を突き出した。
ララは目を覆いたくなったがそれでも目を離せなかった。
「…どうして逃げないのですか!?…どうして魔法を唱えないのですか!?」
ララは思わずそう呟いていた。
「…痛いですよね?…怖いですよね?…きっと…苦しいですよね!?」
「ララさん…?」
「だって可笑しいではないですか!?あの人の目は…なぜあんなにも…。」
「…うん。真っ直ぐだね…。」
ララの見るゼロの目は決して逸れたりしていない。
ただ自分の状況から目を離さないようにカインズを見ているだけだった。
「…疾風が刃を成して骨を断て ウィンドブレイド。」
カインズは突き出した手から収束した風を放った。
その風は形を変えて、地面を削り、刃のようにゼロへと向かっていく。
しかしまるでゼロは避けようとしない。
「…俺は…絶対死なない。」
「…避けろよっ!」
カインズはそう叫ぶが、ゼロは動かなかった。
カインズは咄嗟に風の向きを変え、ゼロの真横を刃が通り過ぎた。
直撃は免れたことでゼロは死んではいない。
しかし刃が額をかすめ、ゼロの白銀の髪は切れ、少し血が滲んで赤く染まっていた。
「なぜ避けないっ!死んだら信念もないもない!」
「それは違う!俺の父さんは信念を貫いて死んでいった!」
ゼロの言葉にカインズはたじろく。
「…俺は死にたくない。まだやりたいことがあるから。それでも死ぬ時が来るなら…。」
…自分らしく死ぬ。学園長が認めてくれた俺のまま…。
カインズはゼロに両手を突き出した。
「…一歩だけでも動かしてみたくなった。」
「…お好きにどうぞ。」
カインズは両手に魔力を集めた。
「…岩が拳を成し 敵を撃つ ストーンハンマー。」
カインズがそう告げた瞬間、ゼロの目の前の土が盛り上がり、中から拳の形の岩が出てきてゼロを全身を弾き飛ばした。
ゼロは決闘場の壁まで飛ばされ、壁に背中を撃ち、前に倒れた。
「…先生、コールをお願いします。」
「…そうじゃな。」
学園長は勝負の結果を告げようとして、目を見開いた。
そこには地面に手をつきながら荒く呼吸をするゼロの姿があった。
カインズも同様に目を見開いてゼロを見つめた。
(嘘だろう?さすがに骨の2、3本は…。)
そんなカインズの目の前でゼロは膝を立てた。
「…ゼロ。格好悪い…。」
リアは立ち上がろうとするゼロを見てそう呟いた。
「…魔法を使わない。…男らしくない。」
リアから見ればゼロが逃げているようにしか見えなかった。
正々堂々と闘うのが決闘だからだ。
しかしリアはゼロから目が離せなかった。
「…立ってほしい。」
リアは静かに手を合わせて見つめた。
ゼロはゆっくりと立ち上がると元の位置へと歩いて戻ってきた。
歩き方は歪でフラフラとしていたが、それでもまた同じ位置へと直立した。
「…ゼロくん…もうよいぞ…。」
「…ぜぇ、ぜぇ、な、何か…いい…ました…?」
ゼロは軽い脳しんとうを起こし、脳が機能しない。
「…すまんのぅ。」
学園長は気づかれないようにゼロに指先を向けた。
「…スリープ」
学園長はゼロの裏切りになると思いつつ、睡眠魔法を使った。
しかしここで不思議なことが起きた。
ゼロは眠るどころか目を見開いてカインズを視界に捉えた。
「なんじゃ?…スリープ。」
学園長は再び魔法を唱えた。
しかしゼロは眠らない。
(断絶じゃと!?…わしより強いというのか!?)
リジェクトとはいわば睡眠や催眠などの精神魔法に起きる現象である。
魔法を唱える側の精神力が相手の精神に勝っていればリジェクトは起こらない。
しかしゼロは確実に学園長の魔法を無効化していた。
(…わしが精神で負けたのか?…いや、それとも何か…。)
学園長が考える傍、カインズはゼロに手をかざす。
「…君はしぶとい。なぜ魔法を使わないのかわからないが僕は君が恐ろしいよ。」
カインズは手に魔力を集める。
「…一閃は敵を貫き 闇を晴らす。力は雷のごとく 速さは光の如く! ライトニング サンダー!」
カインズの魔法は一瞬にしてゼロを貫いた。
魔法をもろにくらったゼロは雷で身体がひかり、全身を電撃が貫いた。
そして光が無くなるとそこには…。
「…君は化け物かい…?」
身体から黒い煙を出すゼロが直立していた。
カインズはもう一度ゼロに雷を叩き込む。
もう一度…。
もう一度…もう一度…。
…何度も…。
それはまさに見る人から見れば数の暴力だった。
「…ま、まだ足りないかい?」
流石のカインズも魔力は残り少なかった。
しかしそんなカインズにゼロはゆっくりと、ゆっくりと何かを手繰り寄せるかのように手を伸ばそうとした。
「ま、まだ…動けるのかい?」
カインズはもはや恐怖の色を顔に浮かべていた。
ゼロはカインズに向けて手を伸ばして止まった。
カインズは自分が魔法を撃たれる前に勝負を決めようと両手を突き出した。
(固有魔法で決めるしかないっ!)
カインズは両方の手のひらを合わせた。
「我が向かい合う手に集え!世界の理を…。」
「待つのじゃ!」
カインズが詠唱している最中に学園長が割って入った。
「せ、先生っ!決闘を止めるのは…。」
「…もうよい。お主の勝ちじゃ。」
その言葉にカインズはゼロを見た。
すると動く気配はなく、ただ手を伸ばして固まっていた。
「…気絶しておる。」
学園長は皆に向けて告げる。
「この決闘…王子の勝利じゃ。」
その言葉に観客の生徒たちは大歓声をあげた。
そんな中学園長は他の先生に声をかけた。
「至急ゼロくんに回復魔法じゃ!ゼロくんに傷1つでも残すでない!」
学園長は急いでゼロの元へ駆け寄った。
そんな光景を見てカインズは自分の手を見た。
「…魔力が…。」
カインズの魔力はほとんど残っていなかった。
「…僕は…勝ったのだろうか…。」
カインズは自分でも疑問の残る決闘の結果にまるで喜ぶことができないのだった。
「…負けちゃったね、後輩くん。」
食事を終えて決闘を見に来たジルは先ほど見た光景が目に焼き付いていた。
「…あの時とは…随分変わっちゃった。」
ジルはまだ真新しい制服を着て、綺麗な白髪をして、少し不安そうなゼロを思い出す。
しかし今は汚れた制服を着て、くすんだ白髪をして、そして…迷いのない顔をして気絶をしていた。
「…あの手は…何をするための手なの…?」
ジルはただ一つ、それだけが気になった。
ゼロが最後に伸ばした…
弱そうで儚げで…真っ直ぐに伸びた手が…
たどり着く先を…。
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