最強魔術師は魔法が使えない

ジェル

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第1章

最弱の男6

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ここは学園の保健室。

そのベットでゼロは目を覚ました。

「…負けたんだな。」

ゼロは身体がどんな状態かを確認したが、全く怪我や痛みは残っていなかった。

しかし吐く息が気のせいか焦げ臭い気がした。

ゼロは身体を起こすとゆっくりとベットから降りた。

「…講義が始まってる。」

時刻はもはや放課後まで残りわずかとなっていた。

「…これは俺の制服か?」

ゼロはベットの脇にあった少し汚れた制服を見た。

そして同様に白い髪も触って確かめた。

「ガサガサしてるな。」

ゼロはやはり決闘したのだと自覚した。

最後の方の記憶はほとんどないが、自分の囲む状況が決闘に負けたのだと強く訴えてくる。


ゼロは制服を着て、保健室に誰もいなかったため、そのまま出た。

そして教室まで戻ってきて講義も終わりかけの教室に足を踏み入れた。

「すいません、遅れました。」

その言葉に講義の先生、Dクラスの生徒、そしてリアまでもが一斉にゼロを見た。

ゼロは空いている席に1人で座り、何もない状態で先生を見た。

しかし先生は終わりの時刻なので授業を切り上げる。

「…では、ここまでにしましょう。…誰か、彼に教えてあげてください。」

先生はそう言って教室を出た。

ゼロはリアの隣に荷物も置いていたので取りに行こうとして席を立ち、そして…足を止めた。

それは聞こえてくるDクラスの生徒たちの言葉だ。

「…なんでSクラスとの勝負を受けたんだよな。」

「…本当だよな。勝てるわけないのに…。」


「…私、カインズ様を応援しちゃった。」

「当然だよ。だってあの人応援してもいいことないし…。」

生徒たちは先生に言われたようにゼロに講義の内容を伝えることもせず、ただ距離をとった。

ゼロはリアの隣に行くこともせず、ただそっと席に座り直した。

すると誰が告げたか、廊下にはゼロを見に来た人たちがいた。

「…復帰してるぜ。つまんないな。」

「あいつに回復魔法なんて必要ないのにな。唱えるだけ無駄。」


「魔法も使わないなんて決闘を侮辱してるよね。」

「本当よね。カインズ様に無駄に魔法を使わせて。」


ゼロはそう聞こえてくる言葉に昔を思い出す。


…どうして生まれてきたんだ?


(…昔と同じだ…。俺は何も…変わってない。)

ゼロは自分の手を見た。

「…この手で何が出来る…?」

すると突然隣に誰かが座った。

それは他でもない、薄いピンク色の髪をしたリアだった。

「…ん。…見る?」

ゼロはそう言ってノートを差し出したリアに目を見開いた。

「…リア。俺といると…。」

「…見ないの?」

「…ありがとう。」

ゼロはリアのノートを受け取り、目を通していく。

「…魔法使わない。…決闘を侮辱してる。」

「…そうだよな。」

ゼロはそう告げながらノートをめくっていく。

「…格好悪い。…見損なった。」

「…ごめんな。期待に応えられなくて。」

リアはゼロを見つめた。そして少し強めの口調で告げる。

「…ゼロは変。…どうして怒らない?」

「誰に怒るんだ?」

「…私。…他の人も。」

「怒る理由がない。」

「…ゼロを貶してる。」

ゼロはページをめくろうとした手を止めた。

「…貶されるのは俺に理由があるからだ。…だからリアが俺をひどく言うのも、見損なうのも当然だ。」

ゼロはリアに視線を合わせて小さく笑う。

「それでもノートを見せてくれるリアは…優しいな。」

リアは大きく目を見開いた。

リアの目に映るゼロの色は悲しみや怒りの色など少しもなく、ただ髪と同じゼロ本来の真っ白な色をしていた。

(…私が好きな色。)

そんなリアにゼロは告げる。

「…だから…リアまで嫌われて欲しくない。…俺はリアと距離を置く。」

そう告げたゼロの色は一瞬だけ青くなる。

「…嫌。」

「…リアが嫌でも…俺は距離を置く。」

ゼロはノートを閉じるとリアに差し出した。

「…ありがとな。見せてくれて。…お礼にひとつだけ教えておくよ。」

ゼロはリアにだけ聞こえるように口を開いた。

「…俺は魔法が使えない。」

「…ん!?」

リアはゼロの言う意味が理解できなかった。

ゼロはそんなリアに小さく微笑みかけた。

「俺はきっと…リアのお婿さんにはなれない。相応しくない。だから、俺と離れて別の人を探せ。」

「…わからない。…魔法が使えない?」

ゼロは席を立つと自分の鞄を取って教室の入り口に向かった。

「どいてくれ。」

ゼロがそう告げると人混みは割れ、ゼロはその間を進んだ。

そして人混みも無くなっていく中、リアはゼロの告げた言葉を考えた。

(…魔法が使えない?…どうして?)

リアはそう考えていたが重要なことに気がつく。

(…決闘…魔法使わなかった。…使えなかった?)

リアはゼロの行動を思い出す。

チョークを手に持ったこと、決闘で魔法を使わなかったこと、鞄をわざわざ歩いて取りに行ったこと。

(…魔法が…使えない。なのに…。)

リアは食堂でのことを思い出す。


…俺は弱いです。


(…たしかに弱い。…でも。)


リアはあの時に惹かれたゼロの姿を思い出す。



…受けて立ちます。


俺は心で…敗者になるつもりはありません。



リアはゼロから返されたノートを抱きしめた。

「…私…最低。」

リアは鞄を手に取り、急いでゼロを追い教室を出た。





「カインズ様っ、お見事でした!」

「俺たちカインズ様と同じクラスであることが誇らしいです!」

カインズは先程からやってくる決闘の勝利を祝福する人たちに囲まれていた。

しかしカインズはまるで喜べなかった。

「…ありがとう。…悪いが僕は帰らせて貰う。」

カインズは鞄を取り寄せ、そのまま教室を出た。

(…あれは…僕の勝ちでいいのか?)

カインズはただ耐え続けたゼロの姿が頭から離れない。

(…むしろ…僕の負けではないのか?)

確かに決闘では勝った。

しかしカインズは最後まで立っていたゼロに何が負けている気がした。

そんなカインズの前にゼロが多くの野次馬を引き連れて歩いてきた。

「…カインズ様。」

ゼロはカインズを見てそう告げると深く頭を下げた。

「…今日は…失礼しました。」

カインズはその謝罪の意味がわからなかった。

「…今後のご活躍を応援していますよ。俺なんかが応援する権利なんてないでしょうが…。」

ゼロはそう言ってまた軽く頭を下げるとカインズの前を通り抜けようとした。

「待ちたまえ!」

その言葉にゼロは足を止めた。

「…もう一度…闘わないか?」

その言葉にゼロは小さく微笑んで首を振った。

「…結果は変わりません。そしてカインズ様が俺から得ることもありません。…俺は貴方の邪魔になるだけです。」

ゼロはそう言ってカインズの元から離れようとした。

しかしゼロは突然足を止めた。

(…誰だ…?)

ゼロは周りを見渡した。

そしてハッと何かに気がつくとカインズを突き飛ばした。

「な、何を…。…な、なんだ…?」

カインズは目の前で立ち昇る炎の柱に目を見開いた。

それは先程までカインズが立っていた場所だった。

炎の柱はカインズが作り出すものよりも大きく、玄関の天井まで伸び、黒く焦がしていた。

ゼロはカインズから離れて驚く生徒たちの方を見て告げた。

「…後ろの生徒だな。…なんのつもりだ?」

その言葉に人の群れから浮かび上がった人物がいた。

「ちっ!邪魔をしやがって。」

その人物は男子生徒の格好をしているが、何故か黒いお面をつけていた。

その面が表すものはひとつだけ。

「…暗殺しにきたんだな。」

その言葉に生徒たちは散らばるように逃げた。

その黒い面は王国の隣にある国で昔から戦争が絶えないダーマニア帝国のスパイを表すものだった。

この場にはゼロとカインズ、そしてそのスパイだけが残った。

「せっかく今ならお前に王子殺しを擦りつけられたのにな。」

「…僕が狙いか。」

「それ以外でこの学園に用はないぜ。」

カインズとゼロは立ち上がってスパイに向き直った。

「意外と待ってやったんだぜ。いいタイミングはないかと思ってな。そしたら決闘なんか始めてくれたからお前が復讐で殺したことにしてやろうかと思ってな。」

「最低な筋書きだな。でも失敗だ。」

「まぁ殺せればいいぜ。だが、王子の前に俺様の勘がお前を殺しておけと言ってるんだ。」

その言葉にカインズはチラッとゼロを見た。

「不思議に思うか?俺もそう思うぜ。決闘であんなに無様に敗北した奴を先に始末した方がいいなんてな。だが俺様の勘は外れたことがねえ。」

「…じゃあ初めて外れたのかもな。」

「…勘が外れたのだとしたら用心しておくに越したことはないよな?」

スパイは小さくニッと笑った。

そしてその瞬間、スパイの背後からリアがやってくるのがゼロの視界に映った。

「リアっ!逃げろっ!」

その言葉に遠くでリアは足を止めた。

そしてちょうど足を止めた10㎝ほど前で電撃が走った。

「…やはり勘は当たってるぜ。お前は厄介だ。…疾風が我が身を押す。…ウィンドダッシュ。」

スパイはそう告げると向きを変えてリアへと向かって走った。

ゼロはそれを追うように飛び出した。

「…なに?」

リアは事態を呑み込めずにいた。

しかしこちらに向かってくる黒いお面をつけた人物を見て恐怖を覚える。

「…帝国の…。…どうして。」

スパイはリアに向かって長い廊下を走りながら魔法を唱える。

「…自由は無く あるのは鎖のみ。…チェーンバインド。」

スパイがそう唱えるとリアは天井と床から伸びた鎖に手足を囚われ、空中に吊り上げられた。

そしてスパイはその状態のリアを楯にするかのように後ろに立ち、ゼロに向き直った。

「はぁ、リアは関係ないだろ!」

「言ったはずだぜ。用心しておくに越したことはないってな。」

スパイはリアの頭に向けて手を構えた。

「動くなよ。お前が動けばこいつの首が落ちるぜ。」

ゼロは足を止め、スパイを睨みつけた。

「いい目つきじゃねえか。この女がそんなに大事か?」

「…大事だ。」

「じゃあ動くなよ。」

ゼロはリアの目を見て告げる。

「…安心しろ。…絶対助ける。」

「かっこいいじゃねえか。助けられるか?」

スパイはリアの頭越しにゼロに風の刃を放った。

その刃はゼロの顔にまっすぐ飛んでいき、そしてゼロの顔の背後の壁まで傷跡を残した。

ゼロは頬が軽く切れ、血を流した。

その傷にスパイは驚く。

「…どうして避けれた?」

「…避け切れてないから当たってる。」

「俺は顔の真ん中を狙ったんだぜ!」

スパイは少し怒声を交えて告げた。

カインズはゼロの傷を背後から見た。

(…避けた!?…ではやはり決闘の時は…避けなかったのか…。)

ゼロはリアに告げる。

「…怯えなくていい。…助けるから。」

「……ゼロは?」

「…死なないさ。」

「…怪我してる…。」

「…美人さんを守って負う怪我は…名誉の負傷だって近所のおばさんから教えてもらったんだ。」

ゼロの言葉にリアは涙を浮かべた。

「…私、…酷いこと言った。」

そう告げたリアの頬を涙が伝う。

「…泣くな。女性が泣くのは幸せな時だけでいい。」

ゼロはゆっくりと足を上げた。

「動くなって言ったよな?」

「…今回ばかりは立ち止まっていられない。…悪いが返してもらう。」

ゼロは足を床に踏み落とした。

「…魔法の喪失ロスト・マジック

ゼロがそう告げた瞬間、ゼロの踏み落とした足先から嫌な感覚が3人を襲った。

そしてリアの鎖はなぜか消えた。

「な、なにをしやがった。」

「…スパイに情報は漏らす馬鹿はいない。」

ゼロはそう告げるとスパイの視界から消えた。

「な、なに!?どこに…!?」

スパイは急に背後からリアに向けていた手を掴まれた。

「背後…だと!?」

その手を掴んでいたのは先程まで目の前にいたゼロだった。

スパイは背後に立つゼロに驚く。

しかしゼロ以外の3人は気がつく。

スパイがリアに向けて走るときに加速の魔法を使ったのに対してゼロは使っていなかった。

そしてそれにもかかわらず、スパイとの距離を縮めていたことに…。

「…やはり俺様の勘は…。」

「…間違っていたな。…カインズ様を襲ったところから。」

ゼロはスパイの首に手刀を入れ、意識を奪った。

スパイは身体を地面につけて倒れた。

ゼロは床に座り込むリアに近寄ってそっと涙を指で拭いた。

「…ゼロ。」

「…泣くな。」

リアは安心からか涙が溢れてくる。

「…私…酷いこと言った。」

「そんなこと言ったか?」

「…言った。…どうして…助けた…?」

ゼロはリアに小さく微笑みかけた。



…リアが助けて欲しそうな色をしていたから。



リアは大粒の涙が堪らず溢れてきた。

「…やっぱり…俺には関わらない方がいい。もうリアには…泣いて欲しくない。」

「…嫌。」

「…リア。」

リアはゼロの服を掴んだ。

「…女性を悲しませるのは僕も感心しないな、ゼロくん。」

カインズは小さく笑ってそう声をかけた。

「カインズ様…。」

「泣いて欲しくないなら君が守ればいい。」

「…俺は弱いです。魔法も使えない。」

「…魔法が使えない…か。」

その会話にリアが口を挟む。

「…必要ない。…ゼロがいればいい。」

「…だそうだよ?」

ゼロは胸が温かくなった。

「…後悔しないか?」

「…しない。…泣くのは…ゼロの前だけ。」

「…ばかだな。…泣かせたくないって言ってるのに。」

ゼロはリアをそっと抱きしめた。

「…ありがとな。」

「…ん。…ありがと。」

ゼロとリアは小さく笑い合った。

「お婿さんを早く見つけろよ。それまでは守ってやるから。」

「…鈍感。」

リアはゼロにそう告げた。

「どこがだ?そしてなんで怒ってる?」

「彼女は怒っているのかい?」

「怒ってますね。見たらわかります。」

カインズはその言葉に小さく笑った。

(僕にはわからないな。)

カインズの見つめる先には、まるで魔法よりも大切なものがあると教えてくれているような2人の姿があるのだった。



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