最強魔術師は魔法が使えない

ジェル

文字の大きさ
7 / 7
第1章

最弱の男7

しおりを挟む
それは帝国のスパイ事件の翌日。

学園長は学園の教師全員を集めていた。

「…捕らえた帝国のスパイは軍に引き渡したが警戒は強める必要があるのぅ。」

「そうですね。それにしても…カインズ様もよくご無事で。」

学園長は大きく頷いた。

「…被害は出なんだが危険じゃった生徒もおるらしい。生徒も皆で連携して守る必要がある。」

学園長はそう告げてひとつの紙を教師たちに見せる。

そこにはこう書かれていた。

…学園全生徒親睦合宿…と。





ゼロは午前の講義を終え、昼食のため食堂に向かおうとした。

「リア、はやく行くぞ。」

「…ん。2人で食べたい…。」

「…俺もそうだ。…絶対目立ちそうだし。」

そんなゼロとリアが不安を抱えているところに不安の元凶はやってきた。

「ゼロとリアさんはいるかい?」

その声にゼロは大きくため息をついた。

「…ここに。」

ゼロがそう告げるとやってきたカインズが教室の中に足を踏み入れた。

「…待たせたかい?」

「…待ってはないぞ、カインズ様。」

「カインでいいと言ったではないか。むしろそう呼んでくれ。」

その言葉にDクラスの生徒は目を見開いてゼロたちを見つめた。

「…だから嫌なんだ。」

「…ん。はやく行く。」

2人はカインを連れて食堂に向かった。



それは昨日の事件後。

ゼロはリアとカインに秘密を話した。

なぜ魔法が使えないのか、なぜリアの鎖が消えたのか、なぜスパイの背後に回り込めたのか。

その真実はとても単純で、とても珍しい魔法によるものだった。

ゼロの固有魔法は魔法が使えない空間を作り出す魔法である。

その空間の中ではどんな魔法も発動しないし、発動しているものは消えて無くなる。

そのためリアを拘束していた鎖は消えたのだが、この固有魔法はさらに厄介だった。

それはゼロへと影響である。

ゼロはこの固有魔法のせいで他の魔法を全く使えない。

魔力値が0と計測されたのもあるこれが理由である。

だからゼロはそれでも使える魔法がないかと望みをかけて学園に入学した。

ではなぜスパイの背後に回り込めたのか。

それは単純なゼロの身体能力だった。

ゼロは魔法が使えない代わりに身体を鍛えてきた。

風魔法のようにはやく動けるように、精神魔法がなくても意識くらいは奪えるように。

そして魔法を使うための知識もたくさん勉強してきた。

それらの秘密をリアとカインには全て話した。

その事実に2人は驚愕し、そしてゼロを見直した。

その結果、カインからは友人になろうと言われて現在に至る。

「…カイン、見られているんだが…。」

「…はじめのうちだけだ。皆慣れるはずだよ。」

ゼロは大きくため息をついた。

「それでもう一度決闘してくれる気になったかい?」

「ならないって!俺は闘いたくないんだ!」

「僕にリベンジの機会は無いのかい?」

「勝ったのはカインだろ!」

その言葉にカインは穏やかな笑みを漏らした。

「ゼロは僕に恐れることも逃げることもなく向かってきた。それに対して僕は…君に恐怖していたよ。」

カインはゼロの目を見て告げる。

「…これでも僕の勝利だと?」

ゼロもまた穏やかな笑みを浮かべた。

「それでも手を抜かずに俺に魔法を放ったんだろ?それは恐怖に負けてなんかない。何度やっても、諦めずに闘うカインには…俺は勝てない。」

それは決闘の話なんかではない。

決闘ではなく2人は自分の心の話をしていた。

「…偉大な国王になる夢…俺は応援する。」

カインは首を振った。

「…僕は偉大さが何かも理解していない。」

その言葉にゼロは口を開く。

「…ならそれを見つけるために…カインはこの学園に来たんだな。」

ゼロのその言葉にカインは目を見開いた。

(…君は…そこまで遠くにいるのか…。)

カインは強く想う。

(…勝てないみたいだ。きっと何度勝負をしても。僕が君に追いつかない限り…。)

カインはゆっくりと口を開く。

「…学ばせてもらうよ。君から色々と。」

「何で俺なんだ?」

不思議そうな顔をするゼロにカインは笑みをこぼした。


…君が原点で基準ゼロだからさ。


その言葉にゼロはさらに首をかしげるのだった。







「吐いたか?」

「いえ、自白魔法もリジェクトされました。よほどの手練れです。」

「…そうか。」

ここは王城の城。そこで騎士の格好をした2人が話し合っていた。

「どうしますか?」

「…必ず吐かせろ。単独で潜り込んだとは考えにくい。」

「はっ!」

そして騎士の1人はどこかへと向かっていった。

「…帝国が動き出したか。よくカインズ様はご無事だった…。」

騎士の男は考える。

「…やはりカインズ様の周りを警戒するべきであるな。ご学友から側近まで。」

騎士の男は静かにそう呟くのだった。





「…ゼロ。」

「ん?なんだ、リア?」

ゼロはリアと並んで教室を出た。

「…魔法…覚えられる?」

「…覚え…たいな。」

ゼロは苦笑いを浮かべた。

「たったひとつでも魔法があれば…それで大切な人を支えられる。魔法はそういう素敵なものだと思う。」

「…ひとつはある。」

「…あれは魔法じゃない。」

「…魔法。」

「違うな。…さっきも言ったが魔法は幸せを生み出せる素敵なものだ。」

ゼロは自分の手を見つめる。

「…俺のは魔法を消す…最低の力だ。…俺の力はむしろ…。」



…誰かの幸せまでも…消してしまいかねない。



リアの視界にはそう告げて拳を握るゼロの悲しげな顔が映った。

リアは思わずゼロの手を握った。

「…青色…だったか?」

「…使わなくてもわかる。」

リアは強く握る。

「…消しても作る。…ゼロと一緒に。」

「…リア。」

ゼロは強く握られた手で握り返した。

「……ピンク色。」

「使ってるだろ!」

「…エッチ。」

「絶対にその色は違う意味だと思うからな!」

リアはそれでもゼロの手を強く握り返すのだった。






しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。 そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。 そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。 これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

処理中です...